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冬の前
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随分無駄な時間を過ごした気がする。
退屈で死にそうだったが、それ以上にヴィクターの事が気にかかっていた。
「オークランドは何してんだ?」
俺の世話をする物好きな男に訊ねた。
お坊ちゃんは相変わらず俺を守ろうとしていた。その約束を守ろうとする姿が、俺の枷になっていた。
「答えられない」とお坊ちゃんは俺の質問に、至極真っ当は返事を返した。
そりゃそうだ。俺に情報をやる理由なんてない。
それでも、お坊ちゃんは俺の欲しい答えを用意していた。
「《鷹の目》は捕らえていない。相変わらず厄介な存在だ」
「…そうか」ヴィクターはまだ無事か…
それを知れただけで、焦りは潮が引くように消えた。
「いつもありがとうよ」と自然と感謝の言葉が出た。
それを受け取ったお坊ちゃんは、少しだけ表情を弛めて頷いた。
「侯爵閣下が君の処遇に関して見解を変えない限り、君の命は保証されている。
窮屈だが、今しばらく我慢してくれ」
「いいさ。あんたに任すって言ったんだ。
今更変える気なんてねぇよ」
俺の返事に、お坊ちゃんは頷いて見せた。
この不器用な青年が、《任せろ》と言ってるような気がした。
どうせ頭を使うのは苦手だ。
当初は何とか逃げ出して、対岸に渡るつもりでいたが、どうにもそれはできそうにない。
少なくとも、このお坊ちゃんに迷惑はかけられない。
もっと違う形で出会っていれば、俺はこのお坊ちゃんの役に立つ道を選んだだろう。
差し入れられた食事を食べながら、世間話程度に、「今日も豪勢だな」と言った。
「同じものを用意してもらっている」とお坊ちゃんはつまらなそうな声で答えた。
「私が食べるものと同じだ。どちらを食べるか分からないから、毒の心配はない」
「は?…あんたそんなことを?」
驚いた…
そんな事までしてたのか?下手すりゃあんたが死ぬんだぞ?
「ないとは思いたいが、念には念をだ。その方が私も安心だ」
お坊ちゃんはそう言っていたが、それだけの理由で捕虜のために命を張るなんてできないだろ?
「…あんた俺が思ってたよりずっと馬鹿だな」
「そうかもしれないな」
「そうだよ。
でもあんたはいい馬鹿だよ」
俺の拙い言葉でも、言いたいことは伝わったらしい。
お坊ちゃんは、彼にしては表情豊かに、照れたような淡い笑みを見せた。
✩.*˚
フィーアの岸に、首が一つ置かれた。
「《スウィッチ》の首で間違いないな?」
「前の隊長っぽいっちゃぽいっすね」
遠眼鏡を渡して、《スウィッチ》の部下に首を確認させた。
惜しいとは思わないが、道具のひとつを失ったような気分だ。新しいのを調達するのが面倒だな…
知りたいのは、ラッセルの兄の動向だ。
どこに消えた?
私は団長の望み通り、ラッセルの兄を始末する気でいた。
団長の邪魔になるものは、たとえ仲間であろうと排除されなければならない。
対岸の様子を遠眼鏡を通して見張っていると、一人の男に目が留まった。
周りに比べれば背は低い。
服装も目立たない普通のものだ。
何故気になったのか分からないが、直感的にその男の動向を追った。
兵士らの隠れている場所に向かうと誰かを探していた。
彼はしばらくウロウロして、目的の人物に会えたらしい。
話をしている最中に、男は顔を半分隠していた口元の布を下げた。
その顔を見て、何か引っかかるのを感じた。
この男、見たことがあるのか?
整った顔立ちで、黒い髪を無造作に束ねている。涼し気な目元には、緑のような、青のような瞳が嵌っていた。
顔は悪くないのに、男は終始、不貞腐れたような、不機嫌そうな顔をしていた。
誰だ?
覚えは良い方だ。どこかで見たことがある気がするのは自分の記憶のどこかに引っかかっているからだ…
彼と話をしてる男も後ろ姿で、長い髪と羽飾りの帽子が邪魔をして、唇の動きが読めない。
名前を拾おうとしたが、これでは分からないな…
「あの男、誰か分かるか?」と、長くカナルに居る者に訊ねたが、誰も分からなかった。
「話してるのは《燕》の団長ですがね。団員じゃないっすか?」と言う傭兵たちの中で、一人だけ何度も遠眼鏡を覗き込んでいる男がいた。
「…いや、でもまさか…」とブツブツ呟きながら、彼は幽霊でも見てるような顔をしていた。
「知っているのか?」
「いや…」
「思い当たることがあるなら答えろ。些細なことでも構わん」
そう言って、男に金を差し出した。
彼はそれを見て渋々口を開いた。
「いや、大したことじゃないっすよ?俺の昔の《隊長》に似てたもんで…」
「《隊長》?誰だ?」
「《烈火》っすよ、《烈火のアルフィー》…
火傷だらけの炎使いの隊長っすよ。
数年前にウィンザーで《冬将軍》と戦って、負けて死んだはずだし、火傷がないから別人だと思いますがね…
…にしてもよく似てる…」
「…なるほど」
《烈火》なら私も知っている。
道理で見覚えのある顔なわけだ…
遠眼鏡をもう一度覗いた。
男は話を終えて立ち去ろうとしていた。
火傷なんか無い。確かに人違いのようだ…
奴に家族はいなかったはずだが、これだけ似ていると、兄弟か親戚かと疑いたくなる。
「…人違いならいい」
当人であれば問題だが、あの男は数年前にウィンザーで死んだ。
団長は珍しく彼を惜しんでいた。
団長が欲しいのは伝説になりうる《英雄》だ。
だが、それは更に強い《英雄》の踏み台になって終わった…
いかんな…
他人の空似なら見続けるだけ無駄と言うものだ…
遠眼鏡を畳んで鞄にしまった。
私のすべきことは、この岸の後始末だ。
少なくともそれを見届けるまではルフトゥキャピタルに戻ることはできない。
「対岸に動きがあったら教えろ」と命令して、川に背を向けた。
✩.*˚
何か視線のようなものを感じるのは気のせいだろうか?
もうじき冬が来る。
戦は止まるはずだ。
状況を見ながら、一部の兵士や傭兵たちは戦列を離れ、春にまた招集される事になった。
《燕の団》も一部を残し、ブルームバルトに帰るらしい。
あの爺さんを寒空の下にテントで野営させるのは、もう限界なのだろう。
『お前も一度帰れよ。家族が待ってるだろ?』
スーはそう言って俺も一緒に戻るように勧めた。
『《鷹の目》はどうするんだ?まだ解決してないだろう?』と言う俺に、スーは『へーきだよ』と答えた。
『だから俺が残るんだろ?』
その楽観的な返答に苦いものを感じた。
問題を押し付けるような罪悪感…
結局俺はここに何をしに来たでもなく、アニタを無駄に悲しませただけだ…
『何も無しじゃ帰れない』
『君ってホントに真面目だな…
君がいてくれたから、俺は割と気が楽だったよ。
ワルターだって感謝してるし、侯爵も伯爵も君がいてくれて『助かった』って言ってたよ。
必要になったらまた来てくれよ』
スーはそう言って笑って見せた。
後は任せろということらしい。俺が意地を張って残る理由もないようだ。
『分かった…』
『帰れるんだから喜べよ。
そうだ、帰る前に一緒に飲まないか?』
『酒は苦手なんだ』と断ってスーと別れた。
テントに戻って、着替えを丸めた枕の下から手紙を取り出した。
アニタの手紙だ…
俺への心配と、子供たちの事が書かれていた。
それでも肝心の自分のことは何一つなかった…
まだ怒っているのだろうか?
《元気でね》と締められた手紙には《帰ってきて》とはなかった。
アニタも割と頑固だから、《行く》と決めた俺を許せなかったのかもしれない。
ため息を吐いて手紙を元のようにしまった。
彼女らに何か買って帰ろう…
何が良いだろうか?
エドガーはまた大きくなったから靴を買い替えてやらなきゃな。
直に、メアリとフリーデも歩くようになるだろう…
女の子は何が欲しいだろうか?
金はそれなりに貰っている。多少使い込んでも困らない。
酒も女も博打もしないから、金の使い道が分からない。
どうしたらアニタを喜ばせれるだろう?
彼女の機嫌を取る方法を考えているのは、俺に後ろめたい気持ちがあるからだ。
あの暖かい家に戻る方法を探していた…
✩.*˚
「え?スーは帰ってこないんですか?」
旦那様に呼ばれて、スーからの手紙を教えられた。文章を読むのが苦手なあたしの代わりに、旦那様は手紙を読んでくれた。
「らしいぞ。
帰らにゃならん奴らだけ戻ってくるらしい。スーは《犬たち》と残るって事だ」
「そう…ですか」
少しガッカリした。ルドも楽しみにしてたのに…
「悪いな。何もなけりゃ、帰ってくるかもしれないからよ。
まぁ、何もなけりゃ帰ってくるかもしれないから、用意だけしてやっておいてくれ」
「はい」
「ガッカリさせて悪いな。俺の代わりでもあるんだ。
埋め合わせはちゃんとするよ」
「いえ。お気持ちだけで…
ありがとうございます」
「俺に遠慮すんなよ。
お前たち親子は俺の身内みたいなもんだ。
ルドには可哀想な事をしちまったが、俺もあいつに寂しい思いはさせないからよ。ルドの誕生日くらいは戻ってこれるように何とかする」
旦那様は相変わらず親切にあたしたち親子に気遣いをくれた。
エルマーとの約束もあるだろうけど、旦那様がお優しい人には変わりない。
「ありがとうございます、旦那様」と心からお礼を伝えて、深く頭を下げた。
「ルドには俺から言ってやろうか?」と言ってくださったが、そこまで甘えてはいられない。
「大丈夫です。母親ですから、あたしから伝えます」
あたしの強がりに、旦那様は「そうか」と頷いて、仕事に戻るように言った。
旦那様のお部屋を後にして仕事に戻った。
メリッサもお腹が大きくなってきてるし、ライナには色々教えないといけない。
あたしだって、これでもロンメル家のメイドとしては長い。もう教わるだけじゃない。教える側だし、責任だってある立場だ。
乾いた空気を含んだ北風が窓を叩いた。
少しずつ冬に近づいている。
寒くなるのに、スーも大変だよね…
頼られる立場なのは、やりがいがあるだろうけど、同時に大変なことだとも思う。
帰って来て欲しかったな、と言葉には出さないが、心の中では思っていた。
手は自然と髪留めに伸びた。
スーだって、エルマーのように二度と帰って来ない事だってありうるのだ…
「ふぅ…仕事しよ!」
嫌な考えを振り払って、髪を結い直して気合を入れた。
落ち込んでる場合じゃない。
ロンメルの御屋敷は、広さの割に使用人が少ないからサボってる場合じゃない。
週に何回か通うお手伝いさんもいるから、簡単な掃除や洗濯などの雑用は彼女らに任せている。
それでも、旦那様や奥様のお部屋の掃除や、お食事の用意などはラウラ様やあたしたちの仕事だ。
「あ、ミア姉。用事済んだの?」
階段の掃除をしていたライナがあたしを見つけた。
「うん。スーが帰れないんだってさ」
「団長が?お爺ちゃんは?」と彼女は年寄りの心配をしていた。
「ゲルトは帰ってくるって。カミルも一緒だよ。
スーと《犬》はカナルに残って、しばらく様子を見るらしいの」
「そっか…じゃあ、カイたちも残るんだ…」と彼女は少しガッカリしたような顔をしていた。
彼女はあの一件から、一度もカイに会えていないらしい。カイの方が彼女を避けているようだった。
「また帰ってきたら話したらいいよ」とライナを慰めた。
ライナは寂しそうな笑顔で「うん」と頷いた。
「さて!あたしも仕事しますか!」と明るい声を出して陽気に振舞った。
「寝室のシーツの交換と掃除がまだなんだ」
「了解、あたしやってくるね」と笑顔を残して、リネン室に向かった。
洗濯が済んだシーツやリネンが棚に並んでる。
足らないものが無いか確認して、替えのシーツを手に取って、穴がないか確認した。
よしよし、問題なし。
枕のカバーも籠に入れて、旦那様と奥様の寝室に向かった。
流石にねー…まだよく分かってない女の子に男女の寝たシーツを交換させるのはまずいもんね…
シーツと枕カバーを交換して、掛布団を確認した。
そろそろ寒くなってくる。毛布を追加した方がいいかしら?
旦那様は気にしないだろうけど、奥様が風邪を引いたら一大事だ…
そんなことを思いながら、ベッドを整えた。
ベッドの頭の辺りの物を置くスペースに、豚の飾りを見つけた。
子豚たちが、お母さん豚に引っ付いて、おっぱいを飲んでいる。子供に恵まれるようにと、大ビッテンフェルト卿がくれたのだという。
旦那様も奥様も子供を欲しがっていた。
「お二人に子供が出来ますように」と豚の像にお願いして、洗濯物を持って寝室を後にした。
洗濯物を裏口に置きに行くと、ルドとケヴィンに会った。
「ママー!ルドお手伝いするよぉ!」と元気な声が廊下に響いた。
「フィリーネ様のお世話はいいの?」
「うん。フィリーネ様はお昼寝してるもん。
アルマのお世話も散歩もしたよ」
ルドは下がった目尻で可愛く笑った。
なんか本当にあの人に似てきたな…
愛おしくてルドに手を伸ばした。
頭を撫でられたルドは、嬉しそうにケラケラと声を立てて笑っていた。
「僕も持ってあげる」とルドはシーツをの入った籠を下から支えた。
「ありがとう、ルド」
「僕、いっぱいお手伝いするよ!だからパパに『ルド、がんばってたよ』って言ってね!」
ルドは無邪気にそう言って笑った。楽しみにしてたんだな、と少し胸が痛くなった。
「ルド…
さっきね、旦那様とお話してたんだけど」
「なに?」
「パパね、もう少しカナルに居なくちゃいけないんだって。だから帰ってくるの、もう少し先になるみたい」
あたしの言葉を理解して、ルドの笑顔が消えた。
「…先って…いつ帰るの?」
「うーん…それはちょっとママにも分からないけど…」
ルドはスーに会うのを楽しみにしてたのだろう。
駄々をこねることはなかったが、その聞き分けの良さがさらに可哀想だった。
「ルド…」
慰める言葉が見つからない。
どうしても、『仕方ないよ』と言ってしまいそうになる自分がいる。
でもそれはあたしの勝手な解釈で、ルドの欲しい言葉とはかけ離れているのだろう…
困っているあたしとルドを見比べて、ケヴィンがルドを慰めるように優しく話しかけた。
「ルド。スーが帰って来なくて残念だね。
でも、スーも頑張ってるから応援してあげよう?」
「でも…ルドはパパのところに行けないもん…」
「行けなくてもお手紙は書けるよ。旦那様にお願いして、一緒に届けてもらおう?
僕が手伝ってあげるから、一緒にお手紙書いてみない?スーは君からの手紙を喜んでくれるはずだよ」
ケヴィンのお兄さんらしい提案に、ルドはモジモジしながら「ルド、上手く書けないもん」と少しいじけていた。
「いいよ。ルドが書くから良いんだよ。
僕もお父さんが戦に出てた時はお母さんと一緒にお手紙書いたよ。
お父さんは必ず返事をくれた。きっとスーも返事をくれるよ」
ケヴィンに励まされて、ルドは「うん」と頷いた。
「ルド、頑張る。パパにお手紙書くよ」
単純だけど、この子の中では折り合いが着いたらしい。
あたし一人じゃこの答えは出なかったと思う。
ルドはみんなに育ててもらってるんだ、と改めて感じた。
「良かったね、ルド」
「うん、ママの分も僕が書いたげる!」
さっきまでいじけていた子供は、もう忘れたかのように笑顔でそう答えた。
スーにもこの子の成長を見て欲しいと思った。
✩.*˚
「へぇ…」
手紙を受け取って驚いた。
勝手に手元を覗き込んだイザークが「何だ?それ?」と首を傾げた。
高さの合わない、兎の跳ね回るような文字は拙いが、一生懸命なのは伝わった。
《パパへ。ルド待ってるよ。ママも待ってるよ。早く帰ってきてね》
短いそれだけの手紙…
でも初めてにしては上出来だ。
もう一枚入ってた手紙はユリアの代筆だった。
ケヴィンがルドに手紙を書くように勧めてれたのだと、ミアは嬉しそうに手紙で教えてくれた。
あそこには先生ならいっぱいいるもんな…
帰れないと知ってガッカリしてるかと心配したが、そんなこと無かったのかな?
俺の方が少し寂しく思えるよ…
ミアは俺の事を気遣ってくれる言葉を綴っていた。
手紙を読み進めると、便乗したユリアのメッセージがあった。
《ミアがいらないって言ったけど、私が勝手に代わりに書くね。
『愛してる。浮気しちゃダメよ!』
代筆のユリアより》
お節介な一言に笑いながら手紙を畳んだ。ユリアはおませだからミアの言う《余計な一言》を添えてくれたようだ。
ケヴィンとユリアには借りができたな。
「スー」
カミルに呼ばれて顔を上げた。
帰り支度を済ませた幌馬車が並んでいた。
「もう行くのか?」
「あぁ。寒いのは爺さんには堪えるからな。
お前らも切りのいい所で戻ってこいよ?」
差し出されたカミルの手を、感謝の気持ちを込めて握り返した。
オークランドからの動きがなくなって、一月が経とうとしていた。
侯爵の負傷で牽制したと思って、オークランドも冬の準備に取り掛かったのだろうか?
とにかく、双方共に動きが無く、無言の睨み合いが続いていた。
カナルの河畔の朝晩は寒くなってきていたから、ゲルトは早めに帰してやりたかった。
それに、ギルも帰してやらなきゃ嫁さんや子供たちが可哀想だ。
残ると言った俺や《犬》を残して、《燕の団》もブルームバルトに帰る。
また春になれば団員を集めてカナルに集合だ。
「じゃぁな。あんまり無茶するなよ?」
「うん。後始末頼んだよ」
「嫌だけど、カナルに残るよりはマシだ」とカミルは冗談交じりに応えて笑った。
カミルは握っていた俺の手を放すと、次に突っ立っていたディルクに手を差し出した。
「団長を頼んだぜ」
「…貧乏くじだ」と歯切れの悪い返事を返して、ディルクもカミルと固い握手を交わした。
カミルはイザークとも握手して、「ディルクを頼んだ」とイザークの肩を叩いた。
「俺に頼む?」とイザークが苦笑いで返すと、カミルはディルクを見てニッっと笑った。
「ディルクは真面目だからな。お前くらい緩い奴がいる方がいいのさ。
お前見てると悩んでるのがバカバカしくなるだろ?」
「ヒッデェ、俺ちゃんだって悩むことあんのよ?」
「ははっ!そりゃ失礼したな!」
カミルはご機嫌な笑い声を残して、片手を振って俺たちと別れた。
残る《犬》たちも帰って行く仲間を見送った。
「お前は帰らなくて良かったのか?」と《犬》に混ざっている青年に声を掛けた。
出会った頃より精悍な顔つきに変わった青年は、苦笑いを浮かべて、俺に「帰らない」と答えた。
「ブルームバルトに私を待っている人間はいないからな…
まだ大した働きもしてないから、ヴォルガシュタットに帰っても冷たい視線を浴びるだけだ」
「私はルドルフ様にお戻り頂きたかったのですが…」とアルバは主の決定にため息混じりで苦言を呈した。
「そう言うな、アルバ。
前線だ。これ以上の名誉挽回できる場所が他にあるか?」
まるで別人のようになった主に、アルバは物足りなさを覚えているようだ。
「王子に戻れずとも、せめて今までの恥を帳消しにできるくらいの功名は立てる気だ」とルドルフは吹っ切れた様子で語った。
今の彼には、過去の我儘で迷惑な王子の面影はなかった。
「お前が立派になって戻ったら、《燕の団》にも箔が付くから、全力で応援してやるよ」と、落ちこぼれの王子を応援した。
ここに残った俺たちがすることなんて決まってる。俺たちは傭兵だ。
残った奴らを見渡して、その頭の悪さを褒めてやった。
「お前ら残った貧乏くじだ。寒い中残るなんてバカもいいところだな。本当に頭悪い奴らだ。
可哀想だから残った奴らには俺が酒を奢ってやるよ」
前半の罵倒を聞いてなかったのか、《犬》たちは都合のいい『酒を奢る』の部分だけを拾って、遠吠えのような歓声を上げた。
全く、馬鹿な奴らだ…
「まぁ、全員飲ます訳にはいかないけどな」
全員使い物にならなくなったら残った意味が無い。
「俺とディルクとイザーク、アルバとルドルフは飲まないからな」と飲まない人間を指定した。
飲む気でいたイザークは文句タラタラだ。
「えー?!なんで俺まで?!そんなのズリィだろ?
カイに代わってもらう!」
「別にいいけど…《とっておき》を飲む権利は放棄するんだな?」
代わりを探しに行こうとしたイザークが《とっておき》という言葉に反応して振り返った。
こいつ、本当に分かりやすいな…
餌を前にした犬みたいだ。
「どういった《とっておき》でしょうか、団長?」
態度を変えて、俺に擦り寄ってくる気持ち悪いイザークの首根っこを、ディルクが掴んで引き剥がした。
「いい加減にしろ。
お前は《犬》なんだから、スーに言われた通りにしてりゃ良いんだよ」
「だってよぉ、貧乏くじだけで終わるのは御免だぜ?
《犬》が《お手》するのも《待て》するのも飼い主が餌くれるからだろ?見合ったもん貰えないならつまんねぇよ!」
「ったく…」
「まぁ、らしい言い分だな…
《とっておき》は《とっておき》って言えるだけの代物さ。
本当はディルクとアルバと俺で飲むつもりだったんだけどな。
そうすると、アルバはルドルフに遠慮するだろうし、お前もディルクの妹の形見探すの手伝っただろ?
二人はおまけで仲間に入れてやるよ」
「なるほど。私はアルバに感謝した方がいいのかな?」とルドルフはいたずらっぽく笑ってアルバに視線を向けた。
「ルドルフ様、真に受けないでください。
私のものは貴方のものです」
「この傭兵生活で、仕事に対する対価の大切さは学んだつもりだ。今までみたいには受け取れないな」
「へぇ、成長したな」
「当然だ」とルドルフは自慢げに返した。
「お前も少し見習え」とディルクがイザークに小言を言っていたが、イザークは飄々とした様子で「やだよ」と答えた。
「俺は《王子様》じゃなくて《エッダ》だもん。金もないけど責任もないから気楽なもんさ」と言いながら、ヘラヘラ笑っている男に、ディルクも匙を投げた。
「さーて!《とっておき》ってなーにかな?」
子供みたいにはしゃぐおっさんに苦笑いして、さらに苦い顔をしたおっさんには「お前も大変だな」と同情した。
ディルクは苦い顔でため息を吐き出して答えた。
「いいさ、慣れてる…
それに、今の生活は割と気に入ってる」
「へぇ、そうか?
じゃぁそのまま俺の右腕でいろよ。お前がいなくなると困るからよ」
「別に…今のところどこに行く気もねぇよ」と答えるぶっきらぼうな言葉の中身は、俺の欲しい答えだった。
✩.*˚
寒いな…
北風が道端に落ちた木の葉を巻き上げて通り過ぎた。
冷たい水で洗濯するのも苦になってきた。
かじかんだ手を口元に寄せて、息を吹きかけて暖めた。
もう本格的な冬になるから、薪もできるだけ多く用意しなきゃ…
何でもかんでも買ってたらお金がいくらあっても足りない。
男手がないと女も力仕事しなきゃならないから大変だ…
年寄りは当てにならないから、まだ若い方のあたしたちがしっかりしなきゃならないのだ。
「メリー。あんた働きもんだけどさ、無理じゃダメだよ?」
水を汲みに来たおばあさんが、あたしを見て声をかけてくれた。
濡れたあたしの手の代わりに、ずり落ちたショールを肩にかけ直して、おばあさんは背中を撫でて、「《雲雀のヒナよ降りてこい、稚児や稚児、こっちゃ来い》」とおまじないをくれた。
「一回きりじゃ無理だよ」と苦く笑ったが、おばあさんは真剣な顔で言葉を返した。
「だからこそ大事だろ?子供はあたしらにだって必要なものさね」
「そうだね…」とまだ分からないお腹に視線を落とした。
この村で一番幼い子供でも三歳だ。子供は年々減って、老人ばかりが増える一方だ。
授かってれば良いな、と思う一方で、どこか薄暗い気持ちが影を落としていた。
あの人、どうなったのかな…?
カナルに時々出入りしていたトム爺も、彼のことは分からないと言っていた。
何度も彼を諦めようと思って、何度も彼を夢で見て、その度に起きて目を腫らした。
こんな年増女が期待しちゃったから余計だ…
洗濯物の水気を絞って、籠を持ってとぼとぼと家に帰った。
水を吸った洗濯物は、持って出た時より重くなっていた。
手もかじかんでいて、持ってるのがしんどい。
一度持ち直そうと、足元に置いた時だった。
「重いのか?」と、どこかで聞いたことのある男の人の声がした。
声のした方に視線を向けると、馬に乗った騎士たちと一緒に、外套のフードで顔を隠した大きな男が立っていた。
「おい!勝手にウロウロするな!」と馬に乗った騎士が男を叱ったが、男はそれを無視してあたしの方に歩いてきた。
「持ってやるよ」と言った男の頭からフードがズレて顔が見えた。
「…うそ…」
「嘘なもんか」と笑って、彼は籠を小脇に抱えて、あたしに大きな手のひらを差し出した。
「なんだ?また抱っこしてやろうか?」と笑う顔は、もう二度と見るはずのなかった顔だ…
「…ニコラス?」
「帰ったぞ、メリー。俺の分の飯もあるか?」
その当たり前のように要求する言葉は、まるで昨日も会ったかのように自然だった。
伸ばした手を取らずに彼に抱き着いた。
素通りされた手のひらは、仕方なくあたしの背に添えられた。
ニコラスだ…
「ほら、帰るぞ」と彼はあたしを支えながら背中を押した。
「なんで…」
「取引したんだ」と彼は答えた。
この村で働く事を条件に戻ることを許されたらしい。
許可なく村の外を出歩く事は許されないが、村長の監督の下なら多少の自由もある。
「水汲みでも薪割りでも荷物運びでも何でもするさ。だから毎日俺の飯の用意は頼んだ」
「そんなんでいいの?」涙を袖に染み込ませながら彼に訊ねた。
「こんな年増女でいいの?」
「あんたは飯も美味いし、気の利くいい女だ。
年増って気にするが、若けりゃいいってもんじゃねぇんだ」
彼はそう言って、温かい腕であたしを抱き寄せた。
「よろしくな、メリー」
彼のその言葉に、お腹の中で何かが動いた気がした。
退屈で死にそうだったが、それ以上にヴィクターの事が気にかかっていた。
「オークランドは何してんだ?」
俺の世話をする物好きな男に訊ねた。
お坊ちゃんは相変わらず俺を守ろうとしていた。その約束を守ろうとする姿が、俺の枷になっていた。
「答えられない」とお坊ちゃんは俺の質問に、至極真っ当は返事を返した。
そりゃそうだ。俺に情報をやる理由なんてない。
それでも、お坊ちゃんは俺の欲しい答えを用意していた。
「《鷹の目》は捕らえていない。相変わらず厄介な存在だ」
「…そうか」ヴィクターはまだ無事か…
それを知れただけで、焦りは潮が引くように消えた。
「いつもありがとうよ」と自然と感謝の言葉が出た。
それを受け取ったお坊ちゃんは、少しだけ表情を弛めて頷いた。
「侯爵閣下が君の処遇に関して見解を変えない限り、君の命は保証されている。
窮屈だが、今しばらく我慢してくれ」
「いいさ。あんたに任すって言ったんだ。
今更変える気なんてねぇよ」
俺の返事に、お坊ちゃんは頷いて見せた。
この不器用な青年が、《任せろ》と言ってるような気がした。
どうせ頭を使うのは苦手だ。
当初は何とか逃げ出して、対岸に渡るつもりでいたが、どうにもそれはできそうにない。
少なくとも、このお坊ちゃんに迷惑はかけられない。
もっと違う形で出会っていれば、俺はこのお坊ちゃんの役に立つ道を選んだだろう。
差し入れられた食事を食べながら、世間話程度に、「今日も豪勢だな」と言った。
「同じものを用意してもらっている」とお坊ちゃんはつまらなそうな声で答えた。
「私が食べるものと同じだ。どちらを食べるか分からないから、毒の心配はない」
「は?…あんたそんなことを?」
驚いた…
そんな事までしてたのか?下手すりゃあんたが死ぬんだぞ?
「ないとは思いたいが、念には念をだ。その方が私も安心だ」
お坊ちゃんはそう言っていたが、それだけの理由で捕虜のために命を張るなんてできないだろ?
「…あんた俺が思ってたよりずっと馬鹿だな」
「そうかもしれないな」
「そうだよ。
でもあんたはいい馬鹿だよ」
俺の拙い言葉でも、言いたいことは伝わったらしい。
お坊ちゃんは、彼にしては表情豊かに、照れたような淡い笑みを見せた。
✩.*˚
フィーアの岸に、首が一つ置かれた。
「《スウィッチ》の首で間違いないな?」
「前の隊長っぽいっちゃぽいっすね」
遠眼鏡を渡して、《スウィッチ》の部下に首を確認させた。
惜しいとは思わないが、道具のひとつを失ったような気分だ。新しいのを調達するのが面倒だな…
知りたいのは、ラッセルの兄の動向だ。
どこに消えた?
私は団長の望み通り、ラッセルの兄を始末する気でいた。
団長の邪魔になるものは、たとえ仲間であろうと排除されなければならない。
対岸の様子を遠眼鏡を通して見張っていると、一人の男に目が留まった。
周りに比べれば背は低い。
服装も目立たない普通のものだ。
何故気になったのか分からないが、直感的にその男の動向を追った。
兵士らの隠れている場所に向かうと誰かを探していた。
彼はしばらくウロウロして、目的の人物に会えたらしい。
話をしている最中に、男は顔を半分隠していた口元の布を下げた。
その顔を見て、何か引っかかるのを感じた。
この男、見たことがあるのか?
整った顔立ちで、黒い髪を無造作に束ねている。涼し気な目元には、緑のような、青のような瞳が嵌っていた。
顔は悪くないのに、男は終始、不貞腐れたような、不機嫌そうな顔をしていた。
誰だ?
覚えは良い方だ。どこかで見たことがある気がするのは自分の記憶のどこかに引っかかっているからだ…
彼と話をしてる男も後ろ姿で、長い髪と羽飾りの帽子が邪魔をして、唇の動きが読めない。
名前を拾おうとしたが、これでは分からないな…
「あの男、誰か分かるか?」と、長くカナルに居る者に訊ねたが、誰も分からなかった。
「話してるのは《燕》の団長ですがね。団員じゃないっすか?」と言う傭兵たちの中で、一人だけ何度も遠眼鏡を覗き込んでいる男がいた。
「…いや、でもまさか…」とブツブツ呟きながら、彼は幽霊でも見てるような顔をしていた。
「知っているのか?」
「いや…」
「思い当たることがあるなら答えろ。些細なことでも構わん」
そう言って、男に金を差し出した。
彼はそれを見て渋々口を開いた。
「いや、大したことじゃないっすよ?俺の昔の《隊長》に似てたもんで…」
「《隊長》?誰だ?」
「《烈火》っすよ、《烈火のアルフィー》…
火傷だらけの炎使いの隊長っすよ。
数年前にウィンザーで《冬将軍》と戦って、負けて死んだはずだし、火傷がないから別人だと思いますがね…
…にしてもよく似てる…」
「…なるほど」
《烈火》なら私も知っている。
道理で見覚えのある顔なわけだ…
遠眼鏡をもう一度覗いた。
男は話を終えて立ち去ろうとしていた。
火傷なんか無い。確かに人違いのようだ…
奴に家族はいなかったはずだが、これだけ似ていると、兄弟か親戚かと疑いたくなる。
「…人違いならいい」
当人であれば問題だが、あの男は数年前にウィンザーで死んだ。
団長は珍しく彼を惜しんでいた。
団長が欲しいのは伝説になりうる《英雄》だ。
だが、それは更に強い《英雄》の踏み台になって終わった…
いかんな…
他人の空似なら見続けるだけ無駄と言うものだ…
遠眼鏡を畳んで鞄にしまった。
私のすべきことは、この岸の後始末だ。
少なくともそれを見届けるまではルフトゥキャピタルに戻ることはできない。
「対岸に動きがあったら教えろ」と命令して、川に背を向けた。
✩.*˚
何か視線のようなものを感じるのは気のせいだろうか?
もうじき冬が来る。
戦は止まるはずだ。
状況を見ながら、一部の兵士や傭兵たちは戦列を離れ、春にまた招集される事になった。
《燕の団》も一部を残し、ブルームバルトに帰るらしい。
あの爺さんを寒空の下にテントで野営させるのは、もう限界なのだろう。
『お前も一度帰れよ。家族が待ってるだろ?』
スーはそう言って俺も一緒に戻るように勧めた。
『《鷹の目》はどうするんだ?まだ解決してないだろう?』と言う俺に、スーは『へーきだよ』と答えた。
『だから俺が残るんだろ?』
その楽観的な返答に苦いものを感じた。
問題を押し付けるような罪悪感…
結局俺はここに何をしに来たでもなく、アニタを無駄に悲しませただけだ…
『何も無しじゃ帰れない』
『君ってホントに真面目だな…
君がいてくれたから、俺は割と気が楽だったよ。
ワルターだって感謝してるし、侯爵も伯爵も君がいてくれて『助かった』って言ってたよ。
必要になったらまた来てくれよ』
スーはそう言って笑って見せた。
後は任せろということらしい。俺が意地を張って残る理由もないようだ。
『分かった…』
『帰れるんだから喜べよ。
そうだ、帰る前に一緒に飲まないか?』
『酒は苦手なんだ』と断ってスーと別れた。
テントに戻って、着替えを丸めた枕の下から手紙を取り出した。
アニタの手紙だ…
俺への心配と、子供たちの事が書かれていた。
それでも肝心の自分のことは何一つなかった…
まだ怒っているのだろうか?
《元気でね》と締められた手紙には《帰ってきて》とはなかった。
アニタも割と頑固だから、《行く》と決めた俺を許せなかったのかもしれない。
ため息を吐いて手紙を元のようにしまった。
彼女らに何か買って帰ろう…
何が良いだろうか?
エドガーはまた大きくなったから靴を買い替えてやらなきゃな。
直に、メアリとフリーデも歩くようになるだろう…
女の子は何が欲しいだろうか?
金はそれなりに貰っている。多少使い込んでも困らない。
酒も女も博打もしないから、金の使い道が分からない。
どうしたらアニタを喜ばせれるだろう?
彼女の機嫌を取る方法を考えているのは、俺に後ろめたい気持ちがあるからだ。
あの暖かい家に戻る方法を探していた…
✩.*˚
「え?スーは帰ってこないんですか?」
旦那様に呼ばれて、スーからの手紙を教えられた。文章を読むのが苦手なあたしの代わりに、旦那様は手紙を読んでくれた。
「らしいぞ。
帰らにゃならん奴らだけ戻ってくるらしい。スーは《犬たち》と残るって事だ」
「そう…ですか」
少しガッカリした。ルドも楽しみにしてたのに…
「悪いな。何もなけりゃ、帰ってくるかもしれないからよ。
まぁ、何もなけりゃ帰ってくるかもしれないから、用意だけしてやっておいてくれ」
「はい」
「ガッカリさせて悪いな。俺の代わりでもあるんだ。
埋め合わせはちゃんとするよ」
「いえ。お気持ちだけで…
ありがとうございます」
「俺に遠慮すんなよ。
お前たち親子は俺の身内みたいなもんだ。
ルドには可哀想な事をしちまったが、俺もあいつに寂しい思いはさせないからよ。ルドの誕生日くらいは戻ってこれるように何とかする」
旦那様は相変わらず親切にあたしたち親子に気遣いをくれた。
エルマーとの約束もあるだろうけど、旦那様がお優しい人には変わりない。
「ありがとうございます、旦那様」と心からお礼を伝えて、深く頭を下げた。
「ルドには俺から言ってやろうか?」と言ってくださったが、そこまで甘えてはいられない。
「大丈夫です。母親ですから、あたしから伝えます」
あたしの強がりに、旦那様は「そうか」と頷いて、仕事に戻るように言った。
旦那様のお部屋を後にして仕事に戻った。
メリッサもお腹が大きくなってきてるし、ライナには色々教えないといけない。
あたしだって、これでもロンメル家のメイドとしては長い。もう教わるだけじゃない。教える側だし、責任だってある立場だ。
乾いた空気を含んだ北風が窓を叩いた。
少しずつ冬に近づいている。
寒くなるのに、スーも大変だよね…
頼られる立場なのは、やりがいがあるだろうけど、同時に大変なことだとも思う。
帰って来て欲しかったな、と言葉には出さないが、心の中では思っていた。
手は自然と髪留めに伸びた。
スーだって、エルマーのように二度と帰って来ない事だってありうるのだ…
「ふぅ…仕事しよ!」
嫌な考えを振り払って、髪を結い直して気合を入れた。
落ち込んでる場合じゃない。
ロンメルの御屋敷は、広さの割に使用人が少ないからサボってる場合じゃない。
週に何回か通うお手伝いさんもいるから、簡単な掃除や洗濯などの雑用は彼女らに任せている。
それでも、旦那様や奥様のお部屋の掃除や、お食事の用意などはラウラ様やあたしたちの仕事だ。
「あ、ミア姉。用事済んだの?」
階段の掃除をしていたライナがあたしを見つけた。
「うん。スーが帰れないんだってさ」
「団長が?お爺ちゃんは?」と彼女は年寄りの心配をしていた。
「ゲルトは帰ってくるって。カミルも一緒だよ。
スーと《犬》はカナルに残って、しばらく様子を見るらしいの」
「そっか…じゃあ、カイたちも残るんだ…」と彼女は少しガッカリしたような顔をしていた。
彼女はあの一件から、一度もカイに会えていないらしい。カイの方が彼女を避けているようだった。
「また帰ってきたら話したらいいよ」とライナを慰めた。
ライナは寂しそうな笑顔で「うん」と頷いた。
「さて!あたしも仕事しますか!」と明るい声を出して陽気に振舞った。
「寝室のシーツの交換と掃除がまだなんだ」
「了解、あたしやってくるね」と笑顔を残して、リネン室に向かった。
洗濯が済んだシーツやリネンが棚に並んでる。
足らないものが無いか確認して、替えのシーツを手に取って、穴がないか確認した。
よしよし、問題なし。
枕のカバーも籠に入れて、旦那様と奥様の寝室に向かった。
流石にねー…まだよく分かってない女の子に男女の寝たシーツを交換させるのはまずいもんね…
シーツと枕カバーを交換して、掛布団を確認した。
そろそろ寒くなってくる。毛布を追加した方がいいかしら?
旦那様は気にしないだろうけど、奥様が風邪を引いたら一大事だ…
そんなことを思いながら、ベッドを整えた。
ベッドの頭の辺りの物を置くスペースに、豚の飾りを見つけた。
子豚たちが、お母さん豚に引っ付いて、おっぱいを飲んでいる。子供に恵まれるようにと、大ビッテンフェルト卿がくれたのだという。
旦那様も奥様も子供を欲しがっていた。
「お二人に子供が出来ますように」と豚の像にお願いして、洗濯物を持って寝室を後にした。
洗濯物を裏口に置きに行くと、ルドとケヴィンに会った。
「ママー!ルドお手伝いするよぉ!」と元気な声が廊下に響いた。
「フィリーネ様のお世話はいいの?」
「うん。フィリーネ様はお昼寝してるもん。
アルマのお世話も散歩もしたよ」
ルドは下がった目尻で可愛く笑った。
なんか本当にあの人に似てきたな…
愛おしくてルドに手を伸ばした。
頭を撫でられたルドは、嬉しそうにケラケラと声を立てて笑っていた。
「僕も持ってあげる」とルドはシーツをの入った籠を下から支えた。
「ありがとう、ルド」
「僕、いっぱいお手伝いするよ!だからパパに『ルド、がんばってたよ』って言ってね!」
ルドは無邪気にそう言って笑った。楽しみにしてたんだな、と少し胸が痛くなった。
「ルド…
さっきね、旦那様とお話してたんだけど」
「なに?」
「パパね、もう少しカナルに居なくちゃいけないんだって。だから帰ってくるの、もう少し先になるみたい」
あたしの言葉を理解して、ルドの笑顔が消えた。
「…先って…いつ帰るの?」
「うーん…それはちょっとママにも分からないけど…」
ルドはスーに会うのを楽しみにしてたのだろう。
駄々をこねることはなかったが、その聞き分けの良さがさらに可哀想だった。
「ルド…」
慰める言葉が見つからない。
どうしても、『仕方ないよ』と言ってしまいそうになる自分がいる。
でもそれはあたしの勝手な解釈で、ルドの欲しい言葉とはかけ離れているのだろう…
困っているあたしとルドを見比べて、ケヴィンがルドを慰めるように優しく話しかけた。
「ルド。スーが帰って来なくて残念だね。
でも、スーも頑張ってるから応援してあげよう?」
「でも…ルドはパパのところに行けないもん…」
「行けなくてもお手紙は書けるよ。旦那様にお願いして、一緒に届けてもらおう?
僕が手伝ってあげるから、一緒にお手紙書いてみない?スーは君からの手紙を喜んでくれるはずだよ」
ケヴィンのお兄さんらしい提案に、ルドはモジモジしながら「ルド、上手く書けないもん」と少しいじけていた。
「いいよ。ルドが書くから良いんだよ。
僕もお父さんが戦に出てた時はお母さんと一緒にお手紙書いたよ。
お父さんは必ず返事をくれた。きっとスーも返事をくれるよ」
ケヴィンに励まされて、ルドは「うん」と頷いた。
「ルド、頑張る。パパにお手紙書くよ」
単純だけど、この子の中では折り合いが着いたらしい。
あたし一人じゃこの答えは出なかったと思う。
ルドはみんなに育ててもらってるんだ、と改めて感じた。
「良かったね、ルド」
「うん、ママの分も僕が書いたげる!」
さっきまでいじけていた子供は、もう忘れたかのように笑顔でそう答えた。
スーにもこの子の成長を見て欲しいと思った。
✩.*˚
「へぇ…」
手紙を受け取って驚いた。
勝手に手元を覗き込んだイザークが「何だ?それ?」と首を傾げた。
高さの合わない、兎の跳ね回るような文字は拙いが、一生懸命なのは伝わった。
《パパへ。ルド待ってるよ。ママも待ってるよ。早く帰ってきてね》
短いそれだけの手紙…
でも初めてにしては上出来だ。
もう一枚入ってた手紙はユリアの代筆だった。
ケヴィンがルドに手紙を書くように勧めてれたのだと、ミアは嬉しそうに手紙で教えてくれた。
あそこには先生ならいっぱいいるもんな…
帰れないと知ってガッカリしてるかと心配したが、そんなこと無かったのかな?
俺の方が少し寂しく思えるよ…
ミアは俺の事を気遣ってくれる言葉を綴っていた。
手紙を読み進めると、便乗したユリアのメッセージがあった。
《ミアがいらないって言ったけど、私が勝手に代わりに書くね。
『愛してる。浮気しちゃダメよ!』
代筆のユリアより》
お節介な一言に笑いながら手紙を畳んだ。ユリアはおませだからミアの言う《余計な一言》を添えてくれたようだ。
ケヴィンとユリアには借りができたな。
「スー」
カミルに呼ばれて顔を上げた。
帰り支度を済ませた幌馬車が並んでいた。
「もう行くのか?」
「あぁ。寒いのは爺さんには堪えるからな。
お前らも切りのいい所で戻ってこいよ?」
差し出されたカミルの手を、感謝の気持ちを込めて握り返した。
オークランドからの動きがなくなって、一月が経とうとしていた。
侯爵の負傷で牽制したと思って、オークランドも冬の準備に取り掛かったのだろうか?
とにかく、双方共に動きが無く、無言の睨み合いが続いていた。
カナルの河畔の朝晩は寒くなってきていたから、ゲルトは早めに帰してやりたかった。
それに、ギルも帰してやらなきゃ嫁さんや子供たちが可哀想だ。
残ると言った俺や《犬》を残して、《燕の団》もブルームバルトに帰る。
また春になれば団員を集めてカナルに集合だ。
「じゃぁな。あんまり無茶するなよ?」
「うん。後始末頼んだよ」
「嫌だけど、カナルに残るよりはマシだ」とカミルは冗談交じりに応えて笑った。
カミルは握っていた俺の手を放すと、次に突っ立っていたディルクに手を差し出した。
「団長を頼んだぜ」
「…貧乏くじだ」と歯切れの悪い返事を返して、ディルクもカミルと固い握手を交わした。
カミルはイザークとも握手して、「ディルクを頼んだ」とイザークの肩を叩いた。
「俺に頼む?」とイザークが苦笑いで返すと、カミルはディルクを見てニッっと笑った。
「ディルクは真面目だからな。お前くらい緩い奴がいる方がいいのさ。
お前見てると悩んでるのがバカバカしくなるだろ?」
「ヒッデェ、俺ちゃんだって悩むことあんのよ?」
「ははっ!そりゃ失礼したな!」
カミルはご機嫌な笑い声を残して、片手を振って俺たちと別れた。
残る《犬》たちも帰って行く仲間を見送った。
「お前は帰らなくて良かったのか?」と《犬》に混ざっている青年に声を掛けた。
出会った頃より精悍な顔つきに変わった青年は、苦笑いを浮かべて、俺に「帰らない」と答えた。
「ブルームバルトに私を待っている人間はいないからな…
まだ大した働きもしてないから、ヴォルガシュタットに帰っても冷たい視線を浴びるだけだ」
「私はルドルフ様にお戻り頂きたかったのですが…」とアルバは主の決定にため息混じりで苦言を呈した。
「そう言うな、アルバ。
前線だ。これ以上の名誉挽回できる場所が他にあるか?」
まるで別人のようになった主に、アルバは物足りなさを覚えているようだ。
「王子に戻れずとも、せめて今までの恥を帳消しにできるくらいの功名は立てる気だ」とルドルフは吹っ切れた様子で語った。
今の彼には、過去の我儘で迷惑な王子の面影はなかった。
「お前が立派になって戻ったら、《燕の団》にも箔が付くから、全力で応援してやるよ」と、落ちこぼれの王子を応援した。
ここに残った俺たちがすることなんて決まってる。俺たちは傭兵だ。
残った奴らを見渡して、その頭の悪さを褒めてやった。
「お前ら残った貧乏くじだ。寒い中残るなんてバカもいいところだな。本当に頭悪い奴らだ。
可哀想だから残った奴らには俺が酒を奢ってやるよ」
前半の罵倒を聞いてなかったのか、《犬》たちは都合のいい『酒を奢る』の部分だけを拾って、遠吠えのような歓声を上げた。
全く、馬鹿な奴らだ…
「まぁ、全員飲ます訳にはいかないけどな」
全員使い物にならなくなったら残った意味が無い。
「俺とディルクとイザーク、アルバとルドルフは飲まないからな」と飲まない人間を指定した。
飲む気でいたイザークは文句タラタラだ。
「えー?!なんで俺まで?!そんなのズリィだろ?
カイに代わってもらう!」
「別にいいけど…《とっておき》を飲む権利は放棄するんだな?」
代わりを探しに行こうとしたイザークが《とっておき》という言葉に反応して振り返った。
こいつ、本当に分かりやすいな…
餌を前にした犬みたいだ。
「どういった《とっておき》でしょうか、団長?」
態度を変えて、俺に擦り寄ってくる気持ち悪いイザークの首根っこを、ディルクが掴んで引き剥がした。
「いい加減にしろ。
お前は《犬》なんだから、スーに言われた通りにしてりゃ良いんだよ」
「だってよぉ、貧乏くじだけで終わるのは御免だぜ?
《犬》が《お手》するのも《待て》するのも飼い主が餌くれるからだろ?見合ったもん貰えないならつまんねぇよ!」
「ったく…」
「まぁ、らしい言い分だな…
《とっておき》は《とっておき》って言えるだけの代物さ。
本当はディルクとアルバと俺で飲むつもりだったんだけどな。
そうすると、アルバはルドルフに遠慮するだろうし、お前もディルクの妹の形見探すの手伝っただろ?
二人はおまけで仲間に入れてやるよ」
「なるほど。私はアルバに感謝した方がいいのかな?」とルドルフはいたずらっぽく笑ってアルバに視線を向けた。
「ルドルフ様、真に受けないでください。
私のものは貴方のものです」
「この傭兵生活で、仕事に対する対価の大切さは学んだつもりだ。今までみたいには受け取れないな」
「へぇ、成長したな」
「当然だ」とルドルフは自慢げに返した。
「お前も少し見習え」とディルクがイザークに小言を言っていたが、イザークは飄々とした様子で「やだよ」と答えた。
「俺は《王子様》じゃなくて《エッダ》だもん。金もないけど責任もないから気楽なもんさ」と言いながら、ヘラヘラ笑っている男に、ディルクも匙を投げた。
「さーて!《とっておき》ってなーにかな?」
子供みたいにはしゃぐおっさんに苦笑いして、さらに苦い顔をしたおっさんには「お前も大変だな」と同情した。
ディルクは苦い顔でため息を吐き出して答えた。
「いいさ、慣れてる…
それに、今の生活は割と気に入ってる」
「へぇ、そうか?
じゃぁそのまま俺の右腕でいろよ。お前がいなくなると困るからよ」
「別に…今のところどこに行く気もねぇよ」と答えるぶっきらぼうな言葉の中身は、俺の欲しい答えだった。
✩.*˚
寒いな…
北風が道端に落ちた木の葉を巻き上げて通り過ぎた。
冷たい水で洗濯するのも苦になってきた。
かじかんだ手を口元に寄せて、息を吹きかけて暖めた。
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「なんだ?また抱っこしてやろうか?」と笑う顔は、もう二度と見るはずのなかった顔だ…
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彼はそう言って、温かい腕であたしを抱き寄せた。
「よろしくな、メリー」
彼のその言葉に、お腹の中で何かが動いた気がした。
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