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37、謝罪の誤解

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「裕ちゃんが、俺のしらない男と食事をにこやかにしているのを見て、頭に血が上った。」

「にこやかになんてしてない!・・・それに、名前・・・。」

「名前?」

すぐに反論する裕だったが、昊人の気になるところはそこではなかった。

「あの時は呼び捨てだったでしょ?・・・またちゃん付けに戻ってる。」

さっきまでの密接な交わりが呼び捨ての延長だったように思える。

裕ちゃん、といつも呼ばれていたのに、今聞くと、友人とかただの知り合いに戻ったように聞える。

「ああ~。親しそうに演出するには呼び捨てがいいかな、てね。・・・呼び捨てがいい?」

選択権を与えられると、さてどうかな?と考えてみる。

「呼ばれるまで、考えたことなかったけど・・・今は、ちゃんが付いていると少し距離を感じますよ。」

「・・・わかった。・・・裕。」

改めて呼ばれて照れて頬を染める裕を昊人はそっと抱きしめた。

昊人の胸に頭をくっ付けていると、心臓の音が静かに聞えてきた。

安心する・・・。

頭の上から昊人の声が聞こえる。

「・・・裕を好きだと思う前に、独占欲とか嫉妬とかそんなことばかりが前に出て来てイヤになる。・・・靴も脱がないうちにキスをして・・・気がついたら夢中で裕に酔っていた。」

ちょっと恐かったけど、自分もそうだった事に思い当たる。

「なのに、裕が謝るから・・・また誤解した。」

「誤解?」

首を無理やり上げて昊人の顔を見る。

「・・・浮気してましたって、肯定されているみたいに思えた。」

「違う!違います!」

昊人の胸に両手を付いて身体を離す。

「あれは、昊人さんっていう彼氏がいるのに他の男の人と2人きりで食事していたなんて、きっと不快に思ったと・・・。だから、そんな思いをさせてごめんなさい、て。」

「わかってるよ。・・・冷静になったから今はちゃんとわかってる。ごめんな。」

再び昊人の胸に抱き寄せられる。

今度は自分のドキドキが身体から響いて耳の中に大きく聞える。

しばらくそうしているとドキドキが収まり気分も落ち着いてくる。

昊人の音を奏でる大きな手が背中を抱きしめている事に気付く。

自分はピアノは弾けないけど・・・。

昊人の背中に裕は手を回す。

自分の想いが少しでも伝わればいいなあ、と掌から熱を送りながら。





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