上 下
43 / 90

43

しおりを挟む

息を飲む。
どうして、ここにあなたがいるの?
もしかして・・・あの人たちはジェラールの仲間なの?
疑問が次々と沸くが、塞がれている口からは何1つ出ない。
私を袋から出し、抱き起こす。

「怖かっただろ?・・・もう、大丈夫だよ。僕が側にいるからね。」

そう言って私をふわりと抱きしめ、髪を何度も撫でる。

あれ?これって前にも同じ事があったような・・・。
恐怖や不安でいっぱいなのに、忘れていた部分を取り戻せる糸口が、ふいにあらわれて、そちらに気を取られる。
思い出そうとするが、頭の中のその一部分が、まるで霧がかかったみたいな景色で思い出せない。
でも、ジェラールとその肩越しのこの景色は、前にも見たことがある、と私の中の何かが言う。

精一杯考えている頭は、なぜジェラールがここにいるかという事、そして思い出せない記憶の事。
何もかも答えが出なくて、混乱で身体も動かせ無い私は、されるがまま。

「あ!今、紐を切ってあげるね。痛かっただろ?」

小さなナイフを取り出し、手足の紐を切ってくれた。
そして、口を塞いでいた、頭の後ろで縛られていた布も外してくれた。
それでも、私は話すことができず、痺れた腕を摩りながら、ただジェラールを見開いた目で見つめていた。

縄を解いてくれたって事は、あの人たちから助け出してくれたってこと?

でも・・・本当にこの人がジェラールなのか、信じられない気がしてきた。
牢で会ったライラは、ふっくらとした頬がなくなり、つやつやした髪も輝きを失っていて、心をすり減らした様子が窺えた。
今、目の前にいるジェラールは、最後に会った夜会の時と何1つ変わりない。
着ている服でさえ、上質のもので隙も無くキッチリとしていて崩れもない。
顔色もよく、やつれた様子も無いから、ライラとのあまりの違いに違和感を感じる。
牢から逃げ出した人だなんて誰が思うだろう。

「・・・ジェラール・・なの?」

私の言葉に、ん?と小首をかしげるジェラール。
何を聞かれているのかわからない様子だ。
そうか、混乱しているんだね、というと私をまた抱きしめた。

「そうだよ。あれ?僕の事忘れちゃった?・・・長く会いに行けなかったからね。ごめんね・・・でも、僕の事は忘れないでね。・・・それ以外は忘れてもいいよ、イヤ、忘れて・・・すべて。」

最後は怖い色を含んだ声に代わった。
耳の近くで囁かれたそれは、縛られているときよりも怖さを強くした。

それ以外とは、何を忘れろというのだろう。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

浮気夫に平手打ち

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。聖騎士エイデンが邪竜を斃して伯爵に叙爵されて一年、妻であるカチュアはエイデンの浪費と浮気に苦しめられていた。邪竜を斃すまでの激しい戦いを婚約者として支えてきた。だけど、臨月の身でエイデンの世話をしようと実家から家に戻ったカチュアが目にしたのは、伯爵夫人を浮気する夫の姿だった。

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

【完結】好きでもない婚約者に酔いしれながら「別れよう」と言われた

佐倉えび
恋愛
「別れよう、アルヤ」 輝かしい金の髪をかきあげながら、ゴットロープは酔いしれたように呟く―― 私とゴットロープ様が対等だったことなどない―― *なろう様に掲載中のヒロイン視点の短編にヒーロー視点(R15)を加筆しています。 *表紙の美麗イラストは寿司Knight様に頂きました。ありがとうございます。

生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。 物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。 週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。 当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。 家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。 でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。 家族の中心は姉だから。 決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。 ………… 処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。 本編完結。 番外編数話続きます。 続編(2章) 『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。 そちらもよろしくお願いします。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

処理中です...