上 下
17 / 69

真実の帰宅

しおりを挟む
 ホラー映画を見た次の日、真実の合宿の終わる前日に心霊番組が放送されていた。

 心霊写真に心霊体験。

 自称霊能力者の人が集まって恐怖体験やら除霊やらをする番組が夕方から放送されている。

 夕飯後に青海くんとその番組を見ていた。

 「水野さんってホラー好きだけど、幽霊とかって信じてる?」

 唐突にそんなことを言い出す青海くん。

 バカにされるかなと思ったがどうやら違うらしい。

 「人に限らずなんだけどさ、死んだらどうなるんだろうって時々考えるんだ。今悩んでることとか、嬉しかった思い出とか悲しんだ思いとか、そういうの全て……死んだ瞬間に消えて無くなるのかな?」

 青海くんはそう言いながら遠い目をした。

 「色んな思いが全てが無くなって消えるとも思えないよね。そういうのが残った結果が幽霊なのかなあって思うこともあるけど……」

 私は自分の考えを青海くんに伝える。

 青海くんは少しだけ嬉しそうに微笑む。

 「……そうだといいなあ……」

 そう言いながらテレビ画面に視線を戻した青海くんの横顔は少し寂しげだった。

 ……青海くんの本当のご両親は既に他界している。

 両親の事を考えているのだろうか?

 ……なんだか切なくなってしまい私もTV画面を見る。

 その瞬間に画面いっぱいに幽霊に扮した俳優さんが映った。

 「っ!!!」

 再現VTRなので演技だと分かっていても、正直怖かった。

 声を漏らさずに済んだのではなく、驚きすぎて声が出せなかったのだった。

 隣にいた青海くんもビクンと震えていた。

 「うわあ……今の怖かったねえ」

 青海くんはそう言いながら照れたように笑った。

 「うん、ほんとだねっ」

 なんとかそう返しながら深呼吸した。



 
 ホラーが好きなくせに、作られたものであっても幽霊を見るのは好きではなかったのでいつも幽霊が出そうなシーンになると視線を逸らしたり、目を閉じたりしてその姿を見るのは避けていた。

 なぜだろう、作り物であっても幽霊など形として記憶に残すと後で思い出してしまう。

 それが怖かった。

 怖いならホラーなど見なければいいのだが、なぜかつい見たくなってしまうのだった。

 怖いもの見たさ……。

 好奇心やら正体を知らないと不安な気持ちが怖いもの見たさに繋がるらしいが……

 
 
 心霊番組を見終えた青海くんがそろそろ寝ようかと言いながらソファーから立ち上がる。

 

 ★



 
 怖い夢を見ていた。
 小さい頃の事やら最近の怖かった出来事がごちゃ混ぜになって、意味の分からないものになっていた。
 私はそれに酷く怯えながら逃げようとするが何故か身体が全く動かない。
 
 走りたいのに脚は動かず、その場で立ち竦む。
 こんなのはたくさんだ。
 早く目覚めたい。
 夢だとは分かったが逃れられながった。

 「……さん!水野さんって!!」
 途方に暮れかけていたところに肩を強く揺さぶられて、やっと目を覚ますことができた。
 歪んだ視界に映るのは心配そうに顔を覗き込んでいる青海くんの姿だった。
 「……海くん……」
 掠れたような声しか出せなかったが青海くんはホッとしたように微笑んでくれた。

 柔和な顔つきの青海くんが微笑むとそこだけ春が来たように空気が穏緩やかになる。
 ……何か安心するなあ。

 思わず青海くんの肩に縋り付く。
 青海くんは嫌がる様子もなかったのでそのまま少しだけ泣いてしまった。

 息を吸うたびに青海くんの優しい匂いがして、とても気分が落ち着いていく。

 青海くんはしばらく私の背中を撫でてくれていた。

 ……あったかくって、ふんわりいい匂い……

 


 「よく寝てるな……」
 聞き慣れた声に目を覚ます。
 兄の真実に見下ろされていた。
 「んっ……シンジっ……」
 起きようとすると真実はタオルケットを掛け直し始める。
 「……?」
 真実は面白そうな顔で笑う。
 「まだ早いからもう少し寝てろ。透もよく寝てるしな」

 そう言われて青海くんと一緒に眠っていることに気づく。
 真実は青海くんの頭を撫でると部屋を出て行った。
 すぐそばで穏やかな寝息を立てている青海くんを見る。
 
 
 昔から家族以外の男の子は苦手だった。
 ……でも青海くんはイヤじゃない。

 ……

 なんだか嬉しくなりながら再び目を閉じる。

 今なら幸せな気分の二度寝ができる気がした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

灰かぶり姫の落とした靴は

佐竹りふれ
ライト文芸
中谷茉里は、30手前にして自身の優柔不断すぎる性格を持て余していた。 春から新しい部署となった茉里は、先輩に頼まれて仕方なく参加した合コンの店先で、末田皓人と運命的な出会いを果たす。順調に彼との距離を縮めていく茉莉。時には、職場の先輩である菊地玄也の助けを借りながら、順調に思えた茉里の日常はあることをきっかけに思いもよらない展開を見せる……。 第1回ピッコマノベルズ大賞の落選作品に加筆修正を加えた作品となります。

終着駅 もしくは 希望(スペランツァ)の物語(2021)

ろんど087
ライト文芸
冬ざれた終着駅の近く。「大道芸人の広場」で似顔絵描きをする若者が出会う「わけあり」の人たち。 彼らはいつもBar「スペランツァ~希望」でそんな人々ととりとめもなく語り合う。 絵描き、フィドル弾きと踊り子、魔女、殺し屋、道化師、天使と牧師。 彼らは皆、心の中に喜びと苦悩を抱えていた。 そしてその年の聖夜には……。 *** 数年前にPixivで公開した作品を、加筆修正しました。

助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません

和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる? 「年下上司なんてありえない!」 「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」 思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった! 人材業界へと転職した高井綾香。 そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。 綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。 ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……? 「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」 「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」 「はあ!?誘惑!?」 「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」

なんとなく

荒俣凡三郎
ライト文芸
短編集

『少女、始めました。』

葵依幸
ライト文芸
心と体を満足させる「少女宅配サービス」 “貴方に寄り添うパートナー”! 失ってしまったあの想いを、傷ついてしまった心を癒すために、貴方にピッタリな一体をお届けいたします。 そんな詐欺のようなサイトを間違ってクリックしてしまった男の元に届けられたのは一人の少女だった。

妹は欲しがりさん!

よもぎ
ライト文芸
なんでも欲しがる妹は誰からでもなんでも欲しがって、しまいにはとうとう姉の婚約者さえも欲しがって横取りしてしまいましたとさ。から始まる姉目線でのお話。

どうぞ二人の愛を貫いてください。悪役令嬢の私は一抜けしますね。

kana
恋愛
私の目の前でブルブルと震えている、愛らく庇護欲をそそる令嬢の名前を呼んだ瞬間、頭の中でパチパチと火花が散ったかと思えば、突然前世の記憶が流れ込んできた。 前世で読んだ小説の登場人物に転生しちゃっていることに気付いたメイジェーン。 やばい!やばい!やばい! 確かに私の婚約者である王太子と親しすぎる男爵令嬢に物申したところで問題にはならないだろう。 だが!小説の中で悪役令嬢である私はここのままで行くと断罪されてしまう。 前世の記憶を思い出したことで冷静になると、私の努力も認めない、見向きもしない、笑顔も見せない、そして不貞を犯す⋯⋯そんな婚約者なら要らないよね! うんうん! 要らない!要らない! さっさと婚約解消して2人を応援するよ! だから私に遠慮なく愛を貫いてくださいね。 ※気を付けているのですが誤字脱字が多いです。長い目で見守ってください。

遠い日の橙を藍色に変えるまで

榎南わか
ライト文芸
朝日に濡れた、神社から見下ろすこの瑞々しい景色を、はるか昔にも同じように見た。 あの日、私は貴女にはまだ出会っていなくて、まだ痛みを知らない子供だった。 隣にいた君の想いにも気付かぬままで、ずっと同じような日が続いて行くと信じて疑わなかった。 だから今、2回目の生を巡っているこの身体に誓っている。 私の想いなんてどうだっていい。 貴女を、私は救いに来たよ。

処理中です...