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王太子
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城門の外は、悪趣味これに極まれりといった様相を呈している。
ぬかるんだ地面は毒を持ち、そこに根ざした植物も毒を持つ。もちろん、生身の人間が飲用できる水などあろうはずもなく、周りは植物系の魔物で満ちている。
ひどい。想像以上に。
城まで生きて辿り着ける人間はまずおるまい。人の国の軍勢がこの森に差し掛かる前に止めなければ。早くしないと皆死霊になってしまう。…誰だよこんなエグいこと思いついたの。あいつらが英雄だったかどうか、今となっては怪しいものだ。元は英雄ではなく、褒賞に目が眩んだ山賊か何かじゃないのか。
集める魔物を植物タイプに限定したの、正解だったな。さすがわたくし。ここに動物タイプが放たれていたら、とてもじゃないが管理しきれない。どれだけ人の国に迷惑をかけていたことか。
わたくしが歩くと死霊が集まってくる。死霊は乳白色の靄となり、森を覆い、人の国の軍勢に迫った。
靄は人間たちを包みこみ、眠りの世界へと誘う。眠れ武人たち。母の胸に抱かれていた頃のように、安らかに。
森を抜けると、先駆けの一団が森の手前で眠りこんでいた。武人たちは立って剣を構えたまま眠っている。危なかった。もう少し先に行っていたら、森の入り口に配された人喰いバラの餌食になっていたところだ。
王太子を探す。彼は苦もなく見つかった。
霧の中に輝く黄金の魂。誰が見間違えるだろうか。そしてこんなに美しい男は他に見たことがなかった。まだ少年と言っても差し支えのない年齢だったが、彼のまとう雰囲気はそんなことを言わせないものがある。国を治めるということがいかなることか、既に知っている人間だ。
王太子は、靄の中で眠りこんでいる臣下たちに戸惑い立ち尽くしていた。高位の精霊使いである王太子には、このような子供騙しは通用しない。もっとも、それが狙いでもある。
「王太子殿下」
十分に距離を保ち、呼びかける。
王太子は驚いたようだったが、そこは流石に人の上に立つ者、すぐに平静を取り戻す。
「魔王ヴィラントか」
王の威厳。
元英雄たちと比べると、人としての格が違うことをひしと感じる。気負いも恐れもない。
「人がわたくしをそう呼んでいるのは存じておりますが…わたくしはただのネクロマンサー、ただのヴィラントにございます」
「面白いことを言う」その美しい男、王太子は鼻で笑う。「他に比類なき魔物、ネクロマンサーにして、『ただの』などと。謙遜を通り越して嫌味と取られかねぬぞ」
「そのような…。わたくしはただ、死霊を天に昇らせ、腐った魂を慰撫することを喜びとする、ものの数にも入らぬ身でございます」
王太子は翡翠の瞳でこちらを見据える。
「そなたの目的は何か」
「わたくしの目的はただひとつ、腐った魂を出さぬことでございます。度重なる戦により、民は疲弊し、後れ先立つ者の嘆きは地を満たしております。さながら、死者が生者の名を、生者が死者の名を呼び合う地獄。思いを遺して死霊となった者の魂は、とても重うございます。重い魂は沈み、闇に触れ、堕落せる腐った魂と成り果てるのでございますよ」
「魂が腐るとどうなる」
「人格も生前の記憶もなくし、さりながら姿のみは生前のまま、闇の眷属となり、地を彷徨い歩くのでございます。腐った魂は闇を好む者どもを引き寄せます。事実、人の国の周辺でも徐々に強力な魔物が増えているのではございませんか?」
王太子はその問いかけには答えない。しかしわたくしはその答えが「是」であることを知っている。
「腐った魂はどうすれば天に還る」
「腐った魂を天に還す方法はございません」
王太子は初めてほんの僅かな動揺を見せた。彼は今、傷つき心を痛めている。彼はこの後、真の王、王の中の王になるだろうと確信する。
「殿下、兵をお引きくださいませぬでしょうか。魔王の配下を名乗る者どもの乱暴狼藉は、わたくしの不徳の致すところでございます。あの者どもは、わたくしが対処いたしますゆえに」
王太子は力なく首を横に振った。
「それはできぬ。余は、そなたの言うところの『人の国』を次に治める者だ。魔王と取引きはできぬ」
「殿下、殿下は人の国に必要なお方です。戦いとうはございませぬ。どうか、どうか」
わたくしは1歩、2歩後ずさった。
「まるで余が死ぬことが確定しているような物言いだな。死ぬのはそなたかもしれぬぞ?」
「わたくしもまだ死ぬわけには参りませぬ。わたくしの作り出してしまった厄災の始末をつけておりませんし、わたくしにも野望がございます」
「野望とな」
王太子は眉間に皺を寄せる。
「左様でございます。腐った魂を天に還す方法を見つけること、それがわたくしの野望でございます。一介の魔物には過ぎたる望みにございますが」
「では、その望みは余が引き継ごう。腐った魂を天に還す」
そう言うと王太子は精霊を現した。
彼の隣に、もう1人の彼が現れる。容貌だけでなく、着けている鎧、佩いている剣の細部に至るまで同じだ。しかし、それらは全て、黄金の塊を彫刻したのかと思うような金色。その中で唯一、瞳だけはその主と同じ翡翠色だった。土の精霊。
「なんと…。人の姿をした精霊に出会ったのは初めてでございます」
「安心して死ぬが良い、ヴィラント」
王太子の力があれば、腐った魂を救うことができるかもしれない。彼の土の精霊ならば。土。生じせしめ、実らしめ、還らしむ、慈悲深き精霊。しかし。
「王太子殿下。殿下ならばあるいは、それも可能かと存じます。しかしながら、殿下とて人の身。いずれこの世を去らねばなりませぬ。殿下ほどの力を持つ人が、この後いつ生まれるのでございましょうか。それは殿下にもお分かりにならぬはず。であれば、わたくしはここで死ぬわけにゆかぬのでございます。普遍的な法でなければ、意味がございませぬゆえ」
大きく後ろに跳ぶ。
土の精霊が剣を抜きながら迫る。跳躍し、大上段から剣を振り下ろす。
死霊の盾を作り、剣を受ける。押し返し、跳ね返すと、精霊は空中で1回転して足から着地した。
わたくしも手を横に薙ぐ。死霊の剣を造る。武器を持つなど久しぶりだ。
死霊を操り、土の精霊を取り囲ませる。濃い乳白色の球体が、一閃した金色の光で真っ二つに割れる。
わたくしは見た。土の精霊の剣に斬られた死霊が軽くなって天に昇るのを。彼ならば、腐った魂を軽くできる。そう、確信する。しかし彼亡き後は? 誰が腐った魂を慰撫してくれる?
土の精霊が迫る。振り下ろされた剣を剣で受ける。力は互角。全力で戦わねば死ぬ。死ぬわけにはいかないし、殺すわけにはいかない。精霊は主が死なない限り何度でも復活できる。精霊の力を削ぐためにはその主を攻撃するのが常套手段だが、今回ばかりはその手は使えない。
「王太子殿下、お願いがございます」
「許す。申してみよ」
鍔迫り合いながら会話をする。土の精霊が王太子の名代として喋る。
「腐った魂どものことでございます。殿下の土の精霊の剣で、あの者どもを斬ってやってはいただけませぬでしょうか。あの者どもの苦しみを断ち切ってやっていただきたいのです。それがあの憐れな者どもの、唯一の救いとなるかもしれませぬ」
「あいわかった。そなたの望み、確かに聞いた」
「ありがとう存じます」
お互い飛び退って間合いを取る。
優れた武人である王太子の似姿である土の精霊もまた、全く隙がなかった。闇雲に打ち込んでも、有効打は得られない。これほど困難な戦闘はこれまでになかった。
ツ、と精霊の剣先が動く。来る、と思った時には精霊が目の前に迫っている。なんとか剣で受け、弾き返す。僅かに生じた隙に剣を打ちこむが、受け流される。切先が触れ合うような近距離でお互いの隙を窺い合う。
戦いの気迫に死霊たちは近寄ることができない。わたくしたちの上だけ、嵐の晴れ間のようにぽっかりと青空が覗いていた。
ぐっと精霊が身を屈めたと思うと、地面すれすれに跳躍し、わたくしの脚を狙う。こちらも大きく跳躍し、精霊を飛び越え、その無防備な背中に剣を打ち下ろす。確かに背中を捉えたと思った剣は空を切り、地面に突き刺さった。目の前にいたはずの精霊が背後から迫る。わたくしは剣を捨てて地面を転がる。先ほどまでわたくしがいた空間を精霊の剣が斬る。地面に手をついて跳ね起きる。
その視界の端に動くものを捉えた。魔鳥だ。城でこの戦いを見ているに違いない。命じるまで動いてはならぬと言ったはず。
「殿下、お聞きください。今すぐ軍勢をまとめ、人の国にお帰りください。わたくしの上を飛んでいる鳥、あれは魔鳥と申しまして、遠くを見るためにならず者どもが飛ばしておる魔物でございます。この場所は知られてしまいました。どうか」
「余に逃げ帰れと申すか」
「逃げたことにはなりませぬ。あなたは兵を守るため、ここは引くが得策とお考えになった、それだけのこと。ならず者どもには、命じるまで動いてはならぬと申しましたが、素直に従うとは思えませぬ。あなた様の兵の大半が死霊もしくは魔王軍の配下に変わる前にお早く…!」
城の方角から鬨の声が上がり、太鼓を打ち鳴らす音がする。ほら言わんこっちゃない。あいつら。王太子早くして。ほんとマジで。
賢明なる王太子の決断は早かった。
「この場は退こう。眠っている者を起こすことはできるか」
「もちろんでございます。彼らには、魔王軍と戦った幻想を見せております。彼らは勇敢に戦い、魔王軍を城に押し戻し、人の国に凱旋するのでございます。殿下も勝利を収めた将として、人の国にお帰りくださいませ」
胸に手を当て、礼をする。
「礼は言わぬぞ。また、借りとも思わぬ。…それにしてもそなたは不思議な魔物だ。魔の国が力を持ち過ぎた以上、そなたのことは、やはり殺さねばならぬ。しかしそれでも、余はそなたを惜しいと思う」
「身にあまるお言葉。殿下は人の国の王として為すべきことをなさいませ。わたくしはわたくしの為すべきことをいたします」
死霊の靄が魔の森へと引いていく。潮が引くように。死霊の靄で自らを包み隠し、城へと引き揚げる。
ぬかるんだ地面は毒を持ち、そこに根ざした植物も毒を持つ。もちろん、生身の人間が飲用できる水などあろうはずもなく、周りは植物系の魔物で満ちている。
ひどい。想像以上に。
城まで生きて辿り着ける人間はまずおるまい。人の国の軍勢がこの森に差し掛かる前に止めなければ。早くしないと皆死霊になってしまう。…誰だよこんなエグいこと思いついたの。あいつらが英雄だったかどうか、今となっては怪しいものだ。元は英雄ではなく、褒賞に目が眩んだ山賊か何かじゃないのか。
集める魔物を植物タイプに限定したの、正解だったな。さすがわたくし。ここに動物タイプが放たれていたら、とてもじゃないが管理しきれない。どれだけ人の国に迷惑をかけていたことか。
わたくしが歩くと死霊が集まってくる。死霊は乳白色の靄となり、森を覆い、人の国の軍勢に迫った。
靄は人間たちを包みこみ、眠りの世界へと誘う。眠れ武人たち。母の胸に抱かれていた頃のように、安らかに。
森を抜けると、先駆けの一団が森の手前で眠りこんでいた。武人たちは立って剣を構えたまま眠っている。危なかった。もう少し先に行っていたら、森の入り口に配された人喰いバラの餌食になっていたところだ。
王太子を探す。彼は苦もなく見つかった。
霧の中に輝く黄金の魂。誰が見間違えるだろうか。そしてこんなに美しい男は他に見たことがなかった。まだ少年と言っても差し支えのない年齢だったが、彼のまとう雰囲気はそんなことを言わせないものがある。国を治めるということがいかなることか、既に知っている人間だ。
王太子は、靄の中で眠りこんでいる臣下たちに戸惑い立ち尽くしていた。高位の精霊使いである王太子には、このような子供騙しは通用しない。もっとも、それが狙いでもある。
「王太子殿下」
十分に距離を保ち、呼びかける。
王太子は驚いたようだったが、そこは流石に人の上に立つ者、すぐに平静を取り戻す。
「魔王ヴィラントか」
王の威厳。
元英雄たちと比べると、人としての格が違うことをひしと感じる。気負いも恐れもない。
「人がわたくしをそう呼んでいるのは存じておりますが…わたくしはただのネクロマンサー、ただのヴィラントにございます」
「面白いことを言う」その美しい男、王太子は鼻で笑う。「他に比類なき魔物、ネクロマンサーにして、『ただの』などと。謙遜を通り越して嫌味と取られかねぬぞ」
「そのような…。わたくしはただ、死霊を天に昇らせ、腐った魂を慰撫することを喜びとする、ものの数にも入らぬ身でございます」
王太子は翡翠の瞳でこちらを見据える。
「そなたの目的は何か」
「わたくしの目的はただひとつ、腐った魂を出さぬことでございます。度重なる戦により、民は疲弊し、後れ先立つ者の嘆きは地を満たしております。さながら、死者が生者の名を、生者が死者の名を呼び合う地獄。思いを遺して死霊となった者の魂は、とても重うございます。重い魂は沈み、闇に触れ、堕落せる腐った魂と成り果てるのでございますよ」
「魂が腐るとどうなる」
「人格も生前の記憶もなくし、さりながら姿のみは生前のまま、闇の眷属となり、地を彷徨い歩くのでございます。腐った魂は闇を好む者どもを引き寄せます。事実、人の国の周辺でも徐々に強力な魔物が増えているのではございませんか?」
王太子はその問いかけには答えない。しかしわたくしはその答えが「是」であることを知っている。
「腐った魂はどうすれば天に還る」
「腐った魂を天に還す方法はございません」
王太子は初めてほんの僅かな動揺を見せた。彼は今、傷つき心を痛めている。彼はこの後、真の王、王の中の王になるだろうと確信する。
「殿下、兵をお引きくださいませぬでしょうか。魔王の配下を名乗る者どもの乱暴狼藉は、わたくしの不徳の致すところでございます。あの者どもは、わたくしが対処いたしますゆえに」
王太子は力なく首を横に振った。
「それはできぬ。余は、そなたの言うところの『人の国』を次に治める者だ。魔王と取引きはできぬ」
「殿下、殿下は人の国に必要なお方です。戦いとうはございませぬ。どうか、どうか」
わたくしは1歩、2歩後ずさった。
「まるで余が死ぬことが確定しているような物言いだな。死ぬのはそなたかもしれぬぞ?」
「わたくしもまだ死ぬわけには参りませぬ。わたくしの作り出してしまった厄災の始末をつけておりませんし、わたくしにも野望がございます」
「野望とな」
王太子は眉間に皺を寄せる。
「左様でございます。腐った魂を天に還す方法を見つけること、それがわたくしの野望でございます。一介の魔物には過ぎたる望みにございますが」
「では、その望みは余が引き継ごう。腐った魂を天に還す」
そう言うと王太子は精霊を現した。
彼の隣に、もう1人の彼が現れる。容貌だけでなく、着けている鎧、佩いている剣の細部に至るまで同じだ。しかし、それらは全て、黄金の塊を彫刻したのかと思うような金色。その中で唯一、瞳だけはその主と同じ翡翠色だった。土の精霊。
「なんと…。人の姿をした精霊に出会ったのは初めてでございます」
「安心して死ぬが良い、ヴィラント」
王太子の力があれば、腐った魂を救うことができるかもしれない。彼の土の精霊ならば。土。生じせしめ、実らしめ、還らしむ、慈悲深き精霊。しかし。
「王太子殿下。殿下ならばあるいは、それも可能かと存じます。しかしながら、殿下とて人の身。いずれこの世を去らねばなりませぬ。殿下ほどの力を持つ人が、この後いつ生まれるのでございましょうか。それは殿下にもお分かりにならぬはず。であれば、わたくしはここで死ぬわけにゆかぬのでございます。普遍的な法でなければ、意味がございませぬゆえ」
大きく後ろに跳ぶ。
土の精霊が剣を抜きながら迫る。跳躍し、大上段から剣を振り下ろす。
死霊の盾を作り、剣を受ける。押し返し、跳ね返すと、精霊は空中で1回転して足から着地した。
わたくしも手を横に薙ぐ。死霊の剣を造る。武器を持つなど久しぶりだ。
死霊を操り、土の精霊を取り囲ませる。濃い乳白色の球体が、一閃した金色の光で真っ二つに割れる。
わたくしは見た。土の精霊の剣に斬られた死霊が軽くなって天に昇るのを。彼ならば、腐った魂を軽くできる。そう、確信する。しかし彼亡き後は? 誰が腐った魂を慰撫してくれる?
土の精霊が迫る。振り下ろされた剣を剣で受ける。力は互角。全力で戦わねば死ぬ。死ぬわけにはいかないし、殺すわけにはいかない。精霊は主が死なない限り何度でも復活できる。精霊の力を削ぐためにはその主を攻撃するのが常套手段だが、今回ばかりはその手は使えない。
「王太子殿下、お願いがございます」
「許す。申してみよ」
鍔迫り合いながら会話をする。土の精霊が王太子の名代として喋る。
「腐った魂どものことでございます。殿下の土の精霊の剣で、あの者どもを斬ってやってはいただけませぬでしょうか。あの者どもの苦しみを断ち切ってやっていただきたいのです。それがあの憐れな者どもの、唯一の救いとなるかもしれませぬ」
「あいわかった。そなたの望み、確かに聞いた」
「ありがとう存じます」
お互い飛び退って間合いを取る。
優れた武人である王太子の似姿である土の精霊もまた、全く隙がなかった。闇雲に打ち込んでも、有効打は得られない。これほど困難な戦闘はこれまでになかった。
ツ、と精霊の剣先が動く。来る、と思った時には精霊が目の前に迫っている。なんとか剣で受け、弾き返す。僅かに生じた隙に剣を打ちこむが、受け流される。切先が触れ合うような近距離でお互いの隙を窺い合う。
戦いの気迫に死霊たちは近寄ることができない。わたくしたちの上だけ、嵐の晴れ間のようにぽっかりと青空が覗いていた。
ぐっと精霊が身を屈めたと思うと、地面すれすれに跳躍し、わたくしの脚を狙う。こちらも大きく跳躍し、精霊を飛び越え、その無防備な背中に剣を打ち下ろす。確かに背中を捉えたと思った剣は空を切り、地面に突き刺さった。目の前にいたはずの精霊が背後から迫る。わたくしは剣を捨てて地面を転がる。先ほどまでわたくしがいた空間を精霊の剣が斬る。地面に手をついて跳ね起きる。
その視界の端に動くものを捉えた。魔鳥だ。城でこの戦いを見ているに違いない。命じるまで動いてはならぬと言ったはず。
「殿下、お聞きください。今すぐ軍勢をまとめ、人の国にお帰りください。わたくしの上を飛んでいる鳥、あれは魔鳥と申しまして、遠くを見るためにならず者どもが飛ばしておる魔物でございます。この場所は知られてしまいました。どうか」
「余に逃げ帰れと申すか」
「逃げたことにはなりませぬ。あなたは兵を守るため、ここは引くが得策とお考えになった、それだけのこと。ならず者どもには、命じるまで動いてはならぬと申しましたが、素直に従うとは思えませぬ。あなた様の兵の大半が死霊もしくは魔王軍の配下に変わる前にお早く…!」
城の方角から鬨の声が上がり、太鼓を打ち鳴らす音がする。ほら言わんこっちゃない。あいつら。王太子早くして。ほんとマジで。
賢明なる王太子の決断は早かった。
「この場は退こう。眠っている者を起こすことはできるか」
「もちろんでございます。彼らには、魔王軍と戦った幻想を見せております。彼らは勇敢に戦い、魔王軍を城に押し戻し、人の国に凱旋するのでございます。殿下も勝利を収めた将として、人の国にお帰りくださいませ」
胸に手を当て、礼をする。
「礼は言わぬぞ。また、借りとも思わぬ。…それにしてもそなたは不思議な魔物だ。魔の国が力を持ち過ぎた以上、そなたのことは、やはり殺さねばならぬ。しかしそれでも、余はそなたを惜しいと思う」
「身にあまるお言葉。殿下は人の国の王として為すべきことをなさいませ。わたくしはわたくしの為すべきことをいたします」
死霊の靄が魔の森へと引いていく。潮が引くように。死霊の靄で自らを包み隠し、城へと引き揚げる。
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