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39、昊人の昔と今
しおりを挟む「昊人さんがいないのに、ここにくるなんて、ずうずうしいというか、何と言うか・・・。」
裕と智子に聞こえる声で毒を吐くのは、以前もここで会った事のある笹本梨奈だった。
梨奈が昊人に思いを寄せている事は、前回の様子から察しがついていた。
あの日、昊人に連れ去られた裕を目の敵にするのは理解できた。
裕たちが何も返さずにいると、調子にのって梨奈は続ける。
「柊馬さんから聞いたけど、昊人さんと付き合っているって本当?・・・あなた、音楽の世界の事なんて知らないでしょ?そんなの、すぐに飽きられて、すぐにさよならよ!」
「ちょっと!」
梨奈の酷い言い様に智子が席を立つ。
智子の前に手を出して止める裕は静かに首を振る。
クレームをつける相手には、吐き出させるだけ吐かせればスッキリとして満足してくれる場合がある。
裕の仕事の対処法の一つ。
ただ、梨奈の言う事は当たっている。
音楽の世界なんて裕は知らない。
少しは昊人を理解したくて、最近はRUPOSERの曲だけではなく、有名なCMにも使われるようなクラシックをスマホに入れて聞くようにしていた。
それがどれだけの意味があることなのかわからない、と裕は思っていたが何もしないではいられなかった。
「・・・そういえば知ってるかしら?今度リリースされるCDのこと。」
「・・・CD?」
ニヤリと唇の端を上げて笑う梨奈は獲物を狙う目をしていた。
「あら?知らないようだから、親切に教えてあげるわね。年末に日本でリリースするCDがあるの。主にヨーロッパで活躍する日本人のオペラ歌手YAIKOさんがRUPOSERと競演できるなら、と実現した話しだそうよ。でもね・・・RUPOSERじゃないのよ。本当は昊人さん1人を希望したらしいわ。」
嫌な予感がする。
梨奈の話の続きを聞きたくないけど、真相も知りたいと心が暴れる裕。
「これは知ってるかしら?・・・もともと、YAIKOさんは昊人さんと学生時代には付き合っていたのよ。そのまま結婚して2人でヨーロッパへ行くとみんな思っていたもの。どうしてお別れになったかは知らないけど、二人ともいい歳なんだし、そろそろ、元鞘っていうのかしら、再スタートもアリよね。・・・今だってそのレコーディングなんでしょ?毎日、一緒にいればねえ。うふふ・・。」
満足そうに微笑む梨奈。
自分だって昊人に憧れていたのではなかったのか、と聞きたくなる。
唇を噛み、ぐちゃぐちゃした思いにひたすら耐える裕。
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