上 下
28 / 40

28

しおりを挟む

「エミリが認めないのはどうでもいいよ。真実だから。…だから、留学している間に2人で何とかしてくれたらよかったのに。こっちは覚悟は決まっているんだし。」

「…じゃあ、あの事は…婚約破棄は私の為にしたってこと?」

だとしたら申し訳ない…。

でも、ティーシルは小さく首を振った。

「別に、エミリのためじゃないさ。まあ、俺のためかな?結婚までいよいよ1年は切ったし、どうしたもんかなって思っていた頃…ルミーと会ったんだよ。」

ティーシルがルミーと呼ぶ、ルミア・ジュブワ男爵令嬢。

あの日の彼女のすまなそうな顔が思い浮かびました。

「俺だけを頼って、俺だけを見てくれている彼女が、なんかたまらないんだよね。もともと貴族じゃない彼女は社交界に居場所がなかった。俺みたな、貴族の次男なんて、エミリとの婚約が無ければ、居場所がないからね。なんとなく分かり合えちゃってさ。」

私にはできなかった、ティーシルに頼るという事。

嫁ぐならちゃんとしなきゃっていつも気が張っていた。

それが悪かったのかな…。

可愛らしさが欠けていましたものね…。

「留学先でできた友人たちも、貴族の次男、三男が多くてね。同じ立場同士で悩みなんて同じさ。俺たちみたいな跡継ぎでもない息子は、自分でいろいろ動かないと、どっかの一人娘の婿養子しか道が無いからね。だったら事業を起こさないかって誘われて。エミリと婚約を解消したら、父さんに睨まれて、どっちみちこの国には居られないからね。ルミーと一緒に国を出ようと思ってね。そのために準備もあってこっちにあまり帰ってこなかったんだ。」

ティーシルがいろいろ考えていた事を、初めて聞かされて、感心する半面、その気持ちに気付こうとしないで、自分のことばかり考えていた自分勝手な私が情けなくなります。

この国に存在する五つの爵位。

位の上から公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の五つはあまり離れ過ぎた縁組を良しとはしない。

確かに私との婚約解消が綺麗に片付いても、ルミア嬢の家である男爵家は格下過ぎで侯爵家では選ばないわね。

きっと伯爵家以上の方との結婚をすすめられるでしょうね。

だとしたら、ルミア嬢との結婚を考えるなら、ティーシルの国外へ行く道は正解ね。

「エミリとの婚約を解消なんて、あの父さんたちを見ていたらできない事はわかっていたし、だからって兄さんが出てこないんじゃ手詰まりだったよ。そんなこんなで、今かなって思ってね。あんなことしたわけ。」

お芝居半分だったのですね。

道理で、安いお芝居みたいだったですものね。

少し納得。

もともと、あんなことする方ではなかったですもの。

ティーシルはまっすぐな性格の方。

仮に…あくまで仮に、私の気持ちに気付いていたのだとしたら、私に相談しても良かったのでは?

こんな大事にならなくて済んだかも…。

でも、そんなに頻繁に会っていたわけではないから、私の事は信頼できないでしょうね。

「もちろん、穏便に進めることも考えたけど…兄さんの縁談が持ち上がってね。知ってた?」

唐突のお話に、息ができなくなる。

ベルナルダンお兄様に縁談…?




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お針子と勘違い令嬢

音爽(ネソウ)
恋愛
ある日突然、自称”愛され美少女”にお針子エルヴィナはウザ絡みされ始める。理由はよくわからない。 終いには「彼を譲れ」と難癖をつけられるのだが……

公爵家の赤髪の美姫は隣国王子に溺愛される

佐倉ミズキ
恋愛
レスカルト公爵家の愛人だった母が亡くなり、ミアは二年前にこの家に引き取られて令嬢として過ごすことに。 異母姉、サラサには毎日のように嫌味を言われ、義母には存在などしないかのように無視され過ごしていた。 誰にも愛されず、独りぼっちだったミアは学校の敷地にある湖で過ごすことが唯一の癒しだった。 ある日、その湖に一人の男性クラウが現れる。 隣にある男子学校から生垣を抜けてきたというクラウは隣国からの留学生だった。 初めは警戒していたミアだが、いつしかクラウと意気投合する。クラウはミアの事情を知っても優しかった。ミアもそんなクラウにほのかに思いを寄せる。 しかし、クラウは国へ帰る事となり…。 「学校を卒業したら、隣国の俺を頼ってきてほしい」 「わかりました」 けれど卒業後、ミアが向かったのは……。 ※ベリーズカフェにも掲載中(こちらの加筆修正版)

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

婚約破棄されたので、教会で幸せをみつけます

ゆうゆう
恋愛
婚約破棄された私は教会に助けられ、そこで楽しく生活します。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

【完結】婚約破棄!! 

❄️冬は つとめて
恋愛
国王主催の卒業生の祝賀会で、この国の王太子が婚約破棄の暴挙に出た。会場内で繰り広げられる婚約破棄の場に、王と王妃が現れようとしていた。

[完結]美しすぎて浮気された侯爵夫人、新しい恋してみようと思います

日向はび
恋愛
「実家に帰らせていただきます!」浮気はしてはいけないことである。侯爵夫人のジルベルタはそう信じていた。ところが結婚3年目に夫の浮気が発覚。理由はジルベルタが美しすぎて手が出せないから。「なんだそれ、意味わからない。貴方異星人ですか?」理解不能な理由、元から愛していない夫。勢いで離婚を宣言したジルベルタの元に、かつて戦争に行った幼馴染が現れる。「俺は浮気しないよ。ジルベルタ」「それってつまりプロポーズ?」 番外編 目次 ・護衛の話・浮気相手の話・子供の話・戦時中の話・結婚式

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...