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【第二章】始まりの一歩

自由を求めること

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 食事を終えた二人は町中を歩いていた。
 次にライリと会ったときにどういうところに行くか検討するためであった。
 それと同時にカイルがライリと一緒に過ごしても大丈夫な存在なのかどうかをレイン自身が見極める時間を作るためでもあった。
 カイルは色々な場所をレインに教えていった。
 レインはメモをとりながらカイルの話を聞いていた。

 そして、二人はカイルとライリが空を飛んだ丘の上にある公園まで来ていた。
 昼下がりと言うことも有り、人手はそこそこあり展望台から景色を眺める者、原っぱに寝転び昼寝をする者、子供たちは元気にはしゃいでいたり皆、思い思いに過ごしていた。

「この前、ライリと会ったときにはここからの景色が良いってことを教えてあげたんだ。今はそこそこ人がいるが午前中なら人も少ないから過ごしやすいと思うぞ。朝日が昇るときなんかすっごく綺麗だしな」

 二人は展望台から景色を眺めてみた。
 今日も天気が良く、心地よい風が吹いていて太陽の光がぽかぽかと暖かい。
 カイルは目を閉じて大きく深呼吸してみた。
 風の香り、土の香り、陽の香りがカイルの心を満たしていく。
 カイルは本当にこの場所がお気に入りなのである。

 レインはカイルの仕草を見て、ライリと波長が合うかもしれないとぼんやりと感じていた。
 レインのカイルに対する評価は良くも悪くも純粋であるという物であった。
 疑うことを考えず、素直に物事を受け入れ相手にあわせるように行動する。
 ちょっとだけ子供っぽい面が見受けられたがライリと楽しく過ごすという点では問題にならないだろう。
 そんな風に評価していた。

「しかし、本当にここからの景色は良い物ですね。町全体がよく見渡せます。開放感がありとても心地よい場所ですね」

 思わずレインは呟く。
 町の中で一番目立つライリも住む城をぼんやりと眺めていた。
 レインが眺めている物に気づいたカイルは思わず尋ねてみた。

「ライリがさ、貴族とかは身分に縛られた自由のない不自由な生活を送っているって言ってたんだ。それは、やはり本当なのか?」

 レインはカイルの問いかけにはっと気づき、反射的にカイルの方を見やった。
 そして、数秒悩んでから少しだけ困った表情を見せた。

「自由、という言葉の解釈によるかと思います。私も貴族の家系ではないものの立場上、貴族には深く関わってきました。例えば私はライリ様の家の意向に従い職務を行います。そこに私の意思はありません。ライリ様の意思も関係ありません。自分の意思で行動することが許されません。ライリ様の家という大きな単位で物事は動いてきました。家としての自由はあるかもしれませんがライリ様という個の自由はない、と言えることでしょう」

 レインは真剣な眼差しでカイルを見つめた。

「ですから、今回ライリ様がカイル様と出会ったというきっかけ。私はそのきっかけを元にライリ様の今後を変えていきたいと思っております。ライリ様にはライリ様ご自身の意思で納得の出来る生活をしていただきたい。そう思っております。今まで私がライリ様の家の意思に従うことに固執した結果、ライリ様ご自身の意思を受け止められていなかったという反省もあります」

 レインは出来る限り感情を抑えることに必死だった。
 感情的になるのは自分らしくないと思っていたのもあるが弱みを見せてしまうようで正直嫌だったのである。
 何度か息継ぎをしながら言葉を紡いでいった。

「ライリ様とカイル様が出会った後、ライリ様は必死になって貴方にまた会いたいことを訴えられました。そして、私はライリ様のご両親に相談し了承を頂き、それをライリ様に伝えました。それを伝えたときのライリ様の笑顔を私は忘れることが出来ません。笑顔と同時に安心したのかたくさん泣いておられましたが」

 レインはそのときのことを思い出し小さく笑みをこぼした。
 カイルは黙ったままレインの言葉を聞いていた。
 レインは一つ息を吐いた。

「どうか、お願いいたします。ライリ様の幸せのため、カイル様のご迷惑にならない範囲でカイル様にはライリ様と過ごす時間を定期的に作って頂きたいのです。ライリ様がご自分の意思で納得の出来る生活が送れる、そういう時が訪れるまで。貴方と過ごすというライリ様が手に入れることが出来た自由な時間を作って頂きたいのです。どうか、ライリ様のそばに居ると誓ってください。何卒、お願い申し上げます」

 レインは深く頭を下げた。
 このお願いはある意味ではライリの意思だったが、ある意味ではレインの希望であった。
 レインにとってはライリの幸せな姿を見ていたいという、少なからず私利私欲にまみれた希望による願いであった。
 それをレイン自身が一番よく分かっていた。
 カイルがどういう反応をするか考えると不安であった。

 一方、黙って聞いていたカイルは頬をかきながら困った表情を浮かべていた。
 一向に頭をあげようとしないレインを見てため息を吐いた。

「レイン、顔を上げてくれ。周りの目があるからさ」

 レインは全く気づいていなかったが何人か遠巻きに二人の様子を伺っている者たちが居た。
 レインは顔を上げ辺りを見回してようやく今の状況を把握した。
 カイルは苦笑いを浮かべた。

「町をまわっている間、レインは冷静な奴なんだなぁってなんとなく思ってたけど俺の勘違いだったみたいだな。ライリの話になると自分を忘れるぐらいに熱くなるんだな」
「失礼いたしました」

 レインは少しばかり気恥ずかしくなり、視線をそらした。
 カイルは頬をかいた。

「心配するな。そんなに必死になってお願いされなくてもそうするつもりだったからな。だが、俺はレインが考えるようなたいそうなことはきっと出来ないぞ。俺一人が出来ることなんてたかがしれているからな。俺はただ単にライリと過ごすって言う約束を守ることしか出来ない。ライリが自分の身分を気にせず、安心して心から楽しく過ごせるように取りはからう努力はする。でも、それ以上は俺の力では出来ないかもしれない。ライリ自身の努力、そしてライリに一番近くて理解のある存在であるレインの努力も必要だ。それら全てを含めて、ライリにとって納得できる生活とやらを実現できるように頑張っていこうじゃないか」

 カイルは牙を見せるようににかっと笑った。
 レインは一瞬目を見開きカイルを見つめ、ありがとうございます、と一言絞り出すように呟いた。
 レインは隠そうとしたがその声には少し涙が混じっていた。

 その後、二人は次に会う日取りを決めて何事もなく別れた。
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