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20、知っている
しおりを挟むカフェには誰も客がいなかった。
経営は成り立つのか、と少し心配になる。
でも、この土地も建物も柊馬の祖父の持ち物だから家賃も無く気楽にやっていると、先日の公演の前に話してくれ
た。
柊馬の祖父は、カフェのマスターは引退して、どこかの田舎で隠居生活をしているという。
はじめてきた時も座った席にすわる。
今日は小雨のせいか、あの時よりも景色がぼんやりとガラス越しに見える。
店内の緑にも囲まれているから、幻想的な世界観が日常から離れられて気分が落ち着く。
「すっごく雰囲気がいいね。気に入っちゃった!」
弾んだ声で智子は店内を眺めながら言った。
「・・・それは、ありがとうございます。」
智子と裕の間から声をかけてきた柊馬。
失礼します、と言いながら2人のオーダーをそれぞれ置く。
智子の前にはカフェマキアート、裕の前にはカフェモカ。
女子力全開で智子は、ありがとうございま~す、と裕と話すよりワントーン高めの声で返した。
裕はそれに付加えるように頭だけちょこんと下げた。
ふと、柊馬の視線が智子を見つめる。
「・・・もしかして、桃味(ももみ)ちゃん?」
あ~あ、来たよ・・・。
柊馬さんもか・・・。
裕が思ったのはいつもの事。
智子といると機会は少ないがこんな風に声をかけられる事がある。
柊馬が智子を見て芸名である「桃実」を口にするって事は、映像や写真を見て知っているという事だ。
柊馬さんも男なんだなあ・・・。
会社のむさ苦しい奴らが「桃実」のグラビアを昼休みに見ているのを見かけると、智子って人気あるなあ、くらいに思うけど、ワイルドなイケメンの柊馬が「桃実」を知っている事に幻滅というかショックを感じる。
男性の性欲って侮れない。
イケメンとか関係無い・・・。
「そうなんですぅ。」
そう言いながら柊馬の腕に手を置く智子。
「俺、結構見てます!ああ、感激だ!実物の方がだんぜん可愛いですね。」
智子の手に自分の手を重ねる柊馬。
結構見てるんだ・・・。
2人の会話を横で聞きながら、カフェモカに口を付ける。
甘くてちょっと苦い、そこが好き。
カフェに入ってすぐに智子を友達だと柊馬に紹介した。
その時も少しだけ目を開いた柊馬。
もしかして智子を知ってる?と思ったがやっぱり、だった。
柊馬がわかるって事は、昊人もわかるのかもしれない。
という事は昊人も「桃実」のビデオを見ている・・・?
そんなことを1人考えていると、急にモヤモヤしたものが身体の中に上がってくる感じがした。
「カトユ?どうしたの?眉間にシワ、よってるよ。」
智子の声で我にかえる。
「え?大丈夫、大丈夫!」
慌てて首を振る。
すると、入り口の階段下の方から人の話し声が聞こえてきた。
お客がきたのだろうと三人は思う。
「じゃあ、ごゆっくり!」
柊馬はカウンターへ戻って行った。
「・・・いい人だよ。すごく素直で・・・ああいう人をまっすぐ、て言うのかな。大人なのにめずらしい。」
小さい声で更に裕の耳に口を寄せて智子は言った。
2人できゃっきゃ言っているだけに見えたが、智子なりに能力を発動させていたのだ。
「・・・そうなんだ。・・・そうだよね。とても優しいもんね。」
裕の返事を聞いて力強く頷く智子。
「柊馬さん!お久しぶりです!」
元気で可愛い声が聞こえてきた。
その声に気を引かれ裕と智子は座ったまま振り返る。
そこには、綺麗な品の良いワンピースの女の子とその隣には昊人が笑顔で並んで立っていた。
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