3 / 19
3
しおりを挟む薄茶の発言に大きく溜め息を吐いた男が自分の着ていたマントを脱いで、穂乃香の肩にかけてくれた。
温かい。
「そなた、名はなんと申す?」
マントをくれた黒髪が穂乃香の目線まで腰を低くする。
「…穂乃香、坂本 穂乃香(さかもと ほのか)…です。あなたは?」
「…デフロット・ナートラーニだ。そなた…私と来るか?」
穂乃香は自分を見つめるデフロットの瞳を見つめ返す。
濃いブルーの瞳は静かで澄んでいた。
きっと怒ったら、睨まれたら怖いだろうな。
でも、まっすぐな眼差しが決していい加減な人では無い気がした。
頼る相手は目の前のこの人だけ。
あとの2人は面倒見る気もないようだ。
ここにいてもしょうがないらしいのはわかる。
「…一緒に行ってもいいの?…ですか?」
この子がこの状況を把握できていない事は明白、とデフロットは思っていた。
今でも、何の根拠も無い迷信に頼るやつらに腹が立って、このいい加減な儀式に立ち会ったのだが…見事に失敗だ。
失敗でも、召喚できなければ問題なかった。
指令を全うし失敗した証人になろうと考えていた。
召喚に成功したら、その相手の後継人となって見守ろうと思っていた。
20年前に今回同様に間違って召喚されたキョウ殿。
10年前は魔力が足りず失敗に終わった。
そして、今回…。
3回も失敗したのだから今後の儀式を止めさせる理由は充分だろう。
しかし、最悪だ。
召喚のターゲットを間違えて呼んでしまったのだから。
どうしてこんな事が。
魔力を持つ者の証であるグレーの髪をうな垂らせて途方にくれているピエリック・ベフトンは、現在一番完璧な魔力者ではなかったのか。
見れば、ホノカと申したこの子は年端もいかない子供のようだ。
この子を間違えて召喚をできなかった事、として処理するいうのならなら、この子の保護は2人より私が適任だ。
どっちみち面倒みるつもりだったのだから。
成功した者の方を想定していたのだが…。
失敗とはなんたる事だ。
「ああ、かまわない。…幼いように見えるが、歳はいくつだ?」
「…22、です。」
「…!!」
本当に?
そうは見えないが。
15~6歳だろ?
22歳は加算しすぎだ。
しかし、こんな状況で嘘をつく余裕はないだろうなあ。
適当なところに嫁がせるとしても、あまり年が過ぎると不利なのだが…。
この国の婚姻適齢年齢は18歳前後。
22歳で後妻も可哀想な…。
「では、行くとするか。」
そう言って穂乃香の肩にかけたマントで更に身体も顔もすっぽり包んで抱っこをするデフロット。
「見つかると面倒だ。しばし、我慢されよ。」
デフロットの身体に伝わるように声を出さずに頷く穂乃香だった。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる