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花の便り
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「やぁ、古き友よ」
珍しく来客があった。
私を《友》と呼ぶ彼は、人の姿ではあるが、人ではない。
スーが旅立ってから、どれくらい経ったのか分からないが、息子が出ていったのさえ、つい昨日のような、それでいて遠い日のような感覚でいる。
目の前の友人が、いつ振りに訪ねてくれたのかさえよく分からなかった。
彼は古い友人であり、数少ない話し相手になってくれる存在だ。
「お久しぶりですね、ルシフェル様。
いや、今はグランス様でしたね」
「あぁ、懐かしい名を聞いたね。
もうその名を知る者は、神以外では君ぐらいのものだよ」
龍神ヴォルガと血を分けた最後のドラゴンは、人の姿のまま笑った。彼も随分年老いた。その姿に長い年月を感じた。
彼はアーケイイックの森という、大きな家の管理人として《王》と名乗り、人間から《魔王》と恐れられる存在だ。
「グランス様」と彼の新しい名を呼んだ。
「貴方が羨ましい…王国には貴方を慕う、貴方の民が大勢いるのでしょう?
私は、また一人になってしまいましたよ…」と久しく会う友に、悲しい愚痴をこぼしてしまった。
「おや?奥方とご子息はどうしたのかね?」
「妻は亡くなりました…
息子は…」と言いかけてその続きを言えなかった。
妻を失った時も流れなかった涙が零れた。
「私は…《希望》を失いました…」
《希望》にも見放され、悲しみに暮れるだけで時間が過ぎた。
今、あの子が何処で何をしてるのかも分からない。
ただ、ここで誰かがこうやって現れるのを、待つことしかできないのだ。
《世界を見守る者》。
《平和の使者》が現れるまで、ここで待つように仰せつかって、一体どれほどの時間が過ぎたのだろう?
私を自由にする《使者》とやらは、未だ私の元に訪れてはくれなかった。
「君は《見守る者》として、最も長くその役目を担ってくれた。感謝している」と友は告げて、私に悲しい知らせを寄越した。
「今回も《異邦人》は《平和の使者》ではなかったよ」
《異邦人》とは異世界から約150年の冷却期間を置いて召喚される、人々が《勇者》と呼ぶ存在だ。
いつから《勇者》と呼ばれるようになったのかは定かでないが、《異邦人》はその役目を大きく変えてしまった。
人の欲が存在を歪めた。
本来は、神と人の中立の立場として、調整役を担うはずの《異邦人》は、人の欲によってその役目を変異させてしまった。
伝聞とは時に、感情や欲によって伝えるべき内容を変えてしまうことがある。
最初の者と最後の者では、話は全く違う物となってしまうのだ。
「そうでしたか…」と静かに答えて俯いた。
ヴォルガ様から与えられたこの空間には、十二人の《世界を見守る者》が存在していた。
ここから一人減り、二人減り…私が最後の一人だ。
私が待つのは《平和の使者》を担う《異邦人》だ。
その人物が訪れるまで、私はここから動くことも死ぬことも出来ない。
「次を待つのは辛いかね?」とグランス様は私に訊ねた。
「少しだけ」と答えた。
「孤独ですから」と口から出た言葉はさらに自分を傷つけた。
「実は」とグランス様は言いにくそうに口を開いた。
「先日、《異邦人》を見送ってから、アーケイイックを新たな王に託したのだ」と彼は驚きの報告をした。
「それは…今度はどなたに?」
「かつて人々に大賢者と呼ばれた《不死者》だ。
人の頃の名を《アンバー・ワイズマン》という。実に面白い男さ」と彼は笑った。
「それは…随分思い切った人選ですね」
「世界がその姿を変えようとしている。アーケイイックも変わらねばならぬ」と彼は呟き、言葉を続けた。
「人間から《神紋の英雄》が現れた」
《冬の王》と《太陽の翼獅子》がそれぞれ《英雄》を選んだのだと精霊たちから聞いていた。
何故、今なのか?何が起因したのかは分からないが、《祝福》を昇華した者だけがたどり着く領域に、同時に二人が加わるなど前代未聞だ。
「我々の時代も終わる日は近いな」とグランス様は寂しげに微笑んで、「ここに来るのは最後だ」と仰った。
それは彼自身の、地上での命が終わりに近づいたことを意味していた。
「ここに来るには《凪》と《嵐》の剣が必要だ。
この二振りは必ず信頼出来る者に託す」
「その方は、どれくらい待てば現れますか?」とグランス様に訊ねた。また一人、知り合いが去ってしまう。孤独が一層強くなる。
「運命であればすぐに…運命でなければ遠くなるだろう」と曖昧に答えた最後の友は、最後に私に「何か願いはないか?」と訊ねた。
「もし、私の子が帰り道を失っていたら、必ず手を差し伸べてやってくれませんか?」
「お安い御用だ」と彼は約束してくれた。
「以前君の子にお目にかかった時はまだ赤ん坊だった」とグランス様は目を細めた。
そうか、以前に彼に会ってからそれだけの時が過ぎたのか…
「《スペース》は妻と同じ、紫の瞳と黒髪で、顔は私によく似ております」と、外に行き来できる、私の最後の友人に愛する我が子を託した。
✩.*˚
本当に、毎度毎度、いきなり現れるのはどうにかならんのか?あんた貴族のくせにフットワーク軽すぎだろう?!
「卿は…なんと言うか…」
相手は俺の姿を見て絶句した。
僅かな供しか連れずに現れたパウル公子は、俺の成りを上から下まで眺めて、珍しく眉をひそめた。
髪も目の色も変わり、おかしな模様が刻まれた身体もそうだが、恐らく言いたいのはそれじゃない。
今日一日、この戦で死んだ奴らの死体の回収と、収容するための墓を掘る手伝いをしてたので、泥や死体から染み出た汁や自分の汗で全身汚れて酷い有様だ。
「働き者なのは良い事だが、これでは話にならん。
体を洗って着替えてくれ、私の着替えを下賜しよう」
「侯爵閣下、それは…」と近くに控えていた近侍たちが声を上げた。そりゃそうだ、俺だってそうする。
「《英雄》がこれでは格好がつかん。ましてや娘婿だ。問題あるまい」と周りを黙らせたが、そういう問題ではない。
「着替えなら持ってます。少々お時間を頂戴しても…」
「私のお下がりでは不服かね?」
パウル公子はそう言って俺も黙らせた。
「卿とは今後の話をしたいのでな」と公子は俺を本営に招いた。
全く、本営に連れていかれるのは嫌な事しかない…
後をフリッツに任せて、大人しく従った。
貴人用の天幕に通されると、パウル公子の侍女たちが待っていた。
「お清め致します」と言う彼女らに、「自分でする」と断ったが、上品な別嬪さん揃いの割に容赦がない…
速攻で身ぐるみ剥がれて洗われた。
「素敵な御髪ですわ」「神々しい」などと世辞を言いながら香り高い石鹸で身体を隅々まで洗われた。
男として嬉しい気持ちと、この悪趣味な貴族の嗜好に付き合わされて、うんざりした気分で複雑な心持ちだ。
無精髭はキレイに剃られ、髪は精油で整えられた。トドメに香水までかけられた。
貴族の衣装は手間だ。これにも辟易した。
窮屈でかっちりとした衣装が気に入らない。
襟元を緩めようとスカーフに手を伸ばしたが、微笑んだ美女がそれを止めた。
「ご辛抱下さいませ」と言われ渋々手を引いた。
貴族や騎士ってのはこんなに窮屈なのか?
こんな生活耐えられないぞ!
内心そんなことを喚きながら、眉を寄せるだけで我慢した。
「煙草は?」
「ご辛抱下さい」
「吸わないから、煙草入れだけ返してくれ。大事なもんなんだ」安っぽい、どこにでもあるような煙草入れだが、エマがくれた物だった。少しガタが来てたが、まだ使えると使い続けていた。
服は捨てられても良いが、あれだけは困る。
「お帰りの際にお返し致します」と微笑みを浮かべて侍女は答えた。
俺もいい歳したおっさんだ。駄々をこねる訳にもいかず渋々従った。
侍女に案内され、通されたパウル公子のテントにはシュミットとレプシウス師の姿もあった。
シュミットも矢傷を負ったとの事だったが割と元気そうだった。タフな奴だ。
パウル公子は俺の姿を見て満足気に笑った。
「よく似合っている」
恐らく社交辞令だろうが、一礼してお礼申し上げた。
「このような高価なお召し物を賜り、ありがとうございます、閣下」
「卿は元は悪くないのだ。磨き甲斐がある」
そう言って、ご機嫌なパウル様は握手を求めて手を差し出した。
「挨拶が遅れて失礼した。
我が兵士らの盾と剣として、勇敢に戦ってくれた卿らに《ヴェルフェル侯爵》として礼を言う」
「…侯爵?」先日まで肩書きは公子だったはずだ。
「うむ。先日、父上の逝去により、嫡子である私が跡目を継いだ。
現在、国王陛下に代わり、フィーア南部を統括する最高責任者は私だ」
「それは…大変失礼致しました」
「よい。卿が知らぬのも無理はない。私ですら南部侯を継いだことが未だ信じられぬ」
パウル様はそう言って複雑な表情を浮かべた。
自由な気風な貴公子は、少し落ちついた印象に変わっていた。
「父上は最後まで良き父であり、最良の侯爵であった。
私も父上に倣い、良き父として、尊敬に足る侯爵として励むつもりだ」
そう言ってパウル様は俺の手を取って「私には卿がどうしても必要だ」と真面目な面持ちで語った。
「我が国は、ウィンザー公国が滅んだ事で、オークランド王国との緩衝地を失った。
致し方ない選択だったとはいえ、この代償は大きい。
オークランドは現在、継承争いで国が二分するほどの内戦の最中だが、それが終われば、必ず我が国にその矛先を向ける。
私には卿のような優秀な人材が必要なのだ」
「俺は一傭兵です」
「そうだったな。しかし、そう名乗るのも無理があるようだ」パウル様はそう言ってレプシウス師に「そうだな?」と声をかけた。
レプシウス師は一礼して「恐れながら」と進み出た。
「クルーガー殿、貴方は《神紋》をご存知でしょうか?」と、レプシウス師は唐突に質問を投げかけた。
「はあ?聞いたことありませんが…何です?」
「貴方の全身に出た奇跡を《神紋》と呼ぶのです。
それを持った《英雄》は必ず神に近しい存在に会い、《祝福》を昇華させております。
《祝福》を擁する者の達する最高の到達点。それが《神紋の英雄》です」
「…はぁ?それは…どういうことです?」
「つまるところ、私は卿をドライファッハに帰すつもりは無いということだ。
卿には是が非にも、テレーゼを伴侶に、私の手元に残ってもらう」
目眩がした。襟元が苦しいからじゃない。
あの鹿!余計なことを!
「おめでとうございます、クルーガー殿」とシュミットは笑顔で祝辞を述べたが、俺にとっては全然めでたくない!
「…で、でも…お嬢様はまだ13でしょう?
いくらなんでも…」
「何か問題でも?」と言うパウル様の返答に言葉を失う。
13歳の嫁を貰ったところでどうしろってんだ?!
そんな子供に毛が生えた程度の小娘を抱けるわけない!
しかも、その辺の町娘を貰うようにとはいかない。なんたってお嬢様だ!俺とは住む次元が違う!
それに、何よりテレーゼ嬢の気持ちは容易に想像できた。先日見た、怯える少女の姿が忘れられない…
「結婚は…お断り致します」気がつけばそう口にしていた。
パウル様は驚いた様子だったが、もう口に出した以上後には引けない。俺の悪い癖が出た…
「確かに美人ですが、まだ子供でしょう?
こんな父親ほど離れた冴えない男が相手じゃ…お嬢様が可哀想だ…」
「卿は謙遜が過ぎる。《英雄》になったのだ。この際年齢や外見などは関係ない。《英雄》の妻となる名誉を拒む娘などおらんよ」
そりゃ、あんたが結婚するわけじゃないからそう言えるんだ!少しぐらい、娘の気持ちを考えろ!
身勝手な父親の姿に怒りを覚えた。
「俺は!」と語気が荒くなるのを止められない。ダメだとは分かっているが、言葉を選べなくなった。
「《祝福》も《英雄》も《騎士》も、どれも欲しいなんて望んだ事はねぇんだ!
こんな志も低くて、冴えないおっさんに、あんな可愛い娘を無理やり結婚させる道理なんて無いはずだ!
あんたはもっと娘を大事にしてやってくれよ!
あの子だって、俺なんか絶対に嫌に決まっている!」
子供は親を選べない…
でも、好きになる相手くらいは、自分で選んでも良いだろう?
あの少女が俺を選ぶ事など絶対に無い。断じてありえない!
「俺は結婚なんて向かない男だ…」本音を口にした。
あれだけ愛してたエマと結婚するのだって、ズルズルと先延ばしにしていた。
俺は産まれる事すら望まれなかった男だ。
家庭なんて想像出来ない。
ましてや、押し付けられたものを愛せるとは思わなかった。それは親父を見て知っていた…
あんな不幸を背負うくらいなら、自由な独り身で、寂しく死ぬほうが気が楽だ…
嘆く女とは暮らせない…母を思い出すから…
言いたいこと言ったら、怒りは頭から消えたが、今度は現実に戻って血の気が引いた。
さすがに不敬だった…
パウル様は黙り込んだまま、身動ぎもせずに俺を見ていた。呆れてものも言えないのだろう。
テントの中が嫌な沈黙で重くなる。
しかし、口を開いたパウル様の言葉は意外なものだった。
「…分かった。一方的に押し付けるのは良くないな…」
叱責されるものと思っていた俺は、妙に物分りの良いパウル様の言葉に毒気を抜かれた。
「私は父としてテレーゼの気持ちを汲むべきなのだろうな…
どうやら事を急いたようだ。すまなかった、クルーガー」と反省を口にして、彼は珍しく肩を落としていた。
「確かに結婚は人生を左右する大事だ。
お互いの気持ちも大切だろう。卿はやはり良い男だ」
パウル様はそう言って俺の肩を叩くと、シュミットに視線を向けて「あれを用意してくれ」と指示を出した。
シュミットが黒塗りの文箱のような箱をパウル様に手渡した。
パウル様は、「テレーゼから預かったものだ」と言って箱の蓋を取った。中には光沢のある紫の繻子に包まれた手袋と手紙があった。
「卿に渡したかった物だ。
手袋は、卿が《騎士》になるのに必要だからとテレーゼに用意させたが、手紙はあの子が自分から用意した」
恨み言でも綴られてるんじゃないかと、嫌な考えが過ぎる。手を伸ばすのを躊躇していると、パウル様は少し笑って箱を俺に握らせた。
「私は手紙には一切関与していない。検閲などという野暮な真似もしていないから安心したまえ」
「…頂戴します」
「うむ」と鷹揚に頷いてパウル様はいつもの調子を取り戻した。
「もし、テレーゼが返事を望んでいるなら応じてやってくれ。
私がこんなことを言うのもおかしな話だが、あの子は頼る相手が少ない孤独な身の上だ。
短い手紙でも喜ぶだろう」
パウル様は珍しく父親らしいことを口にした。
「母方の親族は?」と訊ねた。なぜか妙に彼女の身の上が気になってしまった。
「テレーゼはロンメル家の最後の一人だ」というパウル様の答えに不覚にも同情した。
「ロンメルは勇敢な騎士の家系だが、勇敢さが仇になった。
母親もあの子が幼い頃に結核で亡くなっている。
後見人として面倒を見ていたヘルゲン子爵も亡くなった。新しい後見人を探さねばならん」
あの小さなお姫様は随分苦労しているみたいだ。
それなら尚のこと、俺なんかじゃ相手にならない。もっとちゃんとした家の、いい相手を探してやるべきだろう。
パウル様は俺を食事に誘い、気の乗らない話を一旦打ち切った。
「お預かり致します」と歩み寄ったシュミットにまた文箱が渡る。
「テレーゼ様は良い姫ですよ」と彼はお節介にも余計な一言を口にした。
睨む俺に、人の良さそうな男は肩を竦めて笑った。
「似合いだと思ったのですがね」
「そんなわけねぇだろ」と一蹴するが、シュミットは気にした様子もなく、またお節介を口にした。
「《鬼》と《姫》なら合わないでしょうが、《氷》と《白鳥》はお似合いですよ」
「全然上手くねぇからな」
「おや、ダメでしたかね?」
ふふっと笑いながらシュミットは文箱を大事に抱えた。
「まぁ、まずはお手紙から始めたら良いでは無いですか?
私も妻とよく手紙をやり取りしたものです。
文のやり取りは楽しいものですよ」とシュミットは手紙を勧めた。
「あんた案外マメな男だな」
「それで意中の相手を射止めましたので」
「へえ」
「今でも手紙は欠かしませんよ」と彼は恥ずかしげもなく惚気けて見せた。
シュミットに預けた文箱に視線を向けた。
手紙は俺への恨み言か?それとも、返事を待つ内容なのだろうか?
開けて見なきゃ分からないが、とりあえず目を通すくらいの気にはなった。
勝手に俺の身の上と重ねて少女に同情していた。
「必要なら返事くらい書くよ」と渋々答えると、シュミットは嬉しそうに俺に礼を言った。
何でお前が嬉しそうなんだよ?
俺の疑問を他所に、シュミットは「親友と主人の墓に良い報告ができます」と呟いて、心做しか寂しそうな笑顔を見せた。
その意味を確認するまえに、パウル様の侍女が現れて夕餉の用意が出来たと知らせた。
赤ん坊でも抱くように、大切に文箱を預かるシュミットをその場に残して、テントを後にした。
✩.*˚
「ワルターは?」
彼の姿が見当たらないので、一緒にいたはずのフリッツに訊ねた。
「日が落ちる前に、偉い人に本営に連れていかれた」とフリッツは煙草を吸いながら答えた。
「それって大丈夫なの?」嫌な記憶が蘇る。
僕の不安を払拭するように、フリッツは笑った。
「大丈夫さ、今回は手枷は無しだ」
「誰か一緒なの?」
「いや、一人だ」
「どうしてウェリンガーも連れていかないのさ!《新衛兵》ってそういう時のためのものじゃないの?」
「ワルターは自覚がないからな…」とフリッツは笑っていたが心配じゃないんだろうか?
「あいつは俺の届かないところに行っちまうな…」と彼は寂しそうに呟いた。
「何で?」
「偉くなっちまうからさ」とフリッツは僕に答えた。
彼は煙草の煙を吐き出して、昔話を始めた。
僕の知らないワルターは酷い苦労人だった。
エマの事も教えてくれた。彼女の話をするフリッツは辛そうだった。
「ワルターは…あいつは随分苦労したんだ。やっと報われるんだから喜んで送ってやるべきなんだろうな…」
「何で?お別れする事なんてないじゃないか?」
「俺はドライファッハに戻らにゃならん。
団長には随分世話になったし、もうエマを一人にするのは可哀想だ」
彼はそう言って僕に「ワルターを頼む」と彼を託した。
「お前はドライファッハに戻る理由もないだろう?
それならワルターと一緒に残ってやってくれ。
エルマーは…どうするか分からんが、あいつもお前が残るなら残るんじゃないか?」
「ヨナタンとソーリューは?」
「さぁな…みんな自由に決めるさ」
「君とお別れするのは嫌だ」
「ありがとよ」とフリッツは大きな手で僕の頭を撫でた。
初めて出会った時は怖い人かと思ったが、彼は仲間思いの頼りになる良い人だった。
世話焼きで、ちょっと不器用で、優しい人だ。だから彼は団長の所に帰るんだろう…
「心配するな、まだ先の話だ」と彼は僕を慰めた。
「何してんだよ?」エルマーがふらっと現れた。
「ちょっと話してただけだ」とフリッツは答えた。
エルマーは僕の顔を覗き込んで「どうした?」と尋ねた。
「何だ?フリッツに何か言われたのか?」エルマーは相変わらず僕を気遣って甘やかした。
「違うよ」
「あいつが何かしたってなら俺に言いつけて良いんだぜ。
俺の方があいつより強いんだからよ」
「聞き捨てならねぇな。悪者扱いなら文句はないが、お前より弱いってぇのは黙っちゃいねぇぞ!」
「無理すんなよ、怪我人」はん、とフリッツを鼻で笑ってエルマーが挑発した。
「馬鹿にすんな!こんなの怪我のうちに入らねえよ!」とフリッツが吠えて得物を握る。
その姿を見て、「仲良しだなぁ」と僕が言うと、二人は嫌そうな顔で「どこが!」と声を合わせた。
「息もピッタリだ」と笑うと、エルマーは安心したように表情を緩めた。タレ目が優しく笑った。
「なんの話ししてたのか知らないけどよ、もう飯の時間だぜ。腹減ったろ?」
「うん」と頷いてフリッツにも「行こう」と声をかけた。彼はハルバードを杖にして立ち上がった。
「治療しようか?」と訊ねると、彼は笑って断った。
「いや。すぐに治るようなかすり傷だ。手当した奴が大袈裟だっただけさ」
「そうだぜ、スー。お前が気にしてやるほどの事じゃねぇよ。そいつなら唾付けておいたら明日には治ってるぜ」
「お前って本当に分かりやすいな…」とフリッツがボヤいた。
意地悪く言うのは仲が良いからだ。
このまま、みんなで変わらずに居れたら良いのに…
そんな事を思いながら二人の顔を見上げた。
相変わらず悪態を吐きながら、彼らは足並みを揃えて食事に向かった。
あぁ…やっぱり仲良しじゃないか…
そう思いながら僕も彼らと肩を並べた。
✩.*˚
「ハンス!」
クルーガー殿を宿営にお送りした私の姿を見つけて、スーが駆け寄ってきた。
私が供している相手が誰か分かって驚いたようだ。
「…ワルター?」
「分かりやすい反応ありがとうよ…」
「え?その服どうしたの?それに何かいい匂いする…」
「侯爵様とお話がありましたので、お召し換え頂きました」
「別人だね」とスーが笑うのでクルーガー殿は苛立たしげに髪を手で掻き回し、スカーフを取り払った。
「何すんのさ、せっかく格好良いのに」
「バカにしてんだろ!どうせ似合わねえよ!」
「何怒ってんのさ?」スーが幼い子供のように首を傾げた。
機嫌の悪いクルーガー殿は脱ぎ捨てた上着を乱暴にスーに押し付けた。
「あぁ!窮屈だった!」自由になった肩を回しながら、そう言う姿に笑いを禁じ得ない。素の姿を見せる彼は私を信頼してくれているようだった。
「お疲れ様でした」と差し出した文箱を受け取ったクルーガー殿は「つまらないこと言うなよ」と私に口止めした。
「何?」と首を傾げるスーに「大人の話だよ」と答えた。スーは腑に落ちないとでも言いたそうな顔で抗議の声をあげた。
「ずるいよ、僕の方が年上…」
「バカ!黙ってろ!」クルーガー殿が慌てて子供の口を塞いだ。手から文箱が滑り落ちて蓋が外れた。
慌てて文箱を拾って返すが、中身は見えてしまったようだ。
「手紙?手袋?」とスーは私とクルーガー殿の顔を交互に見た。目には好奇心の色が浮かんでいた。
「何でもない!」
「じゃあ何で隠すのさ?」
「もう!お前エルマーのところにでも行ってろ!」
「エルマー呼んでくるの?」
「呼ぶな!余計ややこしい!」
その仲の良い親子のようなやり取りが微笑ましい。
私の子供たちも、もう少し大きくなったらこんなふうになるのだろう。楽しみだ。
彼らを見ていて、さらに別の思いが脳裏を過ぎった。
クルーガー殿が閣下の直臣となったら、彼らはどうなるのだろうか?残るのか?それとも去るのだろうか?
「ハンス、君も来てよ。みんな喜ぶよ」とスーが私を仲間のところに誘った。
私を仲間のように扱ってくれるのが嬉しかった。
スーの顔を見ていると、懐かしい友の姿を思い出す。
『ハンス!飲みに行くぞ!』
美しい顔に似合わず、豪快なディートリッヒに連れ回された日々が懐かしい。
「ありがとう、スー。でも、もう戻らなければならないから、また今度邪魔するよ」と誘いをやんわりと断って約束した。
去っていた者を懐かしむには、まだ私は若いはずだ…
もう少し歳をとってからでも変わらないだろう。
「おやすみなさい」と挨拶して、彼らの宿営を後にした。
未来を作るために、私もまだできることがある。
親友と主に託された未来のために、私は顔を上げて自分のなすべき務めに向き合った。
✩.*˚
うるさいスーをエルマーのテントに放り込んで、自分のテントに戻った。
全く…あの何でも首を突っ込みたがる、子供みたいなところは何とかならんものか…
ランプの灯りの下で手紙を眺めた。
淡い薔薇色の封筒は、顔に近付けると微かに花の香りがした。
封筒を眺めるだけで時間が経って、どこからか入り込んだ蛾がランプの周りをぐるぐると回った。
灯りを時々遮る姿が、二の足を踏む俺に、早く手紙を読めと急かしているように見えた。
忙しなく羽ばたく蛾が鬱陶しくて外に追い出した。
封筒を手に取って封を切るまでに無駄に時間を食ってしまっていた。
開けようと決めてから煙草を六本分灰にした。
いい歳したおっさんが情けない…
こんな手紙を一通まともに向き合えない、甲斐性なしだ…
七本目を口にして、意を決して封を開いた。
口を開いた封筒から、何かが転がり落ちた。
拾ってみると、子供の玩具のような小さなコインには両面に同じ意匠で鳥と文字が刻まれていた。
コインの意味がわからず、指で弾いて弄ってから封筒に戻した。
封筒から入れ替わりのように便箋を取り出して開いた。また花の香りが強くなった。
花染めの便箋だろう。非常に高価なものだ。
せっかくの便箋が無駄になってしまうので、煙草の火を消した。
ライラックの香りのする便箋に、あぁ、やっぱりお嬢様だな、と距離を感じた。
便箋には見慣れない、細やかな女の文字が並んでいる。ヨナタンとは別の意味で読みやすい字からは、彼女の育ちの良さが滲んでいた。
手紙をランプの明かりに当て、視線を這わせた。
『クルーガー様』とむず痒い呼び方に居心地が悪くなる。読み進めると、彼女の手紙は謝罪から始まっていた。
初めて会った時の失礼を許して欲しいとあった。
そんなの、当たり前だろう?あんたなんにも悪くないんだよ。
ガキなのにあんたは頑張ってたよ…
手紙まで書いて、父親のワガママに無理して付き合ってるじゃないか?健気だな。
そう考えると俺ってダサいな…
子供に気ぃ使われてるよ…
手紙を読み進めながら苦笑いした。
彼女は文通相手を求めるように、自己紹介を綴り、俺に返事を求めた。
手紙の締めくくりに、『騎士だった伯父様から頂戴したお守りを預けます』とコインの説明があった。
『表の鳥に願い事を託して投げてください。必ず吉報の鳥が出ます』
なるほど、ズルいな、両方表じゃないか?
子供のような願掛けに少しだけ笑った。
文箱に入ったもうひとつの贈り物を手にした。
乗馬用の騎士の手袋には、金糸の丁寧な刺繍が施されている。
指を通すと、馴染んでいない皮の手袋はまだ硬く、指を拒むように動きを制限した。
何度も握って皮を馴染ませるうちに、意匠が偏っているのに気が付いた。
外して、燕の意匠を眺めると、見ようによっては燕たちはそっぽを向いているように見える。
こちらの方が本心なのかな?と思ったが、その子供のような発想が必死で可愛く感じた。
でもな、お姫様。
これ見方によっては番になるんだぜ。
小指を合わせて見ると、金と銀の糸で綴られた小鳥は仲睦まじく向かい合った。
これを見せたら驚いた顔をするのかな?と思って笑った。
子供ってのは、このくらい抜けてる方が可愛いな。
背伸びする少女に手紙を返す為、ランプの明かりの下でペンを手に取った。
珍しく来客があった。
私を《友》と呼ぶ彼は、人の姿ではあるが、人ではない。
スーが旅立ってから、どれくらい経ったのか分からないが、息子が出ていったのさえ、つい昨日のような、それでいて遠い日のような感覚でいる。
目の前の友人が、いつ振りに訪ねてくれたのかさえよく分からなかった。
彼は古い友人であり、数少ない話し相手になってくれる存在だ。
「お久しぶりですね、ルシフェル様。
いや、今はグランス様でしたね」
「あぁ、懐かしい名を聞いたね。
もうその名を知る者は、神以外では君ぐらいのものだよ」
龍神ヴォルガと血を分けた最後のドラゴンは、人の姿のまま笑った。彼も随分年老いた。その姿に長い年月を感じた。
彼はアーケイイックの森という、大きな家の管理人として《王》と名乗り、人間から《魔王》と恐れられる存在だ。
「グランス様」と彼の新しい名を呼んだ。
「貴方が羨ましい…王国には貴方を慕う、貴方の民が大勢いるのでしょう?
私は、また一人になってしまいましたよ…」と久しく会う友に、悲しい愚痴をこぼしてしまった。
「おや?奥方とご子息はどうしたのかね?」
「妻は亡くなりました…
息子は…」と言いかけてその続きを言えなかった。
妻を失った時も流れなかった涙が零れた。
「私は…《希望》を失いました…」
《希望》にも見放され、悲しみに暮れるだけで時間が過ぎた。
今、あの子が何処で何をしてるのかも分からない。
ただ、ここで誰かがこうやって現れるのを、待つことしかできないのだ。
《世界を見守る者》。
《平和の使者》が現れるまで、ここで待つように仰せつかって、一体どれほどの時間が過ぎたのだろう?
私を自由にする《使者》とやらは、未だ私の元に訪れてはくれなかった。
「君は《見守る者》として、最も長くその役目を担ってくれた。感謝している」と友は告げて、私に悲しい知らせを寄越した。
「今回も《異邦人》は《平和の使者》ではなかったよ」
《異邦人》とは異世界から約150年の冷却期間を置いて召喚される、人々が《勇者》と呼ぶ存在だ。
いつから《勇者》と呼ばれるようになったのかは定かでないが、《異邦人》はその役目を大きく変えてしまった。
人の欲が存在を歪めた。
本来は、神と人の中立の立場として、調整役を担うはずの《異邦人》は、人の欲によってその役目を変異させてしまった。
伝聞とは時に、感情や欲によって伝えるべき内容を変えてしまうことがある。
最初の者と最後の者では、話は全く違う物となってしまうのだ。
「そうでしたか…」と静かに答えて俯いた。
ヴォルガ様から与えられたこの空間には、十二人の《世界を見守る者》が存在していた。
ここから一人減り、二人減り…私が最後の一人だ。
私が待つのは《平和の使者》を担う《異邦人》だ。
その人物が訪れるまで、私はここから動くことも死ぬことも出来ない。
「次を待つのは辛いかね?」とグランス様は私に訊ねた。
「少しだけ」と答えた。
「孤独ですから」と口から出た言葉はさらに自分を傷つけた。
「実は」とグランス様は言いにくそうに口を開いた。
「先日、《異邦人》を見送ってから、アーケイイックを新たな王に託したのだ」と彼は驚きの報告をした。
「それは…今度はどなたに?」
「かつて人々に大賢者と呼ばれた《不死者》だ。
人の頃の名を《アンバー・ワイズマン》という。実に面白い男さ」と彼は笑った。
「それは…随分思い切った人選ですね」
「世界がその姿を変えようとしている。アーケイイックも変わらねばならぬ」と彼は呟き、言葉を続けた。
「人間から《神紋の英雄》が現れた」
《冬の王》と《太陽の翼獅子》がそれぞれ《英雄》を選んだのだと精霊たちから聞いていた。
何故、今なのか?何が起因したのかは分からないが、《祝福》を昇華した者だけがたどり着く領域に、同時に二人が加わるなど前代未聞だ。
「我々の時代も終わる日は近いな」とグランス様は寂しげに微笑んで、「ここに来るのは最後だ」と仰った。
それは彼自身の、地上での命が終わりに近づいたことを意味していた。
「ここに来るには《凪》と《嵐》の剣が必要だ。
この二振りは必ず信頼出来る者に託す」
「その方は、どれくらい待てば現れますか?」とグランス様に訊ねた。また一人、知り合いが去ってしまう。孤独が一層強くなる。
「運命であればすぐに…運命でなければ遠くなるだろう」と曖昧に答えた最後の友は、最後に私に「何か願いはないか?」と訊ねた。
「もし、私の子が帰り道を失っていたら、必ず手を差し伸べてやってくれませんか?」
「お安い御用だ」と彼は約束してくれた。
「以前君の子にお目にかかった時はまだ赤ん坊だった」とグランス様は目を細めた。
そうか、以前に彼に会ってからそれだけの時が過ぎたのか…
「《スペース》は妻と同じ、紫の瞳と黒髪で、顔は私によく似ております」と、外に行き来できる、私の最後の友人に愛する我が子を託した。
✩.*˚
本当に、毎度毎度、いきなり現れるのはどうにかならんのか?あんた貴族のくせにフットワーク軽すぎだろう?!
「卿は…なんと言うか…」
相手は俺の姿を見て絶句した。
僅かな供しか連れずに現れたパウル公子は、俺の成りを上から下まで眺めて、珍しく眉をひそめた。
髪も目の色も変わり、おかしな模様が刻まれた身体もそうだが、恐らく言いたいのはそれじゃない。
今日一日、この戦で死んだ奴らの死体の回収と、収容するための墓を掘る手伝いをしてたので、泥や死体から染み出た汁や自分の汗で全身汚れて酷い有様だ。
「働き者なのは良い事だが、これでは話にならん。
体を洗って着替えてくれ、私の着替えを下賜しよう」
「侯爵閣下、それは…」と近くに控えていた近侍たちが声を上げた。そりゃそうだ、俺だってそうする。
「《英雄》がこれでは格好がつかん。ましてや娘婿だ。問題あるまい」と周りを黙らせたが、そういう問題ではない。
「着替えなら持ってます。少々お時間を頂戴しても…」
「私のお下がりでは不服かね?」
パウル公子はそう言って俺も黙らせた。
「卿とは今後の話をしたいのでな」と公子は俺を本営に招いた。
全く、本営に連れていかれるのは嫌な事しかない…
後をフリッツに任せて、大人しく従った。
貴人用の天幕に通されると、パウル公子の侍女たちが待っていた。
「お清め致します」と言う彼女らに、「自分でする」と断ったが、上品な別嬪さん揃いの割に容赦がない…
速攻で身ぐるみ剥がれて洗われた。
「素敵な御髪ですわ」「神々しい」などと世辞を言いながら香り高い石鹸で身体を隅々まで洗われた。
男として嬉しい気持ちと、この悪趣味な貴族の嗜好に付き合わされて、うんざりした気分で複雑な心持ちだ。
無精髭はキレイに剃られ、髪は精油で整えられた。トドメに香水までかけられた。
貴族の衣装は手間だ。これにも辟易した。
窮屈でかっちりとした衣装が気に入らない。
襟元を緩めようとスカーフに手を伸ばしたが、微笑んだ美女がそれを止めた。
「ご辛抱下さいませ」と言われ渋々手を引いた。
貴族や騎士ってのはこんなに窮屈なのか?
こんな生活耐えられないぞ!
内心そんなことを喚きながら、眉を寄せるだけで我慢した。
「煙草は?」
「ご辛抱下さい」
「吸わないから、煙草入れだけ返してくれ。大事なもんなんだ」安っぽい、どこにでもあるような煙草入れだが、エマがくれた物だった。少しガタが来てたが、まだ使えると使い続けていた。
服は捨てられても良いが、あれだけは困る。
「お帰りの際にお返し致します」と微笑みを浮かべて侍女は答えた。
俺もいい歳したおっさんだ。駄々をこねる訳にもいかず渋々従った。
侍女に案内され、通されたパウル公子のテントにはシュミットとレプシウス師の姿もあった。
シュミットも矢傷を負ったとの事だったが割と元気そうだった。タフな奴だ。
パウル公子は俺の姿を見て満足気に笑った。
「よく似合っている」
恐らく社交辞令だろうが、一礼してお礼申し上げた。
「このような高価なお召し物を賜り、ありがとうございます、閣下」
「卿は元は悪くないのだ。磨き甲斐がある」
そう言って、ご機嫌なパウル様は握手を求めて手を差し出した。
「挨拶が遅れて失礼した。
我が兵士らの盾と剣として、勇敢に戦ってくれた卿らに《ヴェルフェル侯爵》として礼を言う」
「…侯爵?」先日まで肩書きは公子だったはずだ。
「うむ。先日、父上の逝去により、嫡子である私が跡目を継いだ。
現在、国王陛下に代わり、フィーア南部を統括する最高責任者は私だ」
「それは…大変失礼致しました」
「よい。卿が知らぬのも無理はない。私ですら南部侯を継いだことが未だ信じられぬ」
パウル様はそう言って複雑な表情を浮かべた。
自由な気風な貴公子は、少し落ちついた印象に変わっていた。
「父上は最後まで良き父であり、最良の侯爵であった。
私も父上に倣い、良き父として、尊敬に足る侯爵として励むつもりだ」
そう言ってパウル様は俺の手を取って「私には卿がどうしても必要だ」と真面目な面持ちで語った。
「我が国は、ウィンザー公国が滅んだ事で、オークランド王国との緩衝地を失った。
致し方ない選択だったとはいえ、この代償は大きい。
オークランドは現在、継承争いで国が二分するほどの内戦の最中だが、それが終われば、必ず我が国にその矛先を向ける。
私には卿のような優秀な人材が必要なのだ」
「俺は一傭兵です」
「そうだったな。しかし、そう名乗るのも無理があるようだ」パウル様はそう言ってレプシウス師に「そうだな?」と声をかけた。
レプシウス師は一礼して「恐れながら」と進み出た。
「クルーガー殿、貴方は《神紋》をご存知でしょうか?」と、レプシウス師は唐突に質問を投げかけた。
「はあ?聞いたことありませんが…何です?」
「貴方の全身に出た奇跡を《神紋》と呼ぶのです。
それを持った《英雄》は必ず神に近しい存在に会い、《祝福》を昇華させております。
《祝福》を擁する者の達する最高の到達点。それが《神紋の英雄》です」
「…はぁ?それは…どういうことです?」
「つまるところ、私は卿をドライファッハに帰すつもりは無いということだ。
卿には是が非にも、テレーゼを伴侶に、私の手元に残ってもらう」
目眩がした。襟元が苦しいからじゃない。
あの鹿!余計なことを!
「おめでとうございます、クルーガー殿」とシュミットは笑顔で祝辞を述べたが、俺にとっては全然めでたくない!
「…で、でも…お嬢様はまだ13でしょう?
いくらなんでも…」
「何か問題でも?」と言うパウル様の返答に言葉を失う。
13歳の嫁を貰ったところでどうしろってんだ?!
そんな子供に毛が生えた程度の小娘を抱けるわけない!
しかも、その辺の町娘を貰うようにとはいかない。なんたってお嬢様だ!俺とは住む次元が違う!
それに、何よりテレーゼ嬢の気持ちは容易に想像できた。先日見た、怯える少女の姿が忘れられない…
「結婚は…お断り致します」気がつけばそう口にしていた。
パウル様は驚いた様子だったが、もう口に出した以上後には引けない。俺の悪い癖が出た…
「確かに美人ですが、まだ子供でしょう?
こんな父親ほど離れた冴えない男が相手じゃ…お嬢様が可哀想だ…」
「卿は謙遜が過ぎる。《英雄》になったのだ。この際年齢や外見などは関係ない。《英雄》の妻となる名誉を拒む娘などおらんよ」
そりゃ、あんたが結婚するわけじゃないからそう言えるんだ!少しぐらい、娘の気持ちを考えろ!
身勝手な父親の姿に怒りを覚えた。
「俺は!」と語気が荒くなるのを止められない。ダメだとは分かっているが、言葉を選べなくなった。
「《祝福》も《英雄》も《騎士》も、どれも欲しいなんて望んだ事はねぇんだ!
こんな志も低くて、冴えないおっさんに、あんな可愛い娘を無理やり結婚させる道理なんて無いはずだ!
あんたはもっと娘を大事にしてやってくれよ!
あの子だって、俺なんか絶対に嫌に決まっている!」
子供は親を選べない…
でも、好きになる相手くらいは、自分で選んでも良いだろう?
あの少女が俺を選ぶ事など絶対に無い。断じてありえない!
「俺は結婚なんて向かない男だ…」本音を口にした。
あれだけ愛してたエマと結婚するのだって、ズルズルと先延ばしにしていた。
俺は産まれる事すら望まれなかった男だ。
家庭なんて想像出来ない。
ましてや、押し付けられたものを愛せるとは思わなかった。それは親父を見て知っていた…
あんな不幸を背負うくらいなら、自由な独り身で、寂しく死ぬほうが気が楽だ…
嘆く女とは暮らせない…母を思い出すから…
言いたいこと言ったら、怒りは頭から消えたが、今度は現実に戻って血の気が引いた。
さすがに不敬だった…
パウル様は黙り込んだまま、身動ぎもせずに俺を見ていた。呆れてものも言えないのだろう。
テントの中が嫌な沈黙で重くなる。
しかし、口を開いたパウル様の言葉は意外なものだった。
「…分かった。一方的に押し付けるのは良くないな…」
叱責されるものと思っていた俺は、妙に物分りの良いパウル様の言葉に毒気を抜かれた。
「私は父としてテレーゼの気持ちを汲むべきなのだろうな…
どうやら事を急いたようだ。すまなかった、クルーガー」と反省を口にして、彼は珍しく肩を落としていた。
「確かに結婚は人生を左右する大事だ。
お互いの気持ちも大切だろう。卿はやはり良い男だ」
パウル様はそう言って俺の肩を叩くと、シュミットに視線を向けて「あれを用意してくれ」と指示を出した。
シュミットが黒塗りの文箱のような箱をパウル様に手渡した。
パウル様は、「テレーゼから預かったものだ」と言って箱の蓋を取った。中には光沢のある紫の繻子に包まれた手袋と手紙があった。
「卿に渡したかった物だ。
手袋は、卿が《騎士》になるのに必要だからとテレーゼに用意させたが、手紙はあの子が自分から用意した」
恨み言でも綴られてるんじゃないかと、嫌な考えが過ぎる。手を伸ばすのを躊躇していると、パウル様は少し笑って箱を俺に握らせた。
「私は手紙には一切関与していない。検閲などという野暮な真似もしていないから安心したまえ」
「…頂戴します」
「うむ」と鷹揚に頷いてパウル様はいつもの調子を取り戻した。
「もし、テレーゼが返事を望んでいるなら応じてやってくれ。
私がこんなことを言うのもおかしな話だが、あの子は頼る相手が少ない孤独な身の上だ。
短い手紙でも喜ぶだろう」
パウル様は珍しく父親らしいことを口にした。
「母方の親族は?」と訊ねた。なぜか妙に彼女の身の上が気になってしまった。
「テレーゼはロンメル家の最後の一人だ」というパウル様の答えに不覚にも同情した。
「ロンメルは勇敢な騎士の家系だが、勇敢さが仇になった。
母親もあの子が幼い頃に結核で亡くなっている。
後見人として面倒を見ていたヘルゲン子爵も亡くなった。新しい後見人を探さねばならん」
あの小さなお姫様は随分苦労しているみたいだ。
それなら尚のこと、俺なんかじゃ相手にならない。もっとちゃんとした家の、いい相手を探してやるべきだろう。
パウル様は俺を食事に誘い、気の乗らない話を一旦打ち切った。
「お預かり致します」と歩み寄ったシュミットにまた文箱が渡る。
「テレーゼ様は良い姫ですよ」と彼はお節介にも余計な一言を口にした。
睨む俺に、人の良さそうな男は肩を竦めて笑った。
「似合いだと思ったのですがね」
「そんなわけねぇだろ」と一蹴するが、シュミットは気にした様子もなく、またお節介を口にした。
「《鬼》と《姫》なら合わないでしょうが、《氷》と《白鳥》はお似合いですよ」
「全然上手くねぇからな」
「おや、ダメでしたかね?」
ふふっと笑いながらシュミットは文箱を大事に抱えた。
「まぁ、まずはお手紙から始めたら良いでは無いですか?
私も妻とよく手紙をやり取りしたものです。
文のやり取りは楽しいものですよ」とシュミットは手紙を勧めた。
「あんた案外マメな男だな」
「それで意中の相手を射止めましたので」
「へえ」
「今でも手紙は欠かしませんよ」と彼は恥ずかしげもなく惚気けて見せた。
シュミットに預けた文箱に視線を向けた。
手紙は俺への恨み言か?それとも、返事を待つ内容なのだろうか?
開けて見なきゃ分からないが、とりあえず目を通すくらいの気にはなった。
勝手に俺の身の上と重ねて少女に同情していた。
「必要なら返事くらい書くよ」と渋々答えると、シュミットは嬉しそうに俺に礼を言った。
何でお前が嬉しそうなんだよ?
俺の疑問を他所に、シュミットは「親友と主人の墓に良い報告ができます」と呟いて、心做しか寂しそうな笑顔を見せた。
その意味を確認するまえに、パウル様の侍女が現れて夕餉の用意が出来たと知らせた。
赤ん坊でも抱くように、大切に文箱を預かるシュミットをその場に残して、テントを後にした。
✩.*˚
「ワルターは?」
彼の姿が見当たらないので、一緒にいたはずのフリッツに訊ねた。
「日が落ちる前に、偉い人に本営に連れていかれた」とフリッツは煙草を吸いながら答えた。
「それって大丈夫なの?」嫌な記憶が蘇る。
僕の不安を払拭するように、フリッツは笑った。
「大丈夫さ、今回は手枷は無しだ」
「誰か一緒なの?」
「いや、一人だ」
「どうしてウェリンガーも連れていかないのさ!《新衛兵》ってそういう時のためのものじゃないの?」
「ワルターは自覚がないからな…」とフリッツは笑っていたが心配じゃないんだろうか?
「あいつは俺の届かないところに行っちまうな…」と彼は寂しそうに呟いた。
「何で?」
「偉くなっちまうからさ」とフリッツは僕に答えた。
彼は煙草の煙を吐き出して、昔話を始めた。
僕の知らないワルターは酷い苦労人だった。
エマの事も教えてくれた。彼女の話をするフリッツは辛そうだった。
「ワルターは…あいつは随分苦労したんだ。やっと報われるんだから喜んで送ってやるべきなんだろうな…」
「何で?お別れする事なんてないじゃないか?」
「俺はドライファッハに戻らにゃならん。
団長には随分世話になったし、もうエマを一人にするのは可哀想だ」
彼はそう言って僕に「ワルターを頼む」と彼を託した。
「お前はドライファッハに戻る理由もないだろう?
それならワルターと一緒に残ってやってくれ。
エルマーは…どうするか分からんが、あいつもお前が残るなら残るんじゃないか?」
「ヨナタンとソーリューは?」
「さぁな…みんな自由に決めるさ」
「君とお別れするのは嫌だ」
「ありがとよ」とフリッツは大きな手で僕の頭を撫でた。
初めて出会った時は怖い人かと思ったが、彼は仲間思いの頼りになる良い人だった。
世話焼きで、ちょっと不器用で、優しい人だ。だから彼は団長の所に帰るんだろう…
「心配するな、まだ先の話だ」と彼は僕を慰めた。
「何してんだよ?」エルマーがふらっと現れた。
「ちょっと話してただけだ」とフリッツは答えた。
エルマーは僕の顔を覗き込んで「どうした?」と尋ねた。
「何だ?フリッツに何か言われたのか?」エルマーは相変わらず僕を気遣って甘やかした。
「違うよ」
「あいつが何かしたってなら俺に言いつけて良いんだぜ。
俺の方があいつより強いんだからよ」
「聞き捨てならねぇな。悪者扱いなら文句はないが、お前より弱いってぇのは黙っちゃいねぇぞ!」
「無理すんなよ、怪我人」はん、とフリッツを鼻で笑ってエルマーが挑発した。
「馬鹿にすんな!こんなの怪我のうちに入らねえよ!」とフリッツが吠えて得物を握る。
その姿を見て、「仲良しだなぁ」と僕が言うと、二人は嫌そうな顔で「どこが!」と声を合わせた。
「息もピッタリだ」と笑うと、エルマーは安心したように表情を緩めた。タレ目が優しく笑った。
「なんの話ししてたのか知らないけどよ、もう飯の時間だぜ。腹減ったろ?」
「うん」と頷いてフリッツにも「行こう」と声をかけた。彼はハルバードを杖にして立ち上がった。
「治療しようか?」と訊ねると、彼は笑って断った。
「いや。すぐに治るようなかすり傷だ。手当した奴が大袈裟だっただけさ」
「そうだぜ、スー。お前が気にしてやるほどの事じゃねぇよ。そいつなら唾付けておいたら明日には治ってるぜ」
「お前って本当に分かりやすいな…」とフリッツがボヤいた。
意地悪く言うのは仲が良いからだ。
このまま、みんなで変わらずに居れたら良いのに…
そんな事を思いながら二人の顔を見上げた。
相変わらず悪態を吐きながら、彼らは足並みを揃えて食事に向かった。
あぁ…やっぱり仲良しじゃないか…
そう思いながら僕も彼らと肩を並べた。
✩.*˚
「ハンス!」
クルーガー殿を宿営にお送りした私の姿を見つけて、スーが駆け寄ってきた。
私が供している相手が誰か分かって驚いたようだ。
「…ワルター?」
「分かりやすい反応ありがとうよ…」
「え?その服どうしたの?それに何かいい匂いする…」
「侯爵様とお話がありましたので、お召し換え頂きました」
「別人だね」とスーが笑うのでクルーガー殿は苛立たしげに髪を手で掻き回し、スカーフを取り払った。
「何すんのさ、せっかく格好良いのに」
「バカにしてんだろ!どうせ似合わねえよ!」
「何怒ってんのさ?」スーが幼い子供のように首を傾げた。
機嫌の悪いクルーガー殿は脱ぎ捨てた上着を乱暴にスーに押し付けた。
「あぁ!窮屈だった!」自由になった肩を回しながら、そう言う姿に笑いを禁じ得ない。素の姿を見せる彼は私を信頼してくれているようだった。
「お疲れ様でした」と差し出した文箱を受け取ったクルーガー殿は「つまらないこと言うなよ」と私に口止めした。
「何?」と首を傾げるスーに「大人の話だよ」と答えた。スーは腑に落ちないとでも言いたそうな顔で抗議の声をあげた。
「ずるいよ、僕の方が年上…」
「バカ!黙ってろ!」クルーガー殿が慌てて子供の口を塞いだ。手から文箱が滑り落ちて蓋が外れた。
慌てて文箱を拾って返すが、中身は見えてしまったようだ。
「手紙?手袋?」とスーは私とクルーガー殿の顔を交互に見た。目には好奇心の色が浮かんでいた。
「何でもない!」
「じゃあ何で隠すのさ?」
「もう!お前エルマーのところにでも行ってろ!」
「エルマー呼んでくるの?」
「呼ぶな!余計ややこしい!」
その仲の良い親子のようなやり取りが微笑ましい。
私の子供たちも、もう少し大きくなったらこんなふうになるのだろう。楽しみだ。
彼らを見ていて、さらに別の思いが脳裏を過ぎった。
クルーガー殿が閣下の直臣となったら、彼らはどうなるのだろうか?残るのか?それとも去るのだろうか?
「ハンス、君も来てよ。みんな喜ぶよ」とスーが私を仲間のところに誘った。
私を仲間のように扱ってくれるのが嬉しかった。
スーの顔を見ていると、懐かしい友の姿を思い出す。
『ハンス!飲みに行くぞ!』
美しい顔に似合わず、豪快なディートリッヒに連れ回された日々が懐かしい。
「ありがとう、スー。でも、もう戻らなければならないから、また今度邪魔するよ」と誘いをやんわりと断って約束した。
去っていた者を懐かしむには、まだ私は若いはずだ…
もう少し歳をとってからでも変わらないだろう。
「おやすみなさい」と挨拶して、彼らの宿営を後にした。
未来を作るために、私もまだできることがある。
親友と主に託された未来のために、私は顔を上げて自分のなすべき務めに向き合った。
✩.*˚
うるさいスーをエルマーのテントに放り込んで、自分のテントに戻った。
全く…あの何でも首を突っ込みたがる、子供みたいなところは何とかならんものか…
ランプの灯りの下で手紙を眺めた。
淡い薔薇色の封筒は、顔に近付けると微かに花の香りがした。
封筒を眺めるだけで時間が経って、どこからか入り込んだ蛾がランプの周りをぐるぐると回った。
灯りを時々遮る姿が、二の足を踏む俺に、早く手紙を読めと急かしているように見えた。
忙しなく羽ばたく蛾が鬱陶しくて外に追い出した。
封筒を手に取って封を切るまでに無駄に時間を食ってしまっていた。
開けようと決めてから煙草を六本分灰にした。
いい歳したおっさんが情けない…
こんな手紙を一通まともに向き合えない、甲斐性なしだ…
七本目を口にして、意を決して封を開いた。
口を開いた封筒から、何かが転がり落ちた。
拾ってみると、子供の玩具のような小さなコインには両面に同じ意匠で鳥と文字が刻まれていた。
コインの意味がわからず、指で弾いて弄ってから封筒に戻した。
封筒から入れ替わりのように便箋を取り出して開いた。また花の香りが強くなった。
花染めの便箋だろう。非常に高価なものだ。
せっかくの便箋が無駄になってしまうので、煙草の火を消した。
ライラックの香りのする便箋に、あぁ、やっぱりお嬢様だな、と距離を感じた。
便箋には見慣れない、細やかな女の文字が並んでいる。ヨナタンとは別の意味で読みやすい字からは、彼女の育ちの良さが滲んでいた。
手紙をランプの明かりに当て、視線を這わせた。
『クルーガー様』とむず痒い呼び方に居心地が悪くなる。読み進めると、彼女の手紙は謝罪から始まっていた。
初めて会った時の失礼を許して欲しいとあった。
そんなの、当たり前だろう?あんたなんにも悪くないんだよ。
ガキなのにあんたは頑張ってたよ…
手紙まで書いて、父親のワガママに無理して付き合ってるじゃないか?健気だな。
そう考えると俺ってダサいな…
子供に気ぃ使われてるよ…
手紙を読み進めながら苦笑いした。
彼女は文通相手を求めるように、自己紹介を綴り、俺に返事を求めた。
手紙の締めくくりに、『騎士だった伯父様から頂戴したお守りを預けます』とコインの説明があった。
『表の鳥に願い事を託して投げてください。必ず吉報の鳥が出ます』
なるほど、ズルいな、両方表じゃないか?
子供のような願掛けに少しだけ笑った。
文箱に入ったもうひとつの贈り物を手にした。
乗馬用の騎士の手袋には、金糸の丁寧な刺繍が施されている。
指を通すと、馴染んでいない皮の手袋はまだ硬く、指を拒むように動きを制限した。
何度も握って皮を馴染ませるうちに、意匠が偏っているのに気が付いた。
外して、燕の意匠を眺めると、見ようによっては燕たちはそっぽを向いているように見える。
こちらの方が本心なのかな?と思ったが、その子供のような発想が必死で可愛く感じた。
でもな、お姫様。
これ見方によっては番になるんだぜ。
小指を合わせて見ると、金と銀の糸で綴られた小鳥は仲睦まじく向かい合った。
これを見せたら驚いた顔をするのかな?と思って笑った。
子供ってのは、このくらい抜けてる方が可愛いな。
背伸びする少女に手紙を返す為、ランプの明かりの下でペンを手に取った。
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