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違和感…

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 看護師さん達が去った病室に泉と二人きりになった。

 「透、身体……どう?まあまだしばらく痛みは残ると思うけど……」

 泉はそう言いながらベッドの脇の椅子に座る。

 「うん……まあ……」

 オレは左手の違和感に気づき、指先を動かそうとしたが動かなかった。

 もう一度……しかしやはり指先は……親指が少しうごいたのみでいつものように動くことはなかった。

 ……まあ、あんな風に刃が貫通した後だし、傷が癒えるまでは仕方ないのかな?

 そう思いながら左手を動かすのは諦める。

 まだ脇腹の傷も背中の傷もなかなか痛い。

 手だって同じだろう。

 オレは泉に微笑みかけた。

 「一度家に帰ったんだね」

 そういうと泉は困ったように微笑む。

 「お風呂にも入りたかったし、すずしろのお世話もあったから……」

 ……オレの為に病院通いさせてしまっていると思うと泉に申し訳ない思いしかない。

 「泉……ごめんね。すずしろのお世話もして貰っちゃってる挙句に病院通いまで……大変でしょ。泉だって忙しいだろうし毎日じゃなくても……オレ早く退院できないか今日の診察の時に先生に聞いてみるよ」

 ……傷は痛むがもう寝ている程でもない気がした。

 それより早く家に帰って、すずしろにも会いたいし家事もやりたい。

 そう思ったのだがそっと泉は首を振った。

 「透……すずしろは私がちゃんとお世話してるから大丈夫だよ。病院通いも全然つらくもないし……それよりちゃんとケガ治そうね。手の方も……ちゃんとリハビリしないと……」

 泉はそう言いながらオレの包帯の巻かれた左手に触れる。

 泉はオレの左手全体を包むように握ってくれていたが、感覚があったのは親指付近だけだった。

 泉はオレの左手の指先一本一本を丁寧に摩っていく。

 「手の方の切れてしまった腱はお医者様が縫い合わせてくれたけど、元のように動かせるようになるまでは時間がかかるかもって……諦めないで……ちゃんと治そうね」

 


 ★



 
 泉のじいちゃんの計らいで病室は個室で、広めの部屋とソファーなども置かれていた。

 病室……というよりはベッド付きの応接室といった感じである。

 お陰で泉のお母さんやらじいちゃんなんかがお見舞いに来てくれても座る場所に困ることはなかった。


 「じゃあ透クンまたねっ★」

 泉のお母さんがお見舞いに来てくれ、色々と気にかけてくれてくれた。

 手のリハビリには編み物が良いだろうと編み物セットを置いていってくれて、話し相手になってくれた。

 

 真実も毎日仕事終わりに寄ってくれて、体調を気遣ってくれていた。

 

 

 泉は今まで使わなかった分だからと言って有給休暇を纏めて使ったようで、毎日病院に来てくれていた。

 来客中以外を除いてはほぼ泉と一緒に過ごす。

 ……幸せいっぱい……のはずだったがいつの間にかに欲求不満に陥ってしまう。

 こんなに一緒にいるのに……エッチできない……

 泉はオレの怪我を気遣ってくれているのかそんな雰囲気になると察して離れていってしまうし……

 ふっと枕元に置かれた卓上カレンダーに気づく。

 ……かれこれもうひと月あまりエッチできていない!!

 最後にしたのは泉が体調不良になる前だったし……もう少ししたらまた泉は……

 そうなったらまたしばらくお預け状態である。

 
 
 

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