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16.
しおりを挟む侯爵…もとい、ジョーさんの屋敷で暮らすようになって早一週間。
危惧していた事態にならず、以前と変わらない日常は送れていた。
変わった事と言えば衣食住の問題だ。俺には勿体ないと思えるくらい贅沢な暮らしをさせてもらっている。
最初の頃は世話になってるからとお金を差し出すも、「自分のご褒美に使いなさい」と受け取ってくれず。
それでは困ると食い下がったら、冒険者として強くなって名声をあげてくれたら鼻が高いと言われた。
なので今は基礎体力とマナ量を増やすトレーニングを行っている。
あ、後一つ変わったことがあった。
それはチームを組んでの参加だ。今までソロで活動していたが、ジョーさんのお陰で多人数でクエストが行えるようになったのだ。
そして今日、チームの募集に入り遠征に行く予定だ。
「エル、おはよう。
今日もギルドに行くのかな」
「…おはよう。
今日から遠征で2日留守にする」
通りすがりに呼ばれ、エルは振り返る。
そこにはスーツを着崩して壁にもたれかかるジョエルの姿があった。挨拶を交わし、並んで歩く。
未だ名前が呼べずにいて顔色を見ることがあるけど、強要されたり命令されることもない。
毎日飽きずに話しかけてくるが。
だから気を張らなくても大丈夫なのかと最近では割りと自由に過ごせている。
「遠征…ああ、今日からだったね。食事はどうする?」
「食事は向こうで食べるから大丈夫だ」
遅れてしまっては元も子もないから早めに行くつもりだ。
「分かったよ、ただ万が一に備えて携帯食を用意しておこう。
えっと、どこまで行く予定だったかな」
「ガルシア獣国へ行く途中の溪谷で砂鼠を討伐してくる」
「溪谷ね、道中気をつけて行ってらっしゃい」
「うん、行ってくる」
携帯食をもらい、屋敷の外へ出た。
朝から清々しい気分で何か良いことがありそう、とギルドに走って向かう。
1羽の黒い小鳥が召喚されエルの後を追っていく。
「くれぐれも悪い虫に気をつけて…、私の所に戻って来るんだよ」
遠ざかっていく背中に向かって呟く。
その言葉は、朝の静けさに溶け込み消えていった。
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