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第2部 帝都ローグ篇
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アパルトマンのドアに鍵をかざすと、かちりと軽やかな音がして解錠された。
「さあどうぞ」
バルクがドアを開ける。
仕事がひと段落して休養したい時にバルクがよく利用している、ハンター協会運営のアパルトマンだ。素っ気ないところだが家具もひととおり揃っているし、短期間滞在するには都合がいい。ただし、周辺の治安はお世辞にもいいとは言えないので、注意が必要だが。
〈わぁ、こういう所初めて〉
リコは狭苦しくて薄暗い部屋を興味深そうに見回した。上層階を借りたが、周辺にはもっと高いビルが建っているため、時間によっては影になってしまう。ちょうどその時間のようだった。
「最低限のものは揃ってるし、しばらくいる程度なら不便はないと思う」
バルクは天井灯を点ける。
リコはカーテンを開けて窓の外を見た。信じられないくらいの建物の密度であり、人の数だった。昼近いこともあって、人が1番活発に行き来している時間帯だ。
〈すごい…〉
大通りからは少し入ったところにあるので、目に見える範囲にはそれほど人はいないが、精霊使いの感性には感じられる。圧倒的な数の魂が行き交っている。感覚を研ぎ澄まして行き交う魂たちを感じていると目が回ってくる…。
「大丈夫!?」
肩に手をかけられてハッとして振り返る。気がつくと、窓枠にもたれかかるようにして蹲っていた。バルクが心配そうに見ている。
〈大丈夫。魂の数が多すぎて、処理しきれなくて、くらくらしちゃった〉
「ベッドに横になってるといいよ。僕は買い物に行ってくるから」
〈ありがとう。ほんとはついて行きたいけど…〉
「今日でなくても、いくらでも機会はあるよ」
狭い居住空間を目一杯使うために、このアパルトマンはメゾネットになっている。リビングとガラスの壁で仕切られた、3段の階段を上がったところがベッドルームだ。ベッドカバーを取る。リコを抱え上げて身体を屈めて階段を上り、そっと寝かせる。本当はちゃんと掃除したいところだが、仕方ない。
「ないとは思うけど、誰か来ても絶対にドアを開けないでね。どうせロクな用事じゃない。本当に用があれば、僕のコールリングに連絡するはずだから、無視してて。鍵はかけていくから」
リコは目を閉じてうなずいた。ちょっと顔色が悪い。前髪を撫でる。今までとは環境が全く違う。慣れるまでには時間がかかりそうだ。
取り急ぎの食料や日用品を買って帰ってくると、リコは手足を丸めてぐっすり眠っていた。顔色がすっかり良くなっていて安心する。食料を保冷庫に、日用品をあるべき場所に収納して、ソファに座ってひと息つく。静かだ。塔とはまた別種の静けさ。風がカーテンを揺らしている。久しぶりに自分で湯を沸かしてお茶を飲む。ルーとジーには身体に悪いと止められそうな、飲み過ぎると眠れなくなって胃も痛くなるやつ。ついでに、久しぶりに酒が飲みたい。まだ昼だけど、料理に使うという名目で買ってきた酒の封を切ってしまおうかどうしようか。いや、こんなことを明示的に考えている時点で、昼から飲む気だな。
塔にいる方が確かに健康にはいい。塔から出なくても知らず知らずのうちに歩き回るし、出される食事は健康的だし。塔に暮らすようになってから、特にトレーニングしているわけではないのに、身体が絞られた気がする。最近は農作業も手伝っていたから、余計かもしれない。リコも、こう見えて走るのが速いし、体力もある。街道から泉まで走ったと言っていたけれど、訓練していない者は男性でも走りとおすことはできない距離だ。でも、それはそれとして、こういう時間もやはり必要だ。きちんと部屋を借りて、拠点を作りたいな、治安が悪くないところに。そして真昼間から酒を飲む。何という背徳、堕落。最高だ。よし、飲もう。
「さあどうぞ」
バルクがドアを開ける。
仕事がひと段落して休養したい時にバルクがよく利用している、ハンター協会運営のアパルトマンだ。素っ気ないところだが家具もひととおり揃っているし、短期間滞在するには都合がいい。ただし、周辺の治安はお世辞にもいいとは言えないので、注意が必要だが。
〈わぁ、こういう所初めて〉
リコは狭苦しくて薄暗い部屋を興味深そうに見回した。上層階を借りたが、周辺にはもっと高いビルが建っているため、時間によっては影になってしまう。ちょうどその時間のようだった。
「最低限のものは揃ってるし、しばらくいる程度なら不便はないと思う」
バルクは天井灯を点ける。
リコはカーテンを開けて窓の外を見た。信じられないくらいの建物の密度であり、人の数だった。昼近いこともあって、人が1番活発に行き来している時間帯だ。
〈すごい…〉
大通りからは少し入ったところにあるので、目に見える範囲にはそれほど人はいないが、精霊使いの感性には感じられる。圧倒的な数の魂が行き交っている。感覚を研ぎ澄まして行き交う魂たちを感じていると目が回ってくる…。
「大丈夫!?」
肩に手をかけられてハッとして振り返る。気がつくと、窓枠にもたれかかるようにして蹲っていた。バルクが心配そうに見ている。
〈大丈夫。魂の数が多すぎて、処理しきれなくて、くらくらしちゃった〉
「ベッドに横になってるといいよ。僕は買い物に行ってくるから」
〈ありがとう。ほんとはついて行きたいけど…〉
「今日でなくても、いくらでも機会はあるよ」
狭い居住空間を目一杯使うために、このアパルトマンはメゾネットになっている。リビングとガラスの壁で仕切られた、3段の階段を上がったところがベッドルームだ。ベッドカバーを取る。リコを抱え上げて身体を屈めて階段を上り、そっと寝かせる。本当はちゃんと掃除したいところだが、仕方ない。
「ないとは思うけど、誰か来ても絶対にドアを開けないでね。どうせロクな用事じゃない。本当に用があれば、僕のコールリングに連絡するはずだから、無視してて。鍵はかけていくから」
リコは目を閉じてうなずいた。ちょっと顔色が悪い。前髪を撫でる。今までとは環境が全く違う。慣れるまでには時間がかかりそうだ。
取り急ぎの食料や日用品を買って帰ってくると、リコは手足を丸めてぐっすり眠っていた。顔色がすっかり良くなっていて安心する。食料を保冷庫に、日用品をあるべき場所に収納して、ソファに座ってひと息つく。静かだ。塔とはまた別種の静けさ。風がカーテンを揺らしている。久しぶりに自分で湯を沸かしてお茶を飲む。ルーとジーには身体に悪いと止められそうな、飲み過ぎると眠れなくなって胃も痛くなるやつ。ついでに、久しぶりに酒が飲みたい。まだ昼だけど、料理に使うという名目で買ってきた酒の封を切ってしまおうかどうしようか。いや、こんなことを明示的に考えている時点で、昼から飲む気だな。
塔にいる方が確かに健康にはいい。塔から出なくても知らず知らずのうちに歩き回るし、出される食事は健康的だし。塔に暮らすようになってから、特にトレーニングしているわけではないのに、身体が絞られた気がする。最近は農作業も手伝っていたから、余計かもしれない。リコも、こう見えて走るのが速いし、体力もある。街道から泉まで走ったと言っていたけれど、訓練していない者は男性でも走りとおすことはできない距離だ。でも、それはそれとして、こういう時間もやはり必要だ。きちんと部屋を借りて、拠点を作りたいな、治安が悪くないところに。そして真昼間から酒を飲む。何という背徳、堕落。最高だ。よし、飲もう。
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