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図書室での遭遇

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 私は一人で本を読んだりする事が好きだったので、その日も一人で図書室に来ていた。

 ホラー小説が好きだったのでそのジャンルの本棚を眺める。

 あ、あの本見たことない…

 頭上で見つけた未だ読んだことのない本を取ろうと背伸びをする。

 しかしあと少しなのに届かない。

 「ん?それ取りたいの?」

 不意に声が聞こえて、横から手が伸びてくる。

 「っ!?!」

 突然の事で驚いていると、その手は私が取りたかった本を抜き取った。

 「危ないから無理しないで踏み台使った方がいいよ」

 すっと本を手渡される。

 「あ……ありがとう」

 何とかお礼を言って顔をあげる。

 そこには例の……青海くんがいた。

 
 「水野さんも本好きなんだね」

 返事ができずにいると青海くんは困った様に微笑んだ。

 その時青海くんが持っている本に目が止まってしまった。

 ……マナーの本!?

 「どうしてマナーの本なんて読んでるんですか?」

 驚いてつい聞いてしまった。

 青海くんは困ったように微笑む。

 「色々勉強中なんだ。オレ宇宙人みたいだから。じゃあね」

 意味がわからず戸惑っていると青海くんはそのまま去ってしまった。

 あんなにまだ若いのにマナーの本って……。



 
 家に帰り、帰ってきた真実にその事を話すと真実が複雑そうな顔でぼやく。

 「アイツ……分からないなら俺に聞けって言ったのに。気を使いやがって……」

 
 青海くんは家の事情で長い間一人で過ごしてきた。
 そのため、普通の人たちに混ざって社会生活を過ごすにあたって分からないことが多いのだそうだ。
 集団で過ごす事、他人の感情に人との距離の取り方……

 多分それを本から学ぼうとしているのだと兄は言う。
 
 「泉が男が嫌いなのを分かってて頼むんだけど、お前も透と一緒に過ごしてやってくれないか?本来なら俺がずっと一緒に居てやりたいんだけど放課後は部活あるし。透……アイツには誰かと過ごす時間が必要なんだよ」

 真実の熱心さと、真剣な表情に無碍には断れなかった。

 「進路の事を聞いた時にアイツ言ったんだよ。今まで将来のことを考えたことはなかった。これから先どう生きたらいいのか分からないって……」

 ふうっとため息をついた真実は忌々しげに話を続ける。

 「ここまで頼むんなら言っておかないとフェアじゃないと思うから教えとく。透、今の所で引き取られるまで酷い虐待受けていたんだ。アイツはイヤがって見せたがらなかったけど、身体にその時の傷が残ってるんだ」

 驚いて顔をあげると真実と視線がぶつかる。

 「長い間ちゃんとメシとか食べさせて貰えてなかったせいで……アイツイヤに小さいだろ?お前とそんなに身長も変わらないしガリガリで……。今の家に引き取られて最近やっと普通の生活をさせて貰えるようになったみたいだ。そのせいで普通の生活に慣れるまで時間が掛かったし、今必死に学んでる最中なんだよ」

 ぽたっと真実の目から一雫の涙が流れた。

 真実は慌てたように目元を拭い、呟いた。

 「俺は透を放ってなんかおけないからな。……まあ気が向いたら構ってやれよ」

 少し気まずくなってしまう。

 真実は部屋に戻り、私も部屋に戻ることにした。

 
 …青海くんか……
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