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真実の帰宅
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ホラー映画を見た次の日、真実の合宿の終わる前日に心霊番組が放送されていた。
心霊写真に心霊体験。
自称霊能力者の人が集まって恐怖体験やら除霊やらをする番組が夕方から放送されている。
夕飯後に青海くんとその番組を見ていた。
「水野さんってホラー好きだけど、幽霊とかって信じてる?」
唐突にそんなことを言い出す青海くん。
バカにされるかなと思ったがどうやら違うらしい。
「人に限らずなんだけどさ、死んだらどうなるんだろうって時々考えるんだ。今悩んでることとか、嬉しかった思い出とか悲しんだ思いとか、そういうの全て……死んだ瞬間に消えて無くなるのかな?」
青海くんはそう言いながら遠い目をした。
「色んな思いが全てが無くなって消えるとも思えないよね。そういうのが残った結果が幽霊なのかなあって思うこともあるけど……」
私は自分の考えを青海くんに伝える。
青海くんは少しだけ嬉しそうに微笑む。
「……そうだといいなあ……」
そう言いながらテレビ画面に視線を戻した青海くんの横顔は少し寂しげだった。
……青海くんの本当のご両親は既に他界している。
両親の事を考えているのだろうか?
……なんだか切なくなってしまい私もTV画面を見る。
その瞬間に画面いっぱいに幽霊に扮した俳優さんが映った。
「っ!!!」
再現VTRなので演技だと分かっていても、正直怖かった。
声を漏らさずに済んだのではなく、驚きすぎて声が出せなかったのだった。
隣にいた青海くんもビクンと震えていた。
「うわあ……今の怖かったねえ」
青海くんはそう言いながら照れたように笑った。
「うん、ほんとだねっ」
なんとかそう返しながら深呼吸した。
ホラーが好きなくせに、作られたものであっても幽霊を見るのは好きではなかったのでいつも幽霊が出そうなシーンになると視線を逸らしたり、目を閉じたりしてその姿を見るのは避けていた。
なぜだろう、作り物であっても幽霊など形として記憶に残すと後で思い出してしまう。
それが怖かった。
怖いならホラーなど見なければいいのだが、なぜかつい見たくなってしまうのだった。
怖いもの見たさ……。
好奇心やら正体を知らないと不安な気持ちが怖いもの見たさに繋がるらしいが……
心霊番組を見終えた青海くんがそろそろ寝ようかと言いながらソファーから立ち上がる。
★
怖い夢を見ていた。
小さい頃の事やら最近の怖かった出来事がごちゃ混ぜになって、意味の分からないものになっていた。
私はそれに酷く怯えながら逃げようとするが何故か身体が全く動かない。
走りたいのに脚は動かず、その場で立ち竦む。
こんなのはたくさんだ。
早く目覚めたい。
夢だとは分かったが逃れられながった。
「……さん!水野さんって!!」
途方に暮れかけていたところに肩を強く揺さぶられて、やっと目を覚ますことができた。
歪んだ視界に映るのは心配そうに顔を覗き込んでいる青海くんの姿だった。
「……海くん……」
掠れたような声しか出せなかったが青海くんはホッとしたように微笑んでくれた。
柔和な顔つきの青海くんが微笑むとそこだけ春が来たように空気が穏緩やかになる。
……何か安心するなあ。
思わず青海くんの肩に縋り付く。
青海くんは嫌がる様子もなかったのでそのまま少しだけ泣いてしまった。
息を吸うたびに青海くんの優しい匂いがして、とても気分が落ち着いていく。
青海くんはしばらく私の背中を撫でてくれていた。
……あったかくって、ふんわりいい匂い……
「よく寝てるな……」
聞き慣れた声に目を覚ます。
兄の真実に見下ろされていた。
「んっ……シンジっ……」
起きようとすると真実はタオルケットを掛け直し始める。
「……?」
真実は面白そうな顔で笑う。
「まだ早いからもう少し寝てろ。透もよく寝てるしな」
そう言われて青海くんと一緒に眠っていることに気づく。
真実は青海くんの頭を撫でると部屋を出て行った。
すぐそばで穏やかな寝息を立てている青海くんを見る。
昔から家族以外の男の子は苦手だった。
……でも青海くんはイヤじゃない。
……
なんだか嬉しくなりながら再び目を閉じる。
今なら幸せな気分の二度寝ができる気がした。
心霊写真に心霊体験。
自称霊能力者の人が集まって恐怖体験やら除霊やらをする番組が夕方から放送されている。
夕飯後に青海くんとその番組を見ていた。
「水野さんってホラー好きだけど、幽霊とかって信じてる?」
唐突にそんなことを言い出す青海くん。
バカにされるかなと思ったがどうやら違うらしい。
「人に限らずなんだけどさ、死んだらどうなるんだろうって時々考えるんだ。今悩んでることとか、嬉しかった思い出とか悲しんだ思いとか、そういうの全て……死んだ瞬間に消えて無くなるのかな?」
青海くんはそう言いながら遠い目をした。
「色んな思いが全てが無くなって消えるとも思えないよね。そういうのが残った結果が幽霊なのかなあって思うこともあるけど……」
私は自分の考えを青海くんに伝える。
青海くんは少しだけ嬉しそうに微笑む。
「……そうだといいなあ……」
そう言いながらテレビ画面に視線を戻した青海くんの横顔は少し寂しげだった。
……青海くんの本当のご両親は既に他界している。
両親の事を考えているのだろうか?
……なんだか切なくなってしまい私もTV画面を見る。
その瞬間に画面いっぱいに幽霊に扮した俳優さんが映った。
「っ!!!」
再現VTRなので演技だと分かっていても、正直怖かった。
声を漏らさずに済んだのではなく、驚きすぎて声が出せなかったのだった。
隣にいた青海くんもビクンと震えていた。
「うわあ……今の怖かったねえ」
青海くんはそう言いながら照れたように笑った。
「うん、ほんとだねっ」
なんとかそう返しながら深呼吸した。
ホラーが好きなくせに、作られたものであっても幽霊を見るのは好きではなかったのでいつも幽霊が出そうなシーンになると視線を逸らしたり、目を閉じたりしてその姿を見るのは避けていた。
なぜだろう、作り物であっても幽霊など形として記憶に残すと後で思い出してしまう。
それが怖かった。
怖いならホラーなど見なければいいのだが、なぜかつい見たくなってしまうのだった。
怖いもの見たさ……。
好奇心やら正体を知らないと不安な気持ちが怖いもの見たさに繋がるらしいが……
心霊番組を見終えた青海くんがそろそろ寝ようかと言いながらソファーから立ち上がる。
★
怖い夢を見ていた。
小さい頃の事やら最近の怖かった出来事がごちゃ混ぜになって、意味の分からないものになっていた。
私はそれに酷く怯えながら逃げようとするが何故か身体が全く動かない。
走りたいのに脚は動かず、その場で立ち竦む。
こんなのはたくさんだ。
早く目覚めたい。
夢だとは分かったが逃れられながった。
「……さん!水野さんって!!」
途方に暮れかけていたところに肩を強く揺さぶられて、やっと目を覚ますことができた。
歪んだ視界に映るのは心配そうに顔を覗き込んでいる青海くんの姿だった。
「……海くん……」
掠れたような声しか出せなかったが青海くんはホッとしたように微笑んでくれた。
柔和な顔つきの青海くんが微笑むとそこだけ春が来たように空気が穏緩やかになる。
……何か安心するなあ。
思わず青海くんの肩に縋り付く。
青海くんは嫌がる様子もなかったのでそのまま少しだけ泣いてしまった。
息を吸うたびに青海くんの優しい匂いがして、とても気分が落ち着いていく。
青海くんはしばらく私の背中を撫でてくれていた。
……あったかくって、ふんわりいい匂い……
「よく寝てるな……」
聞き慣れた声に目を覚ます。
兄の真実に見下ろされていた。
「んっ……シンジっ……」
起きようとすると真実はタオルケットを掛け直し始める。
「……?」
真実は面白そうな顔で笑う。
「まだ早いからもう少し寝てろ。透もよく寝てるしな」
そう言われて青海くんと一緒に眠っていることに気づく。
真実は青海くんの頭を撫でると部屋を出て行った。
すぐそばで穏やかな寝息を立てている青海くんを見る。
昔から家族以外の男の子は苦手だった。
……でも青海くんはイヤじゃない。
……
なんだか嬉しくなりながら再び目を閉じる。
今なら幸せな気分の二度寝ができる気がした。
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