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たまてくんと雇用契約書
しおりを挟む〖 𖤐魔法少年 アルバイト募集 𖤐〗
>コンビニで求人情報誌を立ち読みしていると、情報誌には一生載らなそうなワードが目に入った。魔法少年アルバイト?名前からしてやばい。コンセプトカフェってやつ?それとも普通にド直球でいやらしいお店?こんな堂々と求人サイトに載せる?残念ながら僕もお年頃な15歳。こんなん気になるやん。
『魔法少年として街の平和を守りませんか?敵と戦い、浄化するだけの簡単なお仕事デス!学歴不問、制服支給、未経験の方歓迎!※美少年限定』
凄く…怪しい。美少年限定って。この令和の時代にそんなこと書いたら大炎上では?そもそも敵ってなんだ?社会の闇という名の敵とか?そんなことを思っていると、絶対に光るわけない紙の情報誌が突如、色んな法則をガン無視して光出した。眩しい!
光が消えた情報誌の上にはアニメやゲームセンターのぬいぐるみのような鳥がプカプカ浮いていた。浮くなら翼要らなくない?
「お前が僕を出したのか!?やっっっと適性がある子が見つかったのラ!!」
目が合うと無理やり付けたっぽい語尾を添えて鳥が喋った。CVは女性声優じゃなくて低めの男性声優っぽいのが見た目の可愛らしさと反してギャップ萌えどころか萎え。
ちょ、まっ…!と焦ってる鳥を巻き込む形で僕は情報誌をそっと閉じて棚に戻し、足早にコンビニを出た。何も無かった。何も見てない。
「いやいや、まてまて逃がさんのラ。」
頑張って本の間から出てきたのか、やや顔が潰れ気味の鳥は追いかけてきた。翼をばたつかせなくても飛べる…てか浮けるのに短い翼をパタパタを羽ばたかせ、渋い声の青い鳥はよっせよっせと頭上を通り過ぎて僕の前に立ちはだかる。
「なぁなぁアルバイト探してるのラ?なら魔法少年やれよラ。人と関わることもなくて個人でやれる楽で楽しい仕事ラ。」
僕を追いかけるので疲れたのか、すっごいブサイクな顔で声をかけてくる。こういうのってもっとキラキラ可愛いものなのでは?無視。
「ちょいまてや。見てるラ。聞こえてるだろラ!無視するんじゃないのラ!」
僕の周りをグルグルグルグル、飛び交う鳥。こんな状況で街中を歩いているのに誰も僕を見て驚く人がいない。この鳥、もしかして僕以外に見えてないの?
「んなの一般人に見えてたら大問題ラ!見えるわけないラ!魔法舐めんラ!」
まさかこの鳥、僕の考えてることが!!
「分かるのラ~、お前が失礼なこと考えていたのも全部聞こえていました。そろそろまじで疲れたから早く家に帰ろうか?」
この鳥、真顔で語尾も殴り捨てて絡んできた…!なんならちょっと怒ってるやん。翼めっちゃ羽ばたかせて強調してくるもん!そうだね、浮いてるんじゃなくて、飛んでるね!その後、鳥は嫌がらせの如く耳元でどこかの学校の校歌を無限に歌い続け、僕の帰宅を急かした。
>渋々家に帰る。連れて帰りたくなかったが仕方がなかった。脳内に低い声の男性が歌う校歌がぐるぐるぐるぐると巡る。頭が可笑しくなりそうだった。人の耳元で校歌を歌っていた鳥は家に着くと座布団にダイブし軽快に喋りだした。
「ふぅ~、声枯れるかと思ったラ。ぼくちんはお客様なんだからお茶くらいは出しても良いと思うラ。」
この鳥、勝手に家まで押しかけといて、座布団に寝転がりながらお茶をせがんで来る。
「うちはお茶もお菓子もお金もないよ。水道水でよければ出せるけど。」
「まじで金無いのラ。もしかしてお前は貧乏ってやつなのラ?」
「金が無いから求人情報誌みてたんだろ。」
「それはそうラ。」
鳥は身体が丸だから起き上がれないのか、ジタバタしながらなんとか起き上がり、座布団に座った。座っているだけなら足がちょこんとしている姿が可愛らしい。
「そんな金のないお前には魔法少年がピッタリラ。魔法少年はめっちゃ金稼げるラ。まじガッポガッポ。こんないい仕事見つけられるなんて宝くじ当たったみたいなもんラ!ハピネスお前!」
座ってるだけなら。な。
「というか、そもそもお前はなんなの?そこの説明が先でしょ。」
見た感じは重力ガン無視でプワプワ浮く、喋るぬいぐるみだ。普通にこわいな?
「ふふふ、よく聞いてくれたラ!ぼくちんはヤキトリ!(魔)会社 魔法少年部署の魔法少年育成が担当ラ!魔法適正のある少年を魔法少年にすることが僕の仕事ラ!それができないとヤキトリにされて食われるラ。味はタレにするとまで言われてるラ。」
「わ、わー…」
キラキラもドキドキもねぇ~!!魔式会社って企業になっててファンタジー感もなけりゃ、仕事が出来なきゃクビじゃなくて食われるってブラック感がやばい。
「なので魔法少年にならないかラ?とりあえず半年間。ほら、雇用契約書も持ってるのラ。」
「その物理法則無視して翼でボールペン押し付けてこないでよ。」
「こちとら命かかってるラ、命より重いものってあるラ?」
「断れない感じ出すなよ!」
今の話を聞いててやりたがるやつはいないだろうよ。
「魔法少年は1回の変身で4千円、敵の浄化で6千円。つまり1回の出動で1万円支給されるラ!10回やれば10万!」
「やめろ、今ちょっと心動かされちゃった!」
「逆に何が不満なのラ!」
「いや普通に魔法少年とか恥ずいし。それに魔法少女系って近年は闇堕ちとか命削って系が多いし。敵と戦って無惨な姿で死んでるのとかもザラじゃん。僕せっかく高校生になれるにまだ死にたくない。」
「お前、アニメの観すぎラ。アニメ好きなのラ?」
「家に娯楽がテレビしかないから…。」
「さっきから悲しいことしか言わんのラ…。」
仕方がない。両親は玉を弾くゲームで金を得て、その金でまた玉を弾いて金を失う、残念な人なのだ。
「うっわ…。」
鳥は可哀想なものを見る目をする。お前も僕に断られたら食われる可哀想な肉なのに、よく人を哀れんでられるな。こっちは今すぐ名前の通りヤキトリにしてやってもいいんだぞ。
「人の心、勝手に読んだ上にドン引きするなよ。」
「強く生きろよ以外の言葉が浮かばないラ。」
「人間どころか鳥にまで哀れまれる日がくるとは思いませんでした。でも残念ながら僕は今幸せなんだな、これが。ばあちゃんがお金出してくれて高校にも行けるんだから!勉強もバイトも頑張ってばあちゃんに恩返しするんだ。」
正直言って貧乏なことはツラい。欲しいものも必要なものも買えないこともある。でも不幸では無い。今は高校に通えることが幸せだ。
「うっうっ、お前、顔が良いだけのクソガキだと思ってたら苦労してるんだララララ…。良い奴ラ。だからこそ魔法少年どうラ?魔法少年なら給与良いし、拘束時間も短い、敵も攻撃してこないラ。ついでに変身道具のスマホも支給ラ。」
「スマホ!?!?!?」
「ぴっ!?びっくりしたラ。」
「スマホってスマートフォン!?」
「他に何があるラ。敵が近くに出たときに通知が着たり、変身する便利アイテムラ。」
「それって普段は電話したりメッセージしたりゲームしたりできるの!?」
「できるラ。どちらかと言えば普通のスマホに魔法少年用の機能を足しただけだかラ…。」
ちなみに最新機種ラと鳥はドヤ顔をした。
「ちなみに毎月の支払いは?」
「勿論、こっち持ちラ。」
「僕、魔法少年やります!」
僕は手を挙げる。挙手制でもないのに。
「こ、コイツ、スマホで決断しやがったラ!!」
いや、スマホは大事ですよ。
スマホ、スマホ、スマホ!!
とうとう僕もスマートフォンを持てる日がくるとは!!電話もメッセージも調べ物も動画もゲームもこの世の全てが出来る板、スマートフォン。スマホもお金も貰えるのはもう天職としか言いようがないよね…。
「コイツ働く前から天職とか言ってるラ…。まぁ、良いラ。気が変わる前にこの雇用契約書に名前を書くラ。」
「今なら鳥の翼で持てるわけもないのに持ててるボールペンも可愛く見えるよ。」
「声に出てるラ。」
僕は雇用契約書の下の名前欄に名前を書いた。
タチバナ タマテ
橘 玉手
「お前、玉手って名前なのラ。それって…。」
「そりゃあ勿論、玉を弾くゲームからだよ。」
「お前の両親思った以上にやばいラ…。」
「そうだよ?」
「ケロっとしてるラ…。」
―――こうして僕の両親にドン引きの青い鳥と共に、僕の魔法少年のアルバイトが始まる。
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