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「ネーエルドは今、自国の西にある国と戦寸前の領地争いの対話中だ。それに負ける訳にはいかないらしい。なんでも、今後、高騰すると言われている鉱石が出る山が有り、それを失う事は、大変な損失になる、ともっぱらの噂だ。・・・それに比べ、自分の所では使用を良しとしても、隣国中が危険薬物と指定している植物の、チッポケな儲けを取るわけが無いであろう。それを取れば、わが国とも一戦交える羽目になる。西の国の事があるから、そんな余裕ないだろう。この件、我が王は重大な事案だと認識している。もう1つ・・・『紅の蝶の館』の女主人だが・・・あれは王の所有物だ。だとすれば、王の言葉は絶対だ。・・・逃げ場など、ない。」
「!」
驚きを隠せないジェラール。
ネーエルドの王は、後宮に何人も妃がいると聞く。
妃や愛人ではなく、女主人を所有物というところに違和感を感じる。
女主人を物扱いするという事は・・・歓楽街自体、ネーエルドの持ち物という事なのではないか、と思い当たる。
もしかすると、歓楽街を仕切る者は王家という事だろうか。
怒りで気が狂いそうなジェラールに対して、黒い仮面の黒い服の者たちは構えていた剣を下ろし、お互いを見合って困惑している。
この者たちはネーエルドの人たちだったということね。
ネーエルドの王か、先ほど聞いた『紅の蝶の館』の女主人の者たち。
ジェラールは、その様子を見て、少し呆れた顔をした。
そして、思い直したように、アンドレア様に向けていた剣を私の首に向ける。
一瞬にして、回りが息を呑む。
剣の冷たい感触が喉に触れた。
少しでも動けばスーと皮膚が切れてしまいそうな、鋭い感触に背筋が冷たくなる。
「公爵様、剣を置いてくれない?君の部下にも言ってよ」
「・・・お前にエルは殺せない。」
「・・・どうせダメなら、2人の方が寂しくないからね。本気だよ。・・・イヤなら早く下ろして、そして身体から放して!」
「・・・」
「早く!」
ジェラールの一段と大きくする声に、怖さが大きくなる。
思わず、目をギュッと強く瞑る。
怖い気持ちの中、少しだけ思う事、それはアンドレア様の事。
このまま、ネーエルドへ連れて行かれたら、もう二度と会えないと先ほどまで思っていた。
それなのに会えた。
嬉しいが、言葉も交わせないし、触れ合う事もできないし、かえってこの状況は迷惑を掛けている。
仕事に真摯に向き合うアンドレア様の邪魔などしたくない・・・。
だとすれば、自分が起こす行動は・・・。
私が自分から喉を強く突き出せば・・・これは終わる。
怖いけど考えて迷っている暇はない。
身体に力を込めるだけ。
揺れ動く覚悟を、一つにして、足に力を入れて・・・!
ドサっ。
重いものが地面に落ちる音がした。
続くように、次から次とドサ、ドサっと音がする。
恐々目を開ければ。
アンドレア様は剣を持っておらず、それは地面にいくつも転がっていた。
見渡せば、部下の面々も、アンドレア様に倣うように剣を地面へと投げ捨てていた。
「・・・アンドレア様・・・。」
情けなくなった。
自分の為にそうしてくれた事は、嬉しさより仕事を遂行できないアンドレア様の邪魔をした罪悪感が心を占めた。
視界がぼやけてよく見えなくなる。
肩を落とし、力が抜けた身体は立っている事がやっとだ。
「そのまま、動くなよ。少しでも近づいたら・・・わかっているよね?」
アンドレア様に言い放つジェラールは、私を連れ少しずつ、後ろへ下がる。
アンドレア様たちと反対方向へ。
私の力の入らない身体は、引きずられるようにその場を離れだす。
視線は自然と下になるから、ドレスの裾が地面と擦れて汚れていくのが見える。
剣は添えていた首から、いつの間にか横の腹に付き立てられていた。
時折、ドレスの布を通り抜け、剣の先端が地肌にチクチクと感じる。
その痛みは、今の私の心の痛みより軽いものだった。
「!」
驚きを隠せないジェラール。
ネーエルドの王は、後宮に何人も妃がいると聞く。
妃や愛人ではなく、女主人を所有物というところに違和感を感じる。
女主人を物扱いするという事は・・・歓楽街自体、ネーエルドの持ち物という事なのではないか、と思い当たる。
もしかすると、歓楽街を仕切る者は王家という事だろうか。
怒りで気が狂いそうなジェラールに対して、黒い仮面の黒い服の者たちは構えていた剣を下ろし、お互いを見合って困惑している。
この者たちはネーエルドの人たちだったということね。
ネーエルドの王か、先ほど聞いた『紅の蝶の館』の女主人の者たち。
ジェラールは、その様子を見て、少し呆れた顔をした。
そして、思い直したように、アンドレア様に向けていた剣を私の首に向ける。
一瞬にして、回りが息を呑む。
剣の冷たい感触が喉に触れた。
少しでも動けばスーと皮膚が切れてしまいそうな、鋭い感触に背筋が冷たくなる。
「公爵様、剣を置いてくれない?君の部下にも言ってよ」
「・・・お前にエルは殺せない。」
「・・・どうせダメなら、2人の方が寂しくないからね。本気だよ。・・・イヤなら早く下ろして、そして身体から放して!」
「・・・」
「早く!」
ジェラールの一段と大きくする声に、怖さが大きくなる。
思わず、目をギュッと強く瞑る。
怖い気持ちの中、少しだけ思う事、それはアンドレア様の事。
このまま、ネーエルドへ連れて行かれたら、もう二度と会えないと先ほどまで思っていた。
それなのに会えた。
嬉しいが、言葉も交わせないし、触れ合う事もできないし、かえってこの状況は迷惑を掛けている。
仕事に真摯に向き合うアンドレア様の邪魔などしたくない・・・。
だとすれば、自分が起こす行動は・・・。
私が自分から喉を強く突き出せば・・・これは終わる。
怖いけど考えて迷っている暇はない。
身体に力を込めるだけ。
揺れ動く覚悟を、一つにして、足に力を入れて・・・!
ドサっ。
重いものが地面に落ちる音がした。
続くように、次から次とドサ、ドサっと音がする。
恐々目を開ければ。
アンドレア様は剣を持っておらず、それは地面にいくつも転がっていた。
見渡せば、部下の面々も、アンドレア様に倣うように剣を地面へと投げ捨てていた。
「・・・アンドレア様・・・。」
情けなくなった。
自分の為にそうしてくれた事は、嬉しさより仕事を遂行できないアンドレア様の邪魔をした罪悪感が心を占めた。
視界がぼやけてよく見えなくなる。
肩を落とし、力が抜けた身体は立っている事がやっとだ。
「そのまま、動くなよ。少しでも近づいたら・・・わかっているよね?」
アンドレア様に言い放つジェラールは、私を連れ少しずつ、後ろへ下がる。
アンドレア様たちと反対方向へ。
私の力の入らない身体は、引きずられるようにその場を離れだす。
視線は自然と下になるから、ドレスの裾が地面と擦れて汚れていくのが見える。
剣は添えていた首から、いつの間にか横の腹に付き立てられていた。
時折、ドレスの布を通り抜け、剣の先端が地肌にチクチクと感じる。
その痛みは、今の私の心の痛みより軽いものだった。
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