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「・・・何を見た?」
「何って・・・ジェラールが、あの人に黒い小瓶を渡す所だよ。・・・それにあの女の人とジェラールが知り合いだったなんて、もう驚きだよ。まさか、いろいろ教えてもらっちゃたりしてないよね?エルにいっちゃうぞ。」
冗談だと思ってはいるけど、ジェラールも恋多き噂のご婦人と大人の関係なのかと言葉に出してみた。
揄ように明るく言えば、ジェラールの目は鋭く私を射抜いた。
「エルには言うな!・・・言ったら、ライラだってようしゃしない!」
静かに低い聞いた事もない声で言うジェラールが・・・恐かった。
「い、言わないわよ。・・・じゃあ、あれは何?それくらい教えてよ。言わない代わりに。」
なによ偉そうに。
少しムカついて、私なりに踏み込んでみた。
「・・・本当に知りたい?」
その言葉に一瞬心臓が鳴った。
普段とは違うジェラールの表情に驚いた。
恋に憧れる夜会で話す女の子たちが言っていて、大人の顔、という言葉が頭を掠めた。
こんなジェラールの顔をエルは知っているのだろうか。
3人仲良しで、いつも一緒だったのに、自分以外の2人が貴族の大人になるための学びをしている事に取り残され感を味わっていた私は、ジェラールと2人だけの秘密を持つのが素直に嬉しくなった。
私は迷い無く頷いた。
今思えば、それはただの好奇心だったのかもしれない。
小さく手招きされバルコニーを更に奥に進む。
こんな端まで来ていいのか、と周りを窺いながらキョロキョロとしていれば、ジェラールはある大きな窓の前で足を止めた。
どうしてここで止まるのか、とジェラールの顔を見た。
すると驚く事に、そっとその窓を開けたのだ。
この部屋の鍵が開くのをジェラールは知っていた?
分厚いカーテンを少し開け、ジェラールが中を覗くように顎で指した。
本当にそんな事をしていいのか、と迷いはあったが、従って部屋の中を覗くように顔を前に出し腰を少し折った。
真っ暗かと思ったが、小さく蝋燭の明かりが見えた。
この香り・・・。
少し前からジェラールが好んで付けている香油の香りが、部屋に満ちていて強く鼻についた。
それと同時に人の気配がした。
ゴソゴソと何か音も聞こえる。
更によーく目を凝らせば、頼りない蝋燭の明かりに浮かび上がる男女の重なる姿だった。
びっくりして声を上げそうになるのを、後ろから回ってきたジェラールの手で塞がれる。
「・・・彼女、普通の遊びじゃ物足りないんだって。・・・アレを1度使ったら気に入ってくれたらしいよ。」
目の前の強烈な光景なのか、ジェラールの息が耳にかかった事のせいなのか心臓が大きな音をたてる。
女の人がこちらに気がつき目が合う。
いけない、見つかった!
そう焦る私と裏腹にジェラールは更に言葉を重ねる。
「・・・今回のも気に入ってくれたみたいだね。薬の配合を変えたんだよ。・・・何度も同じものを使うと慣れちゃうから。」
私たちと目を合わせたまま、わざと見せ付けるように彼女は妖艶な表情し、まるで聞かせるように喜びの興奮した声を上げて続けた。
その後、ジェラールに手を引かれ近くの部屋へと促された。
驚きを隠せない私をソファへと座らせ、置いてある水差しよりグラスに水を注いで握らせてくれた。
喉が渇いていた事に気付きゴクリと飲む。
隣りに座るジェラールがこわばる私の身体を宥めるように抱きしめた。
「驚いたんだね。・・・これで約束は守ってくれるよね。」
「約束?」
「・・・この事は言わない。」
黙ってコクリと頷く。
黙っていろというのだから、今日見た事はダメな事なのかもしれない、と頭の中で思った。
それでも、見た中で何がダメな事なのか、整理が付かなかった。
混乱していて、ドキドキもおさまらなく、顔も熱い。
抱きしめられて近いせいか、ジェラールの元々の香りとさっきの部屋で嗅いだ香油の香りが混ざって、更にドキドキする。
いつも3人で一緒だったけど、足元が悪いところを歩く時にサッと差し伸べてくれるジェラールが眩しく見える時があった。
いつだって同い年の男の子に比べたらカッコよかったけど、さり気なく女の子扱いをしてくれる時などはときめいた。
お父様からいつも、憧れるのはいいが身分違いの叶わぬ恋などしてはいけない、と釘をさされていた。
自分だってわかっていた。
ジェラールはエルのもの。
でも、押さえ付けられるほど気持ちが膨らんでいったのも確か。
抱きしめられていたら、ジェラールをとっても意識してしまって落ち着かない気持ちになる。
「・・・すごくドキドキしているね。ライラの心臓の音が聞こえる。」
「!」
恥ずかしくなってバッと離れた。
勢いが強すぎたのかな、クラっと頭が揺れた。
ドキドキが強すぎて貧血にでもなってしまったのだろうか。
「あぶないよ。・・・少し休もうか。」
肩を抱かれたまま一緒に立ち上がる。
ジェラールの香りが心地よく私を包んだ。
「何って・・・ジェラールが、あの人に黒い小瓶を渡す所だよ。・・・それにあの女の人とジェラールが知り合いだったなんて、もう驚きだよ。まさか、いろいろ教えてもらっちゃたりしてないよね?エルにいっちゃうぞ。」
冗談だと思ってはいるけど、ジェラールも恋多き噂のご婦人と大人の関係なのかと言葉に出してみた。
揄ように明るく言えば、ジェラールの目は鋭く私を射抜いた。
「エルには言うな!・・・言ったら、ライラだってようしゃしない!」
静かに低い聞いた事もない声で言うジェラールが・・・恐かった。
「い、言わないわよ。・・・じゃあ、あれは何?それくらい教えてよ。言わない代わりに。」
なによ偉そうに。
少しムカついて、私なりに踏み込んでみた。
「・・・本当に知りたい?」
その言葉に一瞬心臓が鳴った。
普段とは違うジェラールの表情に驚いた。
恋に憧れる夜会で話す女の子たちが言っていて、大人の顔、という言葉が頭を掠めた。
こんなジェラールの顔をエルは知っているのだろうか。
3人仲良しで、いつも一緒だったのに、自分以外の2人が貴族の大人になるための学びをしている事に取り残され感を味わっていた私は、ジェラールと2人だけの秘密を持つのが素直に嬉しくなった。
私は迷い無く頷いた。
今思えば、それはただの好奇心だったのかもしれない。
小さく手招きされバルコニーを更に奥に進む。
こんな端まで来ていいのか、と周りを窺いながらキョロキョロとしていれば、ジェラールはある大きな窓の前で足を止めた。
どうしてここで止まるのか、とジェラールの顔を見た。
すると驚く事に、そっとその窓を開けたのだ。
この部屋の鍵が開くのをジェラールは知っていた?
分厚いカーテンを少し開け、ジェラールが中を覗くように顎で指した。
本当にそんな事をしていいのか、と迷いはあったが、従って部屋の中を覗くように顔を前に出し腰を少し折った。
真っ暗かと思ったが、小さく蝋燭の明かりが見えた。
この香り・・・。
少し前からジェラールが好んで付けている香油の香りが、部屋に満ちていて強く鼻についた。
それと同時に人の気配がした。
ゴソゴソと何か音も聞こえる。
更によーく目を凝らせば、頼りない蝋燭の明かりに浮かび上がる男女の重なる姿だった。
びっくりして声を上げそうになるのを、後ろから回ってきたジェラールの手で塞がれる。
「・・・彼女、普通の遊びじゃ物足りないんだって。・・・アレを1度使ったら気に入ってくれたらしいよ。」
目の前の強烈な光景なのか、ジェラールの息が耳にかかった事のせいなのか心臓が大きな音をたてる。
女の人がこちらに気がつき目が合う。
いけない、見つかった!
そう焦る私と裏腹にジェラールは更に言葉を重ねる。
「・・・今回のも気に入ってくれたみたいだね。薬の配合を変えたんだよ。・・・何度も同じものを使うと慣れちゃうから。」
私たちと目を合わせたまま、わざと見せ付けるように彼女は妖艶な表情し、まるで聞かせるように喜びの興奮した声を上げて続けた。
その後、ジェラールに手を引かれ近くの部屋へと促された。
驚きを隠せない私をソファへと座らせ、置いてある水差しよりグラスに水を注いで握らせてくれた。
喉が渇いていた事に気付きゴクリと飲む。
隣りに座るジェラールがこわばる私の身体を宥めるように抱きしめた。
「驚いたんだね。・・・これで約束は守ってくれるよね。」
「約束?」
「・・・この事は言わない。」
黙ってコクリと頷く。
黙っていろというのだから、今日見た事はダメな事なのかもしれない、と頭の中で思った。
それでも、見た中で何がダメな事なのか、整理が付かなかった。
混乱していて、ドキドキもおさまらなく、顔も熱い。
抱きしめられて近いせいか、ジェラールの元々の香りとさっきの部屋で嗅いだ香油の香りが混ざって、更にドキドキする。
いつも3人で一緒だったけど、足元が悪いところを歩く時にサッと差し伸べてくれるジェラールが眩しく見える時があった。
いつだって同い年の男の子に比べたらカッコよかったけど、さり気なく女の子扱いをしてくれる時などはときめいた。
お父様からいつも、憧れるのはいいが身分違いの叶わぬ恋などしてはいけない、と釘をさされていた。
自分だってわかっていた。
ジェラールはエルのもの。
でも、押さえ付けられるほど気持ちが膨らんでいったのも確か。
抱きしめられていたら、ジェラールをとっても意識してしまって落ち着かない気持ちになる。
「・・・すごくドキドキしているね。ライラの心臓の音が聞こえる。」
「!」
恥ずかしくなってバッと離れた。
勢いが強すぎたのかな、クラっと頭が揺れた。
ドキドキが強すぎて貧血にでもなってしまったのだろうか。
「あぶないよ。・・・少し休もうか。」
肩を抱かれたまま一緒に立ち上がる。
ジェラールの香りが心地よく私を包んだ。
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