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しおりを挟む「・・・このままではお迎えの時間まで終わる事ができませんね・・・。」
店主の一言で私とお母様は顔を見合わせた。
婚礼衣装の生地・レース・リボン・釦・飾り紐などの見本を見せてもらい、本日中にそれらを決めるため伯爵家の贔屓にしている店へと、本日は来ている。
いつもならドレスを作る時は、お屋敷に来てもらうのだが、今回は時間が無いという事で、ほとんど店を貸切状態で作業をすすめていた。
店の前に公爵家、伯爵家のそれぞれの迎えの馬車が来るのは、午後のお茶をいただいた後くらいを予定していた。
今は昼前。
「そうね・・・。でも、今日決めなければ間に合わないしね・・・。」
お母様が溜め息と頬杖をつく。
ドレス作りに必要な物を買い付けに異国に旅立つ者が、明日の朝に出発予定なので、本日中に決めなければ間に合わないのだ。
「仕方が無いわ・・・。両家に使いを出し、お迎えを遅くしていただきましょう。」
その選択肢しか選べないのだから本当に仕方が無い。
帰りが遅くなれば、アンドレア様を心配させてしまうとも考えるが、速く作業を終わらせなくては、ここで予定が躓く。
お父様からの、娘である私への、最後のプレゼント。
適当に選ぶことなんてできない。
お父様の気持ちを無下にするみたいで心苦しくなる。
私だって、女の子なら憧れる婚礼衣装を、いい加減に選びたくない。
「そうしていただけるなら、助かります・・・。そうですね・・・私も今夜は、夜会に呼ばれていますので、よろしければ私がお送りするというのは、いかがですか?」
店主はお針子と共に、夜会の控えの間で待機する事がある。
自分の所で作ったドレスの最終手直しであったり、ドレスの軽い修理をしたり、その場で付いた汚れを取ったりするためにだ。
今夜はおそらくそういう仕事があるのだろう。
本日は伯爵家よりも公爵家に近いお屋敷に呼ばれているという。
「あら!じゃあ、そうしていただく?・・・アンナ、伯爵家の屋敷なら、ここからそう遠くないから伝えてきてくれないかしら?そして、うちから使いを出し公爵家へお伝えして。・・・すごく効率的!」
確かに無駄は無いけど・・・。
「それでは、アンナが疲れてしまいますわ、お母様・・・。」
「それもそうね、でも・・・そうだわ!アンナはそのまま、こちらに戻ってこなくてもいいわ。屋敷で休んでいなさいよ。」
「それは、ありがたいのですが、奥様・・・それでは、奥様やお嬢様のお世話をする者がいなくなります。」
アンナのいう事はもっともで、護衛騎士兼侍女として付いてくれている公爵家のリアやそのほかの護衛騎士は、今日は動向していない。
なぜなら忙しいからだ。
アンドレア様はあまり教えてはくれないけど、内報部の抱えている仕事が大変立て込んでいて忙しいらしく、アンドレア様も帰ってくるのは日付を超えた後ばかり。
更にここ一週間は小さな事件が頻発していて、内報部の所属の騎士たちの私設騎士団まで借り出される始末。
リアたちも例外ではなく借り出されていた。
まあ、私が伯爵家に通っている事もあって、日中は伯爵家の者たちに守られている事もリアが側にいなくても大丈夫だろうという事になったらしい。
私としては、もう何も起こらないと思っているから、護衛なんて必要ないのだけど。
「お昼のお茶の後なら、アンナがする事もそんなにないでしょ?それからでもお迎え不要の連絡をつけるのは間に合うと思うし・・・大丈夫よ!そうなさい。」
「う~ん、そうですね。・・・馬車に乗せていただく人数もありますし。では、奥様のお言葉に甘えさせていただきます!」
店主とお針子、私とお母様・・・確かに馬車が満員だわ。
「そうと決まれば、早くお昼をいただいちゃいましょう!そして、今日中に頑張りましょうね。」
俄然やる気を出すお母様がかわいいと思ってしまい、ここ毎日言っている”ドレスを着るのは私なのに”の言葉を飲み込んで、微笑んでしまった。
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