モーニンググローリー(仮)

66号線

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プロローグ

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 東京の冬は思っていたよりも寒い。

こんな深夜に俺の住むおんぼろアパートの扉を叩く奴がいる。どんどんどん、と音が鳴り響く。俺とヨリコは一瞬凍りついた。うっすらと瞳を開き、お互いの顔を見た。
「どなたかいらっしゃいませんか」
 音の主は初めて存在に気づいたと言わんばかりに、今度はチャイムを連打し始めた。生ぬるい打撲音はピンポーンという無機質な音に変わった。
「少し待っていてくれ」
 俺はヨリコにそう伝えると、玄関へと急いだ。おそるおそる扉の覗き窓を見ると、五十代半ばの男が立っているのが分かった。手に何かを持っている……手帳だ。
「どなたかいらっしゃいませんか。ちょっとお聞きしたいことがあるのですけど。いないはずありませんよね。こっちは全て知っていますよ」
 返事の有無に構わず白髪交じりの男は続けた。
「本田あいさんの件について、貴方に詳しいお話を聞かせてほしいのですが」
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