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【第七章】ライリのやりたいこと

小さな対立

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 それから数日が経過した。
 ライリは気にしない風を装ってはいたが本当はあの村の屋敷について気になって仕方が無かった。
 しかし、レインの言ってたことももっともだと思っていた。

 レインの言う通り、もし、上手いこと話が進んであの土地と屋敷が自分のものになったところで、またカイルと一緒にあの湖を訪れるのは難しいと思ってしまったからである。
 食堂のおばさんとの会話でカイルはあの湖が村人達が近づきにくい場所だと知ってしまった。
 そんな場所に自分とカイル、レインだけが行けるのは不自然ではないだろうか。
 変に勘ぐられたりしないだろうか。
 村人達の立ち入りを許可するようにしたらそれこそレインの言う通り正体がばれる可能性が高まる。

 そう考えてみると急に怖く感じられた。
 しかし、自分とレインだけで行けるようになったところで何の意味があるだろうか。
 カイルと一緒にあの湖で朝日が昇る姿を見てみたい、なんて思っていたライリにとっては何の意味も無いのであった。
 それでも、このまま何もしないのは嫌だった。
 ライリはレインに相談するため、レインを自分の部屋に呼び出していた。

「レイン。また、あの村と屋敷へ行きたいのだけど」

 ライリはそう切り出した。
 レインは少し困った表情を見せた。

「あの村へ行くのは問題ありませんが屋敷についてはカイル様に何らかの疑念を抱かせてしまう恐れがあるので難しいでしょう」
「あ、えっとそういうことじゃなくて。今回の話しは、カイルさん抜きで、というお話なんだけど」

 ライリは慌てて訂正する。
 それを聞いてレインは少し驚いた。
 ライリは話を続けた。

「私はあのお屋敷があのまま放置されるのは嫌なの。私はあのお屋敷に住みたい。そして、あの湖をみんなが訪れることが出来る場所にしたい。そう思ったの」
「ですから、その件はカイル様に身分が……」
「分かってる。だけど、まず行動しなきゃ始まらないって思ったの。あの屋敷と土地を私のものにすれば、出来ることが増えるでしょ。その後に、湖をどうするかとか考えても良いんじゃないかなって思ったの。だから、あの村にもう一度行ってあの屋敷と湖について村人達に色々聞いて調べてみたいの」

 ライリは興奮気味に早口でしゃべっていく。
 レインは黙って聞いていたが気むずかしそうな顔でため息を吐いた。

「ライリ様。大事なことをお忘れです。そのような行為を私の一存で行うことは出来ません。現状ですら、ライリ様の外出はカイル様に会う月一回のみとされております。私たち二人だけで外出するというのがそもそも難しいことです。いずれにしてもあのお屋敷と土地を譲り受けることは難しいわけですから国王様に話しを通さず、行動するのは無理とお考えいただいた方がよろしいです」
「じゃあ、私がお父様に話をつけてくるから」

 ライリは真顔でレインを見つめ、はっきり言った。
 レインが反対するのは想定通り、ここから上手くレインを説得できるかどうかが不安であった。
 でも、自分が本気で行動するつもりだと言うことを伝えればきっと分かってくれると思っていた。
 レインは額に手を当てて、どうしたものかと思案する。

「ライリ様。もし、国王様にそのようなお話をすればライリ様は月一回カイル様に会う機会も失ってしまうかもしれません。監視が強化され、外出すら出来なくなる可能性があります。その危険性を理解した上でお話ししようと、おっしゃっているのでしょうか」

 レインもまた真顔でライリのことをしっかり見つめる。
 ライリはレインの言葉に一瞬動揺する。
 レインはその動揺を見逃さなかった。

「ライリ様。私はライリ様が手に入れた月一回外へ出るという自由を失って欲しくありません。現状ですら、いつ国王様のお気持ちが変わりライリ様が外に出る機会がなくなってしまうか分かりません。余計なことはしない方が賢明であると私は考えております」

 レインは静かにそう告げた。
 ライリはうつむいたまま、体を震わせていた。

「月一回外へ出る、そんな事の何が自由なの。確かにカイルさんに会えるのは嬉しいよ。だけど、それだけなんて私は嫌」

 ライリは涙声になりながら気持ちを絞り出すように呟いた。

「私は本当の自由を手に入れたい。こんな所にいつまでも居たくない。私はその屋敷に住むという自由を手にしたい。レインの言う通り、上手くいかないかもしれない。だけど、行動しないのはもっと嫌」
「ライリ様、どうか今一度落ち着いてお考えください。現状維持と現状を悪化させるのとどちらがよろしいかは明白です」
「どうして、維持か悪化かしかないと思うの? 良くなるかもしれないじゃない。堂々としていようと決めたこと、忘れちゃったの?」

 ライリは興奮気味にまくし立てていく。
 レインはライリがすぐ折れると思っていた。

 しかし、心が折れていたのはレインの方だったのである。
 これ以上のリスクを負って、万が一失敗したらライリが元のように引きこもってしまう。
 それだけは絶対に避けたかった。
 しばらくライリはレインをにらみつけるように真剣な眼差しで見つめていた。
 そんなライリに対して、レインは視線を合わせることが出来なかった。

「私は本気だから。もう、昔みたいに何もかも諦めて惰性で過ごすなんて事したくない。カイルさんと出会ったおかげで私は変わることができた。私はこれからを良くしていきたい。そのためのリスクなら私は負えるよ」

 レインの反応がなくてもライリは言葉を続けた。
 言いたいことを言い切って、ライリは深く息を吐いた。
 全く反応を見せないレインに対して内心いらだち始めていたので自分を落ち着かせるために深呼吸をしてみた。

「レイン。しばらく、私の部屋に来なくて良いから。鍛錬もしばらくは中止で良い。私は一人でちゃんと考えられるから。私の行動でレインが何らかの責任を負う必要は無いの。だから、私の好きにさせて。今日の話はこれで終わり」
「ライリ様……」
「レイン。お願い」

 ライリはそう一言だけ伝えた。
 レインは静かに立ち上がり、失礼いたしますと言い残して部屋を去って行った。
 途端に部屋の中が静かになった気がした。

 ライリはふらふらとした足取りで歩き出し、ベッドに寝転びぼんやりと天井を見つめてみた。
 今はゆっくりと考える時間が欲しかった。
 ライリの中でどうするかというのはある程度決めていた。

 レインの前では強がってみたもののレインの言うリスクについてだって分かっているつもりだった。
 今の状態を維持する方が楽で確実な方法であるのは理解していた。
 レインは自分を心配してくれて助言してくれただけである。
 それなのに、自分はレインの意見を真っ向から否定するような言い回しをしてしまったような気がして自己嫌悪に陥っていた。

 ライリは大きくため息を吐いた。

「お父様に直接お願いしたら、どうなっちゃうんだろう」

 レインの危惧している通り、月一回の外出すら出来なくなってしまうのだろうか。
 もし、そうなってしまったらばれないようにまた家出をしないといけないな、とライリはぼんやりした頭で考えていた。

 考えすぎて疲れたライリはそのまま眠りについてしまうのであった。
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