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78 (終話)

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屋敷の前にはいつものように、城に行くためにアンドレア用の馬が用意されていた。
そして、警護の騎士が二人。
屋敷の扉の前には、執事のバルドとエルヴィナ付き護衛女性騎士リア、侍女のアンナ、そしてエルヴィナの四人がアンドレアの登城の見送りをするのが毎日の景色だ。
由緒ある公爵家の主を見送るにはいささか質素と言える人数だが、使用人のそれぞれの仕事もあるのだからそれを遂行しろ、というアンドレアのお達しが出ているからの結果だ。

「今日もよろしく頼む。」

そう言って馬に近づきアンドレアは馬の首元を撫でる。
撫でられた馬も気持ちよさそうにして蹄で地面を何度かかく。
これも毎朝の景色。

「お気をつけていってらっしゃいませ。」

アンドレアに向かって綺麗なお辞儀をするバルドに頷くアンドレア。

「・・・エル。」

玄関先に振り向いたアンドレアの呼ぶ声に、小さな笑みを浮かべてドレスの裾を丁寧に持ち静々と近づくエルヴィナ。
エルヴィナの腰を軽く引き寄せ、それを合図に二人の唇が重なる。
ほほえましい新婚の公爵夫妻の挨拶に使用人一同も笑みを浮かべる。
そして、これも毎朝の景色だ。

「では・・・行ってくる。」

「はい。お気をつけて。」

「気を付けるのは・・・エルの方だ。」

アンドレは馬に跨ると凛々しい手綱さばきで馬を走らせた。
それを愛おしい目で姿が見えなくなるまで見送るエルヴィナにバルドは声をかける。

「奥様、お身体を冷やされてはよくありませんよ。アンドレア様も心配されておいででした。さあさあ中へ。本日はお腹のお子様のための産着など見本を持ってくると洋装店の店主が言ってましたので、それまでゆっくりお休みください。」

「・・・産着ってこんなに早く用意するものなの?」

そう言って自身で撫でるエルヴィナのお腹の膨らみは、ドレスの上からではわからないほどの僅かなもの。
正式に公爵夫人になって10か月目に懐妊がわかり、ユーゴ公爵家はもちろんエルヴィナの実家であるウォルトン伯爵家も喜びに包まれた。
それから更に2か月、結婚して1年がたつ今日は、二人で静かに記念日を祝いたかったアンドレアの願いは叶わず、隠居しているアンドレアの両親やウォルトン伯爵夫妻も屋敷にやってくることになっている。
どうせならと、自分たちだって初孫の産着なども選びたいと言い出して、本日洋装店の者も屋敷に呼ばれたのだ。
アンドレアとしては、久しぶりに会うかわいい嫁とまだ見ぬ愛おしい孫を両親たちはいいおもちゃにしてしまうのではないか、と心配していたのだ。
それでエルヴィナが疲れてしまっては、記念日の祝いどころではないと両親が来るのを断ったのだが・・・

「せっかくお祝いしていただけるのなら嬉しいことではないですか?」

と諭されてしまい、それを聞いたアンドレアの両親はますますエルヴィナをかわいい嫁と認識する始末。
アンドレアにとっては幸か不幸か。


「少しづつご準備されることはいいことかと思いますよ。赤ちゃんは汗をかくものです。産着がたくさんあってもよろしいのでは?」

「それもそうね。・・・みんながこの子と会うのが待ち遠しいと思ってくれていることが、私はとっても嬉しいことですもの。」

それを聞いてバルドはにこやかに頷き、エルヴィナを屋敷へと導く。
エルヴィナは幸せで胸を温めながら屋敷の扉をくぐった。







******


明日は短いですが番外編をアップする予定です。




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