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王都にあるユーゴ公爵家に戻ってきて4日がたった。

静養させてもらっていた村から帰ってきた時、お父様・お母様・お兄様が公爵家で出迎えてくれた。
何事にも厳しい姿勢をとっていたお兄様が、涙を浮かべながら抱きしめてくれた時は、安心より驚きが大きすぎて、心配させてしまった侘びと感謝を口にする事ができなかった。
でも、すぐにアンドレア様に引き離されてしまったけど。

湯浴みの後、こうしてリアの入れてくれたお茶を口にしていると、あんな出来事が自分におこったとは、まるで信じられないくらい、他の世界の事のように感じる。
それだけ、ここユーゴ公爵家の、この部屋で過ごす事が、私の日常になっていたんだなあ、と実感する。

暖かい部屋と温かいお茶で身体が少し温まり過ぎた気がする。
大きな窓に近寄り、カーテンを手で開けて空を見上げた。
いつもより大きく見える、少し黄色ぽい月が、静かに光を放っていた。

あの日もこのような光る月を見れたなら、少しは心を落ちつかせる事ができたのだろうか?
不安で気が触れてしまいそうなあの長い夜。
そうしたら、もっとジェラールに何か言ってあげられたのだろうか?
イヤ・・・それはないかな。

あの出来事から、私の頭の中は、疑問ばかり浮かんでは消え、また浮かんでは消える。
答えなど見つからないとわかっているのに、どうしようもなく疑問が次から次とわいてくる。
お医者様は、まだ混乱しているからだという。
しばらくは続くが、いずれ落ち着くと・・・。
正直、それを待つのが辛い。

でも、こんな月を見ていると、そうなる前の穏やかな気持ちを一瞬だけ思い出すことができる。



え?アンドレア様?

月から視線を落とした先にアンドレア様がいた。
そこは上の階に続く階段の途中にある踊場から繋がる小さなテラス。
私と同じ様に月を見ていたようだった。
でも、その瞳は、月を睨んでいるように強さを持っていた。





「・・・そんなに、月を見つめないでください。・・・私の事だけを見ていて。」

「・・・私の奥方は、意外に嫉妬深いのだな。・・・新たな一面を見られたのなら、月に感謝しなければ。」

自分に与えられた部屋を出て、アンドレア様がいるテラスにむかう。
開け放された踊り場の窓を出て、後ろからそっと抱きついた。
アンドレア様の腰の辺りから手を差し込み、広い背中に頬を押し付ける。
私の手を包むようにそっと手を重ねてくれる。

私が部屋を出て階段を登り後ろから近づいてきた事など、アンドレア様はお見通しだろう。
そして、どこかに潜んでいる、私やアンドレア様の護衛の影たちも。
それを知っているのに恥ずかしい気持ちなどわいてこなかった。
不思議なくらい。


テラスに立ち月に照らされるとい加護をうけているのに、それを拒否するように睨む瞳を見た時
『この方を手に入れたい』
そう激しい自分の中の渦巻きを感じた。
だから、私の足は動いた。





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