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第2部 日本・東京
第20話
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午後十時の渋谷。ここはキャットストリートというらしい。どのあたりが「キャット」なのかは知らない。
「先生、遅れてごめんなさい」
小走りで桜井がJR渋谷駅方向から駆け寄ってきた。
「遅いよ。早く行くよ」
俺は桜井をきっとにらみつけると踵を返して元いた場所へ向かって進んだ。桜井は息をきらしながら
「待って、おいてかないで」
と、慌ててついてくる。
俺は構わず雑居ビルの地下に続く階段を下りた。少ししてから弱弱しい足音が続いた。
「でも、クラウドバーストのメンバーと先生が、まさか同じバーで共演した仲間だったなんて。世界は広いようで狭いですね」
桜井は短い手足をばたばたさせながら驚いた様子を見せた。こいつはうれしくなるとすぐに思ったことを早口でまくしたてる癖があるようだ。
「そんな先生に英語を教わっていたおかげで、クラウドバーストに会えるなんて、俺ってちょーラッキー」
地下への階段を下り切ると、鋼鉄でできた重い扉が目前に現れた。俺はゆっくりと取っ手をつかみ、ぎぎぎ、と不気味な音を立ててこじ開けた。こいつにとっては、天国へのゲートに見えるだろうが、果たして。
「ほかの連中には誰にも言ってないよね。マスコミがかぎつけたら、面倒だからさ」
もっともらしいことを言って、俺は桜井に確認した。
「もちろん! こんな一生に一度、あるかないかのチャンス、俺以外の奴らに教えてたまるかって感じですよ」
桜井は、サインも書いてもらおうと、色紙とペンを片手にそれぞれ持って、俺に見せつけた。おめでたい男だ。
「オーケー。じゃあ行こうか」
そう、始まりだ。桜井にとって、おそらく一生忘れられない、パーティーの。
「先生、遅れてごめんなさい」
小走りで桜井がJR渋谷駅方向から駆け寄ってきた。
「遅いよ。早く行くよ」
俺は桜井をきっとにらみつけると踵を返して元いた場所へ向かって進んだ。桜井は息をきらしながら
「待って、おいてかないで」
と、慌ててついてくる。
俺は構わず雑居ビルの地下に続く階段を下りた。少ししてから弱弱しい足音が続いた。
「でも、クラウドバーストのメンバーと先生が、まさか同じバーで共演した仲間だったなんて。世界は広いようで狭いですね」
桜井は短い手足をばたばたさせながら驚いた様子を見せた。こいつはうれしくなるとすぐに思ったことを早口でまくしたてる癖があるようだ。
「そんな先生に英語を教わっていたおかげで、クラウドバーストに会えるなんて、俺ってちょーラッキー」
地下への階段を下り切ると、鋼鉄でできた重い扉が目前に現れた。俺はゆっくりと取っ手をつかみ、ぎぎぎ、と不気味な音を立ててこじ開けた。こいつにとっては、天国へのゲートに見えるだろうが、果たして。
「ほかの連中には誰にも言ってないよね。マスコミがかぎつけたら、面倒だからさ」
もっともらしいことを言って、俺は桜井に確認した。
「もちろん! こんな一生に一度、あるかないかのチャンス、俺以外の奴らに教えてたまるかって感じですよ」
桜井は、サインも書いてもらおうと、色紙とペンを片手にそれぞれ持って、俺に見せつけた。おめでたい男だ。
「オーケー。じゃあ行こうか」
そう、始まりだ。桜井にとって、おそらく一生忘れられない、パーティーの。
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