上 下
82 / 137
奥編 moglie

23:海月の恩返し(その2)Il ritorno da medusa:secondo

しおりを挟む
「“夏は夜、月の頃は更なり„ ですね」
 満月――インスタンス中は天文も別扱いらしい。
 第一夜刻から指定場所に待機している。
 “神宿る島„ の対岸、岩場に挟まれた小さな砂浜だ。
 確かにここから見る島は近い。しかし月影に浮かび上がる島影は不気味に感じる。
 第二夜刻の始まる頃、潮が次第に緩やかになる。潮止まりの時間は一刻くらい。渡る時間を考えたら帰りは急流を突っ切ることになりそうだ。それでもここで躊躇はできない。行くしかない!
 波間から白いものが顔を出す。
 ぴっ!
「クラちゃん!」
 ぴーぴぴっ
「待ってたわよ、よろしく運んでね!」
 ぴぴぴぴぴっ!
 クラちゃんの号令に合わせ、波打ち際に、うぞうぞと海月くらげの塊ができる。
「大丈夫よね。クラちゃん!」
 足元危ないことこの上ないが、なんとか海月くらげの集団に乗っかる。
 ぴっぴ~!
 号令一下、わさわさと動き始める。
 “神宿る島„ まで、潮が治まっている間に着いて欲しい。

 かなり難儀したが、何とか島まで辿り着いた。
 ぴっ! ぴぴっ
「クラちゃん、ありがとう。ここまででいいわ! 帰りは何とかするから」
 ぴーっぴぴぴぴーっ!
「えっ、付いて来るってぇ」
 ぴきぴきぴっ!
「男は最後まで責任を持つもんだ?」
 ぴぴっ!
「分かったわ、でも “干しクラゲ„ になっても知らないわよ!」
 普通に意思疎通出来てるけど、釈然としないのは何故だろう?

 ぴこっ!
「静かに、クラちゃん」
 ぴっ?
「どうやら、ボクたちより先客がいるみたいだね」
 ここは島の真ん中あたりの丘、草の間からそっと覗くと黒ずくめの男たちがいた。
「昼間の拷問会会長さんみたいだね」
「やっぱり始末しといた方が良かったですね」
 コーリの性格がだんだん分かって来たような気がする。
「やり過ぎるとPKになっちゃうからな。今回は狙われたんだから、やっちゃって問題ないとは思う」
「でも、ここでは魔法使えませんからねぇ。どうしましょう?」
 放置すると後々面倒になりそうだから、不意打ちでやっつけてしまおう。
「スリングショットで先制攻撃する。攻撃剤《ポツィオーネ・アタッカンテ》で追撃して」
「クラちゃん、静かに付いて来てね」
 ぴ
 そろそろと近付くと、黒ずくめの男たちは三人のようだ。良く分からん組織も愛好会も動員力はなさそうだ。
 男たちは小声で何か話して、草の間を探り始めた。
 財宝への入口を捜しているのかな。良し、好機オッポルトゥニタだ。
 コーリに合図を送って、スリングショットで狙う。
「クラちゃん、じっとしとくのよ」
 こくこくこく
 スリングショットの攻撃と同時に、コーリの麻痺剤ポツィオーネ・ディ・パラーリジが飛ぶ。
「ぐっ」
「ぐぇっ」
 一人はスリングショットで倒し、一人は麻痺したみたいだが、あと一人は?
 残った男が短弓アルコ・コルトの矢をコーリに放つ! 
 しまった!
 ぴーっ!
「クラちゃん!」
 矢は飛び出してきたクラちゃんのど真ん中を貫く。
 スリングショットで反撃する。
地震テッレモート!」
 コーリの地魔法、何で発動する?!
「きゃぁあぁ~」
 足元の土が一気に落ちて行く。

「うーむ、はっ!」
 ここは?
 痛い~。洞窟の下に落とされたらしい。
 薄明るい魔法の光が洞窟を照らし出す。周囲は苔で覆われていてこれがクッションになったようだ。大した怪我はない。
「大丈夫ですか?」
 コーリの落ち着いた声がする。怪我がないようでホッとする。
「クラちゃんが庇ってくれました。私は何ともありません」
「えと、クラちゃん、大きな穴が開いてるんだけど……」
 ぴぴぴぴっ!
「クラゲだから穴ぐらいは平気だそうです」
 さすがに人間とは出来が違うみたいだ。
「むぅ」
 人のうめき声に気づいて調べてみると、全身黒ずくめの男がひとり
「こいつは拷問愛好会会長さん。さっきので一緒に落ちて来たのか」
「はっ! お前たちは? ここはひとつ拷問を」
氷の壁ムーロ・ディ・ギアッチョ!」
氷の柱コロンナ・ディ・ギアッチョ!」
 煩いから氷漬けになって貰いました。
「で、なんでここは魔法が発動するんだろ?」
「クラちゃんに聞いてみました。たぶんここは六芒星エサグランマの中心なので、効果が打ち消し合っているのでは? とのことです。台風の目と同じですね」
 海月くらげの知能について真剣に考え直す必要がありそうだ。

 あらためて洞窟を見渡してみると、ドーム状になっていて高さもかなりある。落ちてきた所は暗くて確認できない。
 両側は全て岩でかなり奥へと続いている。下側は明らかに人の手の入った石畳になっている。
ルーメ!」
 コーリの明かりで奥へと進む。直ぐに突き当りになっていて祭壇のようなものがあり、直ぐ横がプールのように水が入って来ている。確かにここで祈願祭が行われていたようだ。確かに祈願祭のとき魔法が使えないのは困るので、この場所を選んだというのは良く理解できる。
 プールは波が立っていて、舐めてみると塩辛い。外から潮が入って来ているに違いない。
 明かりの下で覗き込んでみると、下は割合浅い。
 そして――確かにあるある、波の下にキラキラ光るもの。
「コーリ、お宝みたいね」
「ふふふふっ! これで生活水準向上です。クラちゃん、手近なものを取って来てくれる?」
 ぴぴぴぴぴっ!
「え? 神様に捧げたものを横取りすると祟りがある」
 ぴっ!
「そうかもしれないわね。でも一つくらいなら……」
 ぴぴっ?
 しようがないという風にプールの底から何かを拾って来る。
 ぴぴっ!
「有難う。綺麗な腕輪ブラッチャレットね。でもこの色って――ひょっとしてオリハルコン?」
 コーリの声と重なるように、地が揺れ、大きな振動で祭壇の横の壁が崩れる。
「何だこれは?」
「何か変ですぅ?」
 ぴぴぴぴぴぃ!!
 壁の奥から、堅い鱗に覆われた大型の蜥蜴が現れた。
 ポスかぃ!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換ウイルス

廣瀬純一
SF
感染すると性転換するウイルスの話

ーOnly Life Onlineーで生産職中心に遊んでたらトッププレイヤーの仲間入り

星月 ライド
ファンタジー
親友の勧めで遊び、マイペースに進めていたら何故かトッププレイヤーになっていた!? ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 注意事項 ※主人公リアルチート 暴力・流血表現 VRMMO 一応ファンタジー もふもふにご注意ください。

アルゲートオンライン~侍が参る異世界道中~

桐野 紡
SF
高校生の稜威高志(いづ・たかし)は、気づくとプレイしていたVRMMO、アルゲートオンラインに似た世界に飛ばされていた。彼が遊んでいたジョブ、侍の格好をして。異世界で生きることに決めた主人公が家族になったエルフ、ペットの狼、女剣士と冒険したり、現代知識による発明をしながら、異世界を放浪するお話です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

超ゲーム初心者の黒巫女召喚士〜動物嫌われ体質、VRにモフを求める〜

ネリムZ
SF
 パズルゲームしかやった事の無かった主人公は妹に誘われてフルダイブ型VRゲームをやる事になった。  理由としては、如何なる方法を持ちようとも触れる事の出来なかった動物達に触れられるからだ。  自分の体質で動物に触れる事を諦めていた主人公はVRの現実のような感覚に嬉しさを覚える。  1話読む必要無いかもです。  個性豊かな友達や家族達とVRの世界を堪能する物語〜〜なお、主人公は多重人格の模様〜〜

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

CombatWorldOnline~落ちこぼれ空手青年のアオハルがここに~

ゆる弥
SF
ある空手少年は周りに期待されながらもなかなか試合に勝てない日々が続いていた。 そんな時に親友から進められフルダイブ型のVRMMOゲームに誘われる。 そのゲームを通して知り合ったお爺さんから指導を受けるようになり、現実での成績も向上していく成り上がりストーリー! これはある空手少年の成長していく青春の一ページ。

アルケミア・オンライン

メビウス
SF
※現在不定期更新中。多忙なため期間が大きく開く可能性あり。 『錬金術を携えて強敵に挑め!』 ゲーム好きの少年、芦名昴は、幸運にも最新VRMMORPGの「アルケミア・オンライン」事前登録の抽選に当選する。常識外れとも言えるキャラクタービルドでプレイする最中、彼は1人の刀使いと出会う。 宝石に秘められた謎、仮想世界を取り巻くヒトとAIの関係、そして密かに動き出す陰謀。メガヒットゲーム作品が映し出す『世界の真実』とは────? これは、AIに愛され仮想世界に選ばれた1人の少年と、ヒトになろうとしたAIとの、運命の戦いを描いた物語。

処理中です...