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髪結
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「彼女にプレゼントかい?」
雑貨屋で髪留めを見ていると、店主がお節介な一言を寄越した。
「そんなんじゃねえよ」と答えると、「じゃあ妹かな?」と店主は無駄口を叩いた。
妹か…
それもまた少し引っ掛かりを感じながら、「そんなもんだよ」と、それ以上勘ぐられるのが面倒くさくて誤魔化した。
ブルームバルトで買い求める気にならなかったから、朝からシュミットシュタットまで足を伸ばしていた。
俺みたいな輩が、女の子の好むような品を見ているのが珍しいのだろう。
シュミットシュタットは大きな街だから、俺の欲しいものはすぐに集まった。
こんなに買う気無かったんだけどな…
あれやこれやと買い込んだ荷物を鞄に詰めて、急いでブルームバルトに戻った。
昼頃にロンメルの屋敷に行く約束だ。
赤や青の天鵞絨のリボンや、髪を留める飾り、扱いやすそうな櫛を買い込んで、楽しみにしてるのは俺の方だ。
昨日整えたルカの髪を思い出して、彼女に似合いそうなものを用意した。
『ありがとう、カイ』
あの声が、あの笑顔が、また自分に向けられるのだと思うと、気持ちが急く。
ブルームバルトに戻ると、街に入る門の前でカミルの兄貴に会った。
「よぉ」と、カミルの兄貴は煙草を持った手を挙げて、俺を呼び止めた。
「何してるんっすか?」
「お前待ってたんだよ」
カミルの兄貴はそう言って、持っていた煙草を捨てると、俺の乗ってた馬の頬革を掴んで、馬の長い顔を撫でた。
馬は上機嫌で足を止めた。
「どこ行ってた?」と、訊かれて、一瞬言葉が出てこなかった。
「どこ行こうってお前の勝手だ。別に責めてる訳じゃねえよ」
咄嗟に答えられなかった俺に、カミルの兄貴は小さく笑って言葉を続けた。
「ロンメルの屋敷に呼ばれてるんだろ?スーから聞いた」
「まぁ…そうっすけど…」
「お前ってすごいよな。別に嫌味じゃないぜ?俺はそういう器用な芸当は無理だからよ、正直に感心してんだ」
カミルの兄貴はそう言って、俺の特技を褒めた。
俺も兄貴のことは尊敬してる。
俺よりずっと長く傭兵をやってるし、場数だって踏んでる。傭兵にしちゃ温厚な人柄だし、面倒見だって良い。上からも下からも慕われる兄貴は周りからの信頼も厚い。
俺もなれるものなら、こういう男になりたいと思う…
ただ、彼を目標にするには、その背中はあまりにも遠い気がした。
「時間ないだろ?歩きながら話そうぜ」
カミルの兄貴はそう言って、手綱に手をかけると歩き出した。
馬は従順に兄貴に後に付いて歩いた。兄貴に歩かせて、俺だけ馬の背に乗っているのは気分が悪い。
馬の背から降りようとした俺に、兄貴は「そのまま聞けよ」と制した。
「回りくどいのはお前も嫌だろ?カイ、お前さ、ライナのことどう思ってんだ?」
「…どうって…」
「妹程度に思ってんなら、俺も何も思わねぇよ。あいつだってお前に懐いているし、お前に会えて嬉しそうだった…
でもそれ以上の感情を持つなら、ちょっとばかり話が変わってくる」
兄貴の声に凄むような響きが加わった。
「俺もお前にこんなこと言いたくないけどよ…
もうあいつは昔の汚いガキじゃないんだ。貴族の屋敷で働いているお嬢さんなんだ。きっとそのうち良い縁だってもらえる。
お前がライナを助けたのも知ってるし、ライナもお前に懐いてたのも知ってる。でもな、これ以上あいつの人生に関わるな」
カミルの兄貴は本気だろう…
《お願い》のようなもんじゃない。これは《警告》だと、彼の口調からすぐに察した。
何も言えなくなった俺に、カミルの兄貴は少しだけ振り返って、誤魔化すように苦笑いして見せた。
「お前は女にモテるからよ。心配してんだぜ」
そんな冗談を口にして、カミルの兄貴は馬から手を離した。
馬はそのまま数歩進んで足を止めた。カミルの兄貴との間に微妙な距離ができた。
「邪魔して悪かったな。そういう事だからよ、覚えといてくれ」
「…俺も…ルカには幸せになって欲しいっす」
搾り出すように搾り出した答えに、カミルの兄貴は頷いた。
「分かってるよ。お前は良い奴だ。嘘だって下手くそな良い奴さ」
カミルの兄貴はバツが悪そうに、「悪いな」と言葉を残して立ち去った。人混みに背の高い影を見送って、肩から下げた鞄に触れた。
舞い上がっていた自分が馬鹿みたいだ…
そりゃそうだよな…
兄貴の心配は尤もだ。俺は昔同じ失敗をしてんだ…
だから、もう髪を結うのをやめたんじゃねぇか?
鞄に手を入れると、買い求めたリボンや櫛に手が触れた。ルカのために買ったものだ…でも本当は…
鞄から手を離して、手綱を握った。
馬鹿だよ…やっぱり俺は馬鹿だ…
カミルの兄貴の言うとおりだ。俺は傭兵以外の生き方ができないろくでなしだ。もうあいつの人生に関わるべきじゃないだろう。
沈んだ気持ちで馬の背に揺られながら、ロンメルの屋敷に到着すると、昨日の男が門の前に立っていた。
「やあ、お待ちしてましたよ」正門に立っていた男は明るく告げて、客として俺を表から案内した。
俺はロンメルの屋敷にはほとんど出入りしたことが無い。
《燕の団》の団員でも、ロンメルの屋敷の中まで入れるのは、ゲルトの爺さんやカミルの兄貴、ディルクぐらいで、俺は門の外までしか来たことがない。来たとしても裏口だ。
ルカを送って来た時だって、裏口から入って裏庭で別れただけだ。
マジでお屋敷なんだな…
改めて正面から見るデカい屋敷に圧倒された。
広い庭は俺にも分かるぐらい綺麗に整えられていて、屋敷に続く舗装された石畳には葉っぱ一つ落ちてない。
俺たちの生きてる場所とはまったく違う世界みたいだ。
現実を見て、気が引けた。
屋敷に着く前に足が前に出なくなる。
俺が来て良い場所ではない気がして、劣等感で回れ右して逃げ出したくなった…
「どうしました?」と足を止めた俺にアダムが振り返った。
「いや…なんか…俺、場違いだなって…」
「あぁ」と、アダムは頷いて嬉しそうに笑みを浮かべた。
「良いお屋敷ですよね」と言って、アダムは屋敷に視線を向けた。その顔は誇らしげに屋敷を見上げていた。
「ロンメル邸はこの街を象徴する場所です。こんなに美しい場所は他にありませんよ。
全ての人を受け入れるブルームバルトは誰もがうらやむような素晴らしい場所です。私にとって、この屋敷は聖域か神殿なのですよ」
アダムはこの屋敷を眩しそうに見上げて自慢した。多少大げさな言い方だと思うが、彼は本当にそう思っているのだろう。
「カイ。君もそう思うでしょう?」大真面目にロンメルを賛美して、アダムは俺にも同意を求めた。
拭いきれない劣等感を飲み込んで、相手に合わせて「そうだな」と頷いた。
✩.*˚
悪党を擁護する気はない。
こいつらは俺の大切な土地で、大切な時期に俺の顔に泥を塗った連中だ。
「…やり過ぎじゃね?」
これじゃまるで猫が遊んだ後のネズミじゃねぇか…
悪党共は昨日の威勢はどこへやら。息も絶え絶えの半殺しの状態だ。
「殺しちゃいねぇんだ。感謝しろ」とゲルトは苛立ちを含んだ低い声で凄んだ。
これだけやっても、ゲルトはまだ怒りが収まっていないようだ。
まあ、許可したのは俺だし、《燕の団》の奴らも最低限の条件は守っていた。これ以上追及するのは止めにした。
広場に用意させた処刑台まで悪党共を運ぶように指示して、トゥルンバルトらを先に行かせた。
誰かにやらせる気はない。二度と同じことが起きないように、俺が直接手を下すつもりでいた。
「おい、ワルター」
不機嫌な声が俺を呼んだ。ゲルトは片目で俺を睨んで、「ライナはどうしてる?」とヴィンクラーの名前をやった少女の様子を訊ねた。
「あいつなら元気だよ。今日も朝から機嫌良さそうだったぜ」
「バカ野郎、てめぇはガキか?あんなことあって平気なわけねぇだろうが!」
爺さんは怒鳴りつけて俺の話に聞く耳を持たなかった。
まったく、ライナの事になると途端に孫娘に甘い過保護な爺さんになる…
「あいつなら大丈夫だよ。カイに会えて喜んでたし、あんたやカミルにも会えたってご機嫌だったぜ。むしろ、凹んでるのはケヴィンの方だよ」
ゲルトを安心させるつもりで言った言葉だが、爺さんは腕を組んだまま、怖い顔を顰めて黙った。
「何だよ?そんなに心配ならまた様子見に来りゃいいだろうが?」
「…ワルター。ライナの事でシュミットに話があると伝えてくれ」
「シュミットに?何の話だよ?」突然湧いた話の理由を訊ねると、ゲルトは何かを睨むような表情を浮かべたまま俺の質問に答えた。
「ケヴィンはまだ嫁さんは決まってないだろう?」
まったく予想してなかったゲルトの台詞に耳を疑った。
「無理な話だってのは承知の上だ…それでも頭を下げるだけの価値はある」と言うゲルトの表情は険しく、冗談を言っているようには見えなかった。
「…なんだよ?そんなのまだ早いだろ?」
「確かに、ガキ共には早いがな、俺には遅いぐらいの話だ…」
ゲルトは相変わらず真剣な面持ちで話を続けた。
「俺だって、もう長くねぇよ。自分でも驚くぐらい長く生きたと思ってら…
いつ死んでも文句はねぇが、無責任に残して逝くつもりはねぇよ。
俺の人生のケジメは自分でキレイに精算していくつもりだ」
ゲルトはそう言って、自分にはどうしようもないものに思いを馳せた。
「ライナはな、いい子なんだ。
そんじょそこらの、つまらねぇ奴にくれてやるつもりはねぇ…
ケヴィンはちっせぇガキの頃から知ってる。シュミットの奴も悪い奴じゃねぇさ。
あの家族になら任せられる」
「…らしくねぇよ」と聞きたくない話を遮ると、老人は片目で俺を睨んで文句を言った。
「うるせぇぞ、ワルター。そんなもん俺が一番分かってら。
良いから必ず伝えろよ?話が纏まる前にお迎えが来たら呪ってやるからな」
ゲルトはさらにらしくない事を言って、俺に背を向けた。
年老いたその背中は、俺の記憶に残ってるものよりずっと小さく萎んでしまったように見えた…
✩.*˚
「…え?あれ?…これどうなってんの?」
あたしの髪を握ったまま、顔の見えない場所でミア姉が不安になる呟きを口にした。
いくつか髪の編み方を教わっていたけど、だんだん難易度が上がるにつれて、ミア姉の手元が怪しくなってきた。
「姐さん、不器用だな…」とため息と呆れるような声が聞こえてくる。
「貸してみ」とミア姉から引き継いで、髪に触れる指の感触が変わった。
櫛を上手に使いながら、器用な指先が髪の毛だけで頭を飾り付けた。
「ほら、こんな感じ」と出来上がりを鏡で見せて、カイは櫛をポケットにしまった。
髪の毛だけでできたバラは、飴細工か鼈甲細工のようにキラキラと髪を飾った。
「すごいわねぇ。髪の毛でここまでできるって器用だわぁ」と、ラウラ様もカイの髪結いとしての腕を褒めていた。
「ねぇ!お母さん!私もあれして欲しい!」
あたしの髪をうらやんで、ユリアが母親に同じものをねだった。
ユリアはバルテル卿の別荘に一泊して、昼前に帰って来た。彼女はおしゃれが大好きだから髪結いの話を聞いて『私も!』と参加した。
「私もちょっとこれは無理そうねぇ…カイさん、娘のもお願いするわ」
「いいっすけど…」と応じながらも、カイは部屋の隅に視線を向けた。
部屋の隅には仏頂面で佇むユリアの婚約者の姿があった。
「…ユリア嬢の希望ですから」と不満そうな声音で応えて、彼はそっぽを向いた。
「良いって。ねぇ、ライナ、場所変わって」
当のユリアは婚約者の気など知らない顔で、あたしの譲った椅子に座って他の男に背中を向けた。
カイも二人の様子に苦笑いを浮かべながら、ユリアの髪に櫛を入れた。
少しずつ髪を集めて、器用に編み込むと、髪の毛は花びらに変わった。
「お嬢ちゃん、まだ動くなよ?もう一個作ってやるよ」
カイはそう言って、反対側にも花を作った。
「わぁ!すごぉい!アダルウィン様、見て!!」
鏡を見たユリアは歓声を上げて、婚約者を呼んだ。
ユリアに呼ばれて、拗ねたようにそっぽを向いていたハルツハイム様はユリアに視線を向けた。
その目が大きく見開かれる。
男の人から見ても、カイの仕事は完璧だ。
「可愛いでしょう?」と笑顔で訊ねるユリアから目が離せないようだ。
「…可愛いです」
「でしょ?!すごいよね!ずっとこのままがいいな!」と大喜びのユリアは髪型が気に入ったようだ。ラウラ様に「覚えて」と何度もお願いしていた。
「仕方ないわね…カイさん、もう一度やってくれないかしら?
ミア。ちょっと私も見ながらやりたいから、髪を解いてもらってもいいかしら?」
「良いですよ」と応じて、ミア姉も椅子を持って来て座った。
「ごめんなさいね、ルカ。せっかくキレイに結ってもらったけど、もう一回結びなおしてもらっていいかしら?」とラウラ様はあたしにもお願いした。
髪を解くのはもったいないけど、また結ってもらえるなら文句はない。
それに、またカイに結んでもらえる…
カイの前に置かれた椅子に座ると、カイは黙って自分で作った芸術品を解いた。
「このくらいの束で、指の腹で少し広げるように持って…」と無愛想に解説しながら、カイは細い髪束を指で摘まんだ。
「こんな感じね」とラウラ様の真剣な声が聞こえてくる。
カイは分かりやすいようにゆっくりと髪を編んだ。髪の形を整える指が耳に触れて、少し動いてしまった。カイの持っていた髪の束が手を離れて形が崩れた。
「ご、ごめん…」恥ずかしい…意識しすぎだ…
耳まで熱くなるのを感じて、恥ずかしくて俯きそうになる。
「下向くなよ。やりにくいから…」とカイに注意されて顔を上げた。
カイにとってはただの髪結いだ。
でもあたしは…この時間がすごく嬉しいんだ…
カイは少し崩れた髪をもとのように修正すると、何事もなかったように髪の花を完成させた。
「奥さん、上手いよ。何回か練習したら上手になるよ」
隣を覗き込んで、カイはミア姉の髪を結んでいたラウラ様を褒めた。
さすがラウラ様だ。少し歪だけど、ミア姉の髪はちゃんと花と分かる形をしていた。
「あらあら。先生にお墨付きもらえたわ」とラウラ様は嬉しそうに笑って、あたしの顔を覗いた。
「しばらく練習ね。ライナの髪も結んであげるわ」
ラウラ様はあたしも娘のように可愛がってくれていた。ユリアにするような感覚でそう言ったのだろう。
でも、あたしはラウラ様に上手くならないでほしかった…
カイに結んで欲しい…
カイに会える理由になるなら、何度でもこうやって髪を結んで欲しい。
「ねぇ、ライナ!お兄ちゃんにも見せに行こう!」
おそろいの髪が仕上がるのを待って、ユリアがあたしにそう提案した。
「良いわね。行ってらっしゃい」とラウラ様が優しい笑顔であたしの背を押した。
✩.*˚
「今日はお勉強になったわ。ありがとうございました」
娘たちを見送って、髪結の先生にお礼を伝えた。
見た目の印象は宜しくないが、話してみると意外と気配りのできる好青年だった。髪結いという特技もあるし、きっと女の子にはモテるだろう。
「…別に…仕事っすから」
素っ気ない返事を返して、カイさんは髪結の道具を片付けて帰る用意を始めた。
「もう帰るの?ライナが戻ってくるの待ったら?」とミアがカイさんを引き留めていたようだが、彼は鞄を肩に下げてもう帰る用意を済ませた。
でも彼が帰る前に、はっきりさせておきたい事があった…
「ライナはカイさんに懐いているようね」
私の指摘に、カイさんは気まずそうに口を引き結んだ。
「あの子、ここに来たばかりの頃は、『帰りたい』ってよく言ってたわ。
正直な話、理解できなかったけど、貴方みたいに可愛がってくれる人がいたのならそうだったかもしれないわね」
「…人見知りだっただけっすよ…きっと」
「そう?カイさんから見て今のライナはどうかしら?昔より幸せそう?」
私の意地の悪い質問をそのまま受け止めて、彼は寂し気に笑うと「良いんじゃないっすか」と答えた。
「あいつも馴染んでるようだし、大事にしてもらってるみたいだから、俺らと暮らすよりずっといいっすよ」
彼は本当にライナの幸せを望んでいるのだろう。
その言葉は別に好印象を求めているから出たものでもないはずだ。そんなの彼にとって何の意味もない。
私の意地の悪い質問に対する返答は爽やかで、私の胸の奥にささくれのような罪悪感が湧いた…
「そう思ってもらえてよかったわ。
私ったら変な事訊いてごめんなさいね。これからもロンメルのお屋敷の一員として彼女を大切にするわ。安心してちょうだい」
「別に…心配もしてねぇっす…
俺はもう関係ないんで…」と彼は驚くほどあっさりと身を引いた。
もしかして、自分でも気付いてないのかしら?
ライナの髪を結っていた彼の顔は、恋人に向けられるような優しい顔をしていた。
ライナだって、あんなに嬉しそうにしていた…あの顔は恋をしている顔だ…
二人に『お似合いね』と祝福できない自分の立場が残念でならなかった…
✩.*˚
「ごめん。カイならもう帰っちゃったよ」
ミア姉は、部屋に戻ってきたあたしの顔を見るなりそう告げた。
ユリアと一緒に席を外している間に、カイは帰ってしまったらしい。
お別れも言わないで?
あたしのお礼も聞かないで?
「いつ帰ったの?」
「うーん…2人が出てってすぐかな?
『戻ってくるの待ったら?』って言ったんだけど、帰っちゃった。
でも多分また来てくれるだろうし…」
ミア姉の言葉を最後まで聞かずに、慌てて部屋を飛び出した。
酷いよ、勝手に帰るなんて…
腹も立ったけど、それより何より、彼に追いつかなきゃって気持ちばかりが先に来た。
慌てて玄関を飛び出すと、扉の前にいた大きな身体にぶつかって弾かれた。
「どうしたんですか?危ないですよ、ライナ…」
驚いた顔のアダムは、ぶつかって転んだあたしに手を貸そうとしてくれた。
それでも欲しいのはこの手じゃない…
彼の差し出した手は無駄になった。
「ライナ?」
戸惑うようなアダムの声を無視して、門の方に向かって走った。
当たり前だけど、用事が無いから門は閉まっていた。背の高い格子状の鉄の門扉があたしの前に立ち塞がった。
残念でした、と嘲笑うように、手をかけた重たい鉄の境界はビクともしなかった…
諦められずに、格子の隙間から向こう側を覗いて、カイの姿を探した。
まだ近くにいるなら、声が届くなら諦められない…
「どうしたんです、ライナ?」
門に張り付いているあたしに、追いかけて来たアダムが訊ねた。
「…だって…カイが…」
「彼ならさっき見送りましたよ。忘れ物ですか?」とアダムはあたしのに目の高さを合わせながら訊ねた。心配そうに覗き込む顔に後ろめたさを感じた。
「違う…けど…」
これはあたしの我儘だ…
彼を追いかける理由なんて、これっぽっちも見つからなかった…
唇を噛み締めて俯いたあたしの顔に、さらりと落ちてきた髪が触れた。
さっき、アダムとぶつかった時に崩れたのだろう…
花びらの振りをしていた髪は、形を保てずに、元の姿に戻ってしまった。
「…あ…」もうダメだ…
慌てて抑えた花は容赦なく散ってしまった…
壊れてしまった髪を見て、心は取り繕えなくなった。
蹲って泣いても何にもならないのに…
カイは戻ってきてくれやしないのに…
頭では分かっていても、溢れるものを抑えられない。
子供みたいに蹲って泣き出したあたしの耳に、「呼んできてあげようか?」と幼い男の子の声が聞こえた。聞いたことのない声だ…
誰だろうと思って顔を上げた。声の主の姿はどこにもなく、目の前にいたのは心配そうにオロオロしているアダムだけだ。
気のせいかと思っていると、少し舌足らずな幼い男の子の声がまた聞こえた。
「おねぇちゃん。僕の声聞こえるようになったんだね。少し待っててね…」
姿のない子供の声が途切れるときに、あたしの中から何かが出ていくような感覚があった。
途端に身体を支えていられなくなる。
「ライナ?大丈夫ですか?!」
アダムの声が遠く聞こえて、そのまま意識を失った…
✩.*˚
アダムに見送られてロンメルの屋敷を後にした。
『また来てください』とアダムは言っていたが、それが社交辞令だと俺にだって分かる。
まぁ、またどこかで会ったら挨拶ぐらいはするつもりでいた。
馬に揺られながら帰る途中、なんか周りの視線が気になった。
気にしすぎか?
俺みたいな奴が、ご領主様のお屋敷の正面から出入りしていたら違和感を覚えるのはまあ分からなくもない…
だからと言ってまあ良い気はしない。
馬の脚を速めて、少しでも早く帰ろうとした。
朝も早かったから疲れていた。もう帰って寝よう…
そんな風に考えながら視線を落として馬の長いうなじを眺めていた。
手綱を握る手に雨粒のような水滴が落ちてきた。それを合図に、背中や頭にぽつぽつと雨が当たった。
「雨?」
さっきまで晴れていたのに?
戸惑いながら空を見上げると、奇妙な雲が頭上に広がっていた。
「…は?」
周りの視線の理由がようやく分かった…
俺の頭上だけに黒い雨雲がかかっている。
傘くらいの大きさの雲は俺にだけ雨を降らせていた。黒い雲は不機嫌そうに、雷の音を含んで、俺の頭上に留まっていた。
「何だこりゃ?」気味の悪い雲を見上げて睨むと、雲は立ちふさがるように俺の前に回り込んだ。
ゴロゴロと唸る黒雲に馬が怯えて、前に進むのを拒んだ。
こんなの見たことも聞いたこともない。
とりあえず避けようとしたが、小さい雲は道を譲らずに、稲妻を閃かせて邪魔をした。
「ブルル…」
馬はすっかり怯えて、情けない声で嘶いて後ろに下がった。気持ち悪い黒い雲はふわふわと馬を追い立てるようについて来た。
さすがにこれは気味が悪い…
俺は魔法なんてもんは門外漢だが、これがそういった類のものだろうとなんとなく感じ取った。
俺にはこれをどう扱えばいいのか分からない。スーなら分かるだろうが、生憎、《燕の団》への帰り道は塞がれている状態だ。
帰れずに困っていると、目の前をご領主様の御一行が通りかかった。
「何やってんだお前?」と俺の姿を見て、ロンメル男爵の方から声を掛けて来た。
目の前の奇怪な状況を無視できなかったようで、届きそうな高さに浮遊する小さな黒雲と俺を珍しそうに眺めていた。
「いや…俺も良くわからないんっすよ…
《燕の団》に帰ろうとしてたら、なんかこれが急に湧いてきて…」と答えると、男爵は馬を寄せて、雲に向かって手を伸ばした。
触られそうになった雲は、嫌がるように男爵の手を避けた。
「お?こいつなんか生き物みたいだな?」と男爵は面白がっているが、俺にとっては迷惑なだけだ。
「持って帰ったらフィーが喜びそうだな」と言いながら、稲光を光らせて威嚇する雲にちょっかいをかけていた。
「閣下、そんな得体の知れないものに手を出さないでください」と見かねた連れの騎士が苦言を呈したが、男爵は気にする様子もない。
「こいつを入れる袋ないか?」と本当に持ち帰ろうとしていた。
雲は男爵から離れると、俺の後ろに隠れるように回り込んだ。
「なんだそれ?お前に懐いてんのか?」
俺の後ろに隠れた雲を見て、男爵はそう言って笑った。
「いや…勘弁してくださいよ。道を塞がれて帰れなくて困ってんっすから…」
「まあ、いいや。お前もそのままじゃ帰れねぇんだろ?
ついでだ。うちに来てそれ置いてってくれ。うちのお姫さんが喜ぶだろうからよ」と男爵が俺に提案した。
引き取ってもらえるならそれも良いが、さっき帰って来た手前、戻るのは何か気が引けた。
「スーやゲルトが文句言うなら俺が後で話してやるよ」とまで言われたら断るのも悪い。相手は一応この街で一番のお偉いさんだ。
仕方なく馬を返すと、黒い雲は微妙に距離を取りながら、そろそろとついて来た。
「カイ。お前にも礼を言わねぇとな」と、男爵は俺に声を掛けた。
「ライナを助けてくれてありがとうよ。あいつも嫌なもん引き摺ってないみたいだし、お前のおかげで助かったよ」と男爵は軽い感じで礼を言った。
その気取らない話し方が俺の緊張を和らげた。
ロンメル男爵は元傭兵だったって話だ。普通の貴族みたいな雲の上の存在とは少し違って、俺たちと同じ視線で話す姿は好感が持てた。
「あいつらどうしたんっすか?」と悪漢共の行く末を訊ねると、男爵は「もう終わった」と答えた。
「広場で生きたまま氷漬けにして、街の外に晒させた。
同じことをする奴は俺が同じように処分するってな。例外なんてつくらねぇよ。
多少やりすぎだと言われるかもしれんが、俺の街で舐めた真似をしたんだ。俺を怒らせたらこうなるっていい見本だ」
この陽気でおおらかな印象の男も怒ることはあるのだ…
あの悪漢共は喧嘩を売る相手を間違えたのだろう。
ルカは良いところに引き取られたのだと、改めて思った。
これ以上のところはねぇだろうよ…
やっぱり俺はルカにとってもう必要ない人間のように思えた。
あの屋敷にで働いている限り、この人の良い領主様や、優しい使用人たちがルカを見守ってくれるだろう。ルカの人生に、俺はもう関係ない存在だ…
「そういや、お前、今日うちに来てライナたちの髪を結ってくれたんだろ?
俺は胸糞悪い仕事があったから外していたけど、どうだったんだ?」
「どうって?髪結って、結び方教えただけっすよ」
「ライナの奴は楽しみにしてたぜ。よくは知らんが、お前上手いんだろ?うちのお姫様も結んでやってくれよ」
「お姫様の髪を結うなんて無理っすよ…」
俺みたいなゴロツキが、貴族のお嬢様の髪を結ぶなんてありえないだろ?
断った俺に、男爵は「そうか?」と意外そうな顔をした。
「まあ、お前ら遠慮するけどよ。俺は問題さえなければ別に多少出入りしてもらって構わねぇんだぜ?
ライナだって喜ぶんだ、たまには顔見せに来てやってくれよ」
この人の考えてることはよく分からない…
普通なら、俺が屋敷に出入りすることも嫌がるはずなのに、目の前の男はそれを楽しみにしているように見えた。
まるで本当にルカに会いに行ってもいいように錯覚してしまう。
その言葉に心を惹かれたのは、俺の心が弱いからだ。
カミルの兄貴にまた怒られそうだ…
馬の背に揺られながら、一人でこっそりと胸の奥からため息を押し出した。
雑貨屋で髪留めを見ていると、店主がお節介な一言を寄越した。
「そんなんじゃねえよ」と答えると、「じゃあ妹かな?」と店主は無駄口を叩いた。
妹か…
それもまた少し引っ掛かりを感じながら、「そんなもんだよ」と、それ以上勘ぐられるのが面倒くさくて誤魔化した。
ブルームバルトで買い求める気にならなかったから、朝からシュミットシュタットまで足を伸ばしていた。
俺みたいな輩が、女の子の好むような品を見ているのが珍しいのだろう。
シュミットシュタットは大きな街だから、俺の欲しいものはすぐに集まった。
こんなに買う気無かったんだけどな…
あれやこれやと買い込んだ荷物を鞄に詰めて、急いでブルームバルトに戻った。
昼頃にロンメルの屋敷に行く約束だ。
赤や青の天鵞絨のリボンや、髪を留める飾り、扱いやすそうな櫛を買い込んで、楽しみにしてるのは俺の方だ。
昨日整えたルカの髪を思い出して、彼女に似合いそうなものを用意した。
『ありがとう、カイ』
あの声が、あの笑顔が、また自分に向けられるのだと思うと、気持ちが急く。
ブルームバルトに戻ると、街に入る門の前でカミルの兄貴に会った。
「よぉ」と、カミルの兄貴は煙草を持った手を挙げて、俺を呼び止めた。
「何してるんっすか?」
「お前待ってたんだよ」
カミルの兄貴はそう言って、持っていた煙草を捨てると、俺の乗ってた馬の頬革を掴んで、馬の長い顔を撫でた。
馬は上機嫌で足を止めた。
「どこ行ってた?」と、訊かれて、一瞬言葉が出てこなかった。
「どこ行こうってお前の勝手だ。別に責めてる訳じゃねえよ」
咄嗟に答えられなかった俺に、カミルの兄貴は小さく笑って言葉を続けた。
「ロンメルの屋敷に呼ばれてるんだろ?スーから聞いた」
「まぁ…そうっすけど…」
「お前ってすごいよな。別に嫌味じゃないぜ?俺はそういう器用な芸当は無理だからよ、正直に感心してんだ」
カミルの兄貴はそう言って、俺の特技を褒めた。
俺も兄貴のことは尊敬してる。
俺よりずっと長く傭兵をやってるし、場数だって踏んでる。傭兵にしちゃ温厚な人柄だし、面倒見だって良い。上からも下からも慕われる兄貴は周りからの信頼も厚い。
俺もなれるものなら、こういう男になりたいと思う…
ただ、彼を目標にするには、その背中はあまりにも遠い気がした。
「時間ないだろ?歩きながら話そうぜ」
カミルの兄貴はそう言って、手綱に手をかけると歩き出した。
馬は従順に兄貴に後に付いて歩いた。兄貴に歩かせて、俺だけ馬の背に乗っているのは気分が悪い。
馬の背から降りようとした俺に、兄貴は「そのまま聞けよ」と制した。
「回りくどいのはお前も嫌だろ?カイ、お前さ、ライナのことどう思ってんだ?」
「…どうって…」
「妹程度に思ってんなら、俺も何も思わねぇよ。あいつだってお前に懐いているし、お前に会えて嬉しそうだった…
でもそれ以上の感情を持つなら、ちょっとばかり話が変わってくる」
兄貴の声に凄むような響きが加わった。
「俺もお前にこんなこと言いたくないけどよ…
もうあいつは昔の汚いガキじゃないんだ。貴族の屋敷で働いているお嬢さんなんだ。きっとそのうち良い縁だってもらえる。
お前がライナを助けたのも知ってるし、ライナもお前に懐いてたのも知ってる。でもな、これ以上あいつの人生に関わるな」
カミルの兄貴は本気だろう…
《お願い》のようなもんじゃない。これは《警告》だと、彼の口調からすぐに察した。
何も言えなくなった俺に、カミルの兄貴は少しだけ振り返って、誤魔化すように苦笑いして見せた。
「お前は女にモテるからよ。心配してんだぜ」
そんな冗談を口にして、カミルの兄貴は馬から手を離した。
馬はそのまま数歩進んで足を止めた。カミルの兄貴との間に微妙な距離ができた。
「邪魔して悪かったな。そういう事だからよ、覚えといてくれ」
「…俺も…ルカには幸せになって欲しいっす」
搾り出すように搾り出した答えに、カミルの兄貴は頷いた。
「分かってるよ。お前は良い奴だ。嘘だって下手くそな良い奴さ」
カミルの兄貴はバツが悪そうに、「悪いな」と言葉を残して立ち去った。人混みに背の高い影を見送って、肩から下げた鞄に触れた。
舞い上がっていた自分が馬鹿みたいだ…
そりゃそうだよな…
兄貴の心配は尤もだ。俺は昔同じ失敗をしてんだ…
だから、もう髪を結うのをやめたんじゃねぇか?
鞄に手を入れると、買い求めたリボンや櫛に手が触れた。ルカのために買ったものだ…でも本当は…
鞄から手を離して、手綱を握った。
馬鹿だよ…やっぱり俺は馬鹿だ…
カミルの兄貴の言うとおりだ。俺は傭兵以外の生き方ができないろくでなしだ。もうあいつの人生に関わるべきじゃないだろう。
沈んだ気持ちで馬の背に揺られながら、ロンメルの屋敷に到着すると、昨日の男が門の前に立っていた。
「やあ、お待ちしてましたよ」正門に立っていた男は明るく告げて、客として俺を表から案内した。
俺はロンメルの屋敷にはほとんど出入りしたことが無い。
《燕の団》の団員でも、ロンメルの屋敷の中まで入れるのは、ゲルトの爺さんやカミルの兄貴、ディルクぐらいで、俺は門の外までしか来たことがない。来たとしても裏口だ。
ルカを送って来た時だって、裏口から入って裏庭で別れただけだ。
マジでお屋敷なんだな…
改めて正面から見るデカい屋敷に圧倒された。
広い庭は俺にも分かるぐらい綺麗に整えられていて、屋敷に続く舗装された石畳には葉っぱ一つ落ちてない。
俺たちの生きてる場所とはまったく違う世界みたいだ。
現実を見て、気が引けた。
屋敷に着く前に足が前に出なくなる。
俺が来て良い場所ではない気がして、劣等感で回れ右して逃げ出したくなった…
「どうしました?」と足を止めた俺にアダムが振り返った。
「いや…なんか…俺、場違いだなって…」
「あぁ」と、アダムは頷いて嬉しそうに笑みを浮かべた。
「良いお屋敷ですよね」と言って、アダムは屋敷に視線を向けた。その顔は誇らしげに屋敷を見上げていた。
「ロンメル邸はこの街を象徴する場所です。こんなに美しい場所は他にありませんよ。
全ての人を受け入れるブルームバルトは誰もがうらやむような素晴らしい場所です。私にとって、この屋敷は聖域か神殿なのですよ」
アダムはこの屋敷を眩しそうに見上げて自慢した。多少大げさな言い方だと思うが、彼は本当にそう思っているのだろう。
「カイ。君もそう思うでしょう?」大真面目にロンメルを賛美して、アダムは俺にも同意を求めた。
拭いきれない劣等感を飲み込んで、相手に合わせて「そうだな」と頷いた。
✩.*˚
悪党を擁護する気はない。
こいつらは俺の大切な土地で、大切な時期に俺の顔に泥を塗った連中だ。
「…やり過ぎじゃね?」
これじゃまるで猫が遊んだ後のネズミじゃねぇか…
悪党共は昨日の威勢はどこへやら。息も絶え絶えの半殺しの状態だ。
「殺しちゃいねぇんだ。感謝しろ」とゲルトは苛立ちを含んだ低い声で凄んだ。
これだけやっても、ゲルトはまだ怒りが収まっていないようだ。
まあ、許可したのは俺だし、《燕の団》の奴らも最低限の条件は守っていた。これ以上追及するのは止めにした。
広場に用意させた処刑台まで悪党共を運ぶように指示して、トゥルンバルトらを先に行かせた。
誰かにやらせる気はない。二度と同じことが起きないように、俺が直接手を下すつもりでいた。
「おい、ワルター」
不機嫌な声が俺を呼んだ。ゲルトは片目で俺を睨んで、「ライナはどうしてる?」とヴィンクラーの名前をやった少女の様子を訊ねた。
「あいつなら元気だよ。今日も朝から機嫌良さそうだったぜ」
「バカ野郎、てめぇはガキか?あんなことあって平気なわけねぇだろうが!」
爺さんは怒鳴りつけて俺の話に聞く耳を持たなかった。
まったく、ライナの事になると途端に孫娘に甘い過保護な爺さんになる…
「あいつなら大丈夫だよ。カイに会えて喜んでたし、あんたやカミルにも会えたってご機嫌だったぜ。むしろ、凹んでるのはケヴィンの方だよ」
ゲルトを安心させるつもりで言った言葉だが、爺さんは腕を組んだまま、怖い顔を顰めて黙った。
「何だよ?そんなに心配ならまた様子見に来りゃいいだろうが?」
「…ワルター。ライナの事でシュミットに話があると伝えてくれ」
「シュミットに?何の話だよ?」突然湧いた話の理由を訊ねると、ゲルトは何かを睨むような表情を浮かべたまま俺の質問に答えた。
「ケヴィンはまだ嫁さんは決まってないだろう?」
まったく予想してなかったゲルトの台詞に耳を疑った。
「無理な話だってのは承知の上だ…それでも頭を下げるだけの価値はある」と言うゲルトの表情は険しく、冗談を言っているようには見えなかった。
「…なんだよ?そんなのまだ早いだろ?」
「確かに、ガキ共には早いがな、俺には遅いぐらいの話だ…」
ゲルトは相変わらず真剣な面持ちで話を続けた。
「俺だって、もう長くねぇよ。自分でも驚くぐらい長く生きたと思ってら…
いつ死んでも文句はねぇが、無責任に残して逝くつもりはねぇよ。
俺の人生のケジメは自分でキレイに精算していくつもりだ」
ゲルトはそう言って、自分にはどうしようもないものに思いを馳せた。
「ライナはな、いい子なんだ。
そんじょそこらの、つまらねぇ奴にくれてやるつもりはねぇ…
ケヴィンはちっせぇガキの頃から知ってる。シュミットの奴も悪い奴じゃねぇさ。
あの家族になら任せられる」
「…らしくねぇよ」と聞きたくない話を遮ると、老人は片目で俺を睨んで文句を言った。
「うるせぇぞ、ワルター。そんなもん俺が一番分かってら。
良いから必ず伝えろよ?話が纏まる前にお迎えが来たら呪ってやるからな」
ゲルトはさらにらしくない事を言って、俺に背を向けた。
年老いたその背中は、俺の記憶に残ってるものよりずっと小さく萎んでしまったように見えた…
✩.*˚
「…え?あれ?…これどうなってんの?」
あたしの髪を握ったまま、顔の見えない場所でミア姉が不安になる呟きを口にした。
いくつか髪の編み方を教わっていたけど、だんだん難易度が上がるにつれて、ミア姉の手元が怪しくなってきた。
「姐さん、不器用だな…」とため息と呆れるような声が聞こえてくる。
「貸してみ」とミア姉から引き継いで、髪に触れる指の感触が変わった。
櫛を上手に使いながら、器用な指先が髪の毛だけで頭を飾り付けた。
「ほら、こんな感じ」と出来上がりを鏡で見せて、カイは櫛をポケットにしまった。
髪の毛だけでできたバラは、飴細工か鼈甲細工のようにキラキラと髪を飾った。
「すごいわねぇ。髪の毛でここまでできるって器用だわぁ」と、ラウラ様もカイの髪結いとしての腕を褒めていた。
「ねぇ!お母さん!私もあれして欲しい!」
あたしの髪をうらやんで、ユリアが母親に同じものをねだった。
ユリアはバルテル卿の別荘に一泊して、昼前に帰って来た。彼女はおしゃれが大好きだから髪結いの話を聞いて『私も!』と参加した。
「私もちょっとこれは無理そうねぇ…カイさん、娘のもお願いするわ」
「いいっすけど…」と応じながらも、カイは部屋の隅に視線を向けた。
部屋の隅には仏頂面で佇むユリアの婚約者の姿があった。
「…ユリア嬢の希望ですから」と不満そうな声音で応えて、彼はそっぽを向いた。
「良いって。ねぇ、ライナ、場所変わって」
当のユリアは婚約者の気など知らない顔で、あたしの譲った椅子に座って他の男に背中を向けた。
カイも二人の様子に苦笑いを浮かべながら、ユリアの髪に櫛を入れた。
少しずつ髪を集めて、器用に編み込むと、髪の毛は花びらに変わった。
「お嬢ちゃん、まだ動くなよ?もう一個作ってやるよ」
カイはそう言って、反対側にも花を作った。
「わぁ!すごぉい!アダルウィン様、見て!!」
鏡を見たユリアは歓声を上げて、婚約者を呼んだ。
ユリアに呼ばれて、拗ねたようにそっぽを向いていたハルツハイム様はユリアに視線を向けた。
その目が大きく見開かれる。
男の人から見ても、カイの仕事は完璧だ。
「可愛いでしょう?」と笑顔で訊ねるユリアから目が離せないようだ。
「…可愛いです」
「でしょ?!すごいよね!ずっとこのままがいいな!」と大喜びのユリアは髪型が気に入ったようだ。ラウラ様に「覚えて」と何度もお願いしていた。
「仕方ないわね…カイさん、もう一度やってくれないかしら?
ミア。ちょっと私も見ながらやりたいから、髪を解いてもらってもいいかしら?」
「良いですよ」と応じて、ミア姉も椅子を持って来て座った。
「ごめんなさいね、ルカ。せっかくキレイに結ってもらったけど、もう一回結びなおしてもらっていいかしら?」とラウラ様はあたしにもお願いした。
髪を解くのはもったいないけど、また結ってもらえるなら文句はない。
それに、またカイに結んでもらえる…
カイの前に置かれた椅子に座ると、カイは黙って自分で作った芸術品を解いた。
「このくらいの束で、指の腹で少し広げるように持って…」と無愛想に解説しながら、カイは細い髪束を指で摘まんだ。
「こんな感じね」とラウラ様の真剣な声が聞こえてくる。
カイは分かりやすいようにゆっくりと髪を編んだ。髪の形を整える指が耳に触れて、少し動いてしまった。カイの持っていた髪の束が手を離れて形が崩れた。
「ご、ごめん…」恥ずかしい…意識しすぎだ…
耳まで熱くなるのを感じて、恥ずかしくて俯きそうになる。
「下向くなよ。やりにくいから…」とカイに注意されて顔を上げた。
カイにとってはただの髪結いだ。
でもあたしは…この時間がすごく嬉しいんだ…
カイは少し崩れた髪をもとのように修正すると、何事もなかったように髪の花を完成させた。
「奥さん、上手いよ。何回か練習したら上手になるよ」
隣を覗き込んで、カイはミア姉の髪を結んでいたラウラ様を褒めた。
さすがラウラ様だ。少し歪だけど、ミア姉の髪はちゃんと花と分かる形をしていた。
「あらあら。先生にお墨付きもらえたわ」とラウラ様は嬉しそうに笑って、あたしの顔を覗いた。
「しばらく練習ね。ライナの髪も結んであげるわ」
ラウラ様はあたしも娘のように可愛がってくれていた。ユリアにするような感覚でそう言ったのだろう。
でも、あたしはラウラ様に上手くならないでほしかった…
カイに結んで欲しい…
カイに会える理由になるなら、何度でもこうやって髪を結んで欲しい。
「ねぇ、ライナ!お兄ちゃんにも見せに行こう!」
おそろいの髪が仕上がるのを待って、ユリアがあたしにそう提案した。
「良いわね。行ってらっしゃい」とラウラ様が優しい笑顔であたしの背を押した。
✩.*˚
「今日はお勉強になったわ。ありがとうございました」
娘たちを見送って、髪結の先生にお礼を伝えた。
見た目の印象は宜しくないが、話してみると意外と気配りのできる好青年だった。髪結いという特技もあるし、きっと女の子にはモテるだろう。
「…別に…仕事っすから」
素っ気ない返事を返して、カイさんは髪結の道具を片付けて帰る用意を始めた。
「もう帰るの?ライナが戻ってくるの待ったら?」とミアがカイさんを引き留めていたようだが、彼は鞄を肩に下げてもう帰る用意を済ませた。
でも彼が帰る前に、はっきりさせておきたい事があった…
「ライナはカイさんに懐いているようね」
私の指摘に、カイさんは気まずそうに口を引き結んだ。
「あの子、ここに来たばかりの頃は、『帰りたい』ってよく言ってたわ。
正直な話、理解できなかったけど、貴方みたいに可愛がってくれる人がいたのならそうだったかもしれないわね」
「…人見知りだっただけっすよ…きっと」
「そう?カイさんから見て今のライナはどうかしら?昔より幸せそう?」
私の意地の悪い質問をそのまま受け止めて、彼は寂し気に笑うと「良いんじゃないっすか」と答えた。
「あいつも馴染んでるようだし、大事にしてもらってるみたいだから、俺らと暮らすよりずっといいっすよ」
彼は本当にライナの幸せを望んでいるのだろう。
その言葉は別に好印象を求めているから出たものでもないはずだ。そんなの彼にとって何の意味もない。
私の意地の悪い質問に対する返答は爽やかで、私の胸の奥にささくれのような罪悪感が湧いた…
「そう思ってもらえてよかったわ。
私ったら変な事訊いてごめんなさいね。これからもロンメルのお屋敷の一員として彼女を大切にするわ。安心してちょうだい」
「別に…心配もしてねぇっす…
俺はもう関係ないんで…」と彼は驚くほどあっさりと身を引いた。
もしかして、自分でも気付いてないのかしら?
ライナの髪を結っていた彼の顔は、恋人に向けられるような優しい顔をしていた。
ライナだって、あんなに嬉しそうにしていた…あの顔は恋をしている顔だ…
二人に『お似合いね』と祝福できない自分の立場が残念でならなかった…
✩.*˚
「ごめん。カイならもう帰っちゃったよ」
ミア姉は、部屋に戻ってきたあたしの顔を見るなりそう告げた。
ユリアと一緒に席を外している間に、カイは帰ってしまったらしい。
お別れも言わないで?
あたしのお礼も聞かないで?
「いつ帰ったの?」
「うーん…2人が出てってすぐかな?
『戻ってくるの待ったら?』って言ったんだけど、帰っちゃった。
でも多分また来てくれるだろうし…」
ミア姉の言葉を最後まで聞かずに、慌てて部屋を飛び出した。
酷いよ、勝手に帰るなんて…
腹も立ったけど、それより何より、彼に追いつかなきゃって気持ちばかりが先に来た。
慌てて玄関を飛び出すと、扉の前にいた大きな身体にぶつかって弾かれた。
「どうしたんですか?危ないですよ、ライナ…」
驚いた顔のアダムは、ぶつかって転んだあたしに手を貸そうとしてくれた。
それでも欲しいのはこの手じゃない…
彼の差し出した手は無駄になった。
「ライナ?」
戸惑うようなアダムの声を無視して、門の方に向かって走った。
当たり前だけど、用事が無いから門は閉まっていた。背の高い格子状の鉄の門扉があたしの前に立ち塞がった。
残念でした、と嘲笑うように、手をかけた重たい鉄の境界はビクともしなかった…
諦められずに、格子の隙間から向こう側を覗いて、カイの姿を探した。
まだ近くにいるなら、声が届くなら諦められない…
「どうしたんです、ライナ?」
門に張り付いているあたしに、追いかけて来たアダムが訊ねた。
「…だって…カイが…」
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姿のない子供の声が途切れるときに、あたしの中から何かが出ていくような感覚があった。
途端に身体を支えていられなくなる。
「ライナ?大丈夫ですか?!」
アダムの声が遠く聞こえて、そのまま意識を失った…
✩.*˚
アダムに見送られてロンメルの屋敷を後にした。
『また来てください』とアダムは言っていたが、それが社交辞令だと俺にだって分かる。
まぁ、またどこかで会ったら挨拶ぐらいはするつもりでいた。
馬に揺られながら帰る途中、なんか周りの視線が気になった。
気にしすぎか?
俺みたいな奴が、ご領主様のお屋敷の正面から出入りしていたら違和感を覚えるのはまあ分からなくもない…
だからと言ってまあ良い気はしない。
馬の脚を速めて、少しでも早く帰ろうとした。
朝も早かったから疲れていた。もう帰って寝よう…
そんな風に考えながら視線を落として馬の長いうなじを眺めていた。
手綱を握る手に雨粒のような水滴が落ちてきた。それを合図に、背中や頭にぽつぽつと雨が当たった。
「雨?」
さっきまで晴れていたのに?
戸惑いながら空を見上げると、奇妙な雲が頭上に広がっていた。
「…は?」
周りの視線の理由がようやく分かった…
俺の頭上だけに黒い雨雲がかかっている。
傘くらいの大きさの雲は俺にだけ雨を降らせていた。黒い雲は不機嫌そうに、雷の音を含んで、俺の頭上に留まっていた。
「何だこりゃ?」気味の悪い雲を見上げて睨むと、雲は立ちふさがるように俺の前に回り込んだ。
ゴロゴロと唸る黒雲に馬が怯えて、前に進むのを拒んだ。
こんなの見たことも聞いたこともない。
とりあえず避けようとしたが、小さい雲は道を譲らずに、稲妻を閃かせて邪魔をした。
「ブルル…」
馬はすっかり怯えて、情けない声で嘶いて後ろに下がった。気持ち悪い黒い雲はふわふわと馬を追い立てるようについて来た。
さすがにこれは気味が悪い…
俺は魔法なんてもんは門外漢だが、これがそういった類のものだろうとなんとなく感じ取った。
俺にはこれをどう扱えばいいのか分からない。スーなら分かるだろうが、生憎、《燕の団》への帰り道は塞がれている状態だ。
帰れずに困っていると、目の前をご領主様の御一行が通りかかった。
「何やってんだお前?」と俺の姿を見て、ロンメル男爵の方から声を掛けて来た。
目の前の奇怪な状況を無視できなかったようで、届きそうな高さに浮遊する小さな黒雲と俺を珍しそうに眺めていた。
「いや…俺も良くわからないんっすよ…
《燕の団》に帰ろうとしてたら、なんかこれが急に湧いてきて…」と答えると、男爵は馬を寄せて、雲に向かって手を伸ばした。
触られそうになった雲は、嫌がるように男爵の手を避けた。
「お?こいつなんか生き物みたいだな?」と男爵は面白がっているが、俺にとっては迷惑なだけだ。
「持って帰ったらフィーが喜びそうだな」と言いながら、稲光を光らせて威嚇する雲にちょっかいをかけていた。
「閣下、そんな得体の知れないものに手を出さないでください」と見かねた連れの騎士が苦言を呈したが、男爵は気にする様子もない。
「こいつを入れる袋ないか?」と本当に持ち帰ろうとしていた。
雲は男爵から離れると、俺の後ろに隠れるように回り込んだ。
「なんだそれ?お前に懐いてんのか?」
俺の後ろに隠れた雲を見て、男爵はそう言って笑った。
「いや…勘弁してくださいよ。道を塞がれて帰れなくて困ってんっすから…」
「まあ、いいや。お前もそのままじゃ帰れねぇんだろ?
ついでだ。うちに来てそれ置いてってくれ。うちのお姫さんが喜ぶだろうからよ」と男爵が俺に提案した。
引き取ってもらえるならそれも良いが、さっき帰って来た手前、戻るのは何か気が引けた。
「スーやゲルトが文句言うなら俺が後で話してやるよ」とまで言われたら断るのも悪い。相手は一応この街で一番のお偉いさんだ。
仕方なく馬を返すと、黒い雲は微妙に距離を取りながら、そろそろとついて来た。
「カイ。お前にも礼を言わねぇとな」と、男爵は俺に声を掛けた。
「ライナを助けてくれてありがとうよ。あいつも嫌なもん引き摺ってないみたいだし、お前のおかげで助かったよ」と男爵は軽い感じで礼を言った。
その気取らない話し方が俺の緊張を和らげた。
ロンメル男爵は元傭兵だったって話だ。普通の貴族みたいな雲の上の存在とは少し違って、俺たちと同じ視線で話す姿は好感が持てた。
「あいつらどうしたんっすか?」と悪漢共の行く末を訊ねると、男爵は「もう終わった」と答えた。
「広場で生きたまま氷漬けにして、街の外に晒させた。
同じことをする奴は俺が同じように処分するってな。例外なんてつくらねぇよ。
多少やりすぎだと言われるかもしれんが、俺の街で舐めた真似をしたんだ。俺を怒らせたらこうなるっていい見本だ」
この陽気でおおらかな印象の男も怒ることはあるのだ…
あの悪漢共は喧嘩を売る相手を間違えたのだろう。
ルカは良いところに引き取られたのだと、改めて思った。
これ以上のところはねぇだろうよ…
やっぱり俺はルカにとってもう必要ない人間のように思えた。
あの屋敷にで働いている限り、この人の良い領主様や、優しい使用人たちがルカを見守ってくれるだろう。ルカの人生に、俺はもう関係ない存在だ…
「そういや、お前、今日うちに来てライナたちの髪を結ってくれたんだろ?
俺は胸糞悪い仕事があったから外していたけど、どうだったんだ?」
「どうって?髪結って、結び方教えただけっすよ」
「ライナの奴は楽しみにしてたぜ。よくは知らんが、お前上手いんだろ?うちのお姫様も結んでやってくれよ」
「お姫様の髪を結うなんて無理っすよ…」
俺みたいなゴロツキが、貴族のお嬢様の髪を結ぶなんてありえないだろ?
断った俺に、男爵は「そうか?」と意外そうな顔をした。
「まあ、お前ら遠慮するけどよ。俺は問題さえなければ別に多少出入りしてもらって構わねぇんだぜ?
ライナだって喜ぶんだ、たまには顔見せに来てやってくれよ」
この人の考えてることはよく分からない…
普通なら、俺が屋敷に出入りすることも嫌がるはずなのに、目の前の男はそれを楽しみにしているように見えた。
まるで本当にルカに会いに行ってもいいように錯覚してしまう。
その言葉に心を惹かれたのは、俺の心が弱いからだ。
カミルの兄貴にまた怒られそうだ…
馬の背に揺られながら、一人でこっそりと胸の奥からため息を押し出した。
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