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しおりを挟む「ジェラール・・・。」
小さな声で呟くように名前を呼ぶ。
そこまでの素早い動きに、自分の知らない、まるで別人の彼を見ている気がした。
怖さが足元から上がってくる。
私が唯一動かせたのは、怖さから自分の胸の前に何かを願うように組んだ手だけ。
ジェラールが、ふー、と息をつき私を見る。
「ふふっ・・・。エル、君は知らないかもしれないけど、男女の閨ではね、こんな風に縛られたり、縛ったりして喜ぶ奴らもいるんだよ。まさか、それがこんな所で役に立つとはねえ~。・・・ああ、ちょっとやそっとでは解けない結び方だから、無駄に動かない方がいいんじゃない?」
縄を解こうとして、彼女の動きに合わせてギシギシと鳴っていた椅子が静かになる。
窓が小さいこの小屋は、昼だと言うのに少し薄暗い。
「エル・・・。」
ジェラールが座っている私の前に膝をつく。
ガタガタと震える私の頬を、幼い頃とは違い、私より大きいたジェラールの手が包む。
私を見つめるジェラールの目を私も怯えながら見返す。
強い光の中に何かが揺れている気がした。
え?
どうしたの?
迷ってる?
そう疑問が浮かんだとき、ジェラールが2人の間の距離を縮めた。
かさついたジェラールの唇が私のそれに重なった。
ただ重ねられているだけなのに、ジェラールの思いがジワジワと伝わってくる感じがする。
真っ白い布に、インクを一滴たらしたような思いが、私の中に薄く広がっていく。
何かを感じる。
だが、それがどういう思いなのか、私には到底理解できない複雑なジェラールの感情。
ゆっくりと離れていくジェラールの顔を、一時も目を閉じないで見ていた。
でも、ジェラールは私を見ていなかった。
どんな表情をしていたのか、わからない。
そして、ゆっくりと立って椅子の後ろに回り私の事も縛り始めた。
なんとなく、そうすると予感があった。
だから、私が驚く事はなかった。
でも、悲しかった。
とっても、とっても悲しかった。
涙が頬を静かに流れた。
彼女と同じく口も布で覆われた後、踏みしめるような足音が耳に届く。
ギー、と扉の開ける音と一緒に、光が部屋を満たしていく。
「・・・エル、君はまた忘れてしまうかもしれないけど。・・・ずーと後の事になるだろうけど、次はちゃんと僕に・・・恋をして。僕には、君だけだから。」
戸の閉まる音が聞こえて、部屋が再び薄暗くなった。
涙が更に頬を伝う。
声をあげないのは、布で塞がれているせいではない。
心のどこか一部が、涙と一緒に流れてしまった気がした。
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次は短めなので、本日中に次をあげさせていただきます。
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