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第三章 最終決戦

信頼と嫌味と慰めと

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 解除リヴァレ
 私が叫んだ後、みんなの反応は三者三様だった。
 光り輝く自分の体と、激しく脈打つ心臓。
 それでも自分の心だけは、絶対に手放さない。
 絶対に。

ーーー

 あたしが最後に解除リヴァレを見たのは、一代前の朱色の雫ミニオスティーラのときだった。

「輝く空! 青い海! 最高じゃ!」
「ほら、さい! あまりはしゃぐと……」
「お? あ、わ、ああっ!」
「言わんこっちゃない……」

ーー今回の朱色の雫ミニオスティーラは双子なのね。

 水しぶきを上げながら転がりまわる幼い二人。
 あたしは、輪廻したての二人を眺めながら、これから彼女たちを待ち構えている運命とやらを思ってはため息をついていた。

「あんたたちねえ、少しは落ち着いて楽しみなさい!」
「はーい!」

 弾けるような笑顔と笑い声。常夏のあたしの国にぴったりだ。
 なんで今さら、あたしは心を痛めているのだろう。そんなこと、考えなくてもわかるはずなのに。

「おい」
「ん? ああ、曆。いたのね」
「……また物思いに耽っていたのか」
「あー、まあ、そうね」

 元々自分たちが出来ない殺戮を担わせるために作った、兵器のような存在。今幼子の彼女らに背負わせるには重すぎる役目。
 もとを正せば、過ぎた遊びを続けるあたしたちを殺させるための道具なのに、だ。

 なのに。あたしは、首謀者なのに。
 また気がつけばため息ばかり溢れて、段々背中が丸まっていく気がした。髪の毛のない頭に手を置いて、少しだけ俯く。暫くして頭の上から降ってきた言葉。

「こうあるべきという正しさを軸に考えれば、貴様のように落ち込むことになろう」
「はい? なに、突然」

 隣りにいる曆を見上げれば、彼は無表情のまま彼女らを見つめ、なのに言葉だけあたしに落としてきた。

「貴様は詰めが甘い。なんなら考え方もだ」
「なに、あんたあたしにダメ出しするために来た訳ぇ?」

 何なのよ、慰めなさいよ。
 あたしの本音がはっきりと聞こえた。自分の本音が降ってくる感覚は、なんとも表現しづらい。だが、いつもそうだ。あたしは本音が

「経緯がどうであれ、貴様がどうしたいか。過去など変えられん。これから先、奴等をどうしたいかだと我は思うがな」
「曆……あんた、随分いいこと言うじゃない」

 彼の心はいつも耳が痛くなるほど静かだ。何故なのかはわからない。だが、今は彼の凪いだ心があたしのさざ波が立った心を落ち着かせてくれた。
 前で遊び転げ回る幼い二人の朱色の雫ミニオスティーラ。けして、漆黒の牙ニゲルデンスには渡さない。

漆黒の牙ニゲルデンスのことを、まだ根に持っているのか」
「あら。おかしいわね、心が読まれたかしら?」
「我に心は読めん。貴様の顔に書いてあっただけだ」

 朱色の雫ミニオスティーラを作り出したあの日。
 漆黒の牙ニゲルデンス朱色の雫ミニオスティーラを使って、国を滅ぼそうとした。村では飽き足らず、国全土を。なんなら宇宙界全土を滅ぼすつもりだったかもしれない。当時の白金の灯プラティニルクスである炎陽が止めたものの、国自体は壊滅的だった。せっかく創り上げた国が、漆黒の牙ニゲルデンス朱色の雫ミニオスティーラによって大破させられた。
 そして、朱色の雫ミニオスティーラは一度死に、輪廻した。その後は何度か輪廻を繰り返し、今に至る。

 漆黒の牙ニゲルデンスといえばその後暫く、数千年単位で輪廻していない。自分の意思で輪廻できるはずの彼が輪廻しないということは、なにか策略があるのだろう。
 もしくはあたしたちが気づいてないだけで、すでに輪廻しているのか。

 漆黒の牙ニゲルデンスはあたしにとって暇つぶしの相手。
 じゃあほかは? って話だが。

 白金の灯プラティニルクスはあたしにとって信用できる相手。
 黄金の果アウルムポームムはあたしにとって手のかかる相手。
 
 じゃあ、朱色の雫ミニオスティーラは?
 頭に置いた手に力を込める。
 罪悪感、畏怖、恍惚、それとも。
 気がつけばまた、口からため息がこぼれていた。

「おい」
「なによ」
「さっきからため息ばかり煩い。貴様は考えすぎだ」
「考えちゃ悪いわけ? 漆黒の牙ニゲルデンスはずっと見つかんないのよ」

 あたしの言葉は、想像していたよりもずっと鋭い形になって口から飛び出した。
 飛び出してから口に手を当てても、言葉は巻き戻らない。

「……悪いわね。ちょっと考えすぎかもしれないわ。漆黒の牙ニゲルデンスのことで、神経質になってるのかも」
「構わん。貴様が考えるときはいつも理由がある」
「誰だって考えるときには理由くらいあるでしょ」
「無いやつもいる」

 彼は優しい。
 きっとあたしのために、無表情でいるのだろう。
 彼はそういうやつだ。

「ありがと」
「……貴様に言われると、ゾッとする」
「ちょっとどういう意味よそれ!?」

 あたしが立ち上がると、曆はすぐに踵を返し、あたしたちに背中を向けて歩き出した。

「あいつ……」

 あたしの言葉は、海の音の中に飲まれていった。
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