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8、疑い
しおりを挟む急に恐くなってきた。
この人、きっと別世界の住人だ!
裕は、せいぜい自分へのご褒美で買う時計は2~3万だ。
それだって、ただのOLの裕なら奮発する特別な買い物。
それを、400万もの買い物を覚えてないとは・・・。
近寄らない方がいい、と裕の危険センサーが鳴り出す。
私に声をかけたのも、何か悪い考えがあってかも、疑り出す。
例えば・・・振られたばかりの落ち込んでいる女を慰めるふりして夜の世界に売り飛ばすとか?!
考えすぎか・・・でも、なんかこのカフェも隠れ家的な感じだったし、疑いはどんどん増す。
裕の思考は暗い闇社会へと向かって行った。
「・・・あれ?なんか顔色が急に悪くなってない?大丈夫?」
考えの中心にいる昊人に急に声をかけられ、ビクッと身体を震わせる裕。
「大丈夫ではないから、ちょっと帰ろうかと・・・。」
「おまたせ!」
裕が逃げようと帰る言葉を言い切らないうちに、声を載せてきたのはオーナーの柊馬。
2人の前に大き目のツルンとした白い器に入るラテを置いてくれた。
「わあ!」
途端に感動の声を上げる裕。
裕のラテは、ミルクの泡でできた熊が中央から顔を出していた。
まるで3Dのように飛び出している。
「初めてみました!すごく立体的でかわいい!」
かわいい熊のお蔭で、帰ろうかと思っていた気持ちは遠いかなたに飛ばされてしまった。
「昊人さんのは音符、ですか?」
隣に置かれた昊人のカップを見るとミルクの面に書かれたいくつのも音符が可愛らしかった。
「そ!やっぱり昊人には音楽系でしょ。」
「音楽系?」
なんのことだろう?と不思議な表情を浮かべる裕。
「・・・本当にわからないの?」
「?」
何が?と眉を寄せて柊馬と昊人の顔を見比べるように視線を迷わした。
「・・・まだ、疑ってたんだ。だから、裕ちゃんは、そんなこと関係なくここに来たんだよ。もう、わかったでしょ?疑がうのはもう辞め!」
昊人が柊馬を叱るように少しだけ強めに言い放つ。
「・・・そうだな。なんか、ごめんね。・・・そうだ!サービスで新作のストロベリーとクリームチーズのパンケーキをご馳走するよ!待てて。」
始めこそ反省の表情を見せたが、切り替えが早いようで柊馬は足早にカウンターの奥にあるキッチンへと行ってしまった。
「え?待ってください・・・いっちゃいましたね。疑うって、私が疑われていたんですよね?いったいなんですか?」
柊馬を座ったまま上半身だけ後ろにし、引きとめようとした裕だった。
でも、目すらあわせずそそくさと引き返していく柊馬がキッチンに入ると、今度は昊人に話しかけた。
「う~ん・・・。」
言いづらそうにラテの音符を見つめる昊人を黙って見つめる。
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