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……。

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 「このバカ!!魅入られやがって!!」

 気がついたら真実に床に押し倒され、押さえつけられていた。

 頬を殴られたのか、酷く痛む。

 「んっ……」

 思わず痛みに声を漏らすと泉の泣きじゃくる声が耳に入ってきた。

 「透っ、ごめんね!!もうあんなことしないからっ!!」

 お腹の辺りに泉が抱きついているようだ。

 「んんっ……シンジっ……痛いよっ……」

 「透!お前っ!!」

 腕を押さえつけたままオレの顔を覗き込む真実。

 真実とキスしてしまいそうな距離感になっているのに気づく。

 「真実……こんなところ見られたら……浅川さんにオレが怒られるんだからやめてよ。それに……泉に嫌われちゃう……」

 そう言うと真実はやっと手を離してくれた。

 「透……お前……」
 
 驚いたような顔の真実。

 やっと腕が自由になったのでお腹に抱きついている泉の頭を撫でる。

 「……いずみ……ごめんね。オレ泉にはどうしても、オレの子じゃなくっても赤ちゃん産んで欲しかったんだ。だからオレが側にいない方がいいって思って……でもそれが無理ならオレ泉の側に居たいんだ。泉さえ良ければ……オレとずっと一緒に生き続けよう?」

 泉がオレのお腹に顔を押し当てながら頷く。

 「子供のことは残念かもしれないけど、まあもともとオレが好きなのは泉だしさ、ずうっと二人で暮らすのも幸せだと思うんだよね」

 そう言うと何処からともなくすずしろがやってきて、抗議する様にオレの腹の上に飛び乗ってきた。

 「あ、うん。すずしろもいるしふたりといっぴきだね。まあもうすずしろがオレ達の子供代わりみたいなもんだしさ……」
 
 そう言うとすずしろは少し不服そうに泉とオレをしっぽでペシペシと叩く。

 泉はそこでやっと笑ってすずしろのしっぽをそっと撫でる。

 泣き腫らした真っ赤な目の泉。

 ……泉は泣き顔も美人だな……

 そう思った。

 「愛してるんだ。何もかも……オレの周りにあるすべてのものが……大事すぎて失うのが怖いんだ……」

 そう呟きながら、天井を見つめる。

 視界に入る、泣き出しそう顔をした真実が目を閉じて、浅川さんの肩に顔を埋める。

 浅川さんはそんな真実をそっと抱きしめていた。


 


 ★



 落ち着いたオレ達は真実と浅川さんに謝って家に戻る。

 すずしろを抱いた泉は家に帰るなりソファーに座り込んでしまった。

 「あの……いずみ……本当にごめんね。オレ……もっとちゃんと……泉と話すべきだったね」

 そう言いながら泉の前に熱いお茶を淹れて出す。

 泉はすずしろを足下にそっと下ろすと淹れたばかりの湯呑みをそっと手に取り、お茶を一口ゆっくり飲んだ。

 
 

 「透……ほんとうに……私でいいの?……もしかしたらパートナーを変えれば……透は子供を持てる可能性があるのに……」

 ぼんやりと湯呑みを見つめる泉……

 赤くなった目で、まだ泣きたそうなのを我慢しているような……

 オレはそっと泉の隣に座った。

 「良いに決まってるでしょ。オレは……ずっと泉のことが……好きだったんだし……別に後悔はしないよ」

 そっと泉の肩を抱く。

 泉はオレの腕に顔を押し付けた。

 「私……ずっと怖かったの……子供のことより透がいなくなる事が……」

 泉はそう言いながら静かに泣き始めた。

 腕の中で微かに震えながら泣く泉はなんて弱々しくて、儚くて、愛おしいんだろうと思う。

 「いずみ……本当にごめん。もう二度といずみの側から離れようなんてしないから……」

 思わずきつく抱きしめる。

 首に腕を回して抱きついてくる泉の体温を感じながら、本当に別れないで良かったと思った。

 
 

 
 
 
 

 
  
 
 

 

 
 
 
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