新陽通り商店街ワルツ

深水千世

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終章

金の軌道

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 初雪が降り始めた頃、やっと商店街のホームページが立ち上がった。サイトには俺が撮った写真が使われ、店舗の紹介、イベントのリストもある。手前味噌ながら、いい出来だ。

 そして俺は写真館に一枚の写真を飾った。商店街のみんなで撮った夏祭りの集合写真だ。役員はもちろん、組合員も朗らかな笑顔を浮かべている。
 それを額縁に入れて、カワセミの写真の隣に飾り、満足げに眺めた。

「俺たちだって、飛べるさ」

 カワセミに向かってそう呟くと、俺は店の自動ドアを出て、商店街を見渡した。
 夏祭りでの賑わいが過ぎると、新陽通り商店街はいつもの閑散とした姿に戻っていた。この日も、野良猫一匹通りはしない。

 麻美さんや瑞枝さんの協力もあって、フリーペーパーやガイドブック、そしてポスターの段取りは順調に進んでいた。
 けれど、知ってもらった先には、興味を持ってもらう、そして足を運んでもらうという課題が待っている。やはり劇的な解決策はないのだ。

 駅ビルの商業棟は十一月にオープンした。バスターミナルも同時に動き出し、二月には医療モールと、直結のホテルがオープンする。
 駅直結という利便性で地元の高校生の姿を多く見かけるらしいが、商店街にも学生の姿が見られるようになった。役員がベンチを置いたことで、学校帰りの買い食いが増えたようだ。

 急激な変化はないけれど、何もないわけじゃない。商店街だけではなく、うちの写真館だってそうだ。
 こつこつと人脈を広げながら売り込んでいるうちに、学校のイベント撮影や、結婚式場への出張なんて依頼も舞い込むようになった。中判カメラの扱い方も、父親から手ほどきを受けている。写真スタジオでのアルバイトを辞めて、写真館の仕事に本腰を入れようかと思っているんだ。

 ふと奥田書店に目をやると、亮と里緒さんが談笑しているのが見えた。彼女は再婚後も、奥田書店で勤務している。
 失恋した相手がずっといるのはしんどいかと思っていたが、この頃では商店街の仲間が増えた喜びのほうが大きくなっていた。

「恋も、商店街も焦らずだな」

 思わず独りごちて、頭をかいた。
 来年には英知が商店街の空き店舗に移転してくる。商店街がどんな風に姿を変えていくのかわからないけれど、不安には思わない。むしろわくわくしているなんて、人は変わるものだと我ながら思う。

 時代は流れていくし、街並みも変わっていく。でも、時代も街も、結局は人が作るんだ。商店街の人々、さらには麻美さんや瑞枝さんのような人たちを巻き込んで、大きくかき回してやるさ。
 俺たちなら、大丈夫。まだまだ始まったばかりだけど、そう確信できる。

 ふと、商店街のアスファルトに金色の軌道が見えた気がした。
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