恋、できる？！~ピアノ王子の恋はいたって普通（女子）～

４、良い人そう

「良い事では・・・ないと思いますよ。・・・さっき、振られたばかりだから。」

「え？・・・そうなんだ。ゴメン。」

裕の言葉に立ち止まり目を伏せ、すぐに謝るイケメンの姿に慌てた。

「そ、そんな！だ、大丈夫ですよ。・・・振られたって言っても、付き合ったばかりだったし、もう、自分でも無理かな、て思っていた頃だったし、温かい飲み物一杯で切り替えられるなんて、やっぱり私はそれだけの思いしか無かったんだなあ、て・・・！」

ヤバイ！言い過ぎた！

そう思って両手で口を塞ぐが間に合うはずも無く・・・。

イケメンを見れば、キョトンと目を丸くしていた。

「そう・・・なんだ。」

口を塞いだままコクリと頷けば、イケメンは口の端を持ち上げてニコリとした。

「じゃあさ、時間あるんだよね？もう一軒行こうよ。夜カフェっていうの？お酒よりカフェでコーヒーの方が落ち着くんだ。俺みたいな夜型人間用の夜もやっててくれるカフェなんだけど、雰囲気も良い所だよ。行こうよ！」

チェーン店系のカフェ専門の裕だが、雰囲気がいい夜カフェに興味が沸いた。

さっきの買い物は生ものには保冷剤も入れてくれたので大丈夫、と判断する。

「・・・行ってみようかな。」

普段なら、こんな知り合ったばかりの男性となんて食事やお酒、ましてお茶などしない。

でも、すぐに謝る所なんか良い人そうに思えた。

仕事関係でもないのだから、今日１日の事だ。

お酒に誘われた訳でも無いのだから、いざと言う時はすぐに帰ればいい。

どうせ自分は男性に触られる事も無理な体質なんだから間違った事が起きる訳はない。

それにイケメンに誘われるなんて悪い気しないし、二度と無いかも。

いろいろな理由を付けて”行く”を選択する裕は、結局行きたいのだ。

「じゃあ、そうと決まれば行こう。・・・と。その前になんて呼べばいい？俺は昊人（こうと）て言うんだ。君は？」

「コート？洋服の？・・・私は裕、加藤　裕です。」

「裕ね。裕ちゃん！俺は洋服のコートじゃなくて日曜日の日の下に天て書いて、それと人だよ。こ・う・と。じゃあ、行こう。裕ちゃん！」

昊人は駅を指差し歩き出した。

こうと、こうと、と心で言いながら裕も駅へ。

ちゃん付けは、２６歳にはちょっとテレるよ、と思いながら。