上 下
2 / 10

川守たちの朝

しおりを挟む
 ウタカタンのはずれに『たそがれ川』と呼ばれる川がある。細いが深くて穏やかな流れだった。

 そのほとりの水車小屋に、川守たちが住んでいた。一匹のビーバーと一匹のカエル、一匹のネズミ、それに一羽のカラスだ。

 しなやかな雨の朝のことだった。水車小屋ではみんな勢揃いで食卓を囲んでいる。
 ビーバーのバルカロールがライ麦パンを切り分けながら言った。

「しとしと降る雨は綺麗だね」

「そうだね、森の木が嬉しそうだ」と、カエルのジャスパーがお茶を注ぐ。

「そうかな、僕はヒゲがしっとりして嫌だな」と、チーズを頬張るネズミのレミー。

「まったくだ。メガネが曇って仕方ない。潰れたスフレのような気分だよ」

 ぶつぶつ言いながら丸メガネを拭いているのがカラスのサルヴァドールだ。

 朝食が終わる頃、誰かが扉を叩く音がした。

「川守はいるかな? たそがれのひと皿をお願いしたいんだが」

 外から聞こえた声に、バルカロールが白い歯を見せる。

「おやおや、もう仕事の時間だ」

 サルヴァドールが扉を開けると、そこにはカエルのヨナじいさんが立っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

おまじない

ツチフル
児童書・童話
転んで泣いてばかりいるナオ君。 どうにかして泣き虫をなおしたいと思っていたある日、 タマゴみたいなおじさんからおまじないを教えてもらいました。

もやもやジェットのジャスパー

深水千世
児童書・童話
子猫のゾラはベッドの中でふくれっ面だった。 「早く寝なさい」と叱ったくせに、ママもパパも起きている。 「大人はずるいよ!」 ぶつぶつと文句を言うゾラの前に現れたのは、カエルのジャスパーだった。 「やあ、僕にそのもやもやをちょうだいよ」 そうしてゾラはこの奇妙なカエルと家を飛び出してしまうのだが……。 この作品は无域屋(むのくにや)さんのイラスト『気球とは違うタイプ』に物語を寄せたものです。

ねむいねむい十二支のがまん大会

とものりのり
児童書・童話
絵本・児童書大賞エントリー作品です。寝かしつけの童話です。

魔女の存在証明

小森 輝
児童書・童話
1人の少女が絵本に導かれて紡ぐ物語

ヨナじいさんのよいよい占い

深水千世
児童書・童話
カエルのヨナじいさんはよく当たると評判の占い師。 毎日、たくさんの客がやってくる。 けれど今日は朝からちょっと奇妙な客ばかり。 「どうもワシの周りでおかしなことが起きようとしているぞ」 ヨナじいさんは生まれて初めて自分を占ってみることにしたが……。 この作品は无域屋(むのくにや)さんのイラスト『宵酔』に物語を寄せたものです。

ネコのフウタ

華子
絵本
ぼく、ネコのフウタ。 朝目覚めると、ママがいなかった。 もしかしたら、ママがお気に入りのあの場所にいるかも!? 知人のazzuとの共同制作です。

さくら色の友だち

村崎けい子
児童書・童話
うさぎの女の子・さくらは、小学2年生。さくら色のきれいな毛なみからつけられた名前がお気に入り。 ある日やって来た、同じ名前の てん校生を、さくらは気に入らない――

処理中です...