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修学旅行

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 「透、修学旅行の班一緒にしよう?」

 泉がそう言ってくる。

 「っていうかこの四人で良いでしょ。」

 さりげなく浅川さん、真実を誘ってる。

 「ん?何でも良いんじゃね?どうせ現地解散だろ?」

 真実はめんどくさそうに言った。




 「っていうか修学旅行って何?」

 何の気無しに聞く。

 「ああ、そう言えば透中学の時修学旅行行ってないよな。小学校の時は?」

 「?…そんなのあったの?」

 「…。」

 泉が悲しそうな顔をする。

 …。

 小学生の頃の記憶は殆どない。
 
 確か何日か学校に行かない日があったような…。

 その間家の手伝いしてたような…。

 中学の時は他人といるのが嫌すぎて行かなかったし…。

 そう言うと泉は淋しそうに微笑んだ。


 
 「今回は、一緒に行こう?」

 「…うん。」




 
 修学旅行は栃木県らしい。

 日光東照宮やらワールドスクエアなどを回るようだった。

 
 記憶に無いから定かでは無いが思えば県外に出るのはこれで二度目だった。

 一番最初は泉達と行った泉のじいちゃんの別荘があった長野県である。



 「県外に行くなんてこれが二度目だなあ。」

 思わず呟いた。

 「…もしかして1番目ってこの前の?」

 泉が見つめてくる。

 「うん。あれが最初だな。また何か楽しいものが見れるかな?」

 少し嬉しくなって泉に話しかける。

 「うん。何か思い出…作ろうね。」

 泉が微笑んでくれた。



 

 ★



 配られた旅行のしおりに書かれた日程や部屋割りを見る。

 「あ、やった!真実と部屋一緒だね。」

 …他の誰かじゃなくて良かった。

 正直、真実以外の男子とあまり話した事なかったし。

 「ああ。俺が部屋割り決めたからな。」

 「!?そうなの?!」

 頷く真実。

 泉と浅川さんも同じ部屋になっている。


 
 3人で話してる横で旅行のしおりをみる。

 「東照宮の眠り猫か…。これ見てみたいな…。」

 透の声が聞こえたのか泉が微笑む。

 「透猫好きだねえ。」

 「うん。猫は可愛いよ!あったかくって…優しいし。」

 



 初めての修学旅行…。

 すごく楽しみだった。



 ★

 

 バスの旅は初めてだった。
 
 泉や真実と一緒に出かけられるのが嬉しくて仕方ない。




 …でもわかってしまった事もあった。

 多分自分は人がたくさんいるところは苦手だったようだ。

 狭いバスの車内にたくさんの生徒。

 気づいたらだんだん頭が痛くなっていく。

 気にしないように、目を閉じて寝てしまおうとも思ったが…。

 「透…大丈夫?顔色悪いよ?」

 隣に座っていた泉が心配してくれる。

 「乗り物酔いか?少し我慢しろよ?もうすぐ目的地に着くから。」

 前に座っていた真実が少し窓を開けてくれた。

 

 乗り物酔いでは多分ない。
 何度もバスに乗っていたし、その時はこうならなかったが…。

 ただ満員電車に乗った時と、混んでいるバスに乗ると似たような症状が出たことがあった。

 …沢山の人がいる所はただ苦手だと思っていたが…。

 
 ここまで症状が出るのは初めてだった。
 


 「透…ちょっと触るぞ?」

 そう言いながら真実がそっとヘッドホンをかけてくれた。

 車内の喧騒が遠ざかり静かなピアノの音が耳に入ってくる。

 泉が旅行用のバッグからタオルを出して貸してくれた。

 それを顔にかけて目を閉じる。

 少し暗くなって光からの刺激を遮れたからか、少し頭痛が和らいだ気がした。

 
 そっと泉が手を握ってくれた。

 少しひんやりとしている泉の手は気持ちよかった。

 

 ★


 
 バスが目的地に着く。

 停車したバスの中でこのまま休んでいることにした。

 残念だったけど仕方ない。

 「真実も、泉も行って来て。オレ一人で大丈夫だから…。」

 「真実、私透と待ってるから。」

 泉がそう言う。

 「泉も…せっかくだから行ってきてよ。」

 そういうと泉は微笑んだ。

 「私、もうここに何回も来てるし…別に見なくても良いかな。来たくなったらお父さんかおじいちゃんに連れてきてもらうから。…透は、私がいない方が休める?…それなら外に出て時間潰してくるけど…。」

 「…側にいてもらっても良い?」

 泉が嬉しそうに笑った。

 「透、ここ見たかったんなら私と来よう?お父さんにお願いするから。」


 真実は呆れたように笑った。

 「泉…父さんとじいさんに可愛がられているの自覚してやってるだろ。まあいいか。じゃあな。俺たちは行ってくるぞ。何か面白いものとかあったら買って来てやるよ。行こう、浅川!」

 真実は浅川さんを連れて出て行った。

 


 「透…何か冷たい飲み物でも買ってこようか?」

 「んっ…悪いんだけどお願いしてもいい?」

 

 数分後泉がお茶と蜂蜜の飴を買って戻ってきた。

 「透…お茶飲む?」

 ペットボトルを開けて渡してくれる。

 「ありがとう。」

 お茶を飲むとだいぶ落ち着いた。

 泉と二人きりの車内は静かで落ち着く。

 真実が開けて行ってくれた窓から涼しい風が入ってきて気持ち良かった。



 「透…飴食べる?」

 「うん。」

 泉から飴をもらい口に入れる。

 蜂蜜の程よい甘味が口の中に広がって頭の痛みを溶かしてくれるようだった。


 
 

 
 
 
 
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