燕の軌跡

猫絵師

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久々に会った友人は怒っていた…

「ロンメル!お前どういうつもりか言ってみろ!」

「兄さん、落ち着いて下さいよ…」と弟が兄を宥めていたが、どうにもご立腹だ。

「俺たちを巻き込まないと約束したはずだ!」

「私は別に構わないんですが…」

「いいや!構う!」

「ちょっと頼み事するだけだ。そいつにしかできない事だから仕方ないだろ?」と言うとギルは湖の底みたいな色の瞳で俺を睨んだ。

「俺がドジ踏んだせいでアーサーが捕まっちまったんだよ」

「それは困りましたね」とレオンは穏やかに応じた。

「私は戦に出ると行ったのですが、兄さんが反対したのでお声がかかるのを待ってたんですよ」

「何だよ?あんたはやる気満々じゃないか?」とスーが腕組みしながら言った。レオンは「当然です」と答えた。

「レオン!お前まだそんなこと言って…」

「ウィンザーの危機を黙って見ていろと言うんですか?それではスペンサー様に会わす顔がありません」

レオンはまだウィンザーに拘っていた。スペンサーが守り続けた土地を、新たな侵略者から守りたいと思っているのだろう。

「オークランドがウィンザーを狙っていた事は知っています」と言って彼は強い口調で戦う意思を見せた。

「現状、ウィンザーの民はフィーアを受け入れています。南部侯はウィンザーを寛大に扱ってくれました。しかし、この生活も、オークランドの侵略の戦火が及べば簡単に崩れ去ってしまいます…

それはスペンサー様の望みではありません」

「じゃあ、頼まれてくれるか?」

「その為に来ました」とレオンは頼もしく頷いた。

彼の傍らでギルが苦い表情をしている。彼はもう失いたく無いのだ。

「兄さん、諦めてください」

「…どうしてもか?」

「私はその為に生きてるんです。《デニス》にできなかったことを成すために、《レオン》は戦います」

迷いのない確固たる信念を前に、ギルは口を噤んだ。

「ギル、すまん」とレオンを巻き込んだ事を謝罪した。

「危険な場所には出さない。護衛も付ける。必ず無事に帰すから、少しだけ協力してくれ」

「護衛なんぞ要らん」とギルは苛立たしげに呟いた。

「そんなもの信用できるか。俺がレオンを守る…」

「兄さん?」

「もう失う気は無い」とギルは俺を睨んだ。

「レオンを連れて帰らなかったらアニタが悲しむ。エドガーだってレオンに懐いてるんだ」

「でもお前…」

「勘違いするな!お前のために戦うわけじゃない!俺はレオンを守るだけだ!

こいつを危険に晒したら承知しないからな!」

ギルはそう言ってレオンを睨んだ。

「お前もだ!少しでも危なかったら有無を言わさず連れ帰るからな!」

「…兄さん」 

「何だ?」

「私が居ないと帰れないのは兄さんの方ですよ」とレオンは指摘されてギルが押し黙った。

「何だよ?まだ一人で乗れないのか?」とスーが口を挟んだ。

「まあ、練習はしたんですがね」と黙ってしまったギルの代わりにレオンが答えた。

「どうも《祝福》のせいか、相性が悪いようで…

馬が乗せてくれないんです」

「面倒くさいな…」とスーがボヤいた。

「まぁ、とりあえず、手を貸して貰えるなら助かる。よろしく頼む」

「まずは何からしますか?」と訊ねるレオンは乗り気だ。

地図を用意させて、簡単に戦況を説明した。

「例のオークランドの別働隊はどこからかどうやって揚陸したのか分からないのですか?」

「一応飛竜の斥候や索敵部隊に探させてるが、妨害されて、だいたいこの辺だろうって事しか分からないらしい」

「なるほど。私とエドの出番ですね」

レオンはそう言って服の中から数匹ネズミを取り出した。

「皆、仕事だよ」と言って、レオンはテントの外にネズミを放った。大きいのだけ一匹彼の元に留まった。

「そいつが親分か?」

「エドです。優秀な相棒ですよ。この子は一人で馬にだって乗れます」とふざけたレオンの横でギルが咳払いした。

「誰とは言ってないですよ」と意地悪く言ってレオンは笑った。

「出遅れてしまいましたが、私が有能なことを証明しましょう」と彼は自信たっぷりに宣言した。

全く、ウィンザーの生き残った連中はたくましいな。

✩.*˚

『アイリーン、君も父上を慰めて欲しい』

母の葬儀の際、彼女にそうお願いした。

思えば俺のあの一言が全ての始まりだったのだ…

まさか、あの一言が原因で、父が息子の許婚を愛してしまうなど、誰が想像しただろうか?

『お義父さまの様子がおかしいの…』と彼女から相談されたが、母を失ったばかりで、仕方の無いことだと思っていた。まさかそんな深刻な事だとは思っていなかった。

外から聞こえてくる雨の音は、悪い記憶に浸るのにおあつらえ向きだ。

『アイリーンは私の妻に迎える』

あれは今のところ更新されることの無い、人生で最悪の悪夢だ…

二人で泣いた…

俺はまだ無力な貴族のお坊ちゃまで、彼女の家もその決定を覆すほどの力は無かった。

どうすることもできなかった…

あの時、何もかも失ってでも反対すべきだったのだろう。受け入れてしまった俺の落ち度だ…

あの時諦めなければ、未来は違っていたかもしれない。

「変わりないか?食事は取ったか?」

訪ねてきた父は親らしく俺の身を心配した。

テーブルの代わりに置かれた木箱の上で、熱を失った料理を眺め、父はため息を吐いた。

「捕虜の食事ではありません」と答えた。贅沢な食事でとても捕虜の扱いとは思えなかった。

父は手を伸ばして、俺の顔を隠していた兜を取った。

視界が広くなったが風景は変わらない。気持ちも晴れない。

「食べなさい。食事が無駄になる」と父は静かな口調で食事を勧めた。

気が進まないでいると、父は暗い顔でため息を吐いた。手にしていた兜を料理の並んだ木箱の上に置いた。

「お前も強情だな…」と呟いて、父は私に「何年経った?」と訊ねた。

答えずにいる俺に、父は「もう十六年だぞ」と告げた。

「17歳の誕生日の前にお前は出ていった…

あれから十六年だ…もういいだろう?」

何がいいのだ?

何も解決などしていないのに…

この先永遠に解決することなど無いのに…

「頼む…恨み言でもいい…何か言ってくれ」

悲しい老人の嘆願を無言で跳ね除けた。

「もう…父とは呼んでくれないのか?」と問われ、危うく応えそうになって唇を噛んだ。

《父上》と呼ぶは容易い。しかしそれは許されない事だ…この《溝》を埋めることは、破滅なのだ。俺にできることは、ただひたすら拒絶することだけだ。

「私は《ブルームバルト》のアーサーです」と答えた。

それが目の前の父と、見たことも無い異母弟を守る唯一の手段だ。

「…分かった」と父は残念そうに呟いて、ため息を吐いた。

彼は勝手に話を始めた。

俺が出て行った後の話を、失った時間を埋めるように語った。

「ダニエルは今12歳だ」と異母弟の話を切り出した。

「腰の骨が生まれつき歪んでいた。色んな医者にみせたが、誰も治せなかった…

誰かの手を借りないと少しの段差も上がれない。馬に乗るなんてもってのほかだ…

しかし、勉強はできる。それはお前と同じだな…」

彼はそう言って「顔はアイリーンに少し似てる」と付け足した。それならば美少年だろう、と思った。

「…まだ愛してるのだな…」と父に指摘された。

何やら感情が表に出てしまったようだ。自分は一体どんな顔をしてたのだろう?

「機会があれば引き合わせたい。あの子はお前に憧れていた。是非会ってやってくれ」と言って父は帰る素振りを見せた。

「食べ物は粗末にしないように」と父らしい言葉を残し、彼はテントを後にした。

兜と一緒に残された食事を眺めた。

これを食べることで、少しでも父の気が済むのならと、ナイフとフォークを手に取って食事を口にした。

冷めきった食事は、懐かしいオークランドの味付けだった…

✩.*˚

水かさが増えたから、巣を追い出されたのだろうか?

「今日はやたらネズミを見ますな」とオルセンが呟いた。

「餌の匂いを嗅ぎつけたのかもしれん。糧秣をやられないように気を付けろ」と指示を出し、雨の中、河岸に佇む背に声をかけた。

「団長、濡れます。風邪を引きますよ!」

「うむ!橋が流れないか心配でな!ここで見張っている!」

「馬鹿なんですか?団長まで一緒に流されたら修復不可能ですよ。

流されたり破損したら伝えますから、テントに戻って下さい」

「お!クィン!ネズミが私の橋を渡って行ったぞ!良い事をしてやったようだ!」と能天気な男は、無事に河を越えたネズミを見送って喜んでいる。

馬鹿だな…と思いながら、子供のようにはしゃぐ団長の腕を掴んでテントに連れ帰った。

「おやまぁ…お二人さんずぶ濡れじゃないですか?」と私たちを見てオリヴァーが苦笑いで迎えた。

彼は杖をかざすと「《ドライ》」と簡易魔法を唱えて服を乾かした。

「お二人共、風邪をひいたら困りますからねぇ」と言って、彼は金縁の眼鏡の下で穏やかに笑った。

「この雨のおかげで治療に専念できましたよ」と言いながら、オリヴァーは紙の束を取り出して団長に手渡した。

「治療中だった団員はほぼ回復しました。

残念ながら救えなかった命もありますが…」

「うむ。致し方あるまい。彼らはルフトゥ神のためにその命を捧げたのだ。

手厚く葬ってやろう」

団長はそう言って、目を通した紙の束を彼に返した。

「この雨は恵みの雨だ。

《冬将軍》に逃げ切られたのはマズかったが、こちらとて限界だったからな…」

「誰のせいだと思ってるんですか?」

「全く…あのコンディションで《冬将軍》を退けて、《白蘭の黒騎士》を捕縛できたのは奇跡ですよ…」

「ハッハッハ!」

「どこが笑うところなんです?!」と団長を叱ったが、彼は何処吹く風だ。

「クィン、お前は《冬将軍》に一太刀入れたではないか?《裂破》を食らったのだ、相手もタダではすまんよ」

《裂破》の傷は塞がりにくくなっている。塞がってもまたすぐに傷口が開いてしまう。

ちゃんとした治癒魔導師の治療でなければ、《裂破》の傷は塞がらない。

「雨が上がったら作戦再開だ!」と団長は嬉しそうだ。

「そういえば、本営に引き取られた《白蘭の黒騎士》はどうなさるおつもりですか?」

「む?どうするとは?」

「《背教者》として処断されるおつもりでしょう?でも、あの《祝福》じゃ処分も難しいですよ」

「確かに…魔力を遮断する手枷を付けても彼の《祝福》は消えませんでしたからね…不思議な《祝福》だ」とオリヴァーも顎に手を当てて考える素振りを見せた。

「まあ、《祝福》だからな。稀に枷が意味をなさない存在も居るとは聞いたことがある。

あの枷は人間の作ったものだからな。

《祝福》は神の領域だ。何があっても不思議はないさ」と団長はそう言って片付けた。

「まぁ、親子の時間をしばし作ってやっても良かろう。もし、信仰に立ち返り、また神の名のもとに戦うというなら、今までの彼の功績に免じて寛大になるべきだ」

団長はそう言って、首から提げた丸十字架を手にして握った。

「一人でも多く救われる事はシェリル様の望みでもある」と彼は呟いた。

またシェリル様か…

養母はあんたを神に捧げたのだろう?よくそれでまだ彼女を母として愛せるものだ…

「私は教会の決定に従うだけです」と答えてその場を離れた。

マントを傘の代わりにして、自分のテントへと向かった。

本当は神などどうでもいいのだ…

フィーア人を殺せるのなら…自分はそれだけでいいのだ…

✩.*˚

「クィンはどうしたのだ?」と団長は出て行った副団長を気にしていた。

「彼には彼の悩みがあるのですよ」と答えを濁した。

彼は、元ウィンザー公国の大公家の出身だ。

継承順位四位だった彼は、幼い頃にオークランドの人質として、ルフトゥキャピタル大聖堂に預けられた。

ジョージ・エドワード・ウィンザー・クィン卿が正式な彼の名だ。

私は彼がルフトゥ正教会に預けられた頃からのお目付け役だ。

皮肉にも、彼の不幸な生い立ちが、彼を最後のウィンザー公に指名した。

たった14歳で彼は母国と家族を全て失った。

彼は自分自身を《呪われてる》と形容していたが、それを否定する気にはならなかった。確かに彼は呪われているのだろう…

そうでなければ、こんなに美しい青年が、復讐に生涯を捧げる必要などなかったはずだ…

彼は母国が亡び、大公家が滅亡した後も自由にはなれなかった。今でも監視され、利用されるために生かされている。

オークランド国王から《還俗けんぞく》を承認されれば、正式に大公を継ぐことができるが、政治的な理由でそれはできなかった。

本来なら戦争に出るべき人間ではないが、《祝福》を持つ彼は、今回特別に騎士団の副団長として出征を許された。

『一人でも多く殺す』と宣言した彼の目は怒りと憎しみで濁っていた。

長く溜め込んだ負の感情は、美しかった青年の心を悲しい化け物に変えてしまった。

神でも彼を救えないだろう…

降り止まない雨にため息が漏れる。

雷に怯え、震えてた少年を宥めていたのを思い出す…

あの頃は可愛かったんですがねぇ…

本人にそんな事を言ったら怒るに決まってる。これは私の胸の中に仕舞っておくべき話だ。

「雨はいつ止む?」と団長が私に訊ねた。

「さあて…私には分かりかねますね」と答えて書類を見るための眼鏡を外した。

誠に不名誉なことに、歳のせいか目の衰えを感じていた。

あとどのくらい、彼を見守っている事が出来るだろうか?

私が見守り続けた彼の物語が、大団円で幕閉じることを期待していた。

✩.*˚

「おお!婿殿!元気そうではないか!心配して損したぞ!」

久しぶりの爆音に耳がキーンとなる。

当の本人はご機嫌そうに「ワッハッハー!」と笑っていたが、リューデル節を初めて食らった二人は固まっていた。

「ん?知らん顔だな!」

「は、はあ…ブルームバルトから呼び寄せたエインズワース兄弟です」

「おう!聞いてるぞ!鍛冶屋のエインズワースだろう?!

あそこの親父も息子もいい腕をしてる!」

「ご存知で?」

「兄上の献上品に美しい剣があった!誰の作か訊ねたら《エインズワース》の名前が出た。

私にも一振打ってくれぬか?言い値で買おう!」

「…だ、そうだ」とギルをチラリと見ると嫌な顔をしてる。

お前な…伯爵相手にその顔は無かろう…?

「まあ、それはさておき!失くした剣の代わりでも届けてもらったのか?

雨が上がる前に軍議をするからな!後ほど迎えを寄越すゆえ、婿殿も本営に参られよ!」と言い残して彼は嵐のように去って行った。

「…失くした…?」伯爵を見送った俺の背中に、ゾッとする声が響いた。

「折れたとかじゃなく?…失くした?」テントの中の温度が急激に上がる。

「ち、ちがっ!ある!ちゃんと戻って来たって!」とギルに剣を見せたが、彼は腕を組んで傭兵の頃のような顔で俺を睨んでいた。

「失くしたんだな…」

「いや…まぁ、うん…

《祝福》の攻撃を防いだ時に弾き飛ばされて、拾う暇がなかったんだ…すまん…

なんかよく分からんが、カーティスが拾って届けてくれた」

「見せろ」と言って彼は俺の手から剣を取り上げた。

鞘から抜いて刀身を確認する。

「刃はある。曲がってないし、錆もない。柄も問題なさそうだ…」

仕事熱心な奴だ。

一頻り剣を確認して、問題なかったのだろう。そのまま俺に突き返した。

「失くすなよ」

「分かってるよ、悪かったって…」とギルに謝って剣を受け取った。

「暑い…」とテントの隅でスーがボヤいた。リューデル伯爵に絡まれないように隠れてたが暑くて出てきたようだ。

俺の《祝福》でテントの熱気を冷ましたか、今度は「寒っ!」と苦情が出た。

「君らと一緒に居ると身体がおかしくなりそうだ…」

「悪かったな!調節下手くそで!」とスーに八つ当たりした。

そのやり取りに、レオンが苦笑いしていた。

「外は雨ですからね、風邪引いたら…おや?」

不意になにかに気付いて、彼はテントの入口に足を運んだ。

「おかえり」とずぶ濡れの小さな獣をテントに招き入れた。ネズミはプルプルと身体を震わせて毛繕いを始めた。

ネズミを拾い上げて、レオンが「朗報です」と笑顔を見せた。

「橋が見つかりましたよ」と彼はネズミの仕事を伝えた。

「…橋?」

「ええ。橋だそうですよ。この増水した川の水でも流されないところを見ると、かなり丈夫でしょうね…

どうやって造ったのかはわかりませんが、ここより5キロ程下流の川幅が狭くなる所のようですね」

「他には?」とスーが訊ねるとチョロチョロと他のネズミも帰ってきた。

寒そうに仲間で団子になりながら、ネズミたちはせっせと身体を乾かしていた。

「橋があったから向こう側に渡れたようですよ。

よく頑張ったね」働きを労って、レオンは濡れたままのネズミたちを服の中に招いた。

「結論から言うと、アーサーはどこにいるか分からなかったようです。

ただ、厚遇されてる捕虜がいるようです」

「何でそんなこと分かる?」

「兵士が噂してたようですよ。

本営近くのテントに隔離されているそうです。見張りがいて、良い食事を宛てがわれているそうですが、顔は誰も見てないそうです。

頻繁に誰かが出入りしてるそうですね」

「詳しく調べることはできるか?ネズミは人の顔分かるのか?」

スーの質問にレオンは誇らしげに答えた。

「顔を覚える事はできますよ。

特定の人間を指定して見張らせることもできます」

「便利だな…」そりゃスペンサーもこの男を重宝するだろうな…

「手紙は運べるか?」

「小さなものなら可能です。

頬袋に入れれるものであれば届けられます」

「…一か八かでそのテントを当たってみるか?」とスーに視線を向けた。

スーも頷いて応えた。

「レオン、頼めるか?」

「もちろん、お易い御用です」

「ワルター、アーサーはレオンの能力知ってるのか?」

「いや、知らないはずだが、あいつは機転が利く。俺のサインを見たらすぐに気付くはずだ」

アーサーは馬鹿じゃない。なんなら頭の作りはヨナタンといい勝負だと思う。

それなら俺の無茶ぶりでも応えられるはずだ。

「まずはアーサーが無事かを確認しないとな」と言って紙とペンを用意した。

紙の端をちぎって短い手紙を用意した。

両端に《YES》と《NO》を書いて真ん中に質問を書いた。

「なるほど、答えを預かってくれば良いんですね?」レオンが即座に理解してネズミに伝えた。

二つ質問を用意してネズミに預けた。あまり多くなってもいけない。

「頼んだぞ」とネズミを送り出した。

頬袋に手紙を詰め込んだネズミが、少し緩くなった雨の中走って行った。無事に届けばいいが…

「大丈夫です。エドの子供たちは優秀ですよ」とレオンが笑って見せた。

「さて、他の子たちにも働いてもらいましょう。

私たちは優秀ですよ」

レオンは自信ありげだ。

「ありがとうよ、レオン」

「私を雇うと高くつきますよ。なんせお金で買えないものを欲しがりますからね」と言って彼は欲しいものを口にした。

「ウィンザーの民が平和に暮らすこと…それが私への報酬です」

彼はまだウィンザーのために戦っているのだ。

「それは俺も望むことだ」と彼への報酬を約束した。
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