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『面倒くさい縛り付けるんだったらこの字に意味を持たせろ!!!!!』

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雛戦さんが死んだ、クロノさんも死んだ。

正体不明の攻撃…いや本人が言ってる『心臓窃盗』、心臓を抉り取る。
馬鹿すぎる、そんな出鱈目。こんなのが等級Cな訳がない。一撃必殺だ。

目の前には今、椎名さんが居る。

二人の死を感知した為、来てくれたのか、僕には分からないが、それでも状況は恐らく好転してはいない。
何をどうやってもあのスキルが強すぎる。

頭を動かせ。何が足りない? 自分は何を見落としている?
スキルを…スキルを発動しろ。

僕の命は今、敵の『気分』と言う名の不安定な掌の上に転がされている。
この状況を引っ繰り返す可能性は自分のスキルしかない。殺される前に…何としても。
ずっとずっと考えていた。無限に時間が欲しい。

椎名さんは来て早々、辺りを一瞥する。

ここは正に死屍累々。火龍、モンスター図鑑の転生者、雛戦さん、クロノさん。

全ての亡骸がここにはある。そして椎名さんは即状況を理解したのか、目先の謎の男に尋ねる。

「ねえ、一月前ぐらいにここに同じような人が来たよねー?」

「…ああ来たなァ、街中歩いてたら何か変な感覚が走ったと思えば、すれ違った明らかにこの世界の住人じゃねェ奴三人の内の一人にいきなり呼吸止められてなァ…
 酷い話だろ? その場で即全員殺したぜ」

二人の会話は僕には分からない。…以前もこの異世界には滅師が来ていた?

「君は等級Aの格別な転生者だ。私は今来たばかりでよく分かんないけど、きっと今後も君の所には度々こういうのが来て、全員返り討ちに遭うんだろうね」

「俺は俺が特等なのは知ってるよ。こんな能力得たら誰だって分かるさ。それで、あんた随分若い女だけどリーダーかい?」

ノートを見る。ページは真っ白だが真ん中に線があって上と下に分かれている。
ここに意味がある。必ずある。思い出せ。

「前に君が倒した人達のリーダーではないけど、そこで倒れてる二人のリーダーではあるよ。まあでも私は戦えないけど」

───ここに、ここに───

雛戦さんの名前を書いた。

そうだ上に、漢字が分からなかった雛戦さんの名前を書いていた。

稲妻の様な閃光が頭に落ちる。

必要なんだ。相手の名が。

このスキルが発動するには条件がいる。

即座に下には漢字を一文字書いた。だが、僕は奴の名前を知らない。
必要なのは姓か?名か?或いは両方か?
どちらにせよ、現状この漢字の意味を発動出来ない。

なんて屑な力だ。目の前のあいつがAならこんな縛りある能力Aな筈がない。
こんなにスキル所持者が発動したがってるんだ、名前なんて抜きに発動しろ。

「そうかい。ま、関係ねぇやな。もったいないけどサクッと死んでくれ」

会話が頭に入らない。自分は今、自分のスキルの為に必死だ。
転送前、確かに雛戦さんの名前を書いてこれは発動した。疑いようもない。

名前だ。名前…名前…名前…

「必要なんだ…名前…名前…名前…名前…………」

知らずに呪詛のように声に出ていた。自分自身は気付いていない。
しかし、気付く人は居た。椎名さんだ。

彼女は自分の置いたページ、そこに書かれた漢字一文字を一瞬だけ見ると、等級Aの男の方に視線は戻った。

そうして両腕を上げる。

「待って待って。私まだ死にたくないよ…リーダーって言ってもここまで連れてくるだけのお飾りみたいなものなんだ。
 命だけは助けてよ…何でもするからさ…」

「口だけならなんとでも言えるわな。武器でも隠してる可能性あるだろ」

等級Aの男はやはり警戒心が強い。距離だってここからは50メートルと離れている。
逆に言うならあの一撃必殺の心臓抜きはこの距離ですら届くのだ。

対して椎名さんは、あの監督役のシンボルのような黒いローブを脱ぎ去った。

パサリと地に落ちる『滅』の字

そしてその下のブラウスまでも、その場で躊躇無く脱ぐ。

「へぇ…」

あっと言う間に椎名さんは上は花柄レースの白いブラジャー1枚になった。下も短いスカートだけ。
女の子らしいくびれのあるライン、年相応の瑞々しい肌が露出している。
胸の大小は自分には分かりかねないが、大きい方だと思う。

「ね、武器なんて何も持ってないよー? 転生者特有の反応とかも私からは感じないでしょ?」

「で、何でもするってのは? そんな事して俺の女にでもなりたいのか?」

「うん。君はサイキョーだよ、誰も君には勝てない。私は私が助かるなら体だって使う」

等級Aの男は警戒しながらも、椎名さんのその肢体に釘付けだ。
僕だって男だから興味が無い訳じゃない。でも今はそれよりも憎悪が勝る。

どうしてもクロノさんと雛戦さんの仇を討ちたい、しかし今の僕じゃ無力だ。

───椎名さんに任せるしかない。

「いいぞ、じゃあそのままゆっくりこっちに歩いてこい。後ろのガキは何もすんな。
 妙な真似したらその瞬間心臓とお別れだぜ? お前ら二人共俺の射程にすっぽり入ってるからな」

やはり射程が広い。これであんな即スキルを使えて、それが即死だなんて卑怯じゃないか。
転生選別時のエラーだって? 何をどうエラーすればこんなやつに破格のスキルを与える?

僕は言われた通り動かない。悔しい、悔しいがもう僕のやる事は無い。
元々この世界で僕がやった事はない。唇を噛み千切る程に無力な己がやるせない。

そのせいで、椎名さんまで、あんな事をさせている。

僕は気分次第でもう何時でも殺される、だが今、等級Aの男の関心は全て椎名さんに向いている。
全く攻撃して来ない僕は、恐らくは攻撃系のスキルでは無いと思われている。

───ここに一つ驕る

椎名さんは、等級Aの男の気に触らぬようにゆっくりと奴の元へ歩いていく。
もう僕からは大分遠ざかった。

奴は用心を重ねて、少し大きめの岩の前に腰掛けている。
いざ不意打ちな攻撃が来ても、すぐ岩の後ろに隠れられるようにして。

そして椎名さんがいよいよ近付くと、まるで獣のようにその体を抱き寄せる。

「へへっ、マジで何もして来ないとか薄情な奴だなお前。でも嫌いじゃないぜ。見た目も体も。
 その内他の良い女見つけるまでは可愛がってやる」

椎名さんの胸を乱暴に揉みしだきながら、下卑た男の声がする。

「ま、もう一人のガキは今殺すがな。いや最期にガキの見てる前で一発ヤるのも気分良いかもな」

椎名さんの体を這い回る手が癇に障る。

今すぐでもその手、落とせるものなら斬り落としたい。

「ねえ、その前に貴方の名前…教えて? えっちの最中に名前が呼べないの寂しいじゃない?」

等級Aの男の顎を撫でながら、椎名さんが甘えた声で耳元で囁く。

「へっ…、この世界ではペリドだ、その内誰も逆らえない支配者になる。今後はペリド様って呼べ」

「ペリド…素敵な名前…ペリド様………上の名は?」

「ん? コイール」


─────来た。

このクソ馬鹿のエロ豚。今のが少しは不自然に思わないのか? 

思う訳ないか。今まで不動だった僕のスキル発動のトリガーが名前なんて勘が冴えてないと分からない。
だからそんな簡単に喋る。警戒しているようで、強力なスキルにどこかで驕る。

沸騰しそうな程に瞬間は熱い。

50と離れた遠い距離。それでも聞き逃すまいと耳を澄ましていた。

椎名さんが急に始めた命乞いみたいなのも、この為だって分かっていた。

ここからは自分がやる。

ここからやっと自分がやれる。

例え気付かれ、心臓を抜かれようが、事切れるまでに書き切ってやる。

燃えていた。生前でもここまで執念を賭けた事は無い。

ペンを走らせる。憎き仇の名を

「おい、動くなって言っただろうが! 死ねガ───っつ!?」

当然としてペリドに気付かれる。奴は僕にスキルを使おうとした筈だ。
その前に、その口を椎名さんが口で塞ぐ。

舌と舌が絡み合い、
唾液の糸が両方から垂れて落ちる。

椎名さんの唇を貪りながらも、ペリドは少し身体の向きを動かし、椎名さんが僕の遮蔽物になるようにした。

成る程、そうすれば僕が何かしら起こしても椎名さんと言う名の盾に護られる訳か。

流石、流石だよ。お前のその用心深さと強烈なスキルは本当に最強かも知れない。

意味は無い。早く死ね。

「おいおいこの場でやる気満々かよこのエロ娘が、勃っ────────────────────────」

ペリドは何か言おうとした。だがその先はもう言わせない。
もうお前には一文字も喋らせない。

椎名さんの胸を掴んだ手、スカートの中を弄っていた手、全て止まる。
そのまま、椎名さんが肘で小突くようにすると、呆気なく、ペリドは石の向こう側に倒れた。

「『三度目の生に幸あらん事を、迷わず旅立てよ』」

そのペリドに向かって、椎名さんはいつか雛戦さんが言った台詞を使う。
共通の何かだろうか、今は関心がない。

関心は無いが、こんな下種に三度目の生なんて必要ないよ。洗われて白い魂に成れ。

それから椎名さんはペッとペリドと自分の唾液が混じったものを吐いて、口を手で拭いながら自分の方に戻ってきた。
そして落ちてある黒のブカブカなローブを羽織る。

「ありがとうそーぎくん。君のお陰だ」

椎名さんはにっこりと笑うと僕に握手を求めてきた。
だけど僕はそれに軽く応じられない。

「椎名さんにあんな真似させた…」

裸同然でペリドに体を触られて、あまつさえ僕を助ける為にあんな奴とキスまでさせてしまった。

でもそれが勝因となった。でも過程のせいで気分が良い勝ち方ではない。

結果的にスキルの強い雛戦さん、すぐ行動に移したクロノさんや椎名さんにターゲッティングは移りに移り、
何も出来ない事で消極的だった自分が皮肉にも最後に回された事で、何とか勝ちは拾えた。

「気にすること無いよ。だってそーぎくんまで死んじゃうと滅師全損で私も死んじゃうからねー
 君も私も生きている。それだけで十分だ」

差し伸べられた手に手を合わせる。

自分が異世界転生されてすぐに感じたのと同じ、暖かさだった。

そして僕は立ち上がる。

ノートは地面に置きっぱなしだ。


────────
ペリドコイール
────────

────────


そしてノートは消える。

結局どう言う死因なのか分からないが、ペリドがああして死んだ以上、このページの効力はあったのだろう。
射程も気にするのを忘れていた。上手く行ったので少なくともペリド並の射程範囲はある。
そして、初めて殺人を犯した。だがこれではその実感はかなり薄い。

───激痛い

僕のスキルはこんなのでは到底使い物にならない、改良が必要だ。等級Aに相応しくする為に。

「これで死んでいった者達も少しは浮かばれるといいね」

その言葉にふと我に還った。自分達は何とか生きている。
でも、ここまで道を切り開いて来たクロノさんと雛戦さんは…

思い出して気は沈む。しかしそのままにしてはやれない。
もし可能なら監督所とやらに連れて帰って手厚く葬って上げてほしい。

僕達はまず、近くに居たクロノさんの所にやって来た。

………うつ伏せの状態で血みどろの泉に沈んでいる。
やっぱり心臓を抜かれている。生きてる訳がない、もう死亡している。
雛戦さんが殺された事で激昂した彼も、また同じようにしてペリドに殺されてしまった。

椎名さんもそんなクロノさんの死体を悲しげな表情で見る…


───事はなく

「ほらクロノ、起きなさいよ」

ドスン!

うええええ!!? 蹴っ飛ばした!?!?!?

「ちょっちょっ…椎名さん椎名さん!!」

流石に流石に流石にそれは無い。それに死体を前に起きろとは滅茶苦茶な…

対して、蹴り飛ばされてうつ伏せから仰向けに転んだクロノさんの死体は


むくりと上体を起こした。


「は???」

は???は???え???

「ッッッ…!? アイツは!? どこに行った!? 畜生殺してやる!!!」

「もう殺したわよ。そーぎくんが」

「何ッ!? お前がか?」

クロノさんは自分を向いてそう聞く。いやもうその前に説明して。
取り敢えずペリドを殺した事に対してはその通りなので頷いた。

「そうか…ちょっとだけ認めてやる。ちょっとだけな」

「なに殺された癖に偉そうにしてんのよ、まーたちっちゃくなっちゃっ───」

「ねえ!説明!!!」

このままスルーされたら溜まったものじゃない、僕は今一番の大声を上げた。
椎名さんも、クロノさんも、ビックリしてこちらを振り向く。

「ご、ごめんごめん、てかクロノ!あんたそーぎくんにスキル教えてなかったの!?」

「する機会なかったからな」

「新人、俺のスキルは『蘇生』だ。死んでもそのうち健全な状態にリセットされて蘇る。その反動か知らんが1歳分退化する」

語るクロノさんのスキルの内容。

性格に沿った感じの攻撃的なスキルではなかった。むしろ説明通りだと実質ノースキル。
でもこれも割と、いや凄いスキルだ。要するに死なないって…そんなのアリ?

そう言えば確かにさっき迄と比べるとクロノさんの身体全体が少し縮んでる気がする。
1歳退化するって事は…13歳って言ってたから12歳になったって事でいいのかな?

「あ、もしかして、雛戦さんも!?」

期待してしまった。思わずクロノさんが生き返った事に舞い上がった。
あの白い少女にもまだ秘密があるんじゃないだろうか?

対して椎名さんは目を背ける。

「新人、言ったはずだ。雛のスキルは『姿を消す』事だと。それ以上でも以下でもない」

希望はすぐに砕かれた。

いや、知っていた…多分、分かってて僕は聞いたんだ。

クロノさんを連れて、今度は三人で雛戦さんの元へ向かう。
あの等級Aのペリドを倒したのに僕は失意のまま…

「新しい子が入ってきて、そして図ったように1人が抜けていく。物事そう上手くは行かないね…」

そう言って椎名さんは屈んで、雛戦さんの開いていた両の瞼を手で優しく閉じる。

周囲はとても静かになった。静かになったこの場所に、チームの一人が眠っている。

彼女が最期に手にしていたガラケーが僕の足元にある。着信アリのランプがチカチカと光っている。
彼女がもう、それを確認する事は出来ない。

「ありがとう雛、今まで沢山助けて貰ったよ、沢山働いてくれた。よく…頑張ったね。今度こそゆっくりおやすみ…
『三度目の生に幸あらん事を、迷わず───

「やめろッッ!!!」

思わず、声が出た。さっきより尚大きい。そして自分にしては乱暴な言い方で。

「椎名さん、それは死んだ転生者に送る言葉なんでしょ…?」

自分でも今、支離滅裂を言ってるのは解ってる…解ってる。

「………そーぎくん、私は君と出会ってすぐにこう言ったよね?
 幸運にして残念ながら『選ばれて』生かされてしまった。って」

静かに、そして先生から諭される、そんな心地の声でそう言われて、思い返す。
確かにそんな事を椎名さんは僕に言っていた。残念ながら選ばれた、と。

「『ミカエル』の転生者なんて当たりの中でのハズレもハズレ、大ハズレも良い所だよ。
 だって普通にどこか異世界に転生していたら、こんな殺し殺されを強いられる事もない。
『ミカエル』に始末判断されない限りは、その異世界で第二の人生を楽しく暮せばいいんだ。
 雛は…雛戦は第二の人生を滅師職人として小さな身でよく戦ったよ。もう、この天上の牢獄から解放してあげなくちゃね…」

「俺の…せいだ…俺が盾になるのが…俺の仕事なのに…雛…」

「クロノだって死んでたんだ。仕方ないよー、これも運命って奴だ」

各々が雛戦さんを大事に思っている。チームの掛け替えない一人。
僕よりも多く付き合いの長い二人が、僕より哀しんでいない筈がない。

そして彼女が居なかったら、僕はとっくに死んでいる。そうしたらあのペリドだって殺せなかった。結末は逆になっていた。

彼女が居たから歯車は回った。これからもきっと…このチームには必要なんだ。

「嫌だ、諦めない」

言ってノートを取り出す。ペンは要らない。

自分の心が必要と思ったから出ただけで、そんな物は初めから不要だ。

「僕は等級Aの滅師だ、漢の字の一文字に意味を持たせる」

僕の手から離れてノートは浮遊する。指はペン。空に字を描く。
連動するようにノートには、僕が指で空に書いた文字がそのまま書き込まれる。

「そーぎくん…?」

この漢字は難しい。でも椎名さんに教えて貰った。そして覚えた。
間違ってないだろう?自分。決して間違うな。

『雛戦』と上に書き終える。

「Aなんだろ! 名前なんて面倒くさい縛り付けるんだったらこの字に意味を持たせろ!!!!!」

己のスキルの不甲斐なさを埋め合わせるように、そうして書き殴った。



────────
雛戦
────────

────────





 ─ 異世界監督所『ミカエル』 ─

椎名さんの誘導により転送して帰ってきた。

思えば僕は今日死んで今日転生して今日滅師として仕事に出て、等級Aの異世界転生者を殺した。

とんでもないぐらい濃密な一日だ。死ぬ。

椎名さんは上に今回の事故の報告をして来ると言って、早々に別れた。
クロノさんに先導される形で、今は椎名さんの私室にいる。

割と、いやめちゃ豪華だ。広さは5LDKぐらい?
滅師職人の上司として扱いも上級なんだろうか。

やっぱりここが自分の第二の居住地となりそうだ。椎名さんが帰ってきたら僕の部屋も用意してくれるだろう。多分。

椎名さんの部屋は如何にも女の子らしい小物とかでファンシーで埋め尽くされている。
あと意外にもトレーニング器具がある。何故に。

取り敢えずここで待ってるようにと椎名さんに言われたので、テーブルのある椅子に座って待つ事にする。

結局は異世界転生者との連戦になった。ようやく気が抜ける瞬間。
何もやってないけど、ベリド殺したぐらいしか僕はやってないけど、それでも何かが痛いのは何でだろう?
どこかすら分からない。けど激痛い。

「新人、もうちょっとだけ認めてやる。ちょっとだけな」

隣に座っているクロノさんがそう言ってくれる。純粋に嬉しかった。
まあ結果的に彼はスキルによって最年少になってしまったけど。
着込んだ迷彩の外套は、返り血を防いだり理由は他にもあるだろうけど、きっと縮んだ我が身を隠す為…なんだろうね。

と、しばらく振りにくつろぐ自分はテーブルの上にこの異世界では思い出の深い物を発見した。
椎名さんらしいや。バスケットに入ったそれの一つや二つほど拝借しても別に文句は言わないだろう。

僕はおもむろに、それを掴んで

「食べる?」

対面の子に差し出した。

「食べる」

白い少女───雛戦さんは、僕が差し出した棒付きのキャンディを受け取ってくれた。


 

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