初恋エチュードの先に

片瀬ゆめじ。

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中学2年生

5月 大田くんが気になる/帰り道とバイバイ

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私、広井は同じクラスの大田くんが気になる。

私は広井。中学2年。クラスは3組。勉強は苦手。運動はもっと苦手。食べることは好き。甘いものが1番好き。吹奏楽部でユーフォニアムを吹いてる。吹くのは好き。譜読みは苦手。平凡なJCいうよりは、平凡以下の中学生。取りあえず明るく、ムダにうるさく元気に生きている。

そんな私には最近気になる人がいる。斜め前の席の大田くんだ。今も真面目に板書をノートにとってる姿が可愛い。


「大田くんはね、授業中によく耳たぶを触るんだよ。癖なのか無意識なのか知らないけど。落ち着くのかな。それとも集中出来るとか?どちらにしても、そういう仕草が可愛いよね。」
「キモイよ、変態。」
「あっちゃん、ひどーい。」

昼休み、授業中に見れた大田くんの可愛さを幼なじみのあっちゃんに伝えた。あっちゃんは私がする大田くんの話をドン引きしながら聞く。でもなんだかんだでちゃんと聞いてくれる優しい幼なじみ。

「大田のどこがいいの?言い方悪いけど、女みたいな顔だし、背だってアンタと同じくらいじゃん?頭は確かに良いけど、喋らんし、愛想もないし。」
「え~、そこがいいじゃん?華奢で可愛いの素敵だし、話しながら隣を歩いたら可愛い顔が横にあるのって凄く良いと思うなぁ。それに愛想がないんじゃなくて、大田くんは喋る必要がないから喋ってないだけなんだよ!話しかければ普通に話してくれるよ?」
「別に話したいわけじゃないからいい。」
「そか。」

私は朝にコンビニで買った菓子パンを口に放り込んだ。

大田くんを一言でいうと「正しいことを当たり前にしている人」だ。例えば、授業中は居眠りしない、ノートには下敷きを敷く、定規で線を引く、筆箱からペンを出して使ったら戻す。そんな正しいとも言えない当たり前のことを大田くんは当たり前にする。

私なんてノートは英数理社国を全部同じノートに書いてるし、筆箱から出したペンを適当にポケットに入れて紛失ちゃうし、フリーハンドで線を引く。下敷き?そんなものは持ってません。

私が適当にしている当たり前を彼は当たり前に正しく行う。それが正しいことだからではなくて、それを普通だと思っているのが大田くんである。そんな彼が凄いと思うし、憧れる。

そんな大田くんが耳たぶを触る姿は、彼に人間味というか可愛らしさ、幼さ?を感じられた。そしてそれを知れたことが私はなぜか嬉しかった。


このお話は私、広井と大田くんとの高校3年生までの6年間の思い出の話である。


◤5月◢

「大田くん、おっはよー。」
「……おはよう。」
「今日も超可愛いね。」
「今日も僕は可愛くはない。」
「そっかそっかー、じゃあ私だけが可愛さを知ってるのか~。悪くない…。むしろ良い!」
「眼科に行きなさい。」

5月。最初の頃は頷くだけだった大田くんとも愛という名のウザ絡みで会話が増えてきた。私が質問攻めしなくても、あしらうように、でも話をしてくれる。

「ふふふ、今日も朝から話せたなー。」
茶柱が立ったみたいなちょっとハッピーな気持ち。
最近は5月でも少し暑い日も多い。さっきまで背負っていたリュックと背中がくっついて、汗が気持ち悪い。背中のシャツを手で掴み、パタパタと揺らすと背中が少し涼しい。

私が涼んでいると、後ろから両肩を掴んで誰かが声をかけてきた。
「こんなことで暑がってちゃ、夏は生き延びれないよ!」
「わっっ。なに!?びっくりした。あっちゃんか。」
「はよー。」
振り向くと体操着姿のあっちゃんがいた。

「おはよ、あっちゃんも朝練?」
「そーそー、今週練習試合だから朝練多いんだ。」
「うちのバスケ部、強いもんね。頑張って!」
「うん。まぁそこそこで頑張るわ。」

あっちゃんは女子バスケ部だ。うちの中学の女バスは県大会まで毎年勝ち進んでるらしく強豪校と割と有名だ。

「というか、広も朝練だったんでしょ?じゃないと広がこんな早くに教室いるわけないもんね。」
「あはは、ご名答。」
「吹部は顧問の気合いが凄いよね。土日もほとんど部活やってるし。自由気ままな広がまさか我が校屈指の休み無し、吹奏楽部に入部するとは思わなかったよ。」
「ホントだよね…。でもお母さんが文化部で許してくれるのが吹奏楽部しかなかったからやむを得ん。」

本当は美術部に入部したかった。得意ではないけれど、絵を描くことが好きだから。でも母が「毎日活動のある部活にしなさい!!」と仰ったのだ。うちは母子家庭で母は仕事で夜遅くまで帰ってこない日もある。だから放課後に何してるか分からないよりも健全に部活動をしていてほしいんだと思う…と、遠方に住んでるおばあちゃんは言ってたけど…。それを考慮すると文化部で毎日活動してるのは吹奏楽部しかなかった。

吹くのは楽しいけれど、1年経った今でも朝練はしんどいし、譜面はよく分からんし、3年生の雰囲気が怖い先輩は卒業したけど、次は後輩に演奏レベルが追いつかれるのではないかとヒヤヒヤしてる毎日。

「まぁまぁ部活なんて学生時代の思い出作りなんだからそこまで色々考えずに気軽に励めよ。」
「ううう、あっちゃん~…。」

強豪女バスのあっちゃんがそれ言えるの凄い。プレッシャーとか凄いだろうに。毎日夜にランニングしてるのも知ってるよ。家近いからね…。
昔は他人にもっとビシバシ言ってたからマイルドになったなぁ~。

「それに部活してれば大田とも帰りにすれ違うこともあるんでしょ?そういう楽しみを持って気楽にいきな?」
「あっちゃん様~!!!!」

SO!部活帰りに大田くんに会うことも稀にある。
大田くんは男子バドミントン部だ。
体育館部活はバスケ部、バドミントン部、バレー部、卓球部…と数多く存在するため、各部活の顧問によって組まれたスケジュールで早帰りや下校時刻までやっていることもある。
吹奏楽部はいつも下校時刻までやってるから、たまーに部活終わりの大田くんに会えたり会えなかったり。

「帰り道は同じバド部の男の子といるから声はかけないけど、部活終わりのバド部ジャージの大田くんもいつもと雰囲気違って可愛いので眼福なのよな。確かにそう思うと部活、頑張れそう。」
「部活のモチベ上がったのは良かったとして…。ジャージが可愛いって何?」
「若干ぶかぶかで萌え袖なとこ?」
「え~、ほんとキモイ。」
あっちゃんは幼なじみを見つめる目ではなく、ゴミを見つめる目をしていた。

「てかそんなキモイストーカーしてないで一緒に帰るは無理でも挨拶くらいしてみれば?」
「あいさつ?」
「なんでキョトン顔。さようなら~とかバイバイとかでしょ。」
「はー、挨拶ね!バイバイね!そんなこと考えたこともなかった。」
「萌え袖可愛いは思いつくのに、挨拶は思いつかないのもはや怖い。」
あっちゃんは怯えた。

でも確かに。挨拶って初歩中の初歩だし、朝だっておはようの挨拶に便乗して話しかけているわけで。そうか、挨拶なら部活の子といても声をかけられるのか。








放課後、数多の眠くなる授業を乗り越えた私は部室にいた。部室と言ってもユーフォパートが使用しているただの教室なんだけど。
教室の窓側の席に座り、メトロノームで基礎練習をする。横目でチラリと窓を見ると、バド部が外周をしてた。大田くんは裏の方を走ってるのか、見た感じはいない。この時間に外周してるってことは今日はこの後に体育館で練習なのかな。

よし。もし帰り会えたら「バイバイ」って言ってみよう…!

したらばまずはあっちゃんの言う通り、考えすぎずに気軽に部活!!しっかり基礎練習!!

ーーー♩
ーーー♩
ーー♩ーー♩


ユーフォパート
1年 鶴野ほたる
3年 島崎 美結

「あれ。広井先輩、今日は調子良さそうですね。」
「広井ちゃんはねぇ、ユーフォらしい柔らかい音色で上手なんだけどね~。いくら褒めても苦手な譜読みが自信ないみたいで自分のこと下手っぴって思ってるんだよね。その自信の無さからか音も不安定なんだよね~。」

ユーフォパートは4月から新体制になり、各学年1人ずつになった。全員どちらかと言えば大らかな性格の為、揉めることも無く良い雰囲気だ。











下校時刻。今日は基礎練習して、譜読みして、吹いてみたけど、合ってるか分からず先輩に聞いて…と気楽に休憩を挟みつつやった。
演奏って音を確認して指を動かしながらリズムも理解してないといけないと思うと、同時に2つのことをできない私にはとんでもなくハードルが高い気がしてきた。

でも、今日も頑張った!!!!
大田くんに挨拶するために!!!!

「広、挨拶のひとつに気合いいれすぎ。」
「いざ挨拶しようと思うと身体に力入っちゃって…。」
帰り道は大体あっちゃんと帰る。女バスが早帰りの日は図書館で勉強をしてるみたい。

「帰り道にすれ違ったときにばいばーいって言うだけでしょ?」
「いやぁ、無視されたらとか考えちゃって?」
「大田は無視するようなヤツなの?」
「そんなことしない!!」
「じゃあ大丈夫じゃん、ほら来たよ。」

大田くんが部活の子と後ろからやってくる。
まてまて展開が早い。

「おっ、大田くん!ば、バイバイ!」

部活中に考えた予定では、大田くんが通り過ぎる前に顔を見て、バイバイって言おうと思っていたのに…!!
緊張しすぎて後ろ姿に声掛けちゃった…。
声もうわずった……。オドオドしてたし、なんかもうカッコ悪すぎ。

しかも大田くんは歩みを止めることなく、少しずつ背中が遠くなっていく。

……聞こえなかったかな。

太田くんの遠ざかる背中を見つめていると、顔だけちょっと横に向けて、大田くんは言った。

「ん。また明日。」

その横顔は口角がちょっとだけ上がっていて、少し笑っているようにも見えた。

「…………また……明日。」

大田くんから明日と言われて、明日も会うと思ってもらえてることが、何だかとても嬉しくて不思議な気持ちだった。

「うん!また明日!!!」

私は大田くんの背中に大きく手を振った。
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