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二手
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三日後、某所
「ここがリミアがいる場所ね」
漆黒の紅朱雀号に跨り、眼前にある建物を見上げる。リミアがルーカスと共に潜伏しているという場所は、山間にある今は使われていない屋敷だった。
「この屋敷は、かつてこの地域を治めていた領主の別荘です。資産整理の為に売りに出され、持ち主が変わり数年前までは富裕層向けのホテルとして使用されていましたが、採算が取れなくなり廃業。取り壊す費用も捻出できなかったことから当時の姿のまま現在まで放置されています」
「へぇ、中々いい趣味してるじゃない」
屋敷は中心地から離れた場所に位置しているためか、誰かが後から購入することもなかったようだ。屋敷は白と赤を基調とした三階建て、遠くからでも派手な装飾がなされた入り口が見える。周囲を見渡しても、入れそうな場所は正面の入口しかないようだ。
「早速入りましょう」
私は漆黒の紅朱雀号から降り、屋敷の入口へと向かった。後ろから三人も着いてくる。屋敷の周りはある程度整備されていたが、ところどころ経年劣化が目立っている。
「わっ!」
「おっと。大丈夫か?」
前のめりになり、転びそうになったところをアルに受け止められた。アルの腕は、その皇子様らしい外見からは想像できないような男らしい腕だった。急に自分が今受け止められている態勢が恥ずかしくなってくる。
「ご、ごめん」
「いいんだ。足元には気をつけるんだよ」
「うん…ありがとう」
立ち上がり、照れくさくて少しもじもじと髪をなでつける。アルをチラっと見ると、アルはこちらを嬉しそうに見つめていた。
「いまいち締まらないな、先輩」
「う、うるさい!ほら、早く行こう」
私が照れている様子を見て、笑うリュカをたしなめつつ、私たち四人は周囲を確認しながら城に入った。
屋敷に入ると、そこは大きな空間が広がっていた。玄関ホールのようだ。左側にはフロントとして使用されていたと思われるカウンターがある。正面には二階へと続く両階段、一階にはその階段に挟まれている大きな扉がある。両階段を見ると、向かって左の階段は崩れ落ちてしまっているようだ。階段を登った先、二階の少し通路を進んだ先には、これまた大きな扉が見える。分かりやすく、重要そうな扉だ。
「リュカ、魔力の流れを探ってくれるか」
アルに言われ、リュカは目を閉じて魔力の流れを探り始めた。
「…建物内には無数の魔力の流れを感じます。中でも大きい反応が二つ。どちらも人です」
「きっとルーカスとリミアだ。二人は何処にいるの?」
「上の方、二階だと思う。グレンさんに事前に渡されてた見取り図から考えると、二階の奥、礼拝堂に二人は居る。建物の他の反応…たぶん全部魔物、は全員一階に居ると思う」
リュカの言葉にドキリとして、慌てて周りを見渡した。扉は私達が入ってきた入口以外に、先程見た両階段に挟まれている一階の大きな扉、その上に位置する二階の大きな扉、一階の左右に少し小さめの扉の合計四つだ。魔物が居るのは正面の扉と左右の扉だろうか?ここで一気に出てこられたら厄介だ。
「一階…とりあえず今は見当たらないけど…」
「おそらく隠れているだけだろう」
「急いで二階へ向かいましょう。おそらく相手も私たちが城に侵入していることは気がついている筈です」
四人で頷きあい、私たちは一斉に二階へ続く階段へ向かった。アル、私、グレン、リュカの順で走る。階段を数段登ったところで、一階左右の扉が開き、中から無数の魔物が出てきた。前に見たことのある犬型の魔物以外にも、様々な動物をモチーフにした魔物たちが私たちを見つめていた。
「選り取り見取りね」
「お嬢様、私の後ろへ」
「大丈夫よ。ちゃんと私も戦えるわ」
私を牽制しようとするグレンにそう言うと、今度はリュカが私の前に立ち、手を広げた。
「先輩、ここは俺に任せて」
「だから、ちゃんと私も戦えるって」
「先輩の目的はリミアさんだろ?なら先に進めよ」
「お嬢様、ここはリュカに任せて先へ行きましょう」
「でも…」
リュカは確かに強い。それでも、どうしても心配なのだ。決めかねて困っていると、突然リュカが私の手を引いた。バランスを崩した私はリュカの胸の中に飛び込む。後ろから抱きしめられている状態で、そっと耳元で囁かれる。
「先輩の気持ちが俺に向いてないことは分かってる。俺のことを友達だって思っていることも。けど、」
リュカな私を抱きしめる腕に力が入る。首を後ろに向けると、リュカと目があった。
「好きな人の前でくらいカッコつけさせろよ」
何も言えなくて、ただ閉口する。私を見て、リュカは満足したように抱きしめる手を離した。そこまで言わせてしまっては、もう反対することなんてできななった。
「…分かった。じゃあ頼むよ、リュカ」
「ん。任せとけ。おい、こっちだ!!」
リュカが大声を出しながら階段からホールへと飛び降りた。同時にリュカが立っていた場所に木が生い茂り、階段を塞ぐ。これで魔物は登ってこれない。私たちは急いで残りの階段を駆け上がった。
階段を登った先でホールを見ると、リュカがこっちを見ていることに気がついた。私がグッと親指を立てて合図をすると、リュカは少し笑ってから同じく親指を立てて合図を送ってくれた。
「リュカなら強いから大丈夫だ。安心して任せられるさ」
「うん、大丈夫。分かってるよ」
「…お嬢様、扉です」
二階の通路を進んだ先、目の前には大きな扉がある。二人を見やってから扉を開くと、後ろから大きな物音が聞こえた。槍を持ち、翼が生えた怪物、言うなればガーゴイルが二体、こちらを凝視している。
「ではここは私が残りましょう。扉を閉め、下に残ったリュカと合流して一階にいる魔物たちを一掃します。アル、お嬢様を頼んだぞ」
「ああ。任された」
「お嬢様、ご武運を」
グレンは有無を言わさない表情をしている。ここで止めるのはきっと不可能だろう。私は意を決して頷いた。
「…ありがとう。グレンも怪我をしないように」
「はい。では後ほど」
アルと視線を合わせ、頷いてから扉へ入っていく。後ろを見ると、グレンは私に向かい、いつも通り恭しく頭を下げているのが見えた。
ーー
アルとネアがグレンと離れて数分後。
「意外と多いな…!」
一階のホールでは、リュカが無数の魔物と戦っていた。次から次へと出てくる魔物に辟易とする。これは一緒に行った方が良かったか?と、リュカは少し気を抜いた。
ドンッ
間髪入れずに、リュカの背後で大きな音と衝撃がした。驚いて後ろを振り向いたリュカが見たのは、下に叩きつけられたガーゴイルだった。唖然としていると、同じく上からグレンが降ってきた。グレンはガーゴイルの上に当然のように着地し、制服に付いた砂をほろっている。
「ホールの掃除はまだ終っていないのか。悪魔の落し子もまだまだだな」
「っ。すいませんねぇ…」
平然としているアンタは一体何者なんだよ、とリュカが引いていると、ヤレヤレとグレンがわざとらしく首を振った。
「先程までのお嬢様への狼藉も、お前だから許しているというのに」
「それって…!」
「お前は未来の同僚だからな。悪魔の落し子なら覇王の部下として認めてやらんこともない」
お前だから許している、という言葉に一瞬期待したリュカはすぐに落ち込んだ。なるほど、やはりこの男の基準は何時だって彼女にあるらしい。
「そういうことですか…」
「それ以外に何がある」
リュカは先程まで自分がネアに対して言ったことを思い出して、ため息をついた。
「なんでもありませんよ。では、もう少しお掃除頑張りますか!」
「ああ。早く片付けるぞ」
ーー
一方、アルとネアは扉の奥にある廊下を進んでいた。廊下の左右にはかつて客室であったのであろう扉が並んでいる。思っていたよりも長い廊下だ。
「ネア、大丈夫か?」
「大丈夫。二人は強いから。リミアについても心配しないで。覚悟はできているよ」
「そうか。やはり、君は変わったな」
「そうかな?」
今までのことが走馬灯のように思い出された。この世界に来て、様々なことがあった。ネアだったときには考えられないようなことが沢山起こっている。
「いや、うん。そうだね。変わったよ、色々と」
私たちは奥にある扉を目指してひたすらに進んだ。
「ここがリミアがいる場所ね」
漆黒の紅朱雀号に跨り、眼前にある建物を見上げる。リミアがルーカスと共に潜伏しているという場所は、山間にある今は使われていない屋敷だった。
「この屋敷は、かつてこの地域を治めていた領主の別荘です。資産整理の為に売りに出され、持ち主が変わり数年前までは富裕層向けのホテルとして使用されていましたが、採算が取れなくなり廃業。取り壊す費用も捻出できなかったことから当時の姿のまま現在まで放置されています」
「へぇ、中々いい趣味してるじゃない」
屋敷は中心地から離れた場所に位置しているためか、誰かが後から購入することもなかったようだ。屋敷は白と赤を基調とした三階建て、遠くからでも派手な装飾がなされた入り口が見える。周囲を見渡しても、入れそうな場所は正面の入口しかないようだ。
「早速入りましょう」
私は漆黒の紅朱雀号から降り、屋敷の入口へと向かった。後ろから三人も着いてくる。屋敷の周りはある程度整備されていたが、ところどころ経年劣化が目立っている。
「わっ!」
「おっと。大丈夫か?」
前のめりになり、転びそうになったところをアルに受け止められた。アルの腕は、その皇子様らしい外見からは想像できないような男らしい腕だった。急に自分が今受け止められている態勢が恥ずかしくなってくる。
「ご、ごめん」
「いいんだ。足元には気をつけるんだよ」
「うん…ありがとう」
立ち上がり、照れくさくて少しもじもじと髪をなでつける。アルをチラっと見ると、アルはこちらを嬉しそうに見つめていた。
「いまいち締まらないな、先輩」
「う、うるさい!ほら、早く行こう」
私が照れている様子を見て、笑うリュカをたしなめつつ、私たち四人は周囲を確認しながら城に入った。
屋敷に入ると、そこは大きな空間が広がっていた。玄関ホールのようだ。左側にはフロントとして使用されていたと思われるカウンターがある。正面には二階へと続く両階段、一階にはその階段に挟まれている大きな扉がある。両階段を見ると、向かって左の階段は崩れ落ちてしまっているようだ。階段を登った先、二階の少し通路を進んだ先には、これまた大きな扉が見える。分かりやすく、重要そうな扉だ。
「リュカ、魔力の流れを探ってくれるか」
アルに言われ、リュカは目を閉じて魔力の流れを探り始めた。
「…建物内には無数の魔力の流れを感じます。中でも大きい反応が二つ。どちらも人です」
「きっとルーカスとリミアだ。二人は何処にいるの?」
「上の方、二階だと思う。グレンさんに事前に渡されてた見取り図から考えると、二階の奥、礼拝堂に二人は居る。建物の他の反応…たぶん全部魔物、は全員一階に居ると思う」
リュカの言葉にドキリとして、慌てて周りを見渡した。扉は私達が入ってきた入口以外に、先程見た両階段に挟まれている一階の大きな扉、その上に位置する二階の大きな扉、一階の左右に少し小さめの扉の合計四つだ。魔物が居るのは正面の扉と左右の扉だろうか?ここで一気に出てこられたら厄介だ。
「一階…とりあえず今は見当たらないけど…」
「おそらく隠れているだけだろう」
「急いで二階へ向かいましょう。おそらく相手も私たちが城に侵入していることは気がついている筈です」
四人で頷きあい、私たちは一斉に二階へ続く階段へ向かった。アル、私、グレン、リュカの順で走る。階段を数段登ったところで、一階左右の扉が開き、中から無数の魔物が出てきた。前に見たことのある犬型の魔物以外にも、様々な動物をモチーフにした魔物たちが私たちを見つめていた。
「選り取り見取りね」
「お嬢様、私の後ろへ」
「大丈夫よ。ちゃんと私も戦えるわ」
私を牽制しようとするグレンにそう言うと、今度はリュカが私の前に立ち、手を広げた。
「先輩、ここは俺に任せて」
「だから、ちゃんと私も戦えるって」
「先輩の目的はリミアさんだろ?なら先に進めよ」
「お嬢様、ここはリュカに任せて先へ行きましょう」
「でも…」
リュカは確かに強い。それでも、どうしても心配なのだ。決めかねて困っていると、突然リュカが私の手を引いた。バランスを崩した私はリュカの胸の中に飛び込む。後ろから抱きしめられている状態で、そっと耳元で囁かれる。
「先輩の気持ちが俺に向いてないことは分かってる。俺のことを友達だって思っていることも。けど、」
リュカな私を抱きしめる腕に力が入る。首を後ろに向けると、リュカと目があった。
「好きな人の前でくらいカッコつけさせろよ」
何も言えなくて、ただ閉口する。私を見て、リュカは満足したように抱きしめる手を離した。そこまで言わせてしまっては、もう反対することなんてできななった。
「…分かった。じゃあ頼むよ、リュカ」
「ん。任せとけ。おい、こっちだ!!」
リュカが大声を出しながら階段からホールへと飛び降りた。同時にリュカが立っていた場所に木が生い茂り、階段を塞ぐ。これで魔物は登ってこれない。私たちは急いで残りの階段を駆け上がった。
階段を登った先でホールを見ると、リュカがこっちを見ていることに気がついた。私がグッと親指を立てて合図をすると、リュカは少し笑ってから同じく親指を立てて合図を送ってくれた。
「リュカなら強いから大丈夫だ。安心して任せられるさ」
「うん、大丈夫。分かってるよ」
「…お嬢様、扉です」
二階の通路を進んだ先、目の前には大きな扉がある。二人を見やってから扉を開くと、後ろから大きな物音が聞こえた。槍を持ち、翼が生えた怪物、言うなればガーゴイルが二体、こちらを凝視している。
「ではここは私が残りましょう。扉を閉め、下に残ったリュカと合流して一階にいる魔物たちを一掃します。アル、お嬢様を頼んだぞ」
「ああ。任された」
「お嬢様、ご武運を」
グレンは有無を言わさない表情をしている。ここで止めるのはきっと不可能だろう。私は意を決して頷いた。
「…ありがとう。グレンも怪我をしないように」
「はい。では後ほど」
アルと視線を合わせ、頷いてから扉へ入っていく。後ろを見ると、グレンは私に向かい、いつも通り恭しく頭を下げているのが見えた。
ーー
アルとネアがグレンと離れて数分後。
「意外と多いな…!」
一階のホールでは、リュカが無数の魔物と戦っていた。次から次へと出てくる魔物に辟易とする。これは一緒に行った方が良かったか?と、リュカは少し気を抜いた。
ドンッ
間髪入れずに、リュカの背後で大きな音と衝撃がした。驚いて後ろを振り向いたリュカが見たのは、下に叩きつけられたガーゴイルだった。唖然としていると、同じく上からグレンが降ってきた。グレンはガーゴイルの上に当然のように着地し、制服に付いた砂をほろっている。
「ホールの掃除はまだ終っていないのか。悪魔の落し子もまだまだだな」
「っ。すいませんねぇ…」
平然としているアンタは一体何者なんだよ、とリュカが引いていると、ヤレヤレとグレンがわざとらしく首を振った。
「先程までのお嬢様への狼藉も、お前だから許しているというのに」
「それって…!」
「お前は未来の同僚だからな。悪魔の落し子なら覇王の部下として認めてやらんこともない」
お前だから許している、という言葉に一瞬期待したリュカはすぐに落ち込んだ。なるほど、やはりこの男の基準は何時だって彼女にあるらしい。
「そういうことですか…」
「それ以外に何がある」
リュカは先程まで自分がネアに対して言ったことを思い出して、ため息をついた。
「なんでもありませんよ。では、もう少しお掃除頑張りますか!」
「ああ。早く片付けるぞ」
ーー
一方、アルとネアは扉の奥にある廊下を進んでいた。廊下の左右にはかつて客室であったのであろう扉が並んでいる。思っていたよりも長い廊下だ。
「ネア、大丈夫か?」
「大丈夫。二人は強いから。リミアについても心配しないで。覚悟はできているよ」
「そうか。やはり、君は変わったな」
「そうかな?」
今までのことが走馬灯のように思い出された。この世界に来て、様々なことがあった。ネアだったときには考えられないようなことが沢山起こっている。
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