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騎行
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朝早いというのに、テレーゼの乗る馬車を見送ろうとお偉いさんたちが並んでいた。
「《白い手の女神様》に敬礼!」と大袈裟なリューデル伯爵の号令に、貴族の子弟や騎士たちが応えた。
「叔父様、大袈裟ですわ」
「何を言うか!これでも足らないくらいだ!」
恐縮するテレーゼにリューデル伯爵が大声で答えた。
知らない奴が見れば、いじめてるようにしか見えないだろう。これでもリューデル伯爵にしては、彼女に優しく接してるつもりのようだ。
「随分長く引き止めてしまったな!
姪殿、皆が世話になった!」
「お役に立てて何よりです」とテレーゼは軽く膝を折って会釈して見せた。
テレーゼは、治癒魔導師では間に合わない重傷者をこっそり癒していた。
《顔を晒さない》という条件で、リューデル伯爵はそれを黙認していた。
この叔父はすっかりこの小さな女神の信者になってしまったらしい。
瀕死の伯爵を助けたことで、テレーゼは叔父以外からも学校開設の援助の約束を取り付けるのに成功していた。
金がどれくらい集まったのか、聞くのも怖い…
全く逞しい奥様だ…
「皆様のご武運をヴォルガ様にお祈り致しております」という在り来りな台詞も、彼女が言うと違うのだろう。
彼女の言葉に強面の男たちが色めき立った。
感極まって涙ぐむ奴までいる…
大袈裟な…
そのうち俺が味方に刺されて、亡き者にされないか心配だ…
「旦那様、面白くないと顔に書いてありますよ」とシュミットが俺をからかった。
彼はダニエルを抱えていた。
ダニエルの存在を怪しまれないように、小汚くするのに苦労した。
なんせお坊ちゃまだ。少々荒っぽいやり方で孤児らしくし仕立てあげたが、口をきいたら多分バレる。
メリッサはアンネと一緒に侍女の姿で控えている。
「ご安心を。私が責任もって、二人をブルームバルトに連れ帰ります」とシュミットが請け負った。こいつに任せておけば大概のことはなんとかなるはずだ。
「しかし、よろしいのですか?エインズワースの兄弟まで連れ帰って?」
「元々、アーサーを取り返す手伝いを頼んだんだ。
嫌がってる奴を引き止める訳にもいかんだろう?しかもあいつは鍛冶屋だ。傭兵じゃねぇ」
「そんな強がって…後悔しますよ」
「いいんだよこれで」と強がった。
首の皮一枚でつかながったのは、ギルとテレーゼのおかげだ。
でもギルは自分の《祝福》にビビっちまったらしい。
あいつは自分の《祝福》を、俺以上に嫌っていた。
ずっと使ってなかったというのもあるだろう。自分が一切傷つかずに、力を振るうことに抵抗があったのかもしれない。
とにかくあいつは力を振るったことを後悔していた。
これ以上無理をさせたら、あいつは今の生活も捨てて逃げ出してしまうかもしれない。
せっかく手に入れた幸せを、捨てさせるなんて出来なかった…
「あいつを使うのは、俺に何かあった時くらいでいいだろう?それまでは静かに暮らさせてやりてぇんだ…」
俺だってこの出征で、テレーゼやフィーと離れる時に散々渋ったのだ。気持ちは分かるつもりだ。
「ロンメル」と俺を呼ぶ声がした。
馬を連れたレオンとギルの姿があった。
「…すまん」とギルが謝罪を口にした。ギルはまだ悩んでいるようで、いつもの仏頂面がさらに険しくなっていた。
「残るべきだと分かってる…でも…」
「何言ってんだ?謝んのは俺の方だ。巻き込んで悪かったな」
「すまん…」
「気にすんな。まだお前には頼らねぇよ。
もっとヤバくなったら頼むかもな。それまでは何とかしてみせるさ」と笑って見せて、暗い顔の男の肩を叩いた。
「あんまり思い詰めるなよ?ハゲるぞ」と茶化してレオンにも声をかけた。
「ありがとうよ、お前のおかげでアーサーも戻った」
「お役に立てて何よりです」とレオンはギルとは対象的な笑顔で応じた。
「お力になりたいですが、ギルを納得させるのは難しそうです」
「お前らが敵じゃないだけで十分だよ」と苦笑いしながらレオンと握手を交わした。
「テレーゼとブルームバルトの連中を頼む」とエインズワース兄弟に、俺の命より大切なものを託した。
「承りました」とレオンが頼もしく応えた。
「それでは、我々はこれで…」とダニエルを抱いたシュミットが馬車に向かった。
「おや?姪殿、その子供は何だ?」
リューデル伯爵がシュミットの姿を見咎めた。
「河畔で傭兵たちが連れてきたのです」とテレーゼはしれっと答えた。
「可哀想に…足が悪くて逃げ遅れてしまったのでしょうね。
足の治療に時間がかかりそうなので連れ帰ることにしました。家族はこちらで探しますわ」とテレーゼはスラスラと笑顔で答えた。
彼女は嘘は言わなかった。
「素晴らしい…なんという慈悲深さ…」
「聖女…いや女神だ…」
テレーゼを賛美する声が上がる。
彼女はそれに笑顔で応えた。
あんたら事実を知ったら腰を抜かすほど驚くだろうよ…と思ってこっそりため息を吐いた。
俺の嫁さんは、こんな小さくて華奢で繊細な印象なのに、俺なんかよりずっと肝が座ってるらしい。
「ワルター様」と彼女は手を伸べて俺を呼んだ。何かと思っていると彼女は困ったように小さくて笑った。
「気の利かない男だな!夫なら姪殿をエスコートせんか!」とリューデル伯爵に叱られた。
あぁ、なるほど…
馬車へのエスコートの催促だったようだ。
彼女の手を取って、馬車に上がる階段を登るのに手を貸した。
「道中気をつけて帰れよ。
フィーによろしくな」
「帰るのが随分遅くなってしまいました。母親失格です…」
「そうか?案外ケロッとしてるかもしれんぞ」
「それはそれで私が寂しくなりますわ」とテレーゼは俺の冗談を笑った。
「お帰りをお待ちしておりますわ」
「フィーが俺を忘れないうちに帰るさ。フィーの弟か妹も欲しいしな」
「ふふっ、頑張ってください」と笑う彼女に顔を寄せた。軽く接吻て、馬車の階段を降りようとした。
「ワルター様、お約束を」とテレーゼの声が俺を引き止めた。
「お怪我したら無理せずに教えてくださいませ。でないとまた押しかけますよ」と釘をさして、彼女は親子ほど離れた旦那を子供扱いした。
敵わねぇな…
彼女の望む返事を返して頷いた。
「ワルター様のご武運をお祈りしております」
「ありがとうよ。お前の方も上手くいくように願ってるよ」
もっとも、俺なんかが手を出すような事もないだろうが…
せいぜい、サインしろって言われて、黙って一筆書くくらいしか俺のすることは無さそうだ。
彼女の笑顔を目に焼き付けて別れた。
ブルームバルトの手前まで、リューデル伯爵が護衛の騎士たちを付けてくれた。
馬車が動き出すと、仰々しい程の騎士たちの姿が続いた。
リューデル伯爵が隊長らしい騎士を呼びつけて、檄を与えた。
「全滅しても構わん!姪殿は必ず無傷でブルームバルトに届けよ!」
「女神の護衛という大役光栄に存じます!」と応じた騎士は、主に敬礼して隊列に戻った。
馬車と一行を見送って、戻ろうとした俺をリューデル伯爵が呼び止めた。
「さて、婿殿」と神妙な顔で腕を胸の前で組んで俺を見下ろした。
「まぁ、あの子供のことは、姪殿の顔を立てて追求しないで置いてやろう…
それよりもだ!何だ!あのエスコートは?!」
何やらお気に召さなかったらしい。
俺としては何がおかしいのか全くもって分からない…
「あれではどっちがエスコートされているのか分からんぞ!
もしあれで行事に出てみろ!姪殿が恥をかく!」
「何か粗相が…」
「馬鹿者!大ありだ!」と馬鹿でかい怒号が飛んだ。
「良いか!婿殿はもう貴族なのだ!しかも南部侯ヴェルフェル家の末席に連なる者だ!それ相応の振る舞いが求められる!
エスコートは男としての品格が試されるものだ!
何時いかなる時でも凛々しく、男らしく、品のある立ち振る舞いでパートナーを支え、安心感を与えねばならぬ!
そんなのでは姪殿に愛想をつかされるぞ!
カナルにいる間に直せ!少なくとも今のままでは恥ずかしくて表に出せん!」
俺には随分厳しいじゃないか…ってかエスコートってそんなもん?
「その分だとダンスも踊れないだろうな」と付け足して、リューデル伯爵はため息を吐いた。
ダンス?!一体どこからそんな話が出てくる?!
困惑する俺に、エアフルト卿が近づいて耳打ちした。
「今のところ、ロンメル男爵閣下はカナル防衛にて多大な功績を立てておいでです。
リューデル閣下は、来年の新年会の賓客として国王陛下への謁見で恥をかくのでは、と危惧しておいでなのです」
「は?」国王?嘘だろ?!男爵の叙勲以来だぞ!
「余程の理由がない限り、国王主催の新年会は欠席はできません。
不詳ながら私もお手伝い致しますので、お勉強くださいませ」エアフルト卿の言葉に周りが苦い顔で頷いていた。
俺ってそんなに酷いの?!
カナルでの無駄な仕事が一つ増えた…
✩.*˚
「ヤン!ごめん!お待たせ!」と薄暗い夜明け前の待ち合わせ場所に、親友のティモの声が届いた。
待ち合わせの導石に置いていたランプを手に取って、友人に僕の居場所を教えた。
まだ夜明け前だけど、この時間に出ないと勉強の時間に間に合わない。
ティモは肩で息をしながら「よかったぁ」と胸を撫で下ろしていた。
彼の肩からかけたカバンには、テレーゼ様から貰った宿題が入ってる。二人で頑張って問題を解いた。
まだ朝日が登る前の空は、少しずつ藍色から赤に色を変えていた。
「スコットおじさんはまだ?」
「大丈夫だよ」とティモに答えて、二人で駆け足で馬車を探しに向かった。
村の小さな雑貨屋のスコットおじさんは、仕入れのために少し大きな町に行く。
『出世払いにしてやるよ』と言って、町に行くついでにノロノロ馬車で僕たちを拾ってくれる。
少ししてから、荷馬車の音が近付いてきた。
ポックリ、ポックリとゆっくりな足取りの馬車はランプを揺らしながら、僕らの目の前で止まった。
「すまんなぁ、二人とも」と幌馬車からスコットおじさんが顔を出した。
「この爺さんがのんびり屋でな、待たせちまったろう?」と馬を見て笑った。お爺さん馬は口をもぐもぐさせている。何かまだ食べてるみたいだ。
「スコットおじさん、ポー、おはよう」
二人で幌馬車を引く馬を撫でて、転がるように幌馬車の荷台に乗り込んだ。
おじさんは僕たちが馬車に乗ったのを確認して、馬に合図した。
ゆっくり馬車が動き出す。揺れる荷台からスコットおじさんの御者台に移動した。
「おじさん、いつもありがとう」
「ついでだ。早い馬車じゃないけどよ、歩くよりいいだろう?」とおじさんは髭の下で笑って、大きな手で僕の頭を撫でた。
「いいなぁ、お前たちは…美人な先生に優しく教えて貰えて。俺がガキの頃はそんなもん無かった…」とおじさんは子供の頃の話を始めた。
2時間ちょっとの何も無い田舎道で、スコットおじさんの話し相手になるのがこの馬車の運賃だ。
おじさんもいい眠気覚ましになるのだろう。
子供二人で3時間以上かかる道を歩いて行くより、ずっと安全だし楽しい。
「二人で宿題やったんだよ!
算数とライン語!僕らだけで解いたんだ!」とティモが自慢げにスコットおじさんに宿題を見せた。
「へぇ、すごいじゃないか」とおじさんは僕らを褒めてくれた。
「先生が良いんだな」とおじさんはパイプを咥えて煙を昇らせた。
「お前たちは賢いから、もう少し大きくなったら店番に雇ってやるよ」
「じゃあ、そのお金で本買うよ!」とティモが目を輝かせた。自分の本か…なんかすごいなぁ…
「そうだな、うちの店で買ってくれよ」とおじさんは子供の目標を聞いて、嬉しそうな笑顔を見せた。
でも、店番で貰ったお金で、おじさんのお店で本を買ったら、結局お金の行き着く先はまたおじさんだ…
「結局スコットおじさんが儲かるんだね」
「ハハッ!バレたな!賢いじゃないか、ヤン!」おじさんはそう言って膝を叩いて笑った。
「でもな、世の中そうやって回ってんのさ。
お前たちもそのうち分かるさ」
そんな話をしながら、ゆっくりと進む馬車の旅を楽しんだ。
ブルームバルトに向かう途中で、後ろから来た騎士に呼び止められた。どうやらこの馬車が邪魔らしい。
今から通る馬車に道を譲るように言われたので、おじさんは馬車を路肩に寄せて止まった。
ポーはちょっとした休憩を貰って、路肩で道草を食み始めた。
「子供らも馬車の中で大人しくさせておけ。
飛び出して列を乱すようであれば、容赦せぬぞ!」と厳しく念を押して、騎士はさらに先に進んで行った。
「こんなに朝早くに、一体どこのお貴族様かね?」とおじさんはパイプを咥えた。
どのみち、しばらく動けそうにないので一服して時間を潰すつもりみたいだ。
「お腹すいてるだろう?これでも食べな」と僕たちにパンを分けてくれた。
「ありがとう」とお礼を言ってパンを食べていると、今度は堂々とした騎士たちの行列が通り過ぎた。
騎士の行列に挟まれるように、四頭の馬が引く豪華な馬車が近付いてきた。
「あれ?」と幌の後ろから列を覗いていたティモが声を上げた。
「ねぇ、ヤン。あれってシュミット様じゃない?」
ティモに誘われて、僕も外を覗いた。
確かに、御者台に座っているのは、テレーゼ様のお屋敷で働いているシュミット様だ。
シュミット様は、幌の後ろからチラチラ覗く僕たちに気付いて、手を振ってくれた。シュミット様が振り返って馬車の中へ声をかけると、窓にかかっていたカーテンが開いて、中から大好きな顔が覗いた。
「テレーゼ様だ!」
二人で歓声を上げると、窓のから覗くテレーゼ様が笑顔で手を振ってくれた。
少し通り過ぎた所で馬車と騎士たちの行列が止まった。
「ヤン、ティモ」
馬車からテレーゼ様のお声がかかった。
二人で荷台から飛び出して走った。
馬車の昇降用の階段を用意して、シュミット様が馬車のドアを開けた。シュミット様の手を借りて、テレーゼ様が馬車を降りて、僕らを迎えてくれた。
「その子供らは?」と騎士の一人がテレーゼ様に訊ねた。
「私の生徒ですわ」と僕らを抱き締めて、テレーゼ様は自慢げに答えた。その言葉が嬉しかった。
「二人とも、ブルームバルトに行くところなの?」
「はい!宿題を持ってきました!」と肩から提げた鞄を手に、ティモは目を輝かせた。その姿を見て、テレーゼ様も笑顔になる。
「嬉しいわ。二人とも、良く頑張ってるわね。難しくなかったかしら?」
「二人で頑張って解きました!」
「協力出来て偉いわね。宿題は後で見せてもらうわ。
あの馬車は誰の馬車?」
「同じ村のスコットおじさんです。時々、町に仕入れに行くのに乗せてくれるんです」
「そうなのね。
シュミット様、スコットさんにお礼したいので呼んで来て下さいませんか?」
「畏まりました、奥様」と返事を返して、シュミット様はスコットおじさんを呼びに行って、すぐに戻ってきた。
おじさんは落ち着かない様子だった。帽子を握って、テレーゼ様の前で膝をついて頭を深く下げた。
周りの騎士の視線に怯えてるおじさんに、テレーゼ様が歩み寄って、優雅なお辞儀で挨拶した。
「スコットさん。ブルームバルトの領主、ロンメル男爵の夫人テレーゼです。
ヤンとティモを馬車に乗せてくださってありがとうございます。
私の生徒への親切の報いをお受け取りください」と言って、テレーゼ様はおじさんの手を取った。
ゴツゴツした大きな手のひらに、小さな白い手が金貨を握らせる。おじさんは女神様でも見たような顔をしてた。
「これからも、子供たちを見守ってくださいませ」と言うテレーゼ様のお言葉に何度も頷いていた。
「私は今からブルームバルトに戻りますので、この子達をお預かりしてもよろしいでしょうか?」とテレーゼ様はおじさんに訊ねた。
その言葉に、ティモと二人で顔を見合わせて歓声を上げた。
「テレーゼ様の馬車に乗れるの?!」
「すごい!」
「よ、よろしいのですか?まだ子供ですので、御無礼があるかも知れません…」
「他にも子供が乗ってますの。その子も二人がいたら喜んでくれるかと思います」
テレーゼ様の言葉に、スコットおじさんは少し安堵したようだ。
「行儀良くな。珍しくてもあちこち触るなよ?」と念を押して、おじさんは僕たちを送り出してくれた。
「うん!またね!」
「ありがとう、おじさん!おじさんも気を付けてね!」
お礼を言って別れた。馬車の窓から、馬車を見送るおじさんとポーに手を振った。
テレーゼ様の馬車はすごく広くて綺麗で、フカフカの座席は触り心地も良かった。
「継母様が馬車を新調されるということで、私にお譲りくださいましたの。とっても素敵でしょう?私は天井の小鳥さんたちがお気に入りよ」と言って、テレーゼ様は微笑みながら天井を指さした。
天井は明り取りの硝子窓があって、蔦をあしらった縁に、可愛い小鳥と花の細工が施されている。
細かな所まで拘っていて、馬車と言うより芸術品みたいだ。
馬車にはテレーゼ様と侍女が二人と、男の子が一人乗っていた。
「アーサーを知ってる?」とテレーゼ様が僕らに訊ねた。僕が頷いて「《お花おじさん》でしょう?」と答えると、テレーゼ様は面白そうに笑った。
女の子に人気のあるおじさんだ。
花言葉を沢山知っていて、色んな花を知ってる。花屋さんより花束を作るのが上手だ。
「そうね。ふふっ…皆でそんなふうに呼んでるの?」
「うん、《王子様》って呼んでる子もいるよ」
「あらあら、うふふふ。アーサーったら人気者ね。
この子はその《お花おじさん》の弟なの。ダニエルっていうのよ。仲良くしてね」とテレーゼ様は隣に座る、ブランケットに包まった少年を紹介した。
線の細い印象の少年は痩せてて、色白の顔に浮かぶ表情は怯えてるように見えた。
本当の弟かは分からないけど、テレーゼ様がそう言うならそうなんだろう。
「僕はヤン。よろしくね、ダニエル」と手を差し出すと、彼は小さな声で「よろしく」と答えて手を握ってくれた。
友達になった僕たちを、テレーゼ様は嬉しそうに微笑みを浮かべて見守っていた。
✩.*˚
道中、特に問題なく進んだ。元より難しい任務でもない。
途中で子供を拾ったのは想定外だが、問題にもならなかった。
ロンメル男爵夫人は子供たちを《生徒》と呼んでいた。子供たちは貧しい農村育ちのありふれた姿をしていた。
「夫人は、本当に貧しい者のために、私塾を開いておいでなのですね」と部下のイェルクが馬車を見ながら呟いた。
「あの癒しの力といい、慈悲深さ、容姿に至るまで、まるで女神です」と騎士たちは彼女を褒めちぎった。
彼らは前線から外され、功名を立てる機会を失った、騎士の貧乏くじを引いた者たちだ。それにも関わらず、彼らはこの任務を喜んでいた。
彼らはそれほどまでに、ロンメル男爵夫人に魅了されていた。
彼女がロンメル男爵と結婚するまで、日の目を見なかったのが不思議なくらいだ。
まぁ、だから彼らは夫婦になれたと言うべきだろう…
「あの二人は運命だったのでしょうな。
そうでもなければ、誰も納得できませんよ」
「確かに」と部下の間で笑いが漏れた。
「《祝福持ち》の傭兵隊長と末席の公女様の結婚などと面白がってましたが、蓋を開けたらとんでもない夫婦でしたな」
「我らが殿までもが、大変な入れ込みようですからな。あの辛口なエアフルト卿までロンメル夫人に応じてご署名されたとか…」
「ツィーラー隊長もご署名を?」
「微力ながら」と答えた。
リューデル伯爵やエアフルト卿に比べれば、私の寄付など微々たるものだったが、若い男爵夫人は署名に喜んでくれた。署名した者一人一人の手を握って、感謝の言葉を述べる姿に、この寄付が無駄ではないと確信した。
数年後には、彼女の生徒の名を何処かで見るかもしれない。これは未来への投資だ。博打のようなものだが、それも悪くない。
これから戦で優秀な人材が湯水のように失われるのだ…
彼女のような存在が一人でも多く必要だった。
この大袈裟なほどの護衛は、彼女を後押しするというリューデル伯爵の決意表明だ。
リューデル伯爵は、他の兄弟に比べ、やや繊細さには欠け、粗野な印象はぬぐえないが、実は多くの事業を成功させている事業家の顔もある。商人たちにも広く顔が利く。彼女にとって良い協力者になるはずだ。
ロンメル夫人の馬車の旅は、ブルームバルトまで残すところ半分となった。
「一度馬を休ませて、奥様方にお茶をお召し上がり頂いてもよろしいでしょうか?」と馬車からシュミット殿が申し出た。既に2時間も馬車に揺られている。
舗装された道でも辛くなってくるはずだ。
「立ち寄る宛がおありですか?」と訊ねると、彼は初めから目星をつけていた村を教えてくれた。
「この先に小さな村がありますので、そちらで少し休憩はいかがでしょうか?
旅人などの休憩に利用される村です。来る途中にも寄らせてもらいました」
「了解しました。部下を先行させてよろしいでしょうか?安全を確認するもの我々の仕事ですので」
「よろしくお願い致します」とシュミット殿の了解を得て、部下を二人先行させた。
彼らはすぐに駆けて、安全を確認し、ロンメル夫人の訪問を告げて戻って来た。
「村の代表は承知との事でした」と報告が入る。
「ご苦労」と声をかけて彼らを列に戻した。
村人たちは、行き道にはなかったはずの騎士の行列に驚いていたが、すんなり受け入れてくれた。
あのシュミットという家人は優秀なようだ。ブルームバルトからの道中に、帰りの段取りまで済ませていたらしい。
「村長、大所帯で申し訳ありません。馬の水を頂戴します」
「いえいえ、何も無い村で、奥様をおもてなし出来ず申し訳ありません。
水だけはありますので、どうぞお好きなだけお使いください。村の若者を手伝いに呼びますので使ってください」
出迎えた老人がシュミットと話をしていた。彼がこの村の長のようだ。
「奥様にお飲み頂く紅茶のお湯を頂戴してよろしいでしょうか?あと、長椅子で良いので、テーブルと一緒にお借り出来ますか?」
「すぐにお持ち致します」と応じて、村人の動きが慌ただしくなる。
即席の休憩所を馬車の傍に拵えて、夫人は子供たちとティータイムを楽しんでいた。
戦争を忘れさせるような、長閑な眺めに癒された。
何も無い村だが、差し入れられた水は冷たく、馬と部下たちの乾いた喉を潤してくれた。
そろそろ出発しようとしていたところに、街道を見張っていた部下から慌ただしい報告が届いた。
「ツィーラー隊長、通り過ぎた村の者が救援を求めております」
「救援?何事だ?」
ここに至るまでに街道沿いは何も問題無かったはずだ。
首を傾げる私の前に連れてこられた、薄汚れた農夫の姿の若者は、野良仕事を手伝うような駄馬に乗って助けを求めに来たという。
彼の話によると、私たちが通り過ぎた後に、押し寄せてきた軍隊が村を襲ったという。
彼は仕事をしていた小麦畑に身を隠してやり過ごし、襲撃者の目を盗んで、助けを求めて逃げてきたらしい。
「鎧を着た騎士ばかりでした…何も出来ず…」と若者は悔しさを滲ませていたが、それが賢明だ。
本来であれば応じるべきだろう。南部侯領の村が襲われているのだ。領民の保護は騎士としての義務でもある。しかし、今は折り悪く、ロンメル夫人を送り届けるという任務の最中だ…
「ツィーラー隊長…いかが致しましょうか?」と下知を待つ部下の言葉にすぐに返答することが出来なかった。
「敵の詳しい様子は分かるか?」と目撃者に確認したが彼は素人だ。
要領を得ない返答に苛立ちながら、僅かな情報から敵の様子を確認するしか無かった。
「失礼します。何事ですか?」我々の様子に不穏なものを感じたのだろう。
同行していたエインズワースの弟が声をかけてきた。
《祝福持ち》のくせに、前線から逃げる選択をしたこの兄弟を、私は快く思っていなかった。
「貴殿らには関係の無いことだ」と追い払おうとしたが、彼は引かなかった。
「何処から来ましたか?」
「フェアデヘルデ領のザック村から…」
「なるほど、分かりました」と応えるとエインズワースの弟は空に向かってまじないのようなものを呟いた。
少しの間を開けて、現れたのは小ぶりな鷹だ。エインズワースの弟は鷹に腕を伸ばして手元に招いた。
彼は懐からネズミを取り出して、腕に留まった鷹の背に乗せ、そのまま鳥を空に逃がした。
「何をした?」
「さあ?私には関係ないのでは?」と意地悪く病人のような白い顔が笑った。それがまた癇に障る。
睨みつけた私の視線を受け流して、彼は「仲間に入れてくれるなら教えますよ」と笑った。
「ツィーラー殿。何かございましたか?」馬車の支度をしていたはずのシュミットがやってきて訊ねた。
何か揉めているのかと心配したのだろう。
「通り過ぎた村が何者かに襲われたようです。
我々が通った後だったので助けを求めに来たようです」
「それは…賊ですか?それとも…」
「情報が無いので何とも言えませんな…
ロンメル夫人を安全にお送りするのが最優先です。取り急ぎ出発致しましょう」
「そんな!お見捨てになりますか?!」話を聞いていた若者が悲痛な声を上げた。
シュミットも助けを求める若者を前に、険しい表情で押し黙った。
彼の心の天秤もまた揺れているのだろう。
「シュミット様」エインズワースの弟が、先程放った鷹を手にシュミットに歩み寄った。彼の声音は厳しいものになっている。
「急いで奥様たちを馬車に乗せてください!」と彼は警告を発した。
「オークランドの《騎行》と思われます!
すぐそこにまで迫っています!」
「馬鹿な!騎行など…」
耳を疑ったが、シュミットはその言葉を信じたようだ。
「状況は?」
「正確な状況は把握できませんが、武装した騎士と村から昇る煙が確認されました。フィーアのものでは無い旗も確認されています。
奥様を早くブルームバルトへ!
あそこは強固とは言いがたくとも、街を守る堀とカーテン・ウォールがあります!まだ何とか耐えれるはずです!」
「承知した」と頷くと、シュミットはすぐに行動に移った。踵を返した彼を捕まえて慌てて問い質した。
「シュミット殿!先程の話を信ずる根拠は?」
「戦場を離れる前、彼はある御仁に仕える優秀な斥候でした。ロンメル男爵閣下からの信頼も厚く、信頼出来る男です。私は彼を信用しております」
「待ってください!俺たちの村は…」村から逃げてきた若者の言葉にシュミットは厳しい表情で突き放した。
「すまないが、我々は戻ることはできない…
ブルームバルトとカナルの河畔に伝令を送る。どちらかが間に合えば良いが…」
「今だって!今も家族や友人が殺されてるかもしれないんです!そんなの待ってられませんよ!
俺たちが、元ウィンザーの人間だから助けてくれないのですか?!」
「違う。それは断じてない。
救えるものなら救いたいと思う。最善は尽くすつもりだ。
君が家族や友人を憂う気持ちは痛いほど分かる。それでも私は私に課された義務を果たさねばならぬ」
「そんなの…自分の親や、妻や子供にもそんな事言えるんですか?」と縋った若者は咽びながら声を絞り出した。
その辛辣な言葉に、彼は静かな声で答えた。
「私は、過去にその決断をした男だ…
あの時の感情を忘れたことは無いが、それが間違いだったとも思わない。
私は…二度と主を失う訳にはいかないのだ」
その言葉は目の前の若者に向けられたものというより、自分に向けられたもののようだった…
エインズワースの弟が泣き崩れた若者に寄り添った。
「シュミット様、カナル河畔への伝令役は私にお任せ頂いてもよろしいでしょうか?」
「頼む。方法は任せる」
「私とギルは帰りが少し遅れます。『必ず帰る』と、アニタに伝えてください」
「…分かった…必ず戻ってくれ」
「ありがとうございます」
エインズワースの弟に後を任せ、シュミットはロンメル夫人らに声をかけて馬車に誘導した。
まだ談笑しながら馬車に乗り込む様子から、夫人らは今がどんな状況か把握していないのだろう。
それでいい…
事実を知れば、あの夫人のことだ…
無駄に心苦しい思いをさせるだけだ…
頭を振って、苦い思いを振り払うと部下に出立の用意を命じた。
「我々もすぐに出られるように準備をしろ。
《鷹喰い》の旗に誓って、夫人は無事にブルームバルトへお送りするのだ!」
✩.*˚
『これをお持ちなさい』
シェリル様は、孤児院を出て、騎士見習いになる私に、ルフトゥ神の十字架とお言葉を下さった。
『アダム。立派な騎士になって下さいね。弱い人を守って、正しい行いを心がけて下さい。貴方はきっと人から尊敬され、神の道へ人々を導く立場の人間になるでしょう…
私は貴方の名前を聞く度に誇りに思います。アダム・マクレイは私の自慢の息子です…』
何故だ…
貴女の誇りになるようにと、ずっと努めてきたのに…
目の前の惨状に目を覆いたくなる…
小さな村は、軍隊の進行に為す術なく破壊され、奪い尽くされた。
現実に起きている事を、受け入れることは出来なかった。
《騎行作戦》を提示された際、異議を唱えたが、本営から対岸の指揮権を与えられたメイヤー子爵の決定を覆す事など出来なかった。
シェリル様…申し訳ありません…
私は、貴方の《自慢の息子》であり続けることが出来ませんでした…
メイヤー子爵の指示で、生き残った僅かな村人が集められた。中には、足を引きずる老人や、まだ何が起きているのかも理解できないような幼い子供もいた。
身を潜めて生き残った彼らに、「殺せ」と無慈悲な命令が下った。
小さな悲鳴が漏れて残った村人が震えて身を寄せあった。それだけが、彼らに残された僅かな抵抗の手段だった…
母親が幼子を抱いて、我が身を盾にしようとする姿に、堪えきれずに声を上げた。
「お待ちを!」と声を上げた私を、メイヤー子爵は一瞥した。
「マクレイ卿か…」
「子爵閣下!このような村の蓄えなど、取るに足らないではありませんか!ここまでする大義がおありか?!」
「彼らはフィーアに与する者だ。情けは無用だ」
「どうか!何卒お考え直しを!
この母親はルフトゥ神に帰依する者です!他の村人も、ルフトゥ神の十字架を手にしております!」
子供を抱いて震える女性の首には十字架があった。それは私のものと同じ意匠の十字架だ。
「私は信者を見殺しにはできません!
ましてや、幼い子を抱いたか弱い女性の命を奪うなど、承服しかねます!」
血に酔っていた兵士らの空気が白んだ。
「なるほど…マクレイ卿、貴殿は素晴らしい考えをお持ちだ。
しかし、こう考えたことはないかね?」
兵士らの血の酔いが完全に冷める前に、メイヤー子爵の冷たい声がその場を支配した。
「全ての人間が、施しに感謝をする訳では無い。貴殿が今日見逃したこの子供が、未来の貴殿に刃を向ける事だってありうるのだ。
既に彼らはウィンザーを忘れ、フィーアに与しているでは無いか?
そのうちその十字架も捨てられるやもしれぬ。いや、もう既に心の中では捨てているやもしれんぞ」
「ならばこそ!正しき道に人を導くのが為政者の務めではございませぬか?!」
「それは全てが終わって、和平がなされてから言うものだ。
まさか、《騎行》をご存知ないのかね?これは中途半端に終わらせるものでは無いのだよ」
「存じ上げている。だからこそ反対した!今もその気持ちは変わりません!」
「若いのに立派なお考え…感服すると言いたいところだが、今は戦時下、有事である」と冷徹な態度を崩さず、メイヤー子爵は兵士らに合図を送った。
無言の下知を受けた兵士らは、槍の穂先を残った村人に向けた。突き立てられた穂先は躊躇いなく命令を実行した…
「助けて」
悲痛な嘆願が耳に残って、事切れた…
守れたはずの…失わなくて良かったはずの命が目の前で消えた…
「…なんということを…」
子供を抱いた母親は既に死んでいた。腕の中の子供は辛うじて息があったが、穴の空いた身体には死神が擦り寄っていた。
抱き上げた子供は、涙を浮かべた瞳を動かして、「何で?」と問いかけて母の後を追った…
私も同じ質問をしたかった…
「貴殿は戦を知らなさすぎる」と蔑むような声が降ってきた。腹の奥で今まで感じたことの無い怒りが湧いた。熱を持った重い怒りは憎悪という感情だろう。
憎しみを込めた視線で睨んだ私を、メイヤー子爵は見下すように、冷たい視線で応えた。
「《騎行》はただの《略奪》では無い。《恐怖》を植え付け、土地の生産性を破壊し、継続的な損害を与えるのがその目的だ。
敵の冷静さを失わせる《挑発》の一面もある。
我々の目的は、あくまで陛下に勝利を捧げることであって、敵国の民の保護ではない!
先も申したが、そういう事は全てが終わってから存分にするがよかろう。貴殿は貴殿の役割を果たせ」
「戦時下だから、この非道すら許されると申しますか?!」
「許す許さぬでは無い」感情を殺した声が応えた。
「これが戦争だ」メイヤー子爵の言葉は不愉快な響きを孕んで耳に刺さった。
理解していたつもりだ…
だからこそ…できる限り犠牲を出さぬように、素早く終わらせるために私はここに来たのだ!
私は人を救いに来たのだ!
「ここは戦場だ、負けた側が全てを失う。
生殺与奪は勝者の権利。敗者は勝者に蹂躙される。
それは我が国とて同じ事…
負ければ、同じ未来が我らにも待っている。これは疫病神の擦り付け合いだ。
この狂った場所に、美しいものなど無いと知れ!」
強い叱責を残し、メイヤー子爵は踵を返すと、兵士らに次の村に向かうように指示を出した。
この厄災を振り撒く《騎行》は、まだこの先も続くのだ…
子供の遺体を母親の遺体に返した。
既に馬上の人となっていたメイヤー子爵が、部下を連れて戻って来た。
「埋葬は許さぬが、死者のための祈りなら許す。
済んだら直ちに次の村に来い。遅れるな。
貴殿の《祝福》は、他の《祝福》を持つ者に阻まれた時に必要だ」
「…かしこまり…ました」絞り出した声は、酷く不細工であった事だろう。
メイヤー子爵はそれについては何も言わなかった。返事だけを拾って頷くと、馬の足を次の村に向けた。
彼は不敬な私の怒りを不問にした。
「団長、肝が冷えましたよ…」メイヤー子爵が立ち去ったので、オリヴァーが現れて控えめな恨み言を呟いた。
「…すまん」団長失格だ。一時の感情で、彼らの立場をも危険に晒した…
自分では、もっと冷静に動くことができる人間だと思っていたのに…
メイヤー子爵がその気になれば、私を軍令違反で処罰することも出来た。部下たちも拘束されてもおかしくなかった。私は彼に見逃されたのだ…
「貴方は立派ですよ」オリヴァーはそう言って、彼らしい穏やかな苦笑いを浮かべた。
「馬の用意をします」と言い残して、彼は私を屍の前に残して立ち去った。
立ち去るオリヴァーの背を見送って、クィンの姿が視界に過ぎった。
彼は兜の下に表情を隠していた。
彼もまた、元ウィンザーの民が殺されるのを、黙って見ていることしか出来なかった。
クィンから視線を外し、哀れな村人の屍に向き直った。彼らのために祈る事しか出来ない自分の歯痒さを呪った。
「《偉大なる大神にて、我々の父よ…》」
せめて魂が迷わぬように、祈りを捧げた。
次の魂の行先までは分からない。それでも、こんな終わり方だけはしないように、神に彼らの魂を託した。
「《白い手の女神様》に敬礼!」と大袈裟なリューデル伯爵の号令に、貴族の子弟や騎士たちが応えた。
「叔父様、大袈裟ですわ」
「何を言うか!これでも足らないくらいだ!」
恐縮するテレーゼにリューデル伯爵が大声で答えた。
知らない奴が見れば、いじめてるようにしか見えないだろう。これでもリューデル伯爵にしては、彼女に優しく接してるつもりのようだ。
「随分長く引き止めてしまったな!
姪殿、皆が世話になった!」
「お役に立てて何よりです」とテレーゼは軽く膝を折って会釈して見せた。
テレーゼは、治癒魔導師では間に合わない重傷者をこっそり癒していた。
《顔を晒さない》という条件で、リューデル伯爵はそれを黙認していた。
この叔父はすっかりこの小さな女神の信者になってしまったらしい。
瀕死の伯爵を助けたことで、テレーゼは叔父以外からも学校開設の援助の約束を取り付けるのに成功していた。
金がどれくらい集まったのか、聞くのも怖い…
全く逞しい奥様だ…
「皆様のご武運をヴォルガ様にお祈り致しております」という在り来りな台詞も、彼女が言うと違うのだろう。
彼女の言葉に強面の男たちが色めき立った。
感極まって涙ぐむ奴までいる…
大袈裟な…
そのうち俺が味方に刺されて、亡き者にされないか心配だ…
「旦那様、面白くないと顔に書いてありますよ」とシュミットが俺をからかった。
彼はダニエルを抱えていた。
ダニエルの存在を怪しまれないように、小汚くするのに苦労した。
なんせお坊ちゃまだ。少々荒っぽいやり方で孤児らしくし仕立てあげたが、口をきいたら多分バレる。
メリッサはアンネと一緒に侍女の姿で控えている。
「ご安心を。私が責任もって、二人をブルームバルトに連れ帰ります」とシュミットが請け負った。こいつに任せておけば大概のことはなんとかなるはずだ。
「しかし、よろしいのですか?エインズワースの兄弟まで連れ帰って?」
「元々、アーサーを取り返す手伝いを頼んだんだ。
嫌がってる奴を引き止める訳にもいかんだろう?しかもあいつは鍛冶屋だ。傭兵じゃねぇ」
「そんな強がって…後悔しますよ」
「いいんだよこれで」と強がった。
首の皮一枚でつかながったのは、ギルとテレーゼのおかげだ。
でもギルは自分の《祝福》にビビっちまったらしい。
あいつは自分の《祝福》を、俺以上に嫌っていた。
ずっと使ってなかったというのもあるだろう。自分が一切傷つかずに、力を振るうことに抵抗があったのかもしれない。
とにかくあいつは力を振るったことを後悔していた。
これ以上無理をさせたら、あいつは今の生活も捨てて逃げ出してしまうかもしれない。
せっかく手に入れた幸せを、捨てさせるなんて出来なかった…
「あいつを使うのは、俺に何かあった時くらいでいいだろう?それまでは静かに暮らさせてやりてぇんだ…」
俺だってこの出征で、テレーゼやフィーと離れる時に散々渋ったのだ。気持ちは分かるつもりだ。
「ロンメル」と俺を呼ぶ声がした。
馬を連れたレオンとギルの姿があった。
「…すまん」とギルが謝罪を口にした。ギルはまだ悩んでいるようで、いつもの仏頂面がさらに険しくなっていた。
「残るべきだと分かってる…でも…」
「何言ってんだ?謝んのは俺の方だ。巻き込んで悪かったな」
「すまん…」
「気にすんな。まだお前には頼らねぇよ。
もっとヤバくなったら頼むかもな。それまでは何とかしてみせるさ」と笑って見せて、暗い顔の男の肩を叩いた。
「あんまり思い詰めるなよ?ハゲるぞ」と茶化してレオンにも声をかけた。
「ありがとうよ、お前のおかげでアーサーも戻った」
「お役に立てて何よりです」とレオンはギルとは対象的な笑顔で応じた。
「お力になりたいですが、ギルを納得させるのは難しそうです」
「お前らが敵じゃないだけで十分だよ」と苦笑いしながらレオンと握手を交わした。
「テレーゼとブルームバルトの連中を頼む」とエインズワース兄弟に、俺の命より大切なものを託した。
「承りました」とレオンが頼もしく応えた。
「それでは、我々はこれで…」とダニエルを抱いたシュミットが馬車に向かった。
「おや?姪殿、その子供は何だ?」
リューデル伯爵がシュミットの姿を見咎めた。
「河畔で傭兵たちが連れてきたのです」とテレーゼはしれっと答えた。
「可哀想に…足が悪くて逃げ遅れてしまったのでしょうね。
足の治療に時間がかかりそうなので連れ帰ることにしました。家族はこちらで探しますわ」とテレーゼはスラスラと笑顔で答えた。
彼女は嘘は言わなかった。
「素晴らしい…なんという慈悲深さ…」
「聖女…いや女神だ…」
テレーゼを賛美する声が上がる。
彼女はそれに笑顔で応えた。
あんたら事実を知ったら腰を抜かすほど驚くだろうよ…と思ってこっそりため息を吐いた。
俺の嫁さんは、こんな小さくて華奢で繊細な印象なのに、俺なんかよりずっと肝が座ってるらしい。
「ワルター様」と彼女は手を伸べて俺を呼んだ。何かと思っていると彼女は困ったように小さくて笑った。
「気の利かない男だな!夫なら姪殿をエスコートせんか!」とリューデル伯爵に叱られた。
あぁ、なるほど…
馬車へのエスコートの催促だったようだ。
彼女の手を取って、馬車に上がる階段を登るのに手を貸した。
「道中気をつけて帰れよ。
フィーによろしくな」
「帰るのが随分遅くなってしまいました。母親失格です…」
「そうか?案外ケロッとしてるかもしれんぞ」
「それはそれで私が寂しくなりますわ」とテレーゼは俺の冗談を笑った。
「お帰りをお待ちしておりますわ」
「フィーが俺を忘れないうちに帰るさ。フィーの弟か妹も欲しいしな」
「ふふっ、頑張ってください」と笑う彼女に顔を寄せた。軽く接吻て、馬車の階段を降りようとした。
「ワルター様、お約束を」とテレーゼの声が俺を引き止めた。
「お怪我したら無理せずに教えてくださいませ。でないとまた押しかけますよ」と釘をさして、彼女は親子ほど離れた旦那を子供扱いした。
敵わねぇな…
彼女の望む返事を返して頷いた。
「ワルター様のご武運をお祈りしております」
「ありがとうよ。お前の方も上手くいくように願ってるよ」
もっとも、俺なんかが手を出すような事もないだろうが…
せいぜい、サインしろって言われて、黙って一筆書くくらいしか俺のすることは無さそうだ。
彼女の笑顔を目に焼き付けて別れた。
ブルームバルトの手前まで、リューデル伯爵が護衛の騎士たちを付けてくれた。
馬車が動き出すと、仰々しい程の騎士たちの姿が続いた。
リューデル伯爵が隊長らしい騎士を呼びつけて、檄を与えた。
「全滅しても構わん!姪殿は必ず無傷でブルームバルトに届けよ!」
「女神の護衛という大役光栄に存じます!」と応じた騎士は、主に敬礼して隊列に戻った。
馬車と一行を見送って、戻ろうとした俺をリューデル伯爵が呼び止めた。
「さて、婿殿」と神妙な顔で腕を胸の前で組んで俺を見下ろした。
「まぁ、あの子供のことは、姪殿の顔を立てて追求しないで置いてやろう…
それよりもだ!何だ!あのエスコートは?!」
何やらお気に召さなかったらしい。
俺としては何がおかしいのか全くもって分からない…
「あれではどっちがエスコートされているのか分からんぞ!
もしあれで行事に出てみろ!姪殿が恥をかく!」
「何か粗相が…」
「馬鹿者!大ありだ!」と馬鹿でかい怒号が飛んだ。
「良いか!婿殿はもう貴族なのだ!しかも南部侯ヴェルフェル家の末席に連なる者だ!それ相応の振る舞いが求められる!
エスコートは男としての品格が試されるものだ!
何時いかなる時でも凛々しく、男らしく、品のある立ち振る舞いでパートナーを支え、安心感を与えねばならぬ!
そんなのでは姪殿に愛想をつかされるぞ!
カナルにいる間に直せ!少なくとも今のままでは恥ずかしくて表に出せん!」
俺には随分厳しいじゃないか…ってかエスコートってそんなもん?
「その分だとダンスも踊れないだろうな」と付け足して、リューデル伯爵はため息を吐いた。
ダンス?!一体どこからそんな話が出てくる?!
困惑する俺に、エアフルト卿が近づいて耳打ちした。
「今のところ、ロンメル男爵閣下はカナル防衛にて多大な功績を立てておいでです。
リューデル閣下は、来年の新年会の賓客として国王陛下への謁見で恥をかくのでは、と危惧しておいでなのです」
「は?」国王?嘘だろ?!男爵の叙勲以来だぞ!
「余程の理由がない限り、国王主催の新年会は欠席はできません。
不詳ながら私もお手伝い致しますので、お勉強くださいませ」エアフルト卿の言葉に周りが苦い顔で頷いていた。
俺ってそんなに酷いの?!
カナルでの無駄な仕事が一つ増えた…
✩.*˚
「ヤン!ごめん!お待たせ!」と薄暗い夜明け前の待ち合わせ場所に、親友のティモの声が届いた。
待ち合わせの導石に置いていたランプを手に取って、友人に僕の居場所を教えた。
まだ夜明け前だけど、この時間に出ないと勉強の時間に間に合わない。
ティモは肩で息をしながら「よかったぁ」と胸を撫で下ろしていた。
彼の肩からかけたカバンには、テレーゼ様から貰った宿題が入ってる。二人で頑張って問題を解いた。
まだ朝日が登る前の空は、少しずつ藍色から赤に色を変えていた。
「スコットおじさんはまだ?」
「大丈夫だよ」とティモに答えて、二人で駆け足で馬車を探しに向かった。
村の小さな雑貨屋のスコットおじさんは、仕入れのために少し大きな町に行く。
『出世払いにしてやるよ』と言って、町に行くついでにノロノロ馬車で僕たちを拾ってくれる。
少ししてから、荷馬車の音が近付いてきた。
ポックリ、ポックリとゆっくりな足取りの馬車はランプを揺らしながら、僕らの目の前で止まった。
「すまんなぁ、二人とも」と幌馬車からスコットおじさんが顔を出した。
「この爺さんがのんびり屋でな、待たせちまったろう?」と馬を見て笑った。お爺さん馬は口をもぐもぐさせている。何かまだ食べてるみたいだ。
「スコットおじさん、ポー、おはよう」
二人で幌馬車を引く馬を撫でて、転がるように幌馬車の荷台に乗り込んだ。
おじさんは僕たちが馬車に乗ったのを確認して、馬に合図した。
ゆっくり馬車が動き出す。揺れる荷台からスコットおじさんの御者台に移動した。
「おじさん、いつもありがとう」
「ついでだ。早い馬車じゃないけどよ、歩くよりいいだろう?」とおじさんは髭の下で笑って、大きな手で僕の頭を撫でた。
「いいなぁ、お前たちは…美人な先生に優しく教えて貰えて。俺がガキの頃はそんなもん無かった…」とおじさんは子供の頃の話を始めた。
2時間ちょっとの何も無い田舎道で、スコットおじさんの話し相手になるのがこの馬車の運賃だ。
おじさんもいい眠気覚ましになるのだろう。
子供二人で3時間以上かかる道を歩いて行くより、ずっと安全だし楽しい。
「二人で宿題やったんだよ!
算数とライン語!僕らだけで解いたんだ!」とティモが自慢げにスコットおじさんに宿題を見せた。
「へぇ、すごいじゃないか」とおじさんは僕らを褒めてくれた。
「先生が良いんだな」とおじさんはパイプを咥えて煙を昇らせた。
「お前たちは賢いから、もう少し大きくなったら店番に雇ってやるよ」
「じゃあ、そのお金で本買うよ!」とティモが目を輝かせた。自分の本か…なんかすごいなぁ…
「そうだな、うちの店で買ってくれよ」とおじさんは子供の目標を聞いて、嬉しそうな笑顔を見せた。
でも、店番で貰ったお金で、おじさんのお店で本を買ったら、結局お金の行き着く先はまたおじさんだ…
「結局スコットおじさんが儲かるんだね」
「ハハッ!バレたな!賢いじゃないか、ヤン!」おじさんはそう言って膝を叩いて笑った。
「でもな、世の中そうやって回ってんのさ。
お前たちもそのうち分かるさ」
そんな話をしながら、ゆっくりと進む馬車の旅を楽しんだ。
ブルームバルトに向かう途中で、後ろから来た騎士に呼び止められた。どうやらこの馬車が邪魔らしい。
今から通る馬車に道を譲るように言われたので、おじさんは馬車を路肩に寄せて止まった。
ポーはちょっとした休憩を貰って、路肩で道草を食み始めた。
「子供らも馬車の中で大人しくさせておけ。
飛び出して列を乱すようであれば、容赦せぬぞ!」と厳しく念を押して、騎士はさらに先に進んで行った。
「こんなに朝早くに、一体どこのお貴族様かね?」とおじさんはパイプを咥えた。
どのみち、しばらく動けそうにないので一服して時間を潰すつもりみたいだ。
「お腹すいてるだろう?これでも食べな」と僕たちにパンを分けてくれた。
「ありがとう」とお礼を言ってパンを食べていると、今度は堂々とした騎士たちの行列が通り過ぎた。
騎士の行列に挟まれるように、四頭の馬が引く豪華な馬車が近付いてきた。
「あれ?」と幌の後ろから列を覗いていたティモが声を上げた。
「ねぇ、ヤン。あれってシュミット様じゃない?」
ティモに誘われて、僕も外を覗いた。
確かに、御者台に座っているのは、テレーゼ様のお屋敷で働いているシュミット様だ。
シュミット様は、幌の後ろからチラチラ覗く僕たちに気付いて、手を振ってくれた。シュミット様が振り返って馬車の中へ声をかけると、窓にかかっていたカーテンが開いて、中から大好きな顔が覗いた。
「テレーゼ様だ!」
二人で歓声を上げると、窓のから覗くテレーゼ様が笑顔で手を振ってくれた。
少し通り過ぎた所で馬車と騎士たちの行列が止まった。
「ヤン、ティモ」
馬車からテレーゼ様のお声がかかった。
二人で荷台から飛び出して走った。
馬車の昇降用の階段を用意して、シュミット様が馬車のドアを開けた。シュミット様の手を借りて、テレーゼ様が馬車を降りて、僕らを迎えてくれた。
「その子供らは?」と騎士の一人がテレーゼ様に訊ねた。
「私の生徒ですわ」と僕らを抱き締めて、テレーゼ様は自慢げに答えた。その言葉が嬉しかった。
「二人とも、ブルームバルトに行くところなの?」
「はい!宿題を持ってきました!」と肩から提げた鞄を手に、ティモは目を輝かせた。その姿を見て、テレーゼ様も笑顔になる。
「嬉しいわ。二人とも、良く頑張ってるわね。難しくなかったかしら?」
「二人で頑張って解きました!」
「協力出来て偉いわね。宿題は後で見せてもらうわ。
あの馬車は誰の馬車?」
「同じ村のスコットおじさんです。時々、町に仕入れに行くのに乗せてくれるんです」
「そうなのね。
シュミット様、スコットさんにお礼したいので呼んで来て下さいませんか?」
「畏まりました、奥様」と返事を返して、シュミット様はスコットおじさんを呼びに行って、すぐに戻ってきた。
おじさんは落ち着かない様子だった。帽子を握って、テレーゼ様の前で膝をついて頭を深く下げた。
周りの騎士の視線に怯えてるおじさんに、テレーゼ様が歩み寄って、優雅なお辞儀で挨拶した。
「スコットさん。ブルームバルトの領主、ロンメル男爵の夫人テレーゼです。
ヤンとティモを馬車に乗せてくださってありがとうございます。
私の生徒への親切の報いをお受け取りください」と言って、テレーゼ様はおじさんの手を取った。
ゴツゴツした大きな手のひらに、小さな白い手が金貨を握らせる。おじさんは女神様でも見たような顔をしてた。
「これからも、子供たちを見守ってくださいませ」と言うテレーゼ様のお言葉に何度も頷いていた。
「私は今からブルームバルトに戻りますので、この子達をお預かりしてもよろしいでしょうか?」とテレーゼ様はおじさんに訊ねた。
その言葉に、ティモと二人で顔を見合わせて歓声を上げた。
「テレーゼ様の馬車に乗れるの?!」
「すごい!」
「よ、よろしいのですか?まだ子供ですので、御無礼があるかも知れません…」
「他にも子供が乗ってますの。その子も二人がいたら喜んでくれるかと思います」
テレーゼ様の言葉に、スコットおじさんは少し安堵したようだ。
「行儀良くな。珍しくてもあちこち触るなよ?」と念を押して、おじさんは僕たちを送り出してくれた。
「うん!またね!」
「ありがとう、おじさん!おじさんも気を付けてね!」
お礼を言って別れた。馬車の窓から、馬車を見送るおじさんとポーに手を振った。
テレーゼ様の馬車はすごく広くて綺麗で、フカフカの座席は触り心地も良かった。
「継母様が馬車を新調されるということで、私にお譲りくださいましたの。とっても素敵でしょう?私は天井の小鳥さんたちがお気に入りよ」と言って、テレーゼ様は微笑みながら天井を指さした。
天井は明り取りの硝子窓があって、蔦をあしらった縁に、可愛い小鳥と花の細工が施されている。
細かな所まで拘っていて、馬車と言うより芸術品みたいだ。
馬車にはテレーゼ様と侍女が二人と、男の子が一人乗っていた。
「アーサーを知ってる?」とテレーゼ様が僕らに訊ねた。僕が頷いて「《お花おじさん》でしょう?」と答えると、テレーゼ様は面白そうに笑った。
女の子に人気のあるおじさんだ。
花言葉を沢山知っていて、色んな花を知ってる。花屋さんより花束を作るのが上手だ。
「そうね。ふふっ…皆でそんなふうに呼んでるの?」
「うん、《王子様》って呼んでる子もいるよ」
「あらあら、うふふふ。アーサーったら人気者ね。
この子はその《お花おじさん》の弟なの。ダニエルっていうのよ。仲良くしてね」とテレーゼ様は隣に座る、ブランケットに包まった少年を紹介した。
線の細い印象の少年は痩せてて、色白の顔に浮かぶ表情は怯えてるように見えた。
本当の弟かは分からないけど、テレーゼ様がそう言うならそうなんだろう。
「僕はヤン。よろしくね、ダニエル」と手を差し出すと、彼は小さな声で「よろしく」と答えて手を握ってくれた。
友達になった僕たちを、テレーゼ様は嬉しそうに微笑みを浮かべて見守っていた。
✩.*˚
道中、特に問題なく進んだ。元より難しい任務でもない。
途中で子供を拾ったのは想定外だが、問題にもならなかった。
ロンメル男爵夫人は子供たちを《生徒》と呼んでいた。子供たちは貧しい農村育ちのありふれた姿をしていた。
「夫人は、本当に貧しい者のために、私塾を開いておいでなのですね」と部下のイェルクが馬車を見ながら呟いた。
「あの癒しの力といい、慈悲深さ、容姿に至るまで、まるで女神です」と騎士たちは彼女を褒めちぎった。
彼らは前線から外され、功名を立てる機会を失った、騎士の貧乏くじを引いた者たちだ。それにも関わらず、彼らはこの任務を喜んでいた。
彼らはそれほどまでに、ロンメル男爵夫人に魅了されていた。
彼女がロンメル男爵と結婚するまで、日の目を見なかったのが不思議なくらいだ。
まぁ、だから彼らは夫婦になれたと言うべきだろう…
「あの二人は運命だったのでしょうな。
そうでもなければ、誰も納得できませんよ」
「確かに」と部下の間で笑いが漏れた。
「《祝福持ち》の傭兵隊長と末席の公女様の結婚などと面白がってましたが、蓋を開けたらとんでもない夫婦でしたな」
「我らが殿までもが、大変な入れ込みようですからな。あの辛口なエアフルト卿までロンメル夫人に応じてご署名されたとか…」
「ツィーラー隊長もご署名を?」
「微力ながら」と答えた。
リューデル伯爵やエアフルト卿に比べれば、私の寄付など微々たるものだったが、若い男爵夫人は署名に喜んでくれた。署名した者一人一人の手を握って、感謝の言葉を述べる姿に、この寄付が無駄ではないと確信した。
数年後には、彼女の生徒の名を何処かで見るかもしれない。これは未来への投資だ。博打のようなものだが、それも悪くない。
これから戦で優秀な人材が湯水のように失われるのだ…
彼女のような存在が一人でも多く必要だった。
この大袈裟なほどの護衛は、彼女を後押しするというリューデル伯爵の決意表明だ。
リューデル伯爵は、他の兄弟に比べ、やや繊細さには欠け、粗野な印象はぬぐえないが、実は多くの事業を成功させている事業家の顔もある。商人たちにも広く顔が利く。彼女にとって良い協力者になるはずだ。
ロンメル夫人の馬車の旅は、ブルームバルトまで残すところ半分となった。
「一度馬を休ませて、奥様方にお茶をお召し上がり頂いてもよろしいでしょうか?」と馬車からシュミット殿が申し出た。既に2時間も馬車に揺られている。
舗装された道でも辛くなってくるはずだ。
「立ち寄る宛がおありですか?」と訊ねると、彼は初めから目星をつけていた村を教えてくれた。
「この先に小さな村がありますので、そちらで少し休憩はいかがでしょうか?
旅人などの休憩に利用される村です。来る途中にも寄らせてもらいました」
「了解しました。部下を先行させてよろしいでしょうか?安全を確認するもの我々の仕事ですので」
「よろしくお願い致します」とシュミット殿の了解を得て、部下を二人先行させた。
彼らはすぐに駆けて、安全を確認し、ロンメル夫人の訪問を告げて戻って来た。
「村の代表は承知との事でした」と報告が入る。
「ご苦労」と声をかけて彼らを列に戻した。
村人たちは、行き道にはなかったはずの騎士の行列に驚いていたが、すんなり受け入れてくれた。
あのシュミットという家人は優秀なようだ。ブルームバルトからの道中に、帰りの段取りまで済ませていたらしい。
「村長、大所帯で申し訳ありません。馬の水を頂戴します」
「いえいえ、何も無い村で、奥様をおもてなし出来ず申し訳ありません。
水だけはありますので、どうぞお好きなだけお使いください。村の若者を手伝いに呼びますので使ってください」
出迎えた老人がシュミットと話をしていた。彼がこの村の長のようだ。
「奥様にお飲み頂く紅茶のお湯を頂戴してよろしいでしょうか?あと、長椅子で良いので、テーブルと一緒にお借り出来ますか?」
「すぐにお持ち致します」と応じて、村人の動きが慌ただしくなる。
即席の休憩所を馬車の傍に拵えて、夫人は子供たちとティータイムを楽しんでいた。
戦争を忘れさせるような、長閑な眺めに癒された。
何も無い村だが、差し入れられた水は冷たく、馬と部下たちの乾いた喉を潤してくれた。
そろそろ出発しようとしていたところに、街道を見張っていた部下から慌ただしい報告が届いた。
「ツィーラー隊長、通り過ぎた村の者が救援を求めております」
「救援?何事だ?」
ここに至るまでに街道沿いは何も問題無かったはずだ。
首を傾げる私の前に連れてこられた、薄汚れた農夫の姿の若者は、野良仕事を手伝うような駄馬に乗って助けを求めに来たという。
彼の話によると、私たちが通り過ぎた後に、押し寄せてきた軍隊が村を襲ったという。
彼は仕事をしていた小麦畑に身を隠してやり過ごし、襲撃者の目を盗んで、助けを求めて逃げてきたらしい。
「鎧を着た騎士ばかりでした…何も出来ず…」と若者は悔しさを滲ませていたが、それが賢明だ。
本来であれば応じるべきだろう。南部侯領の村が襲われているのだ。領民の保護は騎士としての義務でもある。しかし、今は折り悪く、ロンメル夫人を送り届けるという任務の最中だ…
「ツィーラー隊長…いかが致しましょうか?」と下知を待つ部下の言葉にすぐに返答することが出来なかった。
「敵の詳しい様子は分かるか?」と目撃者に確認したが彼は素人だ。
要領を得ない返答に苛立ちながら、僅かな情報から敵の様子を確認するしか無かった。
「失礼します。何事ですか?」我々の様子に不穏なものを感じたのだろう。
同行していたエインズワースの弟が声をかけてきた。
《祝福持ち》のくせに、前線から逃げる選択をしたこの兄弟を、私は快く思っていなかった。
「貴殿らには関係の無いことだ」と追い払おうとしたが、彼は引かなかった。
「何処から来ましたか?」
「フェアデヘルデ領のザック村から…」
「なるほど、分かりました」と応えるとエインズワースの弟は空に向かってまじないのようなものを呟いた。
少しの間を開けて、現れたのは小ぶりな鷹だ。エインズワースの弟は鷹に腕を伸ばして手元に招いた。
彼は懐からネズミを取り出して、腕に留まった鷹の背に乗せ、そのまま鳥を空に逃がした。
「何をした?」
「さあ?私には関係ないのでは?」と意地悪く病人のような白い顔が笑った。それがまた癇に障る。
睨みつけた私の視線を受け流して、彼は「仲間に入れてくれるなら教えますよ」と笑った。
「ツィーラー殿。何かございましたか?」馬車の支度をしていたはずのシュミットがやってきて訊ねた。
何か揉めているのかと心配したのだろう。
「通り過ぎた村が何者かに襲われたようです。
我々が通った後だったので助けを求めに来たようです」
「それは…賊ですか?それとも…」
「情報が無いので何とも言えませんな…
ロンメル夫人を安全にお送りするのが最優先です。取り急ぎ出発致しましょう」
「そんな!お見捨てになりますか?!」話を聞いていた若者が悲痛な声を上げた。
シュミットも助けを求める若者を前に、険しい表情で押し黙った。
彼の心の天秤もまた揺れているのだろう。
「シュミット様」エインズワースの弟が、先程放った鷹を手にシュミットに歩み寄った。彼の声音は厳しいものになっている。
「急いで奥様たちを馬車に乗せてください!」と彼は警告を発した。
「オークランドの《騎行》と思われます!
すぐそこにまで迫っています!」
「馬鹿な!騎行など…」
耳を疑ったが、シュミットはその言葉を信じたようだ。
「状況は?」
「正確な状況は把握できませんが、武装した騎士と村から昇る煙が確認されました。フィーアのものでは無い旗も確認されています。
奥様を早くブルームバルトへ!
あそこは強固とは言いがたくとも、街を守る堀とカーテン・ウォールがあります!まだ何とか耐えれるはずです!」
「承知した」と頷くと、シュミットはすぐに行動に移った。踵を返した彼を捕まえて慌てて問い質した。
「シュミット殿!先程の話を信ずる根拠は?」
「戦場を離れる前、彼はある御仁に仕える優秀な斥候でした。ロンメル男爵閣下からの信頼も厚く、信頼出来る男です。私は彼を信用しております」
「待ってください!俺たちの村は…」村から逃げてきた若者の言葉にシュミットは厳しい表情で突き放した。
「すまないが、我々は戻ることはできない…
ブルームバルトとカナルの河畔に伝令を送る。どちらかが間に合えば良いが…」
「今だって!今も家族や友人が殺されてるかもしれないんです!そんなの待ってられませんよ!
俺たちが、元ウィンザーの人間だから助けてくれないのですか?!」
「違う。それは断じてない。
救えるものなら救いたいと思う。最善は尽くすつもりだ。
君が家族や友人を憂う気持ちは痛いほど分かる。それでも私は私に課された義務を果たさねばならぬ」
「そんなの…自分の親や、妻や子供にもそんな事言えるんですか?」と縋った若者は咽びながら声を絞り出した。
その辛辣な言葉に、彼は静かな声で答えた。
「私は、過去にその決断をした男だ…
あの時の感情を忘れたことは無いが、それが間違いだったとも思わない。
私は…二度と主を失う訳にはいかないのだ」
その言葉は目の前の若者に向けられたものというより、自分に向けられたもののようだった…
エインズワースの弟が泣き崩れた若者に寄り添った。
「シュミット様、カナル河畔への伝令役は私にお任せ頂いてもよろしいでしょうか?」
「頼む。方法は任せる」
「私とギルは帰りが少し遅れます。『必ず帰る』と、アニタに伝えてください」
「…分かった…必ず戻ってくれ」
「ありがとうございます」
エインズワースの弟に後を任せ、シュミットはロンメル夫人らに声をかけて馬車に誘導した。
まだ談笑しながら馬車に乗り込む様子から、夫人らは今がどんな状況か把握していないのだろう。
それでいい…
事実を知れば、あの夫人のことだ…
無駄に心苦しい思いをさせるだけだ…
頭を振って、苦い思いを振り払うと部下に出立の用意を命じた。
「我々もすぐに出られるように準備をしろ。
《鷹喰い》の旗に誓って、夫人は無事にブルームバルトへお送りするのだ!」
✩.*˚
『これをお持ちなさい』
シェリル様は、孤児院を出て、騎士見習いになる私に、ルフトゥ神の十字架とお言葉を下さった。
『アダム。立派な騎士になって下さいね。弱い人を守って、正しい行いを心がけて下さい。貴方はきっと人から尊敬され、神の道へ人々を導く立場の人間になるでしょう…
私は貴方の名前を聞く度に誇りに思います。アダム・マクレイは私の自慢の息子です…』
何故だ…
貴女の誇りになるようにと、ずっと努めてきたのに…
目の前の惨状に目を覆いたくなる…
小さな村は、軍隊の進行に為す術なく破壊され、奪い尽くされた。
現実に起きている事を、受け入れることは出来なかった。
《騎行作戦》を提示された際、異議を唱えたが、本営から対岸の指揮権を与えられたメイヤー子爵の決定を覆す事など出来なかった。
シェリル様…申し訳ありません…
私は、貴方の《自慢の息子》であり続けることが出来ませんでした…
メイヤー子爵の指示で、生き残った僅かな村人が集められた。中には、足を引きずる老人や、まだ何が起きているのかも理解できないような幼い子供もいた。
身を潜めて生き残った彼らに、「殺せ」と無慈悲な命令が下った。
小さな悲鳴が漏れて残った村人が震えて身を寄せあった。それだけが、彼らに残された僅かな抵抗の手段だった…
母親が幼子を抱いて、我が身を盾にしようとする姿に、堪えきれずに声を上げた。
「お待ちを!」と声を上げた私を、メイヤー子爵は一瞥した。
「マクレイ卿か…」
「子爵閣下!このような村の蓄えなど、取るに足らないではありませんか!ここまでする大義がおありか?!」
「彼らはフィーアに与する者だ。情けは無用だ」
「どうか!何卒お考え直しを!
この母親はルフトゥ神に帰依する者です!他の村人も、ルフトゥ神の十字架を手にしております!」
子供を抱いて震える女性の首には十字架があった。それは私のものと同じ意匠の十字架だ。
「私は信者を見殺しにはできません!
ましてや、幼い子を抱いたか弱い女性の命を奪うなど、承服しかねます!」
血に酔っていた兵士らの空気が白んだ。
「なるほど…マクレイ卿、貴殿は素晴らしい考えをお持ちだ。
しかし、こう考えたことはないかね?」
兵士らの血の酔いが完全に冷める前に、メイヤー子爵の冷たい声がその場を支配した。
「全ての人間が、施しに感謝をする訳では無い。貴殿が今日見逃したこの子供が、未来の貴殿に刃を向ける事だってありうるのだ。
既に彼らはウィンザーを忘れ、フィーアに与しているでは無いか?
そのうちその十字架も捨てられるやもしれぬ。いや、もう既に心の中では捨てているやもしれんぞ」
「ならばこそ!正しき道に人を導くのが為政者の務めではございませぬか?!」
「それは全てが終わって、和平がなされてから言うものだ。
まさか、《騎行》をご存知ないのかね?これは中途半端に終わらせるものでは無いのだよ」
「存じ上げている。だからこそ反対した!今もその気持ちは変わりません!」
「若いのに立派なお考え…感服すると言いたいところだが、今は戦時下、有事である」と冷徹な態度を崩さず、メイヤー子爵は兵士らに合図を送った。
無言の下知を受けた兵士らは、槍の穂先を残った村人に向けた。突き立てられた穂先は躊躇いなく命令を実行した…
「助けて」
悲痛な嘆願が耳に残って、事切れた…
守れたはずの…失わなくて良かったはずの命が目の前で消えた…
「…なんということを…」
子供を抱いた母親は既に死んでいた。腕の中の子供は辛うじて息があったが、穴の空いた身体には死神が擦り寄っていた。
抱き上げた子供は、涙を浮かべた瞳を動かして、「何で?」と問いかけて母の後を追った…
私も同じ質問をしたかった…
「貴殿は戦を知らなさすぎる」と蔑むような声が降ってきた。腹の奥で今まで感じたことの無い怒りが湧いた。熱を持った重い怒りは憎悪という感情だろう。
憎しみを込めた視線で睨んだ私を、メイヤー子爵は見下すように、冷たい視線で応えた。
「《騎行》はただの《略奪》では無い。《恐怖》を植え付け、土地の生産性を破壊し、継続的な損害を与えるのがその目的だ。
敵の冷静さを失わせる《挑発》の一面もある。
我々の目的は、あくまで陛下に勝利を捧げることであって、敵国の民の保護ではない!
先も申したが、そういう事は全てが終わってから存分にするがよかろう。貴殿は貴殿の役割を果たせ」
「戦時下だから、この非道すら許されると申しますか?!」
「許す許さぬでは無い」感情を殺した声が応えた。
「これが戦争だ」メイヤー子爵の言葉は不愉快な響きを孕んで耳に刺さった。
理解していたつもりだ…
だからこそ…できる限り犠牲を出さぬように、素早く終わらせるために私はここに来たのだ!
私は人を救いに来たのだ!
「ここは戦場だ、負けた側が全てを失う。
生殺与奪は勝者の権利。敗者は勝者に蹂躙される。
それは我が国とて同じ事…
負ければ、同じ未来が我らにも待っている。これは疫病神の擦り付け合いだ。
この狂った場所に、美しいものなど無いと知れ!」
強い叱責を残し、メイヤー子爵は踵を返すと、兵士らに次の村に向かうように指示を出した。
この厄災を振り撒く《騎行》は、まだこの先も続くのだ…
子供の遺体を母親の遺体に返した。
既に馬上の人となっていたメイヤー子爵が、部下を連れて戻って来た。
「埋葬は許さぬが、死者のための祈りなら許す。
済んだら直ちに次の村に来い。遅れるな。
貴殿の《祝福》は、他の《祝福》を持つ者に阻まれた時に必要だ」
「…かしこまり…ました」絞り出した声は、酷く不細工であった事だろう。
メイヤー子爵はそれについては何も言わなかった。返事だけを拾って頷くと、馬の足を次の村に向けた。
彼は不敬な私の怒りを不問にした。
「団長、肝が冷えましたよ…」メイヤー子爵が立ち去ったので、オリヴァーが現れて控えめな恨み言を呟いた。
「…すまん」団長失格だ。一時の感情で、彼らの立場をも危険に晒した…
自分では、もっと冷静に動くことができる人間だと思っていたのに…
メイヤー子爵がその気になれば、私を軍令違反で処罰することも出来た。部下たちも拘束されてもおかしくなかった。私は彼に見逃されたのだ…
「貴方は立派ですよ」オリヴァーはそう言って、彼らしい穏やかな苦笑いを浮かべた。
「馬の用意をします」と言い残して、彼は私を屍の前に残して立ち去った。
立ち去るオリヴァーの背を見送って、クィンの姿が視界に過ぎった。
彼は兜の下に表情を隠していた。
彼もまた、元ウィンザーの民が殺されるのを、黙って見ていることしか出来なかった。
クィンから視線を外し、哀れな村人の屍に向き直った。彼らのために祈る事しか出来ない自分の歯痒さを呪った。
「《偉大なる大神にて、我々の父よ…》」
せめて魂が迷わぬように、祈りを捧げた。
次の魂の行先までは分からない。それでも、こんな終わり方だけはしないように、神に彼らの魂を託した。
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