天使を好きになった悪魔

大川るい

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【第三章】喫茶店での日々

冬の訪れ

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 その後、ルシフェに披露宴会場も案内してもらい式場の案内は終了した。
 サーナは満足げであった。
 綺麗な装飾品を見ては目をきらきらさせ、わくわくした気持ちが収まることがなかった。
 ここへ来て良かったと心の底から思っていた。

 アランはそんなサーナの様子にほっとしていた。
 サーナが楽しげな表情を見ているとアランもほっとした。
 その後、三人は事務所に戻った。

「ただいまー」
「おかえり、三人とも」

 ルシフェが元気よく事務所の扉を開けるとリアが返事をする。
 リアは読んでいた本を机において三人を出迎えた。
 四人はその後、軽く談笑をしてサーナとアランは先に帰ることにした。

「また、いつでも遊びに来て良いからね」
「はい、今日はありがとうございました」

 サーナはぺこりとおじぎをした。ルシフェとリアは笑顔で二人を見送った。


 式場からの帰り道、二人は町並みを見下ろしながら坂道を降りていく。

「アラン、今日は一緒に来てくれてありがとう」
「僕の方こそ、今日は楽しかったよ。誘ってくれてありがとう」
「ふふ、どういたしまして」

 サーナは微笑んだ。
 サーナはアランと一緒に式場を見ることが出来て良かったと思った。
 この町での思い出が一つ増えたからである。
 この町でのアランとの思い出をどんどん作っていきたい。
 そう思っていた。

 二人は町まで戻ってきた。
 他愛もない話をしながら歩いているとサーナは見覚えのある黒猫が路地裏の方へ入っていくのを見かけた。

「あっ」

 サーナは思わず声を出して黒猫が入っていった路地裏を見る。
 アランは首をかしげサーナが見ている方をのぞき込む。
 サーナは慌てて体の前で手振りする。

「どうしたの?」
「あ、えっと。昨日の夜に出会った黒猫ちゃんが今路地裏に入っていくのが見えたから」

 サーナは気恥ずかしそうに頬をかく。
 再度、路地裏を見てみたがすでに黒猫の姿は見えなくなっていた。
 サーナは残念そうにため息を吐いた。

「飼い猫ならば、きっと、また会えるよ」
「うん。そうだよね」

 アランはサーナを元気づけるように声をかける。
 サーナはアランの方を見てから頷いた。
 そして、路地裏の方をもう一度見て手を軽く振って、またねと呟いた。
 そのまま、二人は帰宅することにした。


 二人が一緒に過ごすようになってから一ヶ月ほどが経過した。
 外の気温は日々下がっていき、冬の訪れももう近い。
 そんな寒くなってきた日の夜、アランは出かけるために準備をしていた。
 その荷物はちょっとしたお出かけというには多い荷物であった。

 アランはルリに許可を取り、二泊三日の予定で隣町へ出かけることにしたのである。
 サーナのことが気がかりであったがルリに相談したところリアにサーナのことを見てもらうのが良いのではないかと提案された。
 そこでアランはリアに事情を話して協力してもらえることになった。
 アランがいない間はリアが喫茶店で寝泊まりすると言うことで落ち着いたのである。
 一通り荷物を用意したころアランの部屋の戸が叩かれる音がした。

「どうぞ」
「お邪魔します。アラン、ホットミルク淹れたんだけど飲む?」
「ありがとう。頂くよ」

 部屋の中へ入ってきたのはサーナであった。
 サーナはお盆にホットミルクが入ったカップを二つ載せて持ってきた。
 アランの了解を得て、そっとベッドサイドの机の上にお盆を置いた。
 そして、カップの内一つをアランに差し出して微笑んだ。

「どうぞ」
「ありがとう」

 アランとサーナはベッドに腰掛け、ホットミルクに口をつける。
 日課のように思っていたこの時間が明日から三日間失われてしまう。
 たった三日だと思っていてもサーナにとっては長く感じられた。

 サーナは最初、アランが三日間出かけると聞いたときは一緒に行きたいと思った。
 だけど、アランが向かう町の名前を聞いて一緒に行くのを辞めることにした。
 サーナはその町に近寄りたくないと思っていたからである。
 頭を軽く振り、そのときのことを忘れるよう努めた。

「アラン、明日の朝には出かけちゃうんだよね?」
「うん、そうだね。朝ご飯食べてからになるかな」
「そっか……」

 サーナはぼそりと呟きうつむいた。
 サーナの様子に気づいたアランはぽんぽんとサーナの頭を軽く撫でた。
 サーナはびくっとして目をぱちくりさせてアランを見る。
 アランはサーナの反応にびくっとしてから苦笑いを浮かべた。

「ごめん、驚いちゃった?」
「ちょっとだけ」

 サーナは気恥ずかしそうにこくりと頷いた。

「でも、ちょっとは元気になった?」
「え?」
「サーナ、すごく寂しそうだったから。大丈夫だよ。ちょっと、人に会ってくるだけだから。サーナに心配かけないよう少しでも早く帰ってくるからね」

 アランは優しい声でそう言う。
 サーナは心配をしてもらえていることが嬉しく感じると同時に申し訳ない気持ちがわいてきた。
 アランに余計な心配をかけてはいけない。
 そう思った。

「うん、私は大丈夫。心配してくれてありがとう」

 サーナは一口ホットミルクを飲んで、頬を緩ませて笑みを浮かべた。
 アランはサーナの表情を見て、ほっとした。

「それなら良かった。僕がいない間、リアさんがここに泊まってくれるから安心して大丈夫だからね」
「うん。リアさんが泊まってくれるのとても楽しみなんだ」
「リアさんには感謝しないといけないね。あ、勿論、お土産も買ってくるから楽しみにしていてね」
「ふふ、楽しみにしているね」

 サーナは頷いた。
 アランと話して居ると寂しい気持ちなんて忘れてしまうことが出来た。
 サーナとアランはお互いが眠くなるまで他愛もない話をして楽しい時間を過ごしていた。
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