上 下
21 / 48

21、女の感?

しおりを挟む

いらっしゃい、という柊馬の営業スマイルから2~3言会話した3人。

「・・・裕ちゃん、きてるよ。」

少し低めの柊馬の声に店内を見渡す昊人と目が合う裕。

あれ、なんか急に嫌な気分になった。

もしかして会えるかも、という淡い期待にドキドキしていたのに、女子同伴を見てその気分は急降下。

今日きたのは失敗だったかな、と落ち込み始める裕。

でも、裕を見て迷いも無く近ずく昊人はいたって普通の顔。

その行動に、ほったらかしの品の良い女子と裕は驚く。

「ここに来るなら連絡くれたらよかったのに・・・。友達?」

知り合いを見つけて、なんだ来てたんだ、くらいに軽く声をかけてくる昊人。

やっぱり盛り上がっていたのは自分だけか・・・と表には出さずに心の中で溜め息をつく。

そして、昊人が自分の視界に智子を入れた事を理解する。

「はい。高校からの友達で・・・。2人で飲んでいて、コーヒーでも飲もうかということになって、急にこちらへ・・・。」

答えなど用意していなくて、しどろもどろに説明する。

「そうなんだ。・・・こんばんは、嘉瀬です。」

軽く会釈をする昊人。

「野田智子ですぅ~。」

営業スマイルで智子が立ち上がって昊人の腕に触れようとした瞬間、一足早く、2人の間に人が割り込んだ。

昊人と一緒に来た品の良い女子が、さも自然に昊人の腕を掴まえる。

昊人が掴まえられた腕に視線を落とし、それから女子を少しだけ驚きの表情で見る。

昊人の視線にニッコリと微笑を返す女子。

「お知り合いの方ですか?お仕事関係?私にも紹介してください。」

品の良い女子は、昊人、裕、智子を順番にしっかりと目を合わせながら微笑みを向ける。

ズカズカしているのにそう思わせないように振舞う感じ、もしかして苦手系女子かも、と裕は思う。

「・・・仕事関係ではないよ。・・・親しくしている・・・まだ友人。柊馬も知ってる子だよ。」

いつもより抑揚がない話し方の昊人。

”友人”

それが今の裕と昊人を指す適切な言葉なんだ、と裕はハッキリと心に刻まれた気がした。

その言葉の前の二文字には疑問を持たず。

「裕ちゃん。こちらは、同じ先生についていた・・・今は大学の後輩でもある笹本梨奈(ささもと りな)さん。」

「はじめまして。今日は昊人さんのレコーディングのリハーサルを見学させてもらっていたんです。こんなに近くで聞いているのがすっごい贅沢でステキな時間でした。」

昊人に紹介されて、無邪気にキラキラした笑顔を振りまく梨奈。

自分と同じくらいの年かな、それとも少し上かも、でも大人っぽさより無邪気さが目立つと裕は感じた。

聞いていない事までペラペラと、さも嬉しそうに話すところが裕にはまぶしすぎた。

「・・・柊馬に会いたいって言うから、ここに来たんだ。」

そう言う昊人の顔は無表情ぽい。

いつもより表情が無い昊人が心配になるが、それより今はキラキラした梨奈がとても不快な裕。

昊人の腕にぶら下がっている光景も、自分が行けないとわかっている昊人の仕事場に行ってきたという事も、キラキラしているのも、品の良い印象も、すべて梨奈の事が気に入らない。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

花の器

あた
恋愛
黒田ユキナは、20歳にして母を亡くした陶芸家の卵。ある日、華道家の御曹司が近づいてきて……。

燃えるような愛を

皐月もも
恋愛
お前が、俺に火をつけた――貴族令嬢の身代わりで参加した仮面舞踏会で、フラメ王国の王子に見初められたピアノ講師フローラ。彼の強引なアプローチに戸惑いながらも宮廷ピアニストとしてフラメ城に残ることになって…… 強引な王子と消極的なピアニストの身分差ラブストーリー。 ノーチェブックスから書籍を出していただきましたので、番外編のみの掲載です。 Extraは本編後のおまけ、クリスマス・ハロウィンはシーズンイベントとして投稿した小話です。

女性執事は公爵に一夜の思い出を希う

石里 唯
恋愛
ある日の深夜、フォンド公爵家で女性でありながら執事を務めるアマリーは、涙を堪えながら10年以上暮らした屋敷から出ていこうとしていた。 けれども、たどり着いた出口には立ち塞がるように佇む人影があった。 それは、アマリーが逃げ出したかった相手、フォンド公爵リチャードその人だった。 本編4話、結婚式編10話です。

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる

奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。 両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。 それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。 夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

彼氏彼女の事情『ビッチと噂の黒川さんとお付き合いします!』

KZ
恋愛
初めて目撃した彼氏と彼女というもののワンシーン。その時、その瞬間、初めて自分も彼女がほしいと思った。 だけど好きな女の子どころか、気になる女の子も僕にはいなくて……。 そんな自分が彼女を作るには告白するしかないとたどり着くが、その告白で僕は大きな失態をおかした。 ただ下駄箱にラブレターを入れるというだけの行為に、いざとなったら余裕がなかったのだろう。 僕は隣の席の女の子にラブレターを出したつもりが、ラブレターを女の子のではなくその隣の下駄箱に入れてしまっていたのだ。 そしてその下駄箱は入学から三ヶ月で三人と付き合い、いずれも一ヶ月で別れている女の子の下駄箱だったりした……。 告白されたら断らない、誰とでも付き合う、ビッチと周囲から呼ばれる女の子。 小柄だけど派手派手で、時折とてもしたたかな女の子。 僕は現在そんな女の子とお付き合いしています。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

処理中です...