公爵様のわかり辛い溺愛は、婚約を捨る前からのようです

幕間-④

遠くから、何人もの足音が聞こえる事に気付くエルヴィナ。

とても荒々しい草を踏む音。

（違うかもしれないが、たぶん、この男を追っている者たちだろう。このままでは、助けるどころか、私まで掴まってしまう・・・。私まで？）

立ち止まり男を見る。

動く事は無理だろう・・・。

馬に声を潜めて話しかける。

「・・・クレアス、彼を連れて、別荘まで行って。そして、ジェラールたちを連れて来て。」

男も追っ手の足音に気がついていたのだろう。

エルヴィナの声に重そうな瞼を持上げ、足音のする方を睨む。

「・・・何を言っている。お前が捕まるだろう？」

呆れたように言う男。

でも、身体はいう事をきかないようでピクリとも動かない。

「相手も、女の子１人の方があなたと一緒より油断するに決まってる。・・・クレアス、私を助けにジェラールを連れて来てくれるわよね？・・・わかったら、行きなさい！！」

言い終わるとクレアスの横腹を手で叩いた。

「うっ！」

馬の急な動きに身体のどこかが痛んだのだろう。

男の呻く声が聞こえた。

馬の蹄の音が遠ざかっていく。

（・・・きっと大丈夫、ジェラールがすぐに来てくれる。）

今はそう思わないと足が震えて一歩も歩けなくなりそうだった。



しかし、クレアスがエルヴィナの元へ戻ってくるより早く、男の追っ手に見つかり掴まってしまったエルヴィナ。

もともと人身売買の集団だ。

傷を負って、もう野垂れ死んでいるかもしれない男を捜すより、売れる者を持ち帰ったほうが分が良いに決まっている。

しかも、貴族の大切に育てられた上玉の女の子とくれば、値はつり上がる。

あっさり男を追うのを止めて、利益優先とばかり隠れ家へと足を進める追っ手たち。