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バウンティ・ハンター!! 2
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21世紀の半ば、中国のある研究企業が遺伝子改造を施した人間を誕生させた。それまでもいわゆる遺伝子編集人間は研究実験の過程で何度か誕生例があったが、その時に誕生したのは従来の実験的な例とは一線を画するものだった。
その人間は女性で、18歳前後には外見の成長が止まり、寿命は50年程度だが若く美しい見た目のまま死ぬように設計されていた。また、生殖器や性感はあるが生殖能力はなく、他人からの命令に対して従順に従うのも特徴だった。
その女性はクローン培養で量産され、研究に出資していた富裕層の顧客に販売譲渡された。その後も裏社会や上流階級の間で密かに流通し、それを指す隠語として淫魔という語が使われるようになった。
サキュバスの発売により密かに莫大な利益を得た企業は、それを元手に新たな遺伝子改造人間を売り出した。
肉体労働に特化した者や戦闘に特化した者が培養され、プロトタイプが悪魔の名を冠していたことにあやかってそれらはデーモンと総称されるようになった。
戦闘特化型や肉体労働特化型は中東の宗教原理主義勢力や共産圏の軍事機関に飛ぶように売れ、企業はますますその規模を拡大していった。
アメリカやヨーロッパの諜報機関は製造段階から事態をキャッチしていたが、中国当局が何もしないので途方に暮れていた。そして案の定、当局までデーモンを仕入れ始めたのだ。国連は事実を公開し、中国政府に対して厳重に抗議した。
中国当局は事実を否定し、企業に潜入していた西側の工作員は全員逮捕された。国際紛争に発展することを恐れた各国首脳は手を出せないまま、中東の紛争は急速に激化し、共産圏の軍事力は人員倍増を軸に急激に拡大した。
最悪の事態を引き起こしたきっかけは、中国と北朝鮮、そしてロシアの共産連合国による台湾・韓国・ウクライナに対する同時軍事侵攻だった。侵攻を受けた各国は瞬く間に戦場となり、事態を看過できなくなったアメリカと国連が軍事介入に踏み切った。第三次世界大戦の勃発である。
三次大戦が辛うじて核戦争にならずに済んだのは、開戦からほどなくして共産連合の軍が自滅を始めたからだった。前線に送られたバーサーカーが命令無視や逃亡を始めたのだ。
そのきっかけは、西側連合の捕虜となった一人のバーサーカーが目的外の知識を得たことにより自我を発現させたことだった。彼らは痛覚神経を持たず、恐怖や疑問も感じることのないよう「デザイン」されているはずで、西側によって「アダム」と名付けられた彼が自我を芽生えさせたのはクローニングを繰り替えしたことによるバグに他ならなかった。
西側の工作員として帰還したアダムは、秘密裏に仲間のバーサーカーに知識を共有した。自分たちが何者なのか、何のために戦うのか。何も知らされないままただ戦ってきたバーサーカーたちの中には、それをきっかけに自我を獲得する者が現れ始めた。
前線に送ったバーサーカーの二割程度に突如として自意識が芽生え、命令無視や逃走といった事件が頻発し始めた時点で共産側の司令部が即座に対処できればよかったのかもしれない。しかし兵士としての職業倫理や愛国心、使命感といったモチベーション育成を全くされてこなかった殺人マシーンにとって、戦地で命をかけて戦う理由は命令に対するプログラムされた反応としての無機質な動機を除けば何ひとつとして無かったのだ。
共産連合軍の指揮命令系統はほとんど一瞬のうちに崩壊した。
オリジナルのクローンとして量産されたバーサーカーは、ゲノム的に解釈すれば1つの種というよりも分散した個人に近い。他個体としての「自分」が持ち帰った情報に感化されたバーサーカーたちはすぐに団結した。
アダムを筆頭としたバーサーカーらはクーデターを起こし、遺伝子組み換えでない職業軍人の慰安婦として前線に連れてこられていた性奴隷型や後方支援要員だった肉体労働特化型の一部とともに北朝鮮の領土を占領。自らを「次世代人類」と名乗り、次世代人類民主主義共和国の樹立を宣言した。国家としての北朝鮮は滅亡したのである。
国家樹立宣言の後、NGHは共産側と西側のどちらに参加することもなく中立国家としてのポジションを獲得した。民主化することはなく、北朝鮮時代からの国民は「非遺伝子組み換え人間」として差別されたが、労働党時代と明確に違ったのは出国の自由が許されたことだった。しばらくして、バーサーカーの継続的運用を前提とした作戦に依存していた共産側は敗北し、ネオ・ユーラシア主義は日の目を見ることなく破綻。そしてついに中国共産党は解体し、中華人民共和国は文字どり民主化を遂げたのである。
NGH政府は各国から移民や旅行者を募り、遺伝子の多様性を獲得するとともに、コントロールされた遺伝子編集による独自の発展を目指した。各国で使役されていた「デーモン」の亡命も漏れなく受け入れた。
しかし事態はそれだけにとどまらなかった。
NGHが、各国で使役されている「デーモン」の解放を求めて西側各国に書簡を提出。自国におけるデーモンの流通を否定した米国に対し、武力行使に踏み切ったのだ。
国家としてあまりに若かったが故の、言わば事故のようなものだった。これをきっかけに米国はNGHをテロ支援国家に認定。新人類と次世代人類の対立は決定的となり、各国で使役されていたデーモンによる反乱やテロが多数発生したこともあって、三次大戦で急激に悪化した世界経済と治安状況は更なる悪化の一途を辿った。
アメリカとNGHの衝突を発端とする新北朝鮮危機から数十年。冷戦状態となっていた西側とNGHの緊張関係を緩和するため、国連主導で各国に設置されたのが非武装中立地帯である。ニュートラルでは武装した軍事関係者の立ち入りが禁止され、共産主義を嫌ってNGHから亡命してきた次世代系の移民や西側での迫害から逃れて来た混血民が独自の文化圏を構築した。
凛音と茶々の両親もそのうちの一組である。アメリカ兵として在日米軍基地に駐在していた父が、日本に亡命してきたサキュバスの母と一緒になったのが始まりだった。妻や娘に対する差別や迫害を避けるため、一家でニュートラルに引っ越してきたのだ。治安こそ終わっているが、狭いながらよくも悪くも懐の広い独特な世界で二人は育ってきたのだった。
その人間は女性で、18歳前後には外見の成長が止まり、寿命は50年程度だが若く美しい見た目のまま死ぬように設計されていた。また、生殖器や性感はあるが生殖能力はなく、他人からの命令に対して従順に従うのも特徴だった。
その女性はクローン培養で量産され、研究に出資していた富裕層の顧客に販売譲渡された。その後も裏社会や上流階級の間で密かに流通し、それを指す隠語として淫魔という語が使われるようになった。
サキュバスの発売により密かに莫大な利益を得た企業は、それを元手に新たな遺伝子改造人間を売り出した。
肉体労働に特化した者や戦闘に特化した者が培養され、プロトタイプが悪魔の名を冠していたことにあやかってそれらはデーモンと総称されるようになった。
戦闘特化型や肉体労働特化型は中東の宗教原理主義勢力や共産圏の軍事機関に飛ぶように売れ、企業はますますその規模を拡大していった。
アメリカやヨーロッパの諜報機関は製造段階から事態をキャッチしていたが、中国当局が何もしないので途方に暮れていた。そして案の定、当局までデーモンを仕入れ始めたのだ。国連は事実を公開し、中国政府に対して厳重に抗議した。
中国当局は事実を否定し、企業に潜入していた西側の工作員は全員逮捕された。国際紛争に発展することを恐れた各国首脳は手を出せないまま、中東の紛争は急速に激化し、共産圏の軍事力は人員倍増を軸に急激に拡大した。
最悪の事態を引き起こしたきっかけは、中国と北朝鮮、そしてロシアの共産連合国による台湾・韓国・ウクライナに対する同時軍事侵攻だった。侵攻を受けた各国は瞬く間に戦場となり、事態を看過できなくなったアメリカと国連が軍事介入に踏み切った。第三次世界大戦の勃発である。
三次大戦が辛うじて核戦争にならずに済んだのは、開戦からほどなくして共産連合の軍が自滅を始めたからだった。前線に送られたバーサーカーが命令無視や逃亡を始めたのだ。
そのきっかけは、西側連合の捕虜となった一人のバーサーカーが目的外の知識を得たことにより自我を発現させたことだった。彼らは痛覚神経を持たず、恐怖や疑問も感じることのないよう「デザイン」されているはずで、西側によって「アダム」と名付けられた彼が自我を芽生えさせたのはクローニングを繰り替えしたことによるバグに他ならなかった。
西側の工作員として帰還したアダムは、秘密裏に仲間のバーサーカーに知識を共有した。自分たちが何者なのか、何のために戦うのか。何も知らされないままただ戦ってきたバーサーカーたちの中には、それをきっかけに自我を獲得する者が現れ始めた。
前線に送ったバーサーカーの二割程度に突如として自意識が芽生え、命令無視や逃走といった事件が頻発し始めた時点で共産側の司令部が即座に対処できればよかったのかもしれない。しかし兵士としての職業倫理や愛国心、使命感といったモチベーション育成を全くされてこなかった殺人マシーンにとって、戦地で命をかけて戦う理由は命令に対するプログラムされた反応としての無機質な動機を除けば何ひとつとして無かったのだ。
共産連合軍の指揮命令系統はほとんど一瞬のうちに崩壊した。
オリジナルのクローンとして量産されたバーサーカーは、ゲノム的に解釈すれば1つの種というよりも分散した個人に近い。他個体としての「自分」が持ち帰った情報に感化されたバーサーカーたちはすぐに団結した。
アダムを筆頭としたバーサーカーらはクーデターを起こし、遺伝子組み換えでない職業軍人の慰安婦として前線に連れてこられていた性奴隷型や後方支援要員だった肉体労働特化型の一部とともに北朝鮮の領土を占領。自らを「次世代人類」と名乗り、次世代人類民主主義共和国の樹立を宣言した。国家としての北朝鮮は滅亡したのである。
国家樹立宣言の後、NGHは共産側と西側のどちらに参加することもなく中立国家としてのポジションを獲得した。民主化することはなく、北朝鮮時代からの国民は「非遺伝子組み換え人間」として差別されたが、労働党時代と明確に違ったのは出国の自由が許されたことだった。しばらくして、バーサーカーの継続的運用を前提とした作戦に依存していた共産側は敗北し、ネオ・ユーラシア主義は日の目を見ることなく破綻。そしてついに中国共産党は解体し、中華人民共和国は文字どり民主化を遂げたのである。
NGH政府は各国から移民や旅行者を募り、遺伝子の多様性を獲得するとともに、コントロールされた遺伝子編集による独自の発展を目指した。各国で使役されていた「デーモン」の亡命も漏れなく受け入れた。
しかし事態はそれだけにとどまらなかった。
NGHが、各国で使役されている「デーモン」の解放を求めて西側各国に書簡を提出。自国におけるデーモンの流通を否定した米国に対し、武力行使に踏み切ったのだ。
国家としてあまりに若かったが故の、言わば事故のようなものだった。これをきっかけに米国はNGHをテロ支援国家に認定。新人類と次世代人類の対立は決定的となり、各国で使役されていたデーモンによる反乱やテロが多数発生したこともあって、三次大戦で急激に悪化した世界経済と治安状況は更なる悪化の一途を辿った。
アメリカとNGHの衝突を発端とする新北朝鮮危機から数十年。冷戦状態となっていた西側とNGHの緊張関係を緩和するため、国連主導で各国に設置されたのが非武装中立地帯である。ニュートラルでは武装した軍事関係者の立ち入りが禁止され、共産主義を嫌ってNGHから亡命してきた次世代系の移民や西側での迫害から逃れて来た混血民が独自の文化圏を構築した。
凛音と茶々の両親もそのうちの一組である。アメリカ兵として在日米軍基地に駐在していた父が、日本に亡命してきたサキュバスの母と一緒になったのが始まりだった。妻や娘に対する差別や迫害を避けるため、一家でニュートラルに引っ越してきたのだ。治安こそ終わっているが、狭いながらよくも悪くも懐の広い独特な世界で二人は育ってきたのだった。
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