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未来から来たんだ

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半年前にうちのお母さんが経営する八百屋さんの向かいにあるアパートに越してきたお兄さん。

うちにはお父さんがいなかったからお母さんが市場に出かけてしまっているときだけ、よく遊んでもらっていた。

男の人とそんなに喋ったりしたことなかったから。

好きとかそういうのはよくわからなかったけど親しみやすい人だとは思っていた。

いつも通り八百屋で遊んでいると

お兄さんから告げられたんだ。

「僕は前に来たんだ。お婿さんとして」

今より昔にあった記憶はない、つまり私にとっては体験してない彼にとっての過去もしかして未来から来たということなのだろうか?

あたしが生きてきた七年間の中で最も衝撃的でありダイナミックな出来事であった。

思い出を振り返った。

かくれんぼをしたりお弾きをしたり学校の話をしたり何気ないものだった気がする。

ただ一緒にそこにいて同じ空気を吸っている。感覚としては兄弟や従兄そんな感じだろうか?

それがめんこみたいに裏返った、家族ではなくなったけれど家族になれることが分かった。

うれしかった、

うれしい以外はなかった

これを疑いたくない、疑える余地があったとしても疑わないしそんなものは見たくもない。

一つ思い出した。

3か月前くらいに私とお兄さんはいつものように遊んでいた。

お弾きしたり絵をかいたりした。

絵を描いていると、書き始めたばかりでわかるわけないのにに何を描こうとしてるのかを当てられた事がある。

考えてもみればこのような経験が何度かある気がする。

やっぱり未来から来たんだそうに違いない。

私にとってはやっぱりそれがしあわせであり、現実がコーヒーみたいに苦ったるいものだとするならば彼の口から出た言葉が私が求めるミルクである。

嘘でも真でもどんなに熱くても最初に私が飲み干す。

・・・・・





・・・・・

ずっと少女のことを探し回っていた僕が少女と出会ったのは、半年前くらいだっただろうか

初めて少女に会った時には顔が変わってしまっていたのでわからなかった。

愛おしい子だとは思った。

あの少女が運命の人だとは、

家の窓から八百屋の営業中に一目見て分かった。

前にあった彼女の姿だった。

それからは早かった、

少女とはどんどん仲良くなっていった。

慎重に慎重を重ね

3か月前くらいだっただろうか

少女と一緒に絵をかいていた

俺には何を描いているのか一瞬で分かった。

まず描こうとしていたのは眉毛だった。

特徴的だったのですぐに分かった。

描こうとしていたのは母さんだろう。

それを言い当てると、

少女は嬉しそうにしていた、俺にとっては造作もない。

・・・・・





・・・・・

二つ思い出した

5か月前くらいだっただろうか

「君に兄弟はいるのかい?」

「いないよ」

「じゃあお母さんと君の一人暮らし?」

「うん!」

「よかったそれはとても良いことだ」

彼は私にお父さんがいないことを

会ったばっかりのころから知っていた、お母さんにあったこともないのに

よく一人で留守番していたからそう推測していただけかもしれないけれど、

それでもお父さんがいないことをピンポイントで当てるのはとても難しい。

なぜだろう

やはり未来から来たからなのだろうか?

やっぱりそういうことなのだろう

・・・・・



・・・・・

「僕は前に来たんだ。お婿さんとして」

「なら私たちと一緒に暮らすことはできないの?」

「それはできないんだ、残念ながらね」

お兄さんは打ち明けようと思っていたことを単刀直入に打ち明けた。

「君のお母さんと僕ついていくならどっちについていきたい?」

これは駆け落ちしようということだろうか?

選べるわけがない、

選べるわけがないのだが

選ぶしかないのなら私は未来にかけたい、

カミングアウトによって、お母さんと築いてきた過去の記憶が、私の生きてきた人生が紙飛行機みたいに飛んで行ってしまった。

「なぜそんなこと選ばねばならないの?」

「それはね昔、僕と母さんは大喧嘩をしてしまった。」

「そのせいで僕と彼女が一緒に暮らすわけにはいかないんだよ。」

そういえば、お母さんとお兄さんは頑なに会おうとしなかった。

「どんな喧嘩?」

「それは言うことはできない」

ここで三つ思い出した。

お母さんは私が男の人と会うことをかたくなに嫌った。その態度に疑問を持ち聞いてみたことがある。

「なんで私が男の人と会うことを嫌うの?」

「男というのは人を泣かせる生き物だからだよ」

そういったのをよく覚えている。

もしかしてお母さんを泣かしたのはこの人なのだろうか?

「お母さんを泣かしたのはあなたなの?」

「そうさ泣かしてしまっただから、、、だから母さんと一緒にはいけないんだよ」

仲直りしてよそれを言おうとした時、そのときちょうど聞きなれた声が聞こえてきた

「ただいま、んあなたは」

「よお、、」言葉の葉っぱが風に吹かれたみたくかすかに揺れた、

「何の用なの」

「もしかしてこの子を連れて行こうとしたんじゃないの、」

「そうさもう限界なんだ一人でいるってのはさ孤独てのはさ悲しみでしかない」

「誰のせいだと思っているの!」

「わかっているだけれどあれは誤解なんだ君の顔と間違えて僕は女性にちょっかいをかけ痴漢の疑いで捕まってしまった。あれは偶然なんだ。」

「やはり最低、私の顔も覚えてられないなんて」

あたしは反射的に口をはさんだ

「覚えてる、覚えてるよこの人は私が書いたお母さんの似顔絵を眉毛だけで当てたんだもの」

「でもあなた刑期を終えるのをずっと待っていた私に、信じる事をやめられなかった阿呆に、おまえの顔なんて覚えていないって言っていたじゃない?」

「あれは世間から冷たい目で見られる君を見てられなかったんだ。だから」

「そんなあなたは、、、」

「もう、よりを戻さないか?この子が悲しんでいた。ずっと一人で君を待っているとき悲しんでいた。この子のためだけにではない僕のために家族のために君のために、君も気づいているはずだ」

「また、、」

お母さんはゆるりと頷いた

「え」思わず私は声になる声が出た。

そういうことか、私はやっとどういうことか理解した。

記憶がないのは私がまだ赤ちゃんで物心ついてなかったから

つまり「前お婿さんとしてきた」というのはお母さんのお婿さんとしてってこと

絵を見てすぐに当てられたのもそうだとすれば理解ができる。

失恋した、ので私は泣いた。

お母さんが幸せになったから私は泣いた。

「どうやら男の人が人を泣かせる生き物というのは嘘ではなかったみたいだ」









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