四次元堂奇譚

一綿しろ

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一冊目 縁の鎖

生かされている

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「ええ、そうだと伺っております。もしかして、覚えていらっしゃらないんですか?」

 そう言われここに来るまでの記憶を思い出そうとする、だが自分の名前や自宅の事、子供の頃の事はハッキリ思い出せるのだが、ここ数日の記憶だけがすっぽりと抜け落ちているようだった。

「……覚えていない」
「なるほど、死体に使用すると副作用が起こるみたいですね、記憶が一部失われてしまう様だ」
「今の俺は、自分を殺した奴に命を分け与えられて生きている……そういう事なんですよね?」
「ええ、そういう事です」

 なんて事だ! 俺は殺人を犯すような奴に命を貰っているのか。

「しかし……そいつはなぜ自分で殺した俺を生き返らせたんだ? やはり、殺人犯にはなりたくなかったという事か?」

 思った疑問が思わず口から出てしまう。店主は少し困った顔をすると、

「私にわかるのはあなたがお客様だという事。それと、あなたの主になっているのは、間違いなくその方だという事ですね。縁の鎖は主と従、双方の意思が完全に同調しないと使えない道具です。あなた達の意思は一致している事になります」

 そう答えた。
 意思の同調……俺は生きたいと願った、俺を殺した奴は俺を生き返らせたいと願った。そういう事だろう。俺を殺し助けた奴……誰なんだ……クソ全然憶えていない、そんな不気味な奴と繋がっているなんてごめんだ。

「さて、まだ質問はございますか?」
「……」

 この店主に聞いた所で俺の知りたい事が知れるとは思えない、自分で行動した方が早そうだ。

「もういいです、家に帰っても構いませんか?」
「ええ、顔色もよさそうですし。自宅の場所やご自分のお名前は憶えているんですね」
「そういう事は憶えています。思い出せないのはここ最近の記憶と俺を殺したのが誰かって事ですね」

 立ち上がる、本当にもう何処も痛くはない。しかし……。

「この鎖、何とかなりません?」

 首から鎖を生やしている男が歩いていたら、変な目で見られそうだ。

「安心して下さい、それはあなたと主たる命の共有者にしか見えていません」
「そうなんですか」

 納得しかけてふと思う。

「けど、あなたには見えてますよね」
「私は店主なので」

 ……細かい事を考えるのはよそう。俺が立ち去ろうとすると

「あ、お待ちください、商品についての注意事項があります」
「注意事項?」
「はい、その鎖の使用条件は先ほども言った通り『意思の同調』です。どちらか一方がその同調を強く拒否した時に、その鎖は効果を失います。つまり、その瞬間にあなたは死体に戻り、主になった方も鎖に命を吸われ絶命します」

 死体に戻る、か。そう言われても何だか現実味がない。それに主の方も死ぬのか。まさに生きるのも死ぬのも一緒、一蓮托生状態らしい。

「実は、あなたの主さんにこの事を伝えていません」
「え?」
「初めてのケースに私もかなり動揺していたらしく、お恥ずかしながら注意事項説明をすっかり忘れてしまいまして。もしも再会されたら、今の話をお伝えいただくとありがたいのですが」
「ああ、会えたら伝えておくよ」
「あなたの主にあたる方は、左手首にこの腕輪をつけていらっしゃるはず、ご参考にでも」

 そう言って、先ほど見せてくれた同じ商品の腕輪を見せてくれる。

「……ありがとう」
「良き物語をご提供下さいね」

 と言って店主は微笑みながら手を振った。
 物語? どういう事だろうか。まあいい、今はとにかく家に帰ろう。
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