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にゃむらい誕生
変身
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口をぽかんと開けていた菊千代が呟く。
「お前、狛犬だったのか」
時雨が鼻で笑った。
「まったく、本来ならお前たちのような者に名前など教える筋合いはないのだが」
むすっとした時雨とは打って変わって、秋野が穏やかな声で言った。
「お前たちには事の大きさがわからないだろうがね、名前というのはその身を縛る呪なんだよ」
「縛る?」
「我らは神の使いだ。そして名前を告げるということは、その名を呼ぶ者に縛られることを意味する。だから、本来なら我らを使役できるのはこの名を知る神々だけなのだ」
その優しい声に勇気を得て、マリアが尋ねた。
「どうして弁財天様が?」
「元々は我らがお仕えする菅原道真公がお望みになられたことだ。だが、この家の赤ん坊が関わっていると知れたので、弁財天様にお力を貸していただいたわけだ」
菊千代が呆れ顔で「やっぱり全然、意味がわからない」とぼやく。
「エミさんの子を守れってことは、何か危険が迫っているってこと?」
秋野が静かに首を振った。
「危険かどうかは、わからぬ」
そのときだった。
ジリリリリと警報機のような音が鳴る。
「なんの音だ?」
尻尾を膨らませるロッキーに、時雨が「ふん」と笑った。
「赤ん坊が産まれたな。奴らめ、それに気付いて早速やってきた」
菊千代がじれったそうに尻尾を揺らす。
「奴らって誰だ?」
秋野が質問には答えず、「ちょうどいい」と小さく呟く。
「あれこれ言うより、実際に試してみたほうが早かろう」
そして猫たちを見回し、こくりと頷く。
「お前たち、生身の体では家を出ることもできぬだろう。我らと同じ霊体になるといい」
「どうやって?」と、マリアが呆れ顔になる。
「私たちは狛犬でも神様でもないのよ?」
「首輪の銅板が力を貸してくれる。ただ一言、『解』と唱えてごらん」
「か、い?」
「それを唱えると、赤ん坊を守るため、お前たちに最も相応しい姿になるはずだ」
菊千代たちは顔を見合わせる。
「いっちょ、やってみるか」
ロッキーの声に菊千代もマリアも頷く。
「解」
そう唱えると、ふっと視界が揺れた。次の瞬間には、彼らを淡い光が包み出す。気がつけば、目の前に丸くなって寝ている自分たちの体を見下ろしていた。
「これは?」
いつもと違う視界に目を丸くする。
「菊千代、あんた立ってる!」
素っ頓狂なマリアの声が響いた。
菊千代は二本脚で人間のように立ち、着物姿だった。その腰には刀が差してある。
秋野がその姿を見て、「これは面白い」と愉快そうに笑った。
「目の前で寝ているのは、お前たちの生身の体だ。そして今こうして立っている姿が、霊体になる。お前たちは人間の名前をもらっているせいか、二本脚で立ってしまったらしいね」
菊千代がマリアを見やって、驚く。
「マリアは一体なんでそんな格好なんだ?」
マリアも二本脚で立っているが、修道女の格好をしていた。手には小さなギターが握られている。
「じゃあ、ロッキーは?」
菊千代とマリアが恐る恐る振り返ると、そこにはボクシング選手の格好をしたロッキーがいた。両前脚の赤いボクシンググローブが艶めいている。
ロッキーは普段からしかめ面の顔を更に歪めて呟いた。
「なるほどな。名前は身を縛るって言ってたけど、こういうことか」
マリアが「どういうこと?」と、訝しげに問うと、彼はこう続けた。
「俺たちは映画のキャラクターの名前をもらっている。それぞれがその格好をしているじゃないか」
菊千代が首を傾げる。
「俺とロッキーはわかるけど、マリアはなんだ?」
「私は『サウンド・オブ・ミュージック』のヒロインよ」
そう答え、マリアが呆れ顔で呟く。
「……でも、この武器でもなんでもないギターでどうしろっていうの?」
すると、時雨が短く頷いた。
「案ずるな。お前たちが手にしている物は、それぞれに相応しい能力がもたらされているはずだ。さて、ではあの音のもとへ参ろうか」
「お前、狛犬だったのか」
時雨が鼻で笑った。
「まったく、本来ならお前たちのような者に名前など教える筋合いはないのだが」
むすっとした時雨とは打って変わって、秋野が穏やかな声で言った。
「お前たちには事の大きさがわからないだろうがね、名前というのはその身を縛る呪なんだよ」
「縛る?」
「我らは神の使いだ。そして名前を告げるということは、その名を呼ぶ者に縛られることを意味する。だから、本来なら我らを使役できるのはこの名を知る神々だけなのだ」
その優しい声に勇気を得て、マリアが尋ねた。
「どうして弁財天様が?」
「元々は我らがお仕えする菅原道真公がお望みになられたことだ。だが、この家の赤ん坊が関わっていると知れたので、弁財天様にお力を貸していただいたわけだ」
菊千代が呆れ顔で「やっぱり全然、意味がわからない」とぼやく。
「エミさんの子を守れってことは、何か危険が迫っているってこと?」
秋野が静かに首を振った。
「危険かどうかは、わからぬ」
そのときだった。
ジリリリリと警報機のような音が鳴る。
「なんの音だ?」
尻尾を膨らませるロッキーに、時雨が「ふん」と笑った。
「赤ん坊が産まれたな。奴らめ、それに気付いて早速やってきた」
菊千代がじれったそうに尻尾を揺らす。
「奴らって誰だ?」
秋野が質問には答えず、「ちょうどいい」と小さく呟く。
「あれこれ言うより、実際に試してみたほうが早かろう」
そして猫たちを見回し、こくりと頷く。
「お前たち、生身の体では家を出ることもできぬだろう。我らと同じ霊体になるといい」
「どうやって?」と、マリアが呆れ顔になる。
「私たちは狛犬でも神様でもないのよ?」
「首輪の銅板が力を貸してくれる。ただ一言、『解』と唱えてごらん」
「か、い?」
「それを唱えると、赤ん坊を守るため、お前たちに最も相応しい姿になるはずだ」
菊千代たちは顔を見合わせる。
「いっちょ、やってみるか」
ロッキーの声に菊千代もマリアも頷く。
「解」
そう唱えると、ふっと視界が揺れた。次の瞬間には、彼らを淡い光が包み出す。気がつけば、目の前に丸くなって寝ている自分たちの体を見下ろしていた。
「これは?」
いつもと違う視界に目を丸くする。
「菊千代、あんた立ってる!」
素っ頓狂なマリアの声が響いた。
菊千代は二本脚で人間のように立ち、着物姿だった。その腰には刀が差してある。
秋野がその姿を見て、「これは面白い」と愉快そうに笑った。
「目の前で寝ているのは、お前たちの生身の体だ。そして今こうして立っている姿が、霊体になる。お前たちは人間の名前をもらっているせいか、二本脚で立ってしまったらしいね」
菊千代がマリアを見やって、驚く。
「マリアは一体なんでそんな格好なんだ?」
マリアも二本脚で立っているが、修道女の格好をしていた。手には小さなギターが握られている。
「じゃあ、ロッキーは?」
菊千代とマリアが恐る恐る振り返ると、そこにはボクシング選手の格好をしたロッキーがいた。両前脚の赤いボクシンググローブが艶めいている。
ロッキーは普段からしかめ面の顔を更に歪めて呟いた。
「なるほどな。名前は身を縛るって言ってたけど、こういうことか」
マリアが「どういうこと?」と、訝しげに問うと、彼はこう続けた。
「俺たちは映画のキャラクターの名前をもらっている。それぞれがその格好をしているじゃないか」
菊千代が首を傾げる。
「俺とロッキーはわかるけど、マリアはなんだ?」
「私は『サウンド・オブ・ミュージック』のヒロインよ」
そう答え、マリアが呆れ顔で呟く。
「……でも、この武器でもなんでもないギターでどうしろっていうの?」
すると、時雨が短く頷いた。
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