32 / 40
32
しおりを挟む息が切れているみたいに肩で呼吸をするベルナルダンお兄様が部屋に足を進めると、案内してきたであろう侍女が扉を閉めて部屋から出て行きました。
沈黙がこの部屋を包む。
ベルナルダンお兄様が近づいてくる。
私はベルナルダンお兄様を目で追う。
あんなに会いたかったのだもの、目が離せるわけが無い。
「時間切れかな?…兄さん、じゃあ、俺はおとなしく帰るよ。…後は、うまくやってよ。今度こそ。」
ティーシルが立ち上がりながらそう言いました。
ドアに向かって歩き出すティーシル。
ベルナルダンお兄様とすれ違うときにお兄様の肩をポンと叩いたのが目に入りました。
それに答えるようにゆっくりとベルナルダンお兄様が頷くのが見えます。
部屋の外に出て行くティーシルの足音に、その後から2人分の足音が聞こえます。
きっとスタニックとシーマが後を追って行ったのでしょう。
「…元気そうだね。会えて嬉しいよ。…どうせならもっとロマンティックに再会したかったね。」
そう言ってベルナルダンお兄様は私に片目を瞑って見せました。
ウィンク?
今、私にウィンクしたの?
小さい頃に仲良く遊んでくださったあの頃を思い出します。
すごくときめいた事を。
「…昨夜、ティーシルに怒られたよ。いや、兄弟ケンカだったかな。ケンカなんて久しぶりでやり方を忘れてしまってね。1発、まともに受け止めてしまった…。」
そう言って、摩る左の頬はくすんだ色をしています。
その痛々しさに、驚きと戸惑いで私は自分の口に手を当ててしまう。
「ティーシルが言うには、私がグズグズしているから、横から変なヤツにエミリを狙われるんだ、てね。…グレン次期宰相殿は変なヤツでもないのにね。」
ちょっとおどけたように言うのは、私がベルナルダンお兄様の頬を見て怯えているから、和ませようとしてかしら。
小さな頃は、そんな話し方をしてくれていたけど、近頃ではめっきり聞いた事がない口調ですね。
なつかしくて、うれしくて少しホッとします。
4
お気に入りに追加
2,420
あなたにおすすめの小説

縁の鎖
T T
恋愛
姉と妹
切れる事のない鎖
縁と言うには悲しく残酷な、姉妹の物語
公爵家の敷地内に佇む小さな離れの屋敷で母と私は捨て置かれるように、公爵家の母屋には義妹と義母が優雅に暮らす。
正妻の母は寂しそうに毎夜、父の肖像画を見つめ
「私の罪は私まで。」
と私が眠りに着くと語りかける。
妾の義母も義妹も気にする事なく暮らしていたが、母の死で一変。
父は義母に心酔し、義母は義妹を溺愛し、義妹は私の婚約者を懸想している家に私の居場所など無い。
全てを奪われる。
宝石もドレスもお人形も婚約者も地位も母の命も、何もかも・・・。
全てをあげるから、私の心だけは奪わないで!!

【完結】少年の懺悔、少女の願い
干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。
そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい――
なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。
後悔しても、もう遅いのだ。
※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

某国王家の結婚事情
小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。
侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。
王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。
しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。

悪役だから仕方がないなんて言わせない!
音無砂月
恋愛
マリア・フォン・オレスト
オレスト国の第一王女として生まれた。
王女として政略結婚の為嫁いだのは隣国、シスタミナ帝国
政略結婚でも多少の期待をして嫁いだが夫には既に思い合う人が居た。
見下され、邪険にされ続けるマリアの運命は・・・・・。

人質王女の恋
小ろく
恋愛
先の戦争で傷を負った王女ミシェルは顔に大きな痣が残ってしまい、ベールで隠し人目から隠れて過ごしていた。
数年後、隣国の裏切りで亡国の危機が訪れる。
それを救ったのは、今まで国交のなかった強大国ヒューブレイン。
両国の国交正常化まで、ミシェルを人質としてヒューブレインで預かることになる。
聡明で清楚なミシェルに、国王アスランは惹かれていく。ミシェルも誠実で美しいアスランに惹かれていくが、顔の痣がアスランへの想いを止める。
傷を持つ王女と一途な国王の恋の話。

私の何がいけないんですか?
鈴宮(すずみや)
恋愛
王太子ヨナスの幼馴染兼女官であるエラは、結婚を焦り、夜会通いに明け暮れる十八歳。けれど、社交界デビューをして二年、ヨナス以外の誰も、エラをダンスへと誘ってくれない。
「私の何がいけないの?」
嘆く彼女に、ヨナスが「好きだ」と想いを告白。密かに彼を想っていたエラは舞い上がり、将来への期待に胸を膨らませる。
けれどその翌日、無情にもヨナスと公爵令嬢クラウディアの婚約が発表されてしまう。
傷心のエラ。そんな時、彼女は美しき青年ハンネスと出会う。ハンネスはエラをダンスへと誘い、優しく励ましてくれる。
(一体彼は何者なんだろう?)
素性も分からない、一度踊っただけの彼を想うエラ。そんなエラに、ヨナスが迫り――――?
※短期集中連載。10話程度、2~3万字で完結予定です。

私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる