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25、言えない
しおりを挟む広いソファに2人並んで座る。
さすがにピッタリとくっつく訳にはいかないが、あまり距離を取るのも避けているようで中途半端に自分の半身だけ空けた。
「この前のデートの時も、さっきも手を繋いだよね?裕ちゃんの”基準”はどうだった?気持ち悪くなかった?」
気持ち悪いか、悪くないのかと聞かれればそれは否。
声にはしないもののコクリと小さく頷いて見せた。
渡されたカップの中のラテを見る。
一口飲んだ裕の方に白と茶色のマーブル模様が寄っているのが見える。
”はい”と声に出す事はなんだか恥ずかしい気持ちがあってできなかった。
頷くなんて幼稚な感じがして自己嫌悪。
「それじゃあ、初めて会った日に頬にキスしたよね。その時はどうだったの?嫌だった?」
あの日の事を辿る。
夜遅いと言っても駅のホームには人がそれなりにいたから、恥ずかしかった事は覚えている。
”またね”と言った昊人のセリフが現実になればいいなあ、と少しだけ願ったあの時。
でも、嫌なんて感情はなかった。
「・・・嫌でも、気持ち悪くもなかったです。・・・嬉しかった、かも。」
勇気をだして最後付け加えた。
少しでも裕の気持ちが伝わればいいなあ、と思ったもののハッキリと言えない自分はあざとい気がする。
今の裕はそれが精一杯。
「かも?自分の事なのに疑問系?・・・ちゃんと考えてみて。」
昊人が裕に身体ごと向く。
「・・・疑問系にしたのは・・・あの頃は昊人さん対して、会ったばかりでステキな人だなあって・・・憧れみたいな気持ちがあったから。嫌じゃない事はわかるけど。顔が赤くなったのは、それが恥ずかしいからか、嬉しかったからかなんてわからない・・・。でも、今は・・・。」
そこまで一生懸命つむいでみたけど、それ以上、裕は言葉をつなげられなかった。
それを言ってしまって拒絶されたら、もう会えないと思うから。
そう思うと躊躇してしまう。
気になって気になって、自分でチケットをとってコンサートに行くという自発的な行動。
そんな行動する力をくれた昊人に対しての気持ちは大人の女子になって初めて。
憧れからスタートした恋が始まりかけている。
もう自分の中では始まっている。
でも、ここで終わるかもしれないなら始まりかけている事にして、逃げ道を作っておきたい。
大人になればなるほど、逃げ道の作り方を覚えて、自己防衛してしまう。
傷つく自分が恐くて、恐がりになってしまう。
一度知ってしまった淡い温かな味を手放すのは勇気がいるから。
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