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すれ違い

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 透のバイトが終わる時間が遅くなった。

 更に、人手が足らないからと毎日バイトに行くことになったらしい。

 透からはしばらく食事の用意は要らないと言われてしまった。

 朝ご飯も、学校に行くギリギリまで眠りたいからと言われてしまい、本当に透と顔を合わせる時間が少なくなってしまった。

 たまに顔を合わせても、疲れているらしく、私を見て微笑んでくれるぐらいだった。

 ……最近なんだか……透の元気がない気がした。

 疲れている……というより……落ち込んでいるようにも見える。

 


 「……いずみ……ただいま……」

 お風呂から上がり、そろそろ寝る準備をしようと思っていた頃に透が帰ってきた。

 疲れたような顔で透が微笑んでくれるが、なんだか痛々しい。

 「透……おかえりなさい、大丈夫?」

 透のそばに駆け寄り、顔を覗き込む。

 困ったような顔で微笑む透……目が少し赤い……。

 ……またお墓に寄って帰ってきたんだろうか?

 そっと透の頬に触れると冷たくなっている。

 「疲れたでしょ、早くお風呂入って……身体温めて?」

 透の頬を両手でそっと挟む。

 ……少しでも……温めてあげたかった。

 「……いずみ……」

 囁くように透が声を漏らす。

 

 ちょうどその時階下から海の声が聞こえた。

 「いずみ~お風呂から出たんならちょっとレポート見てくれない?」

 海の声が聞こえた瞬間透がビクッとして身を引く。

 そうして二、三歩私から体を離した。

 ……。

 「おやすみ……いずみ……」

 透はそういうと私に背を向け、自分の部屋に入って行ってしまった。




 ★



 どうやら透は海が苦手なようだった。

 透が……というより海のほうが完全に透を嫌っている。

 さりげなく原因を知ろうとして海に聞くが、『ただ嫌いなだけ』とだけ言ってそれ以上教えてくれなかった。

 海がそんな感じなので透は仲良くなんてできるはずないだろう。

 ……それにもかかわらず、透は何とかぶつからないように上手くやってくれようとしていた。

 

 お風呂を終え、海とテレビを見ていると真実がリビングにやってきた。

 「透は?まだ帰って来ないのか?」

 そう聞かれたので頷く。

 隣にいた海がぼそっと呟く。

「あんなヤツ帰って来なくたっていいじゃないか」

 ……海の呟きに何ともイヤな気分になる。

 「そんな言い方……」

 注意しようと思ったらちょうど玄関が開く音がした。

 「やっと帰ってきたか……」

 真実はそう言い、時計を見るとリビングを出て行った。

 つられて時計を見ると22時を過ぎている。

 ……今日も疲れてるんだろうな……

 私も真実の後を追う。

 リビングを出るとちょうど真実と透が話をしているようだった。

 「……しばらくギリギリまでシフト入れて貰ったんだ。心配しないで?」

 そう言いながら透が笑う。

 透が私に気づいて振り返る。

 「泉……遅くなっちゃってごめん。コレ……ゼリーなんだけどみんなの分あるから後で食べて」

 そう言いながら袋を渡してくれる。

 「ありがとう……透……大丈夫?」

 透は困ったような顔で笑う。

 「心配させちゃってごめんね。オレの事は大丈夫だから……本当に気にしないで?」

 透はそういうと階段を上がって行ってしまう。

 その背を追いかけて真実も二階に上がってしまった。

 ……

 ……

 透に渡された袋を覗き込む。

 可愛らしいカップに入ったゼリーがいくつか入っていた。

 ……どうせなら後で一緒に食べたい……

 

 ホワイトデーの日にニコニコしながらゼリーやケーキを食べていた透……あれからもう2ヶ月が経つ……

 最近はもう透の笑顔なんて……見ていない。

 


 「泉、どうしたの?」

 リビングから海が顔を出す。

 ……どうしたらいいんだろう……

 私はぼんやりと考えていた。



 



 
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