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33、玄関の攻防
しおりを挟む店を出ると昊人はすぐにタクシーを拾った。
レディーファーストとばかりに裕を先に乗るように促す仕草は、あくまでも紳士的だ。
運転手に告げる行き先は昊人のマンション。
その後は何も会話もせずに沈黙の車内。
空気が重いなあ、と裕は感じたがあえて口を開く事はしなかった。
前回と同じようにマンションの入り口でコンシェルジュに挨拶をされ裕はコクンと首だけで挨拶をした。
タクシーを降りてからずっと裕の手を離さない昊人。
そのぬくもりが消えたのは昊人の部屋に入ってすぐの事。
鍵を閉める音と同時にドアに裕の背中は押し付けられた。
痛みがくるかも、と両目を思いっきり閉じてその時を待ったが、痛みは無かった。
昊人が、押し付ける力を加減したのだろう。
閉じていた目を恐る恐る開けば、裕の顔の両脇に昊人が手を付いた。
まるで閉じ込めるみたいに。
いつもの優しく包み込むような眼差しとは違い、鋭く獲物を狙うような目を向けられ裕は怯む。
そのすぐ後に裕は自分の唇に冷たさを感じた。
昊人が唇を重ねてきたのだ。
夜の外気に触れたからなのか、昊人の唇は裕のそれより温度が低かった。
でも、そんな考えは次の瞬間には飛んでいく。
重なり合っていただけの唇に力を感じる。
執拗に何度も角度を変えて、開くようにと促してくる昊人のキスは巧みだ。
酸素を求めて開いた隙に侵入してきた舌が口内を撫で始める。
「やぁ・・・んっ・・・っ」
酸欠寸前、もう無理!と思った時に離された唇から伸びた銀糸を器用に絡め取る仕草が艶かしくて目を開けている事ができない裕。
酸素が足りていない逆上せた頭で考えるのは昊人のキスの上手さ。
昊人の過去の女性に嫉妬とともに切なさを感じた。
裕の肩を引き寄せ、頭を抱きこむ昊人。
「・・・昊人さん?」
さっきまで呼吸さえも許さない、と言わんばかりの執拗さが無くなり今は壊れ物を抱くように裕の頭を静かに包んでいる昊人の腕。
何も言葉を発しない昊人。
でも、その腕の優しさに今日の元彼と2人きりで食事をするという行動は、自分の中でも許しがたい事だったと反省が浮かんでくる。
「・・・ごめんなさい。」
「っ!!」
「きゃっ!」
裕の謝罪が切欠だったかのように、また昊人の視線が鋭さを増した。
身体を急に離され裕は足元をすくわれる。
不安定さから目の前にある昊人の首に咄嗟に腕をまわす。
背中と膝裏にあたる昊人の腕の感触。
いわゆるお姫様抱っこをされ、一気に恥ずかしさが顔を出す。
本当なら嬉しいシチュエーションだが今はどうしてこうなったのかという恐怖と距離が近い昊人の存在に羞恥心が混ざる。
そして、運ばれた先は、大きなベッドの上。
初めて入る昊人の寝室だった。
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